第三章・教え

「自分を守る為ならどんなズルイ事も、汚い事もするという事を、みんなから教わって来た。そんな事の戦いだった。それが結論づいて来てしまった。無意識の内に誰かが傷つけて、それが過ぎてしまったらそれさえも忘れてしまう。すごい自惚れてるくせに、ちょっとヤバイと思ったらすぐ逃げる。・・・べんりな生き物。そんなの役者じゃない。自分に負ける術を知らない、それが役者。」

ムーンライトの劇中でエイハブのこんな台詞がある。

「(前略)人間は孤独である事も忘れ、ただただ傷つけあう…!笑いながらだ…!そして、その事も忘れ……すべてをあきらめる…………それが世の中だ………」

初演時から変わらないこの台詞は、エイハブの叫びでもあると共に、彼(内田)の想いでもある。台本を書く際に突き動かされた想いは、今も、変わらないのだろう・・・。

「とは言え、この台本の中でみんなの本当の力を見せてくれと思う。この芝居、鬼になってかないとやれない。稽古の時も稽古じゃない時も区別なんかつけてる期間じゃねえんだ、と昔怒った事があった。こっからはもう理屈の世界じゃない。演劇なんてもともと理屈の世界じゃないんだよ。ただただ根性。オレは根性があれば人間何でも出来るって思ってる。演劇なんて技術じゃない。逆境の時こそ根性が必要。ファイトは逆境の時に必要なんだよ。逆に言えば、負けそうっていう時が演技のチャンスだよな。絶対に逃げちゃいけない道を持っている人は幸せだなと思うよ。演劇はその道を見えやすくすると思うよ。」

記録ノートの端っこに、こんな感想が書いてあった。

“覚えとけ!絶対あとですごいキツイめにあう。
                  その時に絶対逃げるな。”

           記録係、綾の感想である。

「すんごい苦労と、すんごい痛みを持って全員やれたらきっと得るものも大きい。心の格闘技なんだからな、演劇は。ズタズタにならない格闘技なんてないからな。演劇なんてバカにされているジャンル。それは下らない芝居があり溢れているせいでもある。ここは違う。お前らには出来ないことをやっている。それを見せつけてやる台本ではある。」

「新人達の心をぶん殴る意味でも心一杯でやってほしい。自分が命がけで挑んでいるものをバカにさせた、本当に神聖な稽古場になめた態度で入って来た、それを許すな。そいつらに本当に教えていかないといけないのは、オレじゃないと思う。それは違う、と言うのは先輩の役目。人間がここまで命をかけてやるのは凄い事なんだと、教えてやれ。」

と、ここまでで時間は8時を迎えようとしている。初日ともあって話にも熱が入っている。稽古をつける前、よくこのような(ここまで過激であったりしないが・・・)話をする。受け止める役者陣達は、一様にして暗くなって下を向いてしまうのが常だった。それは甘えだ。この公演を成功させるには真っ向から立ち向かわなければいけない。心から本当に真摯に受け止めなければいけないのだ・・・。




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