時間軸は、変生の翌日、ってことで。
それだけ、頭にいれて読んで頂けると嬉しいです。


きみのとなり


 「京一、醍醐知らねぇ?」  それぞれが気心の知れた友人たちと弁当を広げだした昼休み、龍麻は教室を ざっと見廻して久しぶりに学校に来た友人の所在を尋ねた。  「あぁ? 大将なら屋上だと思うぜ。先刻すれ違った。」  「まだ、一緒に居辛いのか…。」  嘆息しながら龍麻がつぶやく。  「あれだけお前に説教されてたのにな。」  「大将のことだ、一人で抱えるな、っつったっていきなり出来ないんだろ?  佐久間のこともあるしな…人ひとり消えたんだ、昨日の今日でダチとつるん  でにぎやかにやるってのは性に合わないんだろうさ。」  気にわ喰わねぇことだが、と口を尖らせて京一は言う。  「…俺、殴ってくる。」  「おいおい、ひーちゃん…。」  苦笑いしながら突っ込む京一の肩をぽん、と叩くと。  「京一、美里さんと小蒔を頼むわ。俺、醍醐とメシ食って来る。」  言って、龍麻は弁当包みを持って駆け出した。  「あっ。おいっ」  京一はその友人の後姿を見送りながら頭を抱えた。  「…俺一人であの二人の相手は出来ないぞ…」

 屋上への扉を開けると、龍麻の前髪が風にあおられた。風は力強く、冷たい。  扉を閉めると、下の階のはなやいだ喧騒が す と遠のいた。 「醍醐…」 「…龍麻…?」  醍醐は鉄柵にもたれかかって腰をおろしたまま、顔だけを動かして自分を呼 んだ声の主を確かめる。来たのか、というちいさな呟きが龍麻の耳に届いた。 「来たのか、じゃねーよ。」  龍麻はつかつかと歩を進めると、醍醐の隣りに勢いよく腰を下ろした。  「お前な、きのう京一に説教されたばかりだろうが。」  がさがさとが弁当代わりのパンを取り出しつつ龍麻が口を開く。 「ま、俺はお前が手前勝手だ、なんてことは思ってねぇけど?」  ちらり、醍醐に視線をやって続ける。 「…すまん…」 「謝ってんじゃねぇよ。ただ、俺が腹を立てているだけだ。  ……まさか、俺をただのSFだとか思ってんじゃねぇだろうな?」  むっとした表情のまま醍醐にパンを手渡す。 「…えすえふ?」  パンを受け取りながら聞きなれない言葉を醍醐が反芻する。 「あぁ…セックスフレンド。プレイメイト、とも言うか。」  目の前の無骨な男はパンに噛り付いたまま、ぽかん、としている。  ――面白れぇ…。思い、龍麻は更に突っ込んで説明してやる。 「つまり。ヤるだけの仲、ってこと。」 「いやっ…その…」  パンを取り落としそうなその慌てぶりにくすり、笑って。 「ま、そんなふうに思える柄じゃねぇのは、分かっているさ。」  でもな…そうやって割り切ったわけじゃないのなら………  なおかつ、一線を超えた仲だったら…もっと甘えるもんだぜ…。 「大体…。なんで『もう会うことも無いだろうが…』なんだよ。」  迷惑をかけたな、そういって向けられた背中。自分と日常を共有する選択肢 を捨ててしまった相手の姿。それを思い出して、龍麻は不機嫌さもあらわに ジュースを飲みほした。 「…すまん…その。お前達まで傷つけてしまうのではなかと…」 「あのな。………。京一も言ったよな……?  『俺達はお前の力になれねェほど無力か?』って。」 「そうではなくて……俺と一緒に居ること事態リスクが…」 「屁理屈こねてんじゃねぇよ。」  醍醐の言葉をさえぎって。立ちあがり、醍醐を見おろす。 「だから言ってんじゃんかよ。信用しろ、って。  お前が姿変えようが、関係ねぇって言い切れるほど、俺達は強いぜ?  俺達はお前にそうそう簡単に殺されねぇ。それだけの力がある。  それに…俺達以外に自分を見失ったお前を誰が止められる?」 「……………」  醍醐の後ろの鉄柵に手を添え、一息ついて。 「逆に言えばさ、俺達なら、止められるんだよ。」 「…………」  ひざまづき、視線をあわせ、龍麻は淡々と言葉を続ける。 「なぁ、醍醐…。  もう、誰も傷つけたくないってお前が望むなら、俺が鞘になるよ。  お前に、もう二度と人を壊させない……だから――俺の為に、強くなれよ…?  もう、自分を失なうほどの強さを望まなくて済むように……――俺が、お前を  止めに入らなくても、済むように…。」  龍麻は醍醐の顔を覗き込んで尋ねた。 「俺じゃ、信用できないか?」 「いや……」 「じゃぁ…約束しろよ、醍醐。俺の傍から離れなきゃいけない、なんて考えなくて  良いほど、強くなれよ。そして、俺の傍に居ろよ。最悪の時は止めてやるから。」  龍麻が、醍醐の頬に手を伸ばす。 「…――――――――約束、しろよ。」  風が、ひときわ強く吹いた。  醍醐は、そっと微笑んで龍麻の頭を抱き寄せた。 「な…なにすんだよっ。」  醍醐の腕のなかの龍麻がもがく。それを抑えつけて。 「さんきゅ、な…」  乾いた風が屋上を吹きぬけた。  それに乗って、合唱部の昼練が聞こえて来る。  醍醐の腕をひきはがして龍麻はニヤリ、笑って言った。 「安心しろよ―? 俺は強いぜ、醍醐。」 「ははっ。言いやがる。」  醍醐も龍麻の頭をくしゃくしゃとなでながら笑った。 「あー。てめぇっやめろっ。」  空を見上げると、鰯雲が浮かんでいた。  空は高く、澄んでいる。もう、秋はすぐそこまできていた。  

………………甘いよ。(汗)つーか、関係としては裏行くべき?
セックスフレンドですってよセックスフレンド! 
醍醐さんにそんなこと判るのかしらね。(←ひでぇ)
もともと醍×主のリクエストに応えた作品だったのですが。
僕が根っからの友情主義者なものでこうなりました。
書庫へ
トップへ戻る