第十章・演技とは?

 ここで、海音(内田)氏が自ら演じて手本を見せる。演出を付ける時によく使う方法で、初めのうちは役の身になり台詞を読んでニュアンスを伝えていく程度なのだが、最終手段として実際に自分で動いて示す事でよりイメージを掴んでもらい、自分の演技との違いを発見してもらうのだ。
 こういう時、海音氏も実際自分で動いて演出をつける事によって、演じる役者がどこで困っているのか? この役の“何に”集中する事によって深く掘り下げていく事が出来るのか? を考えているのだ。実際、(役者が)演技が出来ないという事自体、差ほど問題ではない。“何故出来ないのか?”という問題を、役者自身が激しく
自分に突き付けていけないところが問題なのだ。

 ここまで進めて、余りにも他の劇団員の存在が見えて来ない、記述が少なすぎて稽古場にいる他の役者達の状況が見えて来ない、という事に気がついた(・・・申し訳ない)。

 この演出をつけている間、我々は我々でその海音氏の台詞のニュアンスや立ち振るまいを見て、自分との演技の組み立て方の違いを検証しているのだ。通常、海音氏が演出をつけている時、我々出番待ちの役者達はその後ろで一緒に稽古を見ているのだが、自分の出番ではないその役の気持ちを考えながら稽古を見る事によって、自分の役に対する解釈の手助けになるのだ。

 「自分だったらここはこう演じる。」、「ここの解釈はこっちの方が正しいのでは?」などと考えながら稽古を見て、改めて海音氏がつけた演出の解釈を聞き入りながら、氏の役(シーン)に対する洞察力の鋭さや柔軟性に、我々は自分の発想のつたなさを感じてしまう。

 役の解釈は、まだまだ未熟である一役者が在り来たりの発想で組み立てても、それは本当に在り来たりな平淡な人物像になってしまう。魅力の無い、物語を語れない人物像になってしまうのだ。その人物像を、いかにロマンチックに、いかにダイナミックに捉える事が出来るか。役の解釈はそこに掛かって来るのだ。

5:30
 食事休憩。

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6:45~

 その後、シーンを何度か繰り返す。先の手本があるので、以前よりはそのイメージ(自分の取るべき行動)が掴み易いのだろう、トシに少し変化が見られるようになる。外見的な変化ではなく、内面的な変化というべきか? 感覚を使った演技をしているのだ。しかし、ここでも新たな問題が発生する。この感覚とはつまりトシであり、その感覚を使う事は、善くも悪くも“トシ”そのものが出てしまうのだ。

 
「トシが感覚を使おうとすると体がガタガタしてしまう。何故か? 今のトシには、ヒーロー的なたたずまいが分かっていない。爆撃の音を聞いて、おどおどしてパニックになろうとするのはトシ。マルスは心をピシッとさせて、冷静に物事に対処しようとするタイプ。自分で分析してみるといい。何故ガタガタしてしまうのか。トシが見つけなければいけないのは“死をも恐れないたたずまい” まずはマルスと自分の違いに気付く事。トシが思っているより百倍の差があるぞ。」

 今、トシの演技に足りないのは、マルスの持っている“使命感”だ。これは、トシが持っていないのではなく、“マルスとしての使命感”が足りないのだ。いや、その使命感が分らないと言った方が適切か?
 とにかく、シーンの中で爆撃を受け、窓の外を見やる時も躊躇が入ってしまうのは何故か?そして、こう言われてしまうのは、何のニュアンスが足りないのか?


 「トシ、ちょっとは良くはなって来てはいるが、まだまだビビリが入っている。演技をするなら、演技バカにならないとダメ。皆もそうだけど、演技の為なら死んでもいいぐらいの覚悟を持って欲しい。」

 「それと、今回何でトシを主役にしたか分るか?前の公演で、トシは端役で、演技よりもその他の責任を背負っていた。しかし公演中のトシの顔は男らしい顔をしていた。そして公演後、“自分はこの今の自分からは絶対落とさないでやって行く”って言ったろ?おれはそこに賭けたんだよ。男が一度言ったこと、守って欲しい。」

 「おれは今すごく悩んでるよ。これ以上トシに賭けていくのは酷なんだろうか?さっきから自問自答を繰り返している。トシも演技が分んなくってパニックしてるけど、おれも同じだよ。どーすればいいか迷ってるよ。でもな、やるしかないって思ってるよ。トシは、ただただ怯えて心も見えなくなってるだけだろ?それじゃぁ弱すぎるって。演技が出来ないのはまだ良いとして、強くなって来いよ。本当はそんなに弱くないはずだ。トシもおれと同じぐらい弱くて、おれと同じくらい強いはずだ!!」

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 ちょっとテンションが良くなって来たところで、稽古を終える。課題としては、トシの演技上での行動が、普段のトシそのものが出てしまう所のポイントを整理してくる、と言う事。
 何はともあれ、次回の稽古では、何が何でも台詞のあるシーンまで進めるように、最低でも今日の最後の方のテンションは維持して行きたい。

 「これからもっともっと厳しくやっていく!!それでもいいな? でも頑張ろう!!楽しくやろう!!・・・まあ楽しいことなんて無いと思うけど。でも、もっと厳しい稽古にしていく。もっと厳しいけど、もっと楽しく明るく!!」

 この最後の励ましにも似た激励を受け、皆稽古場を後にした。



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