バレンタイン大戦F〜TIME TO COME〜



 
 バレンタインデーの由来をはっきりと言える人、手をあげて。
 言えない人は、黙って菓子メーカーの罠にかかりましょう。それでいいのです。
 2月14日。バレンタインデー。
 さあ、行きましょう、怒涛の一日へ。



第一話『接触』
   
「亜里沙ちゃん、そっちはど〜う〜?」
「オッケー。完璧!」
「さすが、亜里沙ちゃんだ〜」
「舞子だって、やるじゃない」
「てへ。舞子ほめられちゃった〜」
「あの、こっちもできましたよ」
 三人がかりでつくりあげた力作を箱につめ、丁寧にラッピングする。
「ダーリン、受け取ってくれるかなぁ〜」
「受け取ってくれるって。あ、携帯に電話しといたから、五時にアルタ前」
「眞崎さんから返事はあったんですか?」
「留守録になってたけど、大丈夫」
 にこやかにやり取りを交わす三人。この三人が、倒数百の大台にのったという
ことは、あえて考えない方がいいのかもしれない。
「でも〜ダーリンって、いろんな人からもらいそう〜」
「それであたしたちのチョコレート受け取らなかったら、ニトロプレゼントしな」
「え〜。危ないよ〜」
 危ないですませられる問題ではないような気がするのだが。
「とりあえず、着替えてからアルタでね。あ、沙夜の分の服、今日は新しいのを
持ってきたから、着ていきなよ。あたしは先に着替えてくるから」
「ありがとう、いつも…」
「いいって。じゃ、あとお願い」
「うん、気をつけてね〜」
 戦闘準備開始である。ともかく、こういう状景がいたるところで見られるのが
バレンタインデーであった。


 そのころ、その攻撃対象はどうしていたかというと。
 校門を出たところで、最年少(?)のメンバーにつかまっていた。
「皐哉!」
 マリィである。実年齢はともかくとして、外見が幼いせいか、眞崎はマリィに
弱い。他の仲間に対するように接するわけにもいかないため、これはこれで苦労
しているのだが。
「マリィ、学校はどうしたんだ」
「終わったよ。今日は、皐哉に渡したいものがあったカラ…」
 眞崎は背をかがめて、できるだけマリィの視線に合わせるようにする。
「ひょっとして、チョコレート?」
「うん!」
 この邪気のない顔で笑われては、反論・抵抗ができようはずがない。
 泣く子と地頭には勝てぬとは、よく言ったものだ。
「はい、これ!」
 美里と一緒に選びにいったのだろうか。そんなことを考えた。美里のそれとは
ちがって、茶色の包装紙にリボンがかかっているというだけの、シンプルなもの
だったのだが。(つーか、美里がゴージャスすぎという説もアリ)
「チョット…形がくずれちゃったけど、でも、おいしいヨ!」
「ありがとう、マリィ。ホワイトデーのお返しは何がいい?」
「えっと、真っ白いマシュマロ!」
「わかった。期待してろ。ちゃんと作って持っていくから」
「本当?!」
「ああ」
 菓子を作るのはそれほど得意というほどではないが、まあなんとかなるだろう。
いざとなったら、壬生か如月(自炊組)に尋ねてみればいい。
「あんまり遅くなると、美里が心配するぞ」
「うん。皐哉は?」
「俺は別に約束があるから。…途中まで送ろう」
「アリガト!」
 これで手をつないだら、完璧に兄妹だな…。そう思った眞崎だが、どう見ても
あからさまに国籍が違いそうな兄妹である。
 ――別名、犯罪者ともいう。


 人のごったがえす、新宿・アルタ前。学生服の人間も結構見かける。
「あ〜ダーリンだ〜」
「よう」
 舞子に藤咲、比良坂と、三人がそろってやってきた。こう並んでいるとかなり
目立つ三人組である。一人でも充分に目を引くだろうに、三人が並ぶと倍以上は
目立つということを考えていないようだ。
「そのダーリンってのやめないか、高見沢」
「え〜? ダーリン嫌なの〜?」
「人前で呼ぶのはやめような」
「わかった〜気をつけま〜す」
 どこまで信用できるかは疑問だが、まあ舞子だから許すしかないだろう。
「あれ、狂哉。カバンはどうしたの?」
「邪魔だから、コインロッカーに預けてきた」
 実は、他の学生からもらったチョコレートの袋も、であるが。
  舞子がそれを知ったら場所もかまわず泣き出しかねないし、藤咲も、怒り心頭
にきて鞭の一撃でも繰り出しかねない。 
「とりあえず立ち話もなんだし、どこか入るか?」
「いいけど。どこにする?」
「近くにコーヒーのうまいところがあるんだ。おごるよ」
「わ〜い。ダーリンのおごり〜」
 周囲の男たちの視線がこっちに向けられている。うらやましい…のだろうか。


 結局、四人分の勘定をもち、店から出てきたときには日が暮れていた。
 二人の手作りらしい(どうも今年は手作り志向が強いようだ)チョコを受け取り、
眞崎は新宿駅に戻る。
 学生服の上に黒コートを着ているせいで、あまり学生らしく見えない眞崎だが、
今日ばかりは学生生活を堪能するはめになってしまったらしい。
「…タクシーは無理だろうから、電車で行くか」
 時計と時刻表をつきあわせながら、眞崎がつぶやく。そのときだった。
「御主人様…」
「は?」
 いきなり背後からとんでもない単語が聞こえてきた。
 振りかえれば奴がいる――もとい。振りかえれば式神がいる。十二神将が一人、
天后芙蓉。皇神学院高校の制服を着ているが、かなり違和感があるのはどういう
ことだろうか。
「どうした、芙蓉」
 都会の雑踏の中で見かけるには、あまりに唐突な出現に、少々眞崎も面食らっ
てしまった。
「秋月様より、お届けものが」
「届けもの?」
「はい」
 秋月からとは、何事だろうか。
「こちらです」
 差し出された包みは、どう見ても。
「世間では、バレンタインというものだそうですが」
「――らしいな」
 予想外もいいところだった。競馬でたとえるなら、最終の直線で十二番人気が
トップにたったようなものである。
「今回の件ではお世話になったからとのこと」
「…そうか」
「わたくしも、共につくらせていただきました」
「なるほどな…」 
 秋月と芙蓉の手作り。かなりのレアアイテムのような気がする。
「よくここがわかったな」
「晴明さまが、こちらにおられるとお教えくださいましたので」
「御門たちには渡したのか?」
「いえ、今回は御主人様へと」
「……」
 御門や村雨が知ったら、無言で鬼邪滅殺か五光がきそうだ。
「そうか。秋月に礼言っといてくれ」
「はい…では」
 彼女はそう言って、颯爽と去って行った。
「なんだかな…」
 残った眞崎は前髪をかきあげ、苦笑する。
「…絵莉のとこまで行くか」
 とりあえず、バレンタインデー。黄龍は多忙であるらしかった。



第二話『正義と愛と友情と』

「よし、今日も異常なし! 練馬の平和は守られたぜ!」
「レッド…リーダーぶるなと言ってるだろうが!」
「もう、あんたたちいいかげんにしなさいっ!」
 今日も元気な練馬レンジャーもとい、コスモレンジャーの面々。
「毎日毎日そればっかりなんだから! わたしたちがばらばらになって、世界の
平和が守れると思ってるの?」
「すまん、ピンク…」
「悪かった」
「あら、今日はめずらしくあっさり引いたのね」
 二人が顔を見合わせる。
「ま、たまにはな」
「そういうときだってあるさ」
 二人の間にどのような打算が働いたのかは、さだかではない。
「じゃあ、今日は特別にご褒美あげちゃおうか」
「え?」
「なに?」
「二人とも、手を出して」
 言われておずおずと手をだす。
「はい」
 その手のひらに転がったのは、チロルチョコが三つづつ。
「…ピンク…?」
「今日はバレンタインだからね。特別ってこと」
 ――だからって、チロルチョコ?

 その日の晩、世界のために戦う男たちが涙で枕を濡らしたかどうかは…。
 あきらかではない。


 

第三話『決めろ! 大雪山おろし!』
 
「こら、なにをうかれてる!」
 引退したはずの三年生が見学しているとあって、鎧扇寺学園高校の空手部には、
いつもと異なる緊迫感がただよっていた。
 特に、元部長の紫暮兵庫の存在が大きい。
「とりあえず、今日はこれであがるぞ。お前ら、先輩に礼!」
「押忍! ありがとうございましたっ!」
 うむ、とだけ答えて紫暮は先に道場を出た。先に自分が出ないと、後輩たちが
外に行けない。
「たるんできてますね、最近は」
「まあ、仕方ないだろう。この時期はいつもそうだ」
 現部長がぐちるのにも、真剣に対応する。根が真面目なのである。
「世間ではバレンタインですからね…」
「ま、俺には関係ない話だ」
「そうなんですか」
「武道一直線だったからな」
 別にそれを後悔しているわけではないが。
「それじゃあ、先輩。これで失礼します」
「ああ」
 そして帰宅。いつもと変わりのない一日である。

「兵庫、お前宛てに荷物が届いてるぞ」
「荷物?」
 自宅に帰った紫暮を迎えたのは、兄の一言だった。部屋に入ると、その通り、
小さめの荷物が置いてある。紫暮に心あたりはない。
 送り主のところには、どこかの事務所らしき名があった。
「なんだ?」
 とりあえず、開けてみることにする。
 中身は女らしく、かわいくラッピングされた包みと、メッセージカードが一枚。
 カードを開く。

『この前はありがとうございました。また応援よろしくお願いします。 舞園』

 カードを開いたまま硬直した紫暮が、中身を食べたかどうか。
 それを知る者は――いない。  




第四話『ラグナロク』

「何か…違うような…」
 皇神学院高校三年。御門晴明は困惑していた。
 原因は、真神学園オカルト研究部から送られてきた包みである。
 その中身はチョコレート。2月14日という日付を考えれば、別に不審なところ
はない。…バレンタインなど、御門のスタイルではないということをのぞけば、
の話であるが。
 しかし――板チョコの上に描かれていたものは、どうみても愛の告白などでは
ありえなかった。

 あやしげな魔法陣と、ヘブライ語らしき文字。

 これで相手の意志をくみとるのは至難の技でないかと、一人御門は苦悩した。
 無論、いつもの無表情のままで。


 


バレンタイン第ニ弾。
話数が後になればなるほど短くなっていくのは何故。
とりあえず、バレンタインって戦争だよな、というのがタイトルの由来。
魔人の女性陣って、それぞれみんなアクが強いので大変だろうなと。
とりあえず、楽しんでいただけたら幸いです。はい。

 

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