問題発見効率の高いユーザビリティ評価法

−1.構造化ヒューリスティック評価法の提案−

 

黒須正明* 杉崎昌盛** 松浦幸代** 

*静岡大学情報学部 **ヤマハ発動機(株)

 

Usability Evaluation Technique with High Efficiency

1. Structured Heuristic Evaluation (sHEM)

 

Masaaki KUROSU* Masamori SUGIZAKI** Sachiyo MATSUURA**

*Faculty of Information, Shizuoka University

**Human Technology Dep., R&D Division, YAMAHA MOTORCo. Ltd.

Email: PFD00343@niftyserve.or.jp (Masaaki KUROSU)

Abstract: Based on the assumption that 1. 10 guidelines given tothe evaluator in the heuristic evaluation (HEM) developed by Nielsen(1993) is not covering enough the whole range of usability problems,2. but at the same time, a large number of guideline items should notbe given to the evaluator at the same time because of the distractionof the his/her attention, a new method called structured heuristicevaluation method (sHEM) was developed. The main features of the sHEMare 1. 32 to 41 guideline items with 82 to 212 sub items are usedinstead of 10 guideline items in HEM, 2. these guideline items arecategorized into 5 different aspects of the usability, 3. theevaluation session was divided into six sub-session each of whichfocuses on each of categories of usability, i.e. operability,cognitivity (assigned two sub-sessions), amenity, novice/expert, carefor the special users.

Keywords: usability, inspection method, heuristic evaluation

 

1.はじめに

 ユーザビリティの評価手法には様々な手法があるか、大別して、実ユーザを使う方法と使わない方法に区別される。前者には、日常的な状況において使われる方法と非日常的な状況で使われる方法がある。日常的状況での方法には観察や面接、質問紙、ログツールを利用したものがある。ここで観察や面接の手法は開発の中流、下流工程で行われる評価だけでなく、上流工程で行われるユーザ分析の手法としても多用されている。非日常的状況での方法にはフォーカスグループ(focusgroup)やユーザテスティング(usertesting)、心理学や整理学の実験などの手法がある。また、ユーザを使わない方法としては、インスペクション法(inspection method)やタスク分析などの手法が知られている。

 評価の手法はその目的によっても幾つかに分類される。すなわち、それらは、問題点を発見する方法や操作性能を予測する方法、ユーザの要求や目標を確認する方法などに区別される。ここで、問題点を発見することは、開発のプロセスにおいて、開発担当者に対して改善すべき箇所をフィードバックする際に重要なものであり、重要な問題をいかにたくさん、また効率的に摘出できるかが、手法の善し悪しを決定するといえる。

 問題点の発見を主目的として従来一般的に用いられてきたのはユーザテスティングであるが、近年盛んに利用されるようになってきたインスペクション法と比較したJeffrieset al. (1991)によると、同一の課題に適用した場合、最も多く105件の問題点を発見できたのはインスペクション法の中でもNielsen& Molich (1990) の提案したヒューリスティック法 (heuristicevaluation)であり、ユーザテスティングとインスペクション法の一種である認知的ウォークスルー(cognitivewalkthrough)はそれに次いて゜30件の問題点を発見できたにすぎなかったという。一般にユーザテスティングはその準備から結果のまとめまでを含めると月のオーダーがかかるが、インスペクション、特にヒューリスティック法は数日で完了してしまうことを考えると、そのコストパフォーマンスの良さはかなり顕著なものであるといえる。

 また、Nielsen (1995)によると、ユーザテスティングと様々なインスペクション手法とを比較評価した結果、手法としての有用性に関する評定では、ヒューリスティック法は他のインスペクション法を抜いてユーザテスティングに次いで二番目に、また実際に利用されている頻度では両者はほぼ同じ程度になっているという。

 もちろんヒューリスティック法を含むインスペクション法は机上の検討であり、実物を使わなければ発見できない問題が存在することも確かではあるが、実物が無くても使用できる点でユーザテスティングよりも上流側のフェーズで使用することができ、その点で有利な手法といえる。理想的には、中流の工程で外部仕様書や機能仕様書をベースにしてインスペクション法を行い、下流工程では、時間的余裕があればユーザテスティングを行い、そうでなければインスペクション、特にヒューリスティック法を利用するのが良い、と考えるのが適切と思われる。

 

2.ヒューリスティック評価法の問題点

 このように、利点の多いとされるヒューリスティック法であるが、Nielsen& Molich (1990) にしても、Nielsen (1993, 1995)にしても、内容は少し異なるが、いずれも10項目のヒューリスティック原則を用いて、評価をすることになっている。具体的には、Nielsen(1993)によると

(1) Simple and Natural Dialogue
(2) Speak the User's Language
(3) Minimize User Memory Load
(4) Consistency
(5) Feedback
(6) Clearly Marked Exits
(7) Shortcuts
(8) Good Error Messages
(9) Prevent Errors
(10) Help and Documentation

である。筆者等はここに二つの問題を感じた。一つは、これらの項目が内容的に整理されていない点であり、二つ目は10項目に限定されている点である。

 Nielsen (1993) はユーザビリティ(usability)の概念を木構造の形で見事に整理し、ユーティリティと合わせたものを上位概念の有用性(usefulness)によって適切にまとめているが、逆にユーザビリティの下位概念としては、Easyto Learn, Efficient to Use, Easy to Remember, Few Errors,Subjectively Pleasingといった内容を雑多に並べているだけで、特に整理を試みていない。こうした点に関し、黒須(1996) は、黒須 (1993)にもとづいて、操作性、認知性、快適性という三つのカテゴリーにユーザビリティの下位概念を整理した。こうした観点から考えると、先の10項目はまだ内容的に整理されておらず、またその結果とも考えられるのだが、認知性に若干偏っていることがわかる。

 また、10項目のそれぞれについては、Nielsen (1993)は、各項目の解説の中で相当詳しくその内容を説明しており、実質的にはかなり豊富な内容をもとにして問題点の摘出を行うことになっている。しかし、評価セッションにあたって、評価者がそれらの10の項目を念頭において評価にあたることには変わりがない。この10という数は、249のユーザビリティの問題点の因子分析でみつけた7つの規則に3つの規則を追加して構成されたものであるが、結果的にはMiller(1956) の主張するmagicalnumberの上限に近い数であり、評価セッションにおいて、評価者が同時に頭の中で意識しながら対象機器をチェックできる上限ということができる。しかし、評価にあたって利用すべきヒューリスティック原則の数をその上限に限定していることにより、結果的に評価者の注意がその範囲に限定され、それにより摘出される問題点の数がある程度の水準で頭打ちになってしまっている可能性が考えられる。ヒューリスティック法による評価セッションは、Norman& Bobrow (1975) のいう資源依存型 (resource-limited)の課題であると考えられ、したがって作業の達成度は配分された資源の量に依存するといえる。それゆえ10の原則に対して認知的資源を配分してしまうと、それ以外の側面に対して深く認知するための認知的資源を配分できないことになり、結果的に問題点の見落としが発生する可能性があると考えられる。

 

3.構造化ヒューリスティック評価法の提案

 前述のようなヒューリスティック評価法(HEM: heuristic evaluationmethod)の問題点を解決する目的で、我々は構造化ヒューリスティック評価法(sHEM:structured heuristic evaluation method)という手法を開発した。これは、

(1)10よりも多数のヒューリスティック原則を利用すれば、それだけ多数の側面に関して問題点を摘出できるだろうという仮説
(2)しかるに、同時にそれだけ多数の原則を与えると、評価者は注意が分散してしまい、結果的には問題点の摘出効率が下がるであろうという仮説
(3)そのため、多数のヒューリスティック原則を前述の操作性、認知性、快適性などのカテゴリーに分類しておき、評価者が一度に検討すべき範囲をある程度限定するのが良いであろうという仮説

から考案されたものである。基本的にヒューリスティック評価法をベースにしており、そのやり方を構造化した点に特徴があるため、構造化ヒューリスティック法と命名した。

 こうした考え方の結果、sHEMでは次の3点をその方法上の特徴とすることにした。

(1)(HEMに比較して)多数のガイドライン項目を用いる。
(2)それらを、操作性、認知性、快適性、初心者/熟練者、特別な配慮を要するユーザ、という5つのカテゴリーに区別する。
(3)評価セッション全体を6つのサブセッションに分割し、それぞれで前項のカテゴリーに関する評価を行わせる。なお、認知性については、Nielsenの10項目においても関連する項目が多数含まれていたように、特に情報機器の場合には重要な項目であり、問題点も多数発見される可能性があるので、サブセッションを二つ割り当てることにした。

 具体的には、最初の段階では、付録1にあげたように、(1)操作性として8つの項目(21の下位項目)、(2)認知性として5つの項目(22の下位項目)、(3)快適性として7つの項目(17の下位項目)を用意した。また、その他にNielsen(1993) もShortcutsを挙げているように、熟練者に対する配慮と初心者に対する配慮を区別する必要があるとの考えから、(4)初心者と熟練者に関する6つの項目(10の下位項目)をあげ、さらに (5)障害者など特別な配慮を必要とするユーザに関して6つの項目(12の下位項目)を用意した。このようにHEMに比べると多数の項目を擁することになったが、評価者に対してはそれをチェックリストのように使用して、順番にチェックしていくような使い方はせず、問題があると思われたとき、それを確認するために使用するように求めた。

 一般にヒューリスティック評価法のセッションは2,3時間行われることから、その時間を30分ごとのサブセッションに区切り、各サブセッションに、操作性、認知性、快適性、初心者/熟練者、特別な配慮といったカテゴリーを割り当て、それぞれの30分の枠の中では、評価者は指定された側面に特に注意をあてて対象機器の問題点の摘出を行うものとした。

 

4.実験1の考え方

 sHEMをHEMと比較した実験の詳細は松浦他 (1997)で報告するが、そこでの考え方は次のようなものである。

 まず被験者(評価者)は初心者5名とした。この数値は、Nielsen& Mack (1994)を参考にした。彼らは評価者の人数を変えた実験にもとづき、その人件費を考慮しながら、問題発見に関してもっともコストパフォーマンスの良い人数は数人である、としている。また、評価者の熟練度に関しては、Nielsen(1993)は、評価手法にも対象機器にも熟知している評価者は、まったくの初心者に比べて2.7倍もの多くの問題点を見つけることが出来たと報告しているが、この手法に熟達した人間の少ない日本においては、まず初心者でどの程度の問題点を見つけられるかを問題にするのが適当と考えられたため、被験者としては初心者を用いた。また、熟練してくれば、いずれの方法をとるにせよ、ヒューリスティック原則は評価者に内化され、構造化されることが予想され、そうなった段階では手法の差はあまり大きくならないことも予想されたからである。さらに、方式に熟達した被験者が集まらない、という現実的な理由もあった。以上のことから、評価者となる被験者は初心者5名とした。

 対象機器としては、情報機器でありながら、その機能の範囲があまり大きくなく、一日の実験でほぼその全容が把握できる程度のもの、という基準から、小型の情報機器を利用することにし、最終的には録音機能付きのミニディスクプレーヤーとした。

 セッションの構成はHEMとsHEMとで同等になるように配慮し、被験者の透湿性に配慮し、時間配分も同一とした。なお、講義に際しては、HEMについてはNielsen(1993)の記述をもとに行い、sHEMについてはガイドライン項目について同じ時間の中で、同一の講師が説明を行った。評価にあたってはポストイットを配布し、それに一件一葉で問題点を記入し、それがガイドラインのどの項目に違反しているかをあわせて記入させた。

 なお、最後に全体作業を行ったが、これは個別に発見した内容を公表しあい、その後、KJ法に類似した方法で全体的なまとめを行ったものである。今回の実験の主目的は、問題点の発見数を比較することにあったので、ここではこの全体作業の結果は特に重視していない。

 

4.構造化ヒューリスティック評価法の改善

 実験の結果から、ガイドライン項目は煩雑にならない程度に詳しいことが望ましいことが示唆された。そこで、付録2にあげたように、(1)操作性として9つの項目(26の下位項目と14の補足項目)、(2)認知性として10の項目(34の下位項目と59の補足項目)、(3)快適性として7つの項目(19の下位項目と11の補足項目)を用意した。また、(4)初心者と熟練者に関する8つの項目(13の下位項目と4つの補足項目)をあげ、さらに(5)障害者など特別な配慮を必要とするユーザに関して7つの項目(16の下位項目と16の補足項目)を用意した。ここで、補足項目というのは、例えば色盲について配慮すべし、という下位項目の表現だけでは具体的なイメージが沸きにくいと思われた場合、赤と緑、青と黄の組合せを識別表示に使っていないか、という具合により具体的に下位項目の内容を説明したものをさす。

 セッション構成は基本的には同一だが、認知性の前半でドキュメンテーションを中心に評価を行わせ、後半では本体について評価を行わせるようにした点が改善前とは異なっている。

 

5.実験2の考え方

 実験2は、前述のようにセッション構成などは多少変化したものの、基本的には実験1と同様である。これにより、実験1と実験2をあわせて比較考察し、HEMとsHEMと改良sHEMの三者を相互に比較できるようにした。

 

6.おわりに

 Nielsenのヒューリスティック評価法を改良し、より多くの問題点を発見できる構造化ヒューリスティック評価法を開発した。その問題発見性能に関する実験結果については、松浦他(1997) と杉崎他 (1997)を参照していただきたい。最初に述べたように、問題点の発見だけがユーザビリティの評価において重要なわけではないが、開発プロセスの中で適切なタイミングで問題を摘出できることは、開発担当者に適切なフィードバック情報を提供することを意味しており、実際の評価業務においては重要な意味をもつものである。

 

引用文献

 

Jeffries, R., Miller, J.R., Wharton, C., and Uyeda, K.M. (1991)User interface evaluation in the real world:  A comparison of fourtechniques. Proc. ACM CHI'91 Conf. 119-124
黒須正明 (1993) ヒューマンインタフェースのデザイン、情報処理 34(8),1063-1072
黒須正明 (1996)ユーザビリティ概念の構造、ヒューマンインタフェースシンポジウム 11,351-356
松浦幸代、黒須正明、杉崎昌盛 (1997)問題発見効率の高いユーザビリティ評価法−2.問題発見効率に関する評価実験、ヒューマンインタフェースシンポジウム#13
Miller, G.A. (1956) The magical number seven, plus or minus two: Somelimits on our capacity for processing information. PsychologicalReview 63, 81-97
Nielsen, J. (1993) Usability Engineering, AP Professional
Nielsen, J. (1995) Usability Inspection Methods. ACM SIGCHI95Tutorial Notes #17
Nielsen, J. and Mack, R,K, (1994) Usability Inspection Methods,Wiley
Nielsen, J. and Molich, R. (1990) Heuristic Evaluation of UserInterfaces, Proc. ACM CHI'90 Conf. 249-256
Norman, D.A. and Bobrow, D.G. (1975) On data-limited andresource-limited processes. Cognitive Psychology 7, 44-64
杉崎昌盛、黒須正明、松浦幸代 (1997)問題発見効率の高いユーザビリティ評価法−3.問題発見効率の改善に関する評価実験、ヒューマンインタフェースシンポジウム #13

 

付録1 sHEMで用いたガイドライン 

 

●操作性

 

1.身体適合

−指や手の大きさ、身体各部の大きさにあっているか。大きすぎないか小さすぎないか。

−指や手の動きやすい範囲に操作部位が収まっているか。

−操作部位からは適切なクリック感が得られるか。

2.視認性

−表示部位は必要な情報を表示するに十分な広さを持っているか。

−表示は見つけやすい場所になされているか。

−表示文字は小さすぎないか。

−表示文字と背景は適切なコントラストを持っているか。

3.可聴性

−エラー警告音などは聞き易い大きさか。

−何種類かの音を使っているときは、相互に識別しやすいか。

4.疲労軽減

−不自然な姿勢を長時間続けることはないか。

−特定の指だけに負担が集中するようなことはないか。

5.携帯性

−重すぎないか。

−大きすぎないか。

−不用意に触ってしまって誤動作を引き起こす心配はないか。

−電池の使用時間は十分か。

6.収納性

−使わない時、所定の場所に収納しやすく、また取り出しやすいか。

−小型機器の場合、鞄やハンドバッグなどに十分収納しやすいか。

7.柔軟性

−ユーザが自分の好みに応じた設定をできるようになっているか。

−重要な機能を実行するさいに、複数の異なる方法が提供されているか。

8.効率性

−操作の手数は少なく設定されているか。

−熟練したユーザに対して簡便で効率的な操作方法が用意されているか。

 

●認知性

 

1.平易さ

−分かりにくい用語は使われていないか。

−同じ系統の機能を表現する際に、ゲシュタルト心理学の原理(類同の要因、近接の要因、閉合の要因、など)を効果的に利用しているか。

−目立たせるべき表示に、図と地の要因(高いコントラスト、大きさ、中心にあること、閉じた領域であること、など)を効果的に利用しているか。

−画面と印刷物の間にWYSIWYGの関係が成立しているか。

−モードは浅く設定されているか。

−ユーザの記憶の負担を軽減するために、再生型でなく再認型になっているか。

−操作する対象を名前や座標で指示するのでなく、直接指示できるか。

−言葉だけでなく視覚的な表現も利用してあるか。

−視覚的な表現は内容が分かりやすいか。

−操作できる部位と操作できない部位は識別しやすいか。

−操作する方向(押す、回転する、スライドする、など)は直感的に分かりやすいか。

−関連する機能は隣接しているか。

−思い違いによるエラーは起きないように配慮されているか。

2.一貫性

−ちがった状態や機能でも、類似の操作は同じ名称になっているか、同じ色や形で表現されているか。

3.連想性

−ユーザが慣れ親しんでいる日常的システムを使って、メタファがうまく利用されているか。

−初めての用語でも、日常生活から容易にその内容が類推できるか。

4.誘導性

−操作手順のガイダンスは行われているか。

−具体例を使って操作が説明されているか。

−エラーが起きたとき、どうすれば良いかが説明されているか。

−マニュアルには必要で十分な説明がわかりやすく載せられているか。

−マニュアルは、簡略版、導入編、機能編、のように整理されているか。

5.習熟性

−操作の学習を支援するような教育システムが用意されているか。

 

●快適性

 

1.主体性

−説明の文章の主語はユーザになっているか。

−ユーザが目標を変更したり、間違いに気がついたときに、すぐに中断できるようになっているか。

2.寛大性

−エラーからの回復を支援する機能がついているか。

−エラーを犯したユーザに対して厳しい表現をしていないか。

3.美しさ

−機器全体のデザインは美しく、統一されたものになっているか。

−機器を利用する環境や服装とマッチしたデザインになっているか。

−色を多用しすぎたために煩雑で品の無いデザインになっていないか。

4.快適操作

−適切なフィードバックがなされているか。たとえば、10秒以内なら視覚的聴覚的な確認がなされ、それ以上なら処理完了までのタスクバーが表示される、といったように。

−操作に対して、即座に応答がかえってくるか。ユーザを待たせることはないか。

5.安心感

−訳の分からない状態に陥ったりしてユーザを不安にさせることはないか。

−どうしたらよいか分からない状態に入って、ユーザを困惑させることはないか。

6.動機付け支援

−ユーザに使ってみたい気を起こさせるような配慮がなされているか。

−失敗したときにはそれを叱責せず、成功したときにそれを誉めるようになっているか。

−楽しく使えるような配慮がされているか。

−最初から難しすぎてユーザに拒絶感を与えているようなことはないか。

7.親近性

−ユーザの日常生活との連続性に配慮しているか。

−親しみやすいキャラクターを利用したりしているか。

 

●初心者

 

1.ハイテク弱者

−ハイテク機器が苦手なユーザにも、使ってみたいという気持を起こさせるか。

−そうしたユーザが使おうとした時、とまどいや困惑を覚えることはないか。

−ユーザに不安を与えて、もう懲りたと思わせてしまうようなことはないか。

2.利用開始直後のユーザ

−同種の機器を利用したことがないユーザにも、機器のイメージはつかみやすいか。

−マニュアルを読まないでもある程度は使いこなすことができるか。

3.低頻度利用ユーザ

−たまにしか利用しないユーザでも、操作を忘れずにいられるか。

−操作を忘れてしまっても、直感的にすぐに操作できるか。

 

●熟練者

 

1.長期利用ユーザ

−長い間利用していれば、自然に効果的な使い方を身につけることができるか。

2.高頻度利用ユーザ

−しょっちゅう利用していると、わずらわしいとか、面倒だと思えてくるようなところはないか。

3.専任オペレータ

−その機器を専門に扱う担当者がいる場合、そのためには専門のトレーニングが必要になるか。そうだとした場合、そのような機会は提供されているか。

 

●特別な配慮を必要とするユーザ

 

1.視覚障害(弱視を含む)

−視覚障害の人にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

−点字による表示や、触覚を利用した手がかり、音声を利用したガイダンスなど、他の感覚を利用した情報の提示が行われているか。そのような意味で冗長なシステムに なっているか。

2.聴覚障害(難聴を含む)

−聴覚障害の人にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

−聴覚による表示、たとえばブザーとか音響などによる情報提示を、視覚的な表示と併せて提供しているか。そのような意味で冗長なシステムになっているか。

3.身体障害

−手指に障害のある人にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

−左右半身麻痺(片麻痺)の人にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

−下半身運動障害の人にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

4.幼小児・シルバー世代

−幼児にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

−児童にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

−シルバー世代にも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

5.左利き

−左利きユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

6.色覚異常

−色覚異常のユーザにも使えるべき機器だとすれば、そうしたユーザにも無理なく使えるか。どのような点で利用が困難になるか。

 

付録2 改良sHEMで用いたガイドライン

 

●操作性

 

1.身体適合

−指や手の大きさ、身体各部の大きさにあっているか。大きすぎないか、小さすぎないか

−指や手の動きやすい範囲に操作部位が収まっているか

2.視認性

−表示部位は必要な情報を表示するに十分な広さを持っているか

  表示は見つけやすい場所になされているか

  表示内容が変化した時に、ユーザは容易にそれに気がつくことができるか

−表示文字は小さすぎないか

  読みやすい書体を使っているか

  表示文字と背景は適切なコントラストを持っているか

  表示文字はあまり高密度に表示されてはいないか

−強調表示(大きな文字、太字、斜体、下線など)は適切に使用されているか

  ブリンクは適切に使用されているか、多用されすぎてはいないか

3.可聴性

−エラー警告音などは聞き易い大きさか

−何種類かの音を使っているときは、相互に識別しやすいか

−音の大きさは変更可能か

−イヤホン端子がついているか

4.疲労軽減

−不自然な姿勢を長時間続けることはないか

−特定の指だけに負担が集中するようなことはないか

5.携帯性

−携帯型の機器の場合、重すぎないか

−携帯型の機器の場合、大きすぎないか

−携帯型の機器の場合、不用意に触って誤動作を引き起こす心配はないか

  誤動作を防ぐために、操作部のロック(ホールド)ができるか

−携帯型の機器の場合、電池の使用時間は十分か

6.収納性

−使わないとき、所定の場所に収納しやすく、また取り出しやすいか

−小型機器の場合、鞄やハンドバッグなどに収納しやすいか

7.柔軟性

−ユーザが自分の好みに応じた設定をできるか

−重要な機能を実行するさいに、複数の異なる方法が用意されているか

−日本語の入力にはローマ字入力とかな入力が選択できるか

8.効率性

−操作の手数は少なく設定されているか

  操作の所要時間は短く設定されているか

−熟練したユーザに対して簡便で効率的な操作法法が用意されているか

−機器の大きさや利用環境が許すかぎり、ポインティング装置としてマウスを使ってるか

−機器操作において、キーボードとマウスの間のように、手の移動が頻繁に発生するか

9.エラー対応

−スリップを防ぐための配慮がしてあるか

  重要な結果を起こすキーは触ってしまいにくい場所に置いてあるか

  重要な結果を起こすキーは押すのに多少力がいるようになっているか

  重要な結果を起こす操作部は単に押すだけでなく、スライドや回転操作になっているか

−入力の確実性

  キーやボタン、マウスなどのクリック感は確実に得られるか

  キーやボタン、マウスなどのクリックは軽すぎたり重すぎたりしないか

  必要に応じて、キーやボタンをクリックしたときに音によるフィードバックがあるか

 

●認知性

 

1.平易さ(知覚関連)

−ゲシュタルト心理学の原理が効果的に使われているか

  類同の要因・・類似の機能を同じ色、同じ形のアイコンやボタンでまとめてあるか

  近接の要因・・類似の機能のアイコンやボタンを近くに並べ、他のものから遠ざけてあるか

  閉合の要因・・類似の機能のアイコンやボタンを閉じた矩形などで囲んであるか

−目立たせるべき表示に図と地の要因を効果的に使っているか

  目立たせるべき表示に高いコントラストを使っているか

  目立たせるべき表示を大きくしているか

  複数ウィンドウを表示しているとき、アクティブウィンドウは適切に強調されているか

  利用可能なボタンはランプがつくとか、強調表示されているか

−操作の手順は一定の順番に平面的に配置されているか

  基本的には左から右に、あるいは上から下に操作するように配置されているか

2.平易さ(認知関連)

−分かりにくい用語は使われていないか

  専門用語は使っていないか

  なじみのない記号列や英単語や略称が使われていないか

  ユーザにとって意味のないコード番号や開発用の識別符号が使われていないか

−プリントアウトの時、画面と印刷物の間にWYSIWYGの関係が成立しているか

  ワープロやWEBブラウザの場合、完成した状態を確認しながら編集ができるか

−操作する対象を名前や座標で間接的に指示するのでなく、マウスなどで直接指示できるか

  場合によってはタッチパネルによって直接の操作ができるようになっているか

−言葉だけでなく視覚的な表現も利用してあるか

  視覚的な表現は内容が直感的に理解しやすいか

  視覚的な表現だけでなく、言語的なラベルもつけられているか

  アイコン表現は必要以上に細かくなっていないか

−ある状態で操作可能な部位と不可能な部位は視覚的に区別してあるか

  操作不可能な部位については半輝度にするとか網掛けをするようにしてあるか

−操作のための画面部品と表示だけの画面部品は視覚的に区別してあるか

  ボタン類については、たとえば立体的に表示してあるか

−操作する方向(押す、回転する、スライドするなど)は直感的に分かりやすいか

  マウスクリックの位置が入力する数値に対応する場合、微妙な値の指定ができるか

−ユーザが機器のシステムイメージを容易に理解できるようになっているか

  複雑な機器であっても、適切なメタファを与えて容易な理解を促進しているか

−メニューの階層構造は適切に機能を分類しているか

  メニューの標題からは予想しにくい機能が含まれていないか

  メニューがあまりに深く(たとえば4段以上)構成されていることはないか

  メニュー選択肢が多いときには、種類ごとに選択肢の間に区切りをいれてあるか

  メニューの各項目は平易で内容が予想しやすいか

  メニューの項目は、種類、頻度、日付、容量など、任意の基準で整理しなおせるか

−数値の表現はわかりやすいか

  日常的に理解可能な単位を使っているか

  複数の数値表示の小数点位置は縦方向にそろっているか

  数値を入力させる場合に、どのような単位によるのかが明示してあるか

−例を示すことによって操作の分かりやすさを向上させるようになっているか

  図示することによって操作の分かりやすさを向上させるようになっているか

3.平易さ(記憶関連)

−要素の提示はマジカルナンバー(7±2)の範囲内におさまっているか

  それを越える場合には適切なチャンキングがなされているか

−モードは浅く(たとえば4層以内)設定されているか

  モードを識別するためにモードごとに異なった表示がなされているか

−ユーザの記憶の負担を考慮して、再生型でなく再認型になっているか

  再生型のコマンドよりはアイコンやメニューなどの再認要素を利用しているか

4.平易さ(エラー関連)

−思い違いによるエラーは起きないように配慮されているか

  エラーを犯してしまっても元の状態に復帰することができるか

  エラーからの復帰の操作は簡単か

−エラーが起きたとき、その原因だけでなく、対処の仕方も説明されているか

  エラーメッセージは簡潔な表現になっているか

  エラーについて詳細な説明が知りたい場合、それを知るための手段が用意されているか

5.一貫性

−違った状態やアプリケーションでも、同じ操作は同じ名称、色、形になっているか

  同じ機能は複数の画面で同じ位置に表示されているか

  類似の操作は複数の機能でほとんど同じ手順で実行可能か

  エラーメッセージの与え方や、エラーへの対処の仕方は同じパターンになっているか

  同じ機能は同じ名称で呼ばれているか

  コマンド入力領域は一定の場所、例えば画面の下の位置、につねに置かれているか

6.連想性

−ユーザが慣れ親しんでいる日常的なメタファが利用されているか

−初めての用語でも、日常生活から容易にその内容が類推できるか

7.誘導性(ヘルプ関連)

−ヘルプ機能は適切に提供されているか

  ヘルプは状態に応じて適切な対応がとれるように、知的な処理を行っているか

  ヘルプの表示される位置は一貫した場所になっているか

  自動ヘルプは表示しないように設定できるか

8.誘導性(ガイド関連)

−操作手順のガイダンスは行われているか

  値を入力する場合、最初にデフォルトないし推奨値が入れてあるか

  項目を選択する場合、最初にデフォルトないし推奨する項目が選択されているか

−具体例を使って操作が説明されているか

9.誘導性(ドキュメンテーション関連)

−マニュアルには、必要で十分な説明がのっているか

  機器各部の名称がすぐに調べられるか

  どのような機能が利用かのうなのかが容易にわかるか

−説明の文章は分かりやすいか

  むつかしい用語は使われていないか

  説明は具体的で、実行可能な表現になっているか

  適宜、図表をまじえて説明してあるか

  事例を交えて説明してあるか

  操作の手順の説明は実際にそれにしたがって容易に実行できるか

  説明が多すぎて、ポイントの把握に時間がかかるようなことはないか

−マニュアルは、簡略版、導入編、機能編のように階層的に用意されているか

  初心者、熟練者のように、異なるユーザを想定して幾つかに区別されているか

  下敷き状のコマンド一覧表のようなものが用意されているか

−項目の検索は容易か

  機能名称から検索できるか

  症状から検索できるか

  やりたいことから検索できるか

  エラーメッセージからマニュアルの該当箇所が参照できるか

−分厚くて携帯に不便ではないか

10.習熟性

−操作の学習を支援するような教育システムが用意されているか

−カリキュラムの進度は早過ぎもせず遅すぎもしないか

−必要と思われる機能範囲をカバーしているか

−ユーザが継続して利用するような配慮がしてあるか

 

●快適性

 

1.主体性

−説明の文章の主語はユーザになっているか

−ユーザが目標を変更したり、間違いに気づいたとき、すぐに中断できるか

−システムが故意に情報をユーザから隠している、というような印象を与えないか

2.寛大性

−エラーからの回復を支援する機能がついているか

−エラーを犯したユーザに厳しい表現をしていないか

3.美しさ

−機器全体のデザインは美しく、統一されたものになっているか

  画面レイアウトは整然としているか

  画面レイアウトは混雑しすぎていないか

−機器を利用する環境や服装とマッチしたデザインになっているか

  オフィスで利用する機器やソフトウェアにはある程度の品格が演出されているか

  ゲームのようなエンタテイメント性を持ったソフトには楽しさが演出されているか

−色を多用しすぎたために、品のない煩雑なデザインになっていないか

  色数は4色、多くても8色に押さえてあるか(ただしグラデーションは除く)

  モノクロの画面で見たときにもバランスのとれた色使いになっているか

  ユーザの属する文化圏で不愉快な感情を引き起こさないような色をつかっているか

4.快適操作

−適切なフィードバックがなされているか

  処理の完了までの時間はできるだけ2秒以内におこなうようにする

  処理の完了までの時間が10秒以内なら視覚的聴覚的なフィードバックが与えられるか

  処理の完了までの時間がそれ以上なら、タスクバーなどで残り時間が予測可能か

  タスクバーを利用する場合、バーの処理済み部分の移動速度は一定になっているか

−操作に対して即座に応答が返ってくるか

5.安心感

−訳の分からない状態に陥ったりしてユーザを不安に陥れることはないか

−どうしたらよいか分からない状態に陥ってユーザを困惑させることはないか

6.動機付け支援

−ユーザに使ってみたい気を起こさせるような配慮がなされているか

−失敗したときには叱責せず、成功したときにはそれを誉めるようにしているか

−楽しく使えるような配慮がなされているか

−最初から難しすぎてユーザに拒絶感を与えてはいないか

7.親近性

−メタファを使うような場合にユーザの日常生活との連続性に配慮しているか

−親しみやすいキャラクタなどを利用しているか

−メッセージはアプリケーションの性格に応じた適切な言葉遣いをしているか

 

●初心者/熟練者

 

1.初心者一般

−初心者の立ちあげを促進するように設計されているか

  システムイメージを早く確立できるような補助手段が提供されているか

−電話相談のシステムが用意されているか

2.ハイテク弱者

−ハイテク機器が苦手なユーザにも、使ってみたいという気を起こさせる配慮があるか

−そうしたユーザが使おうとしたとき、とまどいや困惑を覚えることはないか

−ユーザに不安を与えて、もう懲りた、と思わせてしまうようなことはないか

3.利用開始直後のユーザ

−同種の機器を利用したことがないユーザにも、機器のイメージはつかみやすいか

−マニュアルを読まないでもある程度は使いこなすことが出来るか

4.低頻度利用ユーザ

−たまにしか利用しないゆーざでも、操作を忘れずにいられるか

−操作を忘れてしまっても、直感的にすぐ操作できるか

5.熟練者一般

−熟練者にふさわしい機能が用意されているか

  コントロールキーなどを使ったショートカットが用意されているか

  自分なりの操作環境に設定しなおすためのカスタマイズ機能が用意されているか

  ショートカットの割付などは自分で設定することも可能か

6.長期利用ユーザ

−長い間利用していれば、自然に効果的な使い方を身につけることが出来るか

7.高頻度利用ユーザ

−しょっちゅう利用していると、わずらわしいとか面倒だと思えてくるような所はないか

8.専任オペレータ

−機器を専門に扱うユーザに対して専門のトレーニングの機会が用意されているか

 

●特別な配慮を必要とするユーザ

 

1.視覚障害

−視覚障害のひとにも無理なく使えるか

−点字や触覚を利用した手がかり、音声の利用など、代替方法が用意されているか

−複数のボタンがある場合、基準となる位置のボタンに突起をつけるようにして基準の枠組みを提供しているか

−危険な場所に指をはさんでしまうような可能性はないか

2.聴覚障害

−聴覚障害のひとにも無理なく使えるか

−聴覚による情報提示を、視覚的な表示と合わせて行っているか

−視覚的な急激な変化によって障害を持った人にショックを与えないよう配慮しているか

3.身体障害

−長い文字入力を必要としないようになっているか

−手指に障害のある人にも無理なく使えるか

  運動障害の場合、キーガードのような装置により、目的のキーを確実に押せるか

  同時入力操作を順次入力操作に置き換えることができるか

  キーのオートリピートをオフにすることができるか

  マウス操作をカーソルキーでもできるように冗長に設計してあるか

−左右半身麻痺の人にも無理なく使えるか

  利き手以外の手をつかっても操作に困難を覚えることはないか

−下半身運動障害の人にも無理なく使えるか

  車椅子から操作することが容易になっているか

4.幼少児

−幼児にも使えるべき機器の場合、無理なく使えるか

  表示の表現は幼児にも理解できるか、漢字表示を使っていないか

−児童にも使えるべき機器の場合、無理なく使えるか

  操作部位は児童の手の大きさに適合しているか

  表示の表現は児童にも理解できるか、難しい漢字表示はないか

5.シルバー世代

−シルバー世代にも無理なく使えるか

  文字表示は小さすぎないか

  画面表示の拡大機能があるか

  特定の色に対する感受性の低下に対する配慮はしてあるか

6.左利き

−左利きユーザにも無理なく使えるか

  操作部位は左右対称になっているか

  左利きユーザのためのカスタマイズ機能がついているか

7.色盲

−色盲のユーザにも無理なく使えるか

  赤と緑、青と黄の組合せを識別的表示に使っていないか

  機能の識別に色を使っている場合、ラベルを併用しているか