PM6:35~
 爆撃音をテープで流してマルスとマリアの最初のシーンを見ていく。

 トシも明日香もシーンの緊張感なし。油断しすぎに見える。
 ここでの演出の意図は、爆撃に対しての男と女のあり方の違い。直接爆撃を受けている状況ではなく、部屋の中で爆撃機の様子を警戒しながら、不安にしているマリアを気遣っているマルス、の構図が欲しいのだ。

 
「トシ、(爆撃の最中)体が揺れる。演技を勘違いしてるんだよ。」

 
海音「何で体が(変に)動いてしまうか分るか?」
 
トシ「・・・・・。」
 
海音「イメージを持続させようとするからだ。」

 正しい感覚もなく、想像でシーンを演じてしまう時、全く不自然な行動をしてしまう。役者の台本の解釈にも関係するが、ここでは“恐怖”の感覚を想像し、それが体を震わせると言う行動をとらせ、その体の震えを持続させることで、感覚を表現したつもりになっている、と言う事。
 
 「気を付けなきゃ見えなくなる感覚なんて、感覚じゃない。持続させようと思わなくちゃ消えてしまう感覚なんて、感覚じゃないんだ。もう一つ
演技の勘違い、それは
衝動を準備してやろうとする事。」

 第六章:衝動

 
“衝動”は無意識の中から生まれるもの。自らが操作出来るものではない。役者の作業は、“衝動”が生まれやすい状況を作る事。つまり、状況を信じきって(のめり込んで)、その場で体験しなければやって来ないのだ。

 
「オレがマルスのシーンに挑むんだったら・・・まず、その毎日の(爆撃の)生活の中で生きている自分、に集中を向ける。爆撃を逃れ・・・街が破壊され・・・目の前の妻が悲しむ。生きる希望もなく、絶望していく。ただただ絶望していく。死すらも考える。しかし、爆撃を聞いたとたんオレは心の中で“生きたい!!”と叫ぶ。“ふざけるな!!”と思う。後はただ体の衝動に任せる。」

 「二人共、台本に、役に対しての深い思い入れがない。この役の人たちの心には、ものすごい傷つきがある。役者が、
その役の痛みを分らずに、他人事として演じてては、その役の人たちに“やめてくれ”と言われてしまう。しかも、命ギリギリのフリをするなんて一番汚い事。役者が、自分の為に、自分の事を考えて演技をする姿勢では出来ない役。“上手くやろう”、“感覚を使わなきゃ”では絶対に出来ない。今、マルスとマリアから感じられるのは、この人たちの絶望ではなく、役者本人の弱音。」

 “フリをせず、演ずる事を捨てた集団”
 それが『ザ・プレイヤーズ・ハウス』・・・なのだ。
 今こそ我々は、この基本理念に帰らなければいけないのだ。

 同じシーンを何度も何度も繰り返し、短い休憩を入れる。
 五行の爆撃のシーンから進まないままでいる。

 
「人には色々なタイプがいる。だけど、役者的なタイプがある。感受性があるということ。大事なのはのめり込んで、感じていくこと。このシーンにのめり込む事と、頭で想像する事は全然違う。全員の問題は、それは想像だろ?って聞いても、本人が分かってない事。想像する事と、信じる事は違うと言う事がわかっていない。」

 「のめり込んでくれ。この台本でも、この役にでも良いから少しは惚れてくれ。誰ものめり込むと言う事を始めてくれない。みんなは、のめり込むのではなく、気をつける事しかしていない。一つの事にのめり込むと言う事は、狂っているように見えるかも知れない。だけどそれをしなければ始まらないんだ。今の気をつけ方は、学芸会にしかならないよ。」

 何ごとにも一心不乱に突き進んでいく姿勢が、この稽古場には足りない気がする。注意深く、検証しながら、進めていく方法もある。しかし、役者のエネルギーの質は、どちらも同じぐらい必要とされる。次の台詞や、行動を考えながら、注意深く演技を進めていくのは、もはやシーンにはならない。日常で、あらかじめ予定された行動を追って行く事などないのだ。全ての行動(リアクション)は、衝動が基にある。そして、衝動は任意に創りだせない。役者は舞台の上で、衝動が生まれやすい状況を作り、ただただ一心不乱にのめり込んでいくしかないのだ。

 
 今日もここで止まってしまった。しかし妥協は許されない。出来なければ、一ヶ月でも同じシーンを繰り返すだろう(公演は待ってはくれないが)。たった五行のト書きのシーンに何もそこまで・・・と思われる方もいるだろう。しかし、この五行のト書きを出来ない事が、後々ひびいて来るのだ。今ここでの問題は、“感覚”も“衝動”もないと言う事。それさえ掴めれば、クリアとなる。一見遠回りに見えるこのやり方は、一つの解決が、全ての解決の糸口になる。今の次元と、この違いを発見出来れば、後はこれからのシーンに応用していけばいいのだから・・・。

PM 9:45
 稽古をとった。



【前半部】

第一章

第二章

第三章

第四章

第五章

第六章

第七章

第八章

第九章

第十章

【後半部】

第一回

第二回

第三回

第四回

第五回


【稽古記録TOP】

【HOME】