菩薩銃・マキシマム セブンスヘヴン

 

「うふふ」

 シーラカンスは博物館。ボケ老人は姥捨て山。
  すべてのものには帰着すべき場所がある。
  だがそれは、果たして望むべき場所なのか。
  弱きもの――人はその答えをしらない。
 崇めよ。怖れよ。その名も素晴らしき『菩薩眼』。


 美里葵。世界でも最強の『菩薩眼』。それが彼女である。
 下界の一般ピーポーの人々の考えなど、彼女にはまったく関係ないことである。
 何故なら彼女は『菩薩眼』。
 全てを超越したところに彼女はいるのだから。


  唐突だが、ここで前回までのあらすじ。
  何故だかいきなり黄龍の力を求めるようになった菩薩眼、美里葵。
  なみいる強敵を打ち倒し、美里は歌舞伎町へと向かっていた。
  何故かって?  教えてあげないよ、ジャン!(古っ)

  
  ともかく、彼女は歌舞伎町にいた。
  何も知らぬあわれなチンピラが何人か彼女に声をかけ、物言わぬ英霊となったが、
まあそれはそれ。彼らがかわいそうだと思うのなら、心の中で祈るといい。
  …菩薩眼の反撃をくらう覚悟があるのならば、だが。
 なに、彼女なら、次元の違いくらいは軽く乗り越えるはず。
 何故なら彼女は『菩薩眼』だから。

  
 ――困ったわね。
 さすがの美里も困惑した。
 何人かの男に「尋ねて」みたものの、皐哉の手がかりは得られないままなのだ。
 ――闇雲にあたってもどうしようもないし。
 (↑やっと気づいたようです) 
 しかし。
 ここは我等が菩薩眼。天運すらもその宿星は動かすのである。
 そう、そこにあの男が現れた。『究極の天運』を持つ男が。

「よう。誰かと思えば真神の姉さんじゃないか」
「貴方は…」
 美里は表情を崩さない。そう、ここ歌舞伎町で奴が現れないはずがないのである。
 皇神学園、村雨祇孔。

 ――出たわね、時代錯誤バンカラ博徒(年齢詐称疑惑付)。
 貴方の刺繍入り白ランは、京一の靴くらいいけててよ。
 てか貴方本当に現役生?

 菩薩眼が「サトラレ」でないということは、この上も無い僥倖であろう。
 それはともかく。
 ここでは貴重な情報源である。ゲットモードロックオン(聖女モードLV2)。

「めずらしいな、姉さんがこんな所で一人歩きとは。…あんま関心しねぇが」
「皐哉を探しているんです。どこかで見かけませんでしたか」
「さあな…俺は二時間ほどうろついてるが、知った連中はいなかったぜ」

 確かに黄龍の後を追っているはずなのに、どういうことだろう。
 本当に使えない男ばかりね、この世界は。
 やはり私の愛で、彼と世界を革命する必要があるのよ。そう、それが絶対の律。
 定められた未来。アカシックレコードに記された事実なのよ。
 ああそれなのに。運命はかくも扉を叩くのね。
 これもヒロインに与えられた試練なのかしら。

「なんだかしらんが、今日は救急車のサイレンばっか聞こえてくる。新宿で何か
あったっていうが」
「ええ。表通りで爆発があったって…」
 嘘は言っていない。嘘は。――真実と犯人を言っていないだけで。
「そういや、さっき裏通りでガラの悪いのが数人倒れてたな。姉さんもここから
早く立ち去った方がいいんじゃないのかい」
「倒れてた…」
「息はあったがね、とりあえず」
 ――威力が落ちたのかしら。加減したつもりはなかったのだけれど。
「俺がなんとかしないでも、運がよければ助かるだろ」 
 手当てもせず、そのままほったらかしてくるあたり、彼もなかなかである。
「なんなら俺が送っていこうかい?」
 
 『無礼討ち』という言葉が脳裏に浮かんだ瞬間。
 あまりにしょぼい電子音(ルパンのテーマだ)がいきなり響いた。
「あ、ワリぃな」
 はいよ、と軽く携帯電話に出た村雨の表情が変わる。
「…なんだ、あんたじゃなかったのか。…俺はてっきり…。あ? 電波が悪いぞ。
全然聞こえてねぇ。新宿? いや、確かに歌舞伎町だがな…」

 野郎同士がどんな付き合いがあろうとも、関与するつもりはなくてよ。
 下賎の者と高貴な者とは、住む世界が違うのですもの。
 ――それに、蟻が何匹群れたって、踏みつければいいだけでしょう?

「こっから離れろ!? …何言ってんだ、まだこっちは全然遊んでないんだぜ!?
 大吟醸一本て…豪気だな。何があるってんだよ。いいから急げ!?」

 相手はあの「びだるさすーん」御門あたりかしら。
 長髪のくせしてあのクオリティ。腹立たしいけど許してあげる。
 ――私の方が上ですもの。
 そう。彼なら気づいても不思議ではなさそうね。でも邪魔はさせなくてよ。

「何でもいいから逃げろ? 何言ってんだ、先生」

 ――前言撤回。
 どうして、貴方みたいな番長に電話がかかってくるのかしら?
 この、運命の相手の私をさしおいて。
 いい度胸ね。天の摂理に背いた罰は――重くてよ?

「――村雨さん」
「ああ、わりぃな、先生。とりあえず後でかけなおす。…先客がいるんだよ。
先生のとこの…きれいな姉さんだ。じゃな」

 あら貴方。意外に審美眼はまともなようね。
 でも五十六億年ばかり遅かったわ、その台詞。

「皐哉は、何て?」
「なんだか、新宿は危ないから近づくな、できるならそのまま逃げろってさ。
ニュースでも見たのかね。心配性には見えなかったが」

 ――彼は優しいのよ。なんかで言ってたでしょう。
『優しくなければ生きていけない、美しくなければ生きる価値がない』って。
 (菩薩語録巻ノ十七参照)
 とりあえず、貴方には正しい摂理を教えてあげなければね。
 そう。

 ――“菩薩の本気を教えてあげる”。

 本気モード(今までは違ったんかい)突入までの所要時間。
 それはわずか0.00003秒。
「ん!?」
 村雨が異変を――殺気を感じとった瞬間。
 世界は紅に染まった。
 懐の花札に手を伸ばすのよりも早く、神々しい天使が降臨する。
「――そういう…ことか…」
 舌打ちの音は爆発音によって打ち消された。
 ――白ラン、洗濯が大変だろうに。


 因果応報という言葉、御存知?
 貴方が分を越えた所為よ、これは。
  
 彼女の白いセーラー服には一点の汚れもない。これぞ職人技。
 
 待っていてね、皐哉。
 そう。運命の輪は確実に動いている。世界はあるべき方向へと向かうように。
 この私が行き着くのは、いつだって、貴方のもとなのだから。
 
 ――そして。
 この愛の物語は、クライマックスへと近づいていく。

   
 彼女の笑顔が輝くとき。それは最悪の瞬間。
 そしてこれからも。彼女の微笑は、人を奈落に落とし入れるだろう。
 哀れな道化達の嘆きを知ることもなく、血に汚されることもなく。
 あまりに美しい声をもって、災厄をふりまくのだ。


『うふふ』

 


 

久々の菩薩銃でした。
これはカウント踏んだ「新妻」伽羅様へ。んなの欲しがるのは君くらいだよ。
念のためにいっておきますが、俺は村雨スキーです。 だって不死身だし(←それは村雨違い)。
初期タイトルは「ワイルドセブン」でした。 が、某キャラのあだ名とかぶるので変更。
さて、次は誰が犠牲になるのか。
それ以上にいつあがるのか。
あ、この話、十話で完結です。

 

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