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 これは、ボツ作品とはちょっと違うかな。
 実際自分のWebデザイナーデビュー作の「It's a sumo world」(閉鎖)の中のWeb小説として、会社が倒産する直前まで連載された作品だし、ゲーム化も企画していた。ボツになったのではなく、会社が倒産することによってふっとんだ企画。

 自分個人としては、「何故日本はアメリカの従属国なのか?」とか「日本人のアメリカナイズ」をテーマにバッタバッタと悪人を斬り倒すヒーロー「日米衛」を描いた野心作なのだが、機会があったらまた書いて見たい作品である。

 

 

JAPANESQUE

 夜−ニューヨークのとある路地。日本人の女、小野美紀(24)が必死の形相で逃げ込んでくる。その後に、白人、黒人色とりどりの男達が続いて飛び込んでくる。嫌らしい笑いを浮かべるその男達に恐怖する美紀。男達は美紀を捕まえ、殴り倒し、誰が先にレイプするかを決めようと話し始める。正に絶対絶命のその時、彼らの上空から「待てい!」と声が響きわたる。慌てて上を向いた男達の目に入ったのは、大きな躯体を原色バリバリの派手な着物で包んだ歌舞伎役者の様な男−東屋日米衛(?)であった。その大きな体に似合わず、鳥のように舞い降りた日米衛は、ナイフで襲いかかった男達をあっというまに峰打ちで叩きのめす。鼻血で染まった美紀の顔を見、そっと懐紙を手渡す。やがてパトカーのサイレンの音が聞こえ、日米衛は美紀に「この国で婦女子の一人歩きは危険でござる。気をつけられよ」と言い残し、闇に消える...。

 日米衛は、ここニューヨークのダウンタウンにあるアパートに住んでいた。普段から着物に歌舞伎化粧のいでたちで生活している為、近所の住人は怖がって彼には近寄らない。sの彼の隣に、白人の美女、ローラ・ボードマン(26)が越してくる。ローラはアメリカでも最大手の軍関係の電子機器開発企業、メイヤーズ・エレクトロニクス(通称ME)に勤めるOLである。MEは一般電子機器部門を日本に置いており、今現在は、駐日社員の起こした日本人少女レイプ事件の処理で大騒ぎになっている。ローラは、アジア貿易課に所属しているため、その対応に追われているのである。そんなこともあり、彼女は日米衛に強い興味を持ち、かくして日米衛とローラの関係は深まっていくのである。

 そんなある日の事。日米衛はニューヨークのケーブルテレビから取材を受ける。インタビューその他を担当したのは日本人テレビマンの大沢 晃(30)である。もちろん日米衛が日頃目立っている為、町の名物男としての取材なのだが、大沢は不満げである。彼は元々映画監督志望で、現在の仕事もその布石である。したがって報道関係の仕事は彼の本意ではない。せめてドラマでもやれたら、と思っているのだが、次の仕事は日本で起きたME社員によるレイプ事件に決まっている事が、彼の気を重くしている。そんな個人話も日米衛をリラックスさせるため語って聞かす。レイプ事件を初めて知った日米衛は衝撃を受ける。日米衛の愛国心を激しく揺さぶったのである。もちろん愛国心などかけらもなく、ただアメリカに妄信的な愛着を持っている大沢には、何故日米衛がうろたえるのかは理解できない。レイプ事件など面倒以外の何者でもないのだ。そんな大沢に耐えかねた日米衛は、大沢らを追い出す。

 ホワイトハウスの晩餐会。
 ME本社のアジア貿易課長を勤めるローレンス・ジェイスン(42)大統領主催の晩餐会に出席していた。彼の目的は、日本での社員によるレイプ事件のもみ消しを政府高官に働きかけることである。駐米日本大使を伴いやってきた国務省次官は、ローレンスに日本政府への働きかけとアメリカ国内のマスコミへの圧力を約束した。その場に同席したローラはそのやりとりを通じて、会社や国家にたいしての疑問がわく。

 パーティーの後、ローレンスと口論したローラは、一人夜道をアパートへと急ぐ。アパートの玄関につき、玄関のセーフティロックをはずした途端、背後から強盗に襲われる。抵抗するローラを何度も殴りつけ、ぐったりとさせた強盗は、バッグを奪い、銃口をローラの頭に向ける。意識朦朧とするなかで、恐怖に怯えるローラ。が、次の瞬間、強盗の手から銃が落ちる。強盗は罵声とともにナイフを取り出すが、その肩を日本刀が襲う。気絶して倒れる強盗。ローラが何とか我に返り、強盗の横を見上げると、そこには脇差しをしまう日米衛の姿があった。

 ローラの部屋。
 日米衛を部屋に誘ったローラは、彼にレイプ事件についての感想を聞く。そして告白する。事件を起こしたのは自分の会社の社員であること、そしてそれをもみ消すために自分を含めた会社の人間が奔走していることを。ローラは日米衛が怒り狂う事を覚悟していた。しかし、日米衛から出たのは溜息だった。「日本の御上はどのように言っておるのだ?」
MEとアメリカ政府を支持する意向らしいとローラが答えると、日米衛は再び溜息をつき、こう答える。「拙者の真の敵は日本自体なのかもしれんな」悲しげな表情のまま、日米衛はローラの部屋を後にする。

 大沢は久々の大仕事に燃えていた。確かに当初は日本でのレイプ事件などナショナリズムを嫌う大沢には憂鬱な仕事だった。しかしMEとホワイトハウス、そして日本政府の癒着を目の当たりにし、ジャーナリスト魂が燃えていたのだった。匿名希望から送られてきたMEのローレンスと国務次官、駐米日本大使の3ショットの写真が決め手だった。ME本社の取材を行うべ局長室を訪れるまで、彼はアメリカのマスコミの力を信じていた。しかし、局長の答えはノーだった。大沢が何度食い下がっても局長は首を縦に振らない。政府からの圧力だった。一弱小ケーブルTVの局長がそれに逆らえるはずもない。
 大沢に、初めてアメリカ社会に対する怒りがこみ上げてくる。かくして大沢は独自に取材活動を繰り広げる事を決意し、局を出たところで何者かに狙撃される。威嚇だったため、弾は大沢には当たらず、すぐ脇の車のフロントグラスを壊しただけだったが、脅しの効果は抜群だった。早くも大沢は取材をするか否か迷い始める。

 昼間の賑やかなダウンタウンを歩いていた美紀は、日米衛と再会する。目立つ恰好をしているため、かなり回りからの注目を浴びている日米衛だが、本人は全く気にしていない。彼のそんな所に、美紀も無意識のうちに頼もしさを感じていた。美紀は大沢の恋人であり、大学院で博士号を目指している。だが、大沢には正直 ついていけない所もあると彼女は日米衛に言う。大沢の頭の中はアメリカの価値観で凝り固まっている。最初はそんな所に魅力を感じていたが、年数もたち自分も大人になってくると、辛い。日本人の中にあって、最も日本人らしくない人種。大沢はそんな帰国子女のイメージを追従していた。だから、大沢の仕事が日本で起こったレイプ事件だと知り、美紀は喜び半分不安半分といった心境なのである。そして狙撃事件。いったんは取材中止に傾いたものの、志しを失っては映画監督になどなれるはずもない、と取材を続行する事にしたため、美紀としは気が気じゃない。だから大沢を助けて欲しいと美紀は日米衛に頼む。そこに大沢から美紀へ携帯電話が入る。取材にかかりため、今夜は会えない、というのが大沢の用件だった。電話の後、日米衛は美紀に大沢の取材先を聞き出し、そこに行って大沢に今一度会ってみることにする。

 ME本社、夜。
 玄関近くで、国務省次官と日本大使の乗った車が出てくるのを待つ大沢。彼が得た情報では、今夜次官らとローレンスが本社で会合を開くとの事だった。大沢は玄関から出てきて車に乗り込む直前の次官ら、特に日本大使を直撃インタビューするハラである。ホームビデオの電源を入れ、取材に備える。が、次の瞬間、大沢は黒づくめの男数人に取り押さえられ、駐車場に連行される。
 連行された大沢の前にローレンスが現れ、大沢をなじる。そしてローレンスは男達に大沢の殺害を命じ、その場を去る。男達はさんざ大沢をなぶり、意識朦朧となった大沢のこめかみに銃口をつきつける。
「あ、いやしばらく!」
 突然の大声にたじろぐ男達。そして次の瞬間、男達の銃は宙を舞っていた。華麗な刀さばきを見せつけた日米衛が、大沢を守って立ちはだかる。体勢を立て直した男達はサバイバル・ナイフを手に、日米衛を取り囲む。それぞれの目には殺意が漲っている。 だが、日米衛は軽くフン、と笑い飛ばし、言い捨てる。「おのおのがた、死に急ぐのは愚の骨頂というもの」
 一斉に飛びかかる男達。が、次の瞬間日米衛はその上空にいた。男達の一人の背後に降り立った日米衛は、峰打ちでその男を倒し、他の男達が反撃する前に再び飛び上がり、車の上に着地する。残りの男達が慌てて追いかけるが、日米衛は一人一人との距離を保ちつつ攻撃をかわし、隙をみて一人ずつ倒していく。
 何とか自力で立ち上がった大沢に肩を貸す日米衛。他に取材クルーがいないことを不審に思う日米衛に、大沢は局が協力していない事をうち明ける。「ここまで来たら、なんとしても真相を突き止める!それがアメリカのジャーナリズムだ」と息巻く大沢に、日米衛は「お主は日本人であろう。この国の汚さは解ったはずだ。もう日本に帰るがよい」と忠告する。だが、大沢は「俺には日本人とかアメリカ人とか関係ない。国際人としてここで働いているんだ。そして俺には夢がある。それはここでしか果たせない。日本みたいなケツ の穴の小さな国なんか戻るもんか!」と反論し、一人その場を走り去る。無言でその後ろ姿を見送る日米衛。

 翌日、ME本社。幹部らに大沢襲撃の事を責められるローレンス。そして社長がローレンスに命じる。どんな手段を用いてでも大沢と日米衛を消せ、と。
 
 昼間のイースト・ヴィレッジを友人達と歩いていた美紀は、黒塗りの車で現れた男達に拉致される。

 駐車場の一件を日米衛から聞いたローラは愕然とする。日米衛は更にローラに協力して欲しい、と訴える。ローラの口から、MEのレイプ事件の隠蔽工作を暴露して欲しいというのだ。「自分にも仕事がある。会社を裏切る事は出来ないわ」とローラは拒否する。そして日米衛に、危険だから手を引くように言う。そんなローラに日米衛は落ち着き払って言う。「拙者は日本を愛している。その国が今、他の国に辱められている。それを黙って見過ごすことはできん」日米衛の哀愁にも満ちた表情に、ほだされるローラ。TVでは初めて日本のレイプ事件関連の報道が流れている。ME社を代表してローレンスと、政府代表として大統領主席補佐官が会見し、社員のアメリカへの早期送還と、アメリカ国内での捜査と裁判を主張している。また、日本政府の反応として、外務大臣と官房長官の、「民間人による一般事件であり、今後の安保を含む日米関係になんら影響があってはならない」との談話も流れる。それを見ていた日米衛はつぶやく。「日本人の本当の敵は日本人自身なのかも知れぬな...。

 そこに大沢が飛び込んでくる。「美紀が誘拐された!」
 大沢に届けられた脅迫状には、今夜倉庫街に日米衛と二人で来るように書いてあった。 話しを聞いた日米衛は、要求に従う事にする。大沢には思いとどまるよう説得するが、「美紀を見捨てられるかよ!」と反発され、仕方なく一緒にいくことにする。

 倉庫街−夜。
 倉庫街に突いた二人は、黒づくめの男に倉庫に入るように指示される。二人が倉庫内に足を踏み入れると、そこには軽機関銃等で完全武装した黒づくめの男達数十人が二人の前方に立ち、睨んでいた。そしてその奥のベンツの中からローレンスと、縛られた美紀が出てくる。
 「わざわざ来てもらって申し訳ないんだが、君らにはここで死んでもらう。この女ともどもな」ローレンスが冷たい笑いを浮かべ、言い放つ。反論しようとした大沢を日米衛が引き留め、「物陰に隠れていろ。拙者がいいと言うまで出てくるな」と言う。そして大沢を強引にカーゴの影に押しやった日米衛は一歩前に出、刀を抜く。長刀と短刀−二天一流である。全くひるむ様子のない日米衛に驚愕するローレンスら。そして今度は日米衛が冷たい笑みを浮かべる。「御相手いたそう」
 ローレンスがたまらず日米衛を銃で撃つ。だが、日米衛はその弾丸を刀で一閃、弾き飛ばす。その場の一同からどよめきがわき起こる。気を取り直した男達が、今度は機関銃で一斉射撃を始める。が、これも日米衛は目にもとまらぬ刀さばきで全弾跳ね返す。その跳梁弾で、男達の何人かが倒れる。呆然とする男達。すでに何人かは逃走を始める。
 「逃げるな殺れ!」とローレンスが叫び、残った男達は鉄パイプ等を武器に日米衛に突進していく。かくして倉庫街の決闘が始まった。
 忍び足でローレンスと美紀に近づいた大沢は、ローレンスに飛びかかるが、銃で頭を殴られる。大沢がひるんでいる隙にローレンスは美紀を車に押し込んで、逃走を計る。大沢は車の屋根に飛び乗り、何とか美紀を救出せんと窓から中に入る。その大沢にローレンスは銃口を向ける。「そんなに返して欲しいか?そんなに重要か?この女が。なら黙ってりゃよかったんだ。現地人の女が一人レイプされたくらいで騒ぎやがって。合衆国がおまえ達に頭を下げるとでも思ってるのか?そんなおめでたい奴らだから、また犠牲者がでるんだ」ローレンスは美紀に銃口を向ける。
 二天一流で次々と男達を斬り捨てていく日米衛。拳銃、機関銃、鉄パイプ、サバイバル・ナイフ、ヌンチャクetc...日米衛を止められる物は何もない。少なからず傷を負いながらも男達を全て倒した日米衛は大沢らを追って倉庫を飛び出す。
 倉庫の外には、地面に横たわり、身動き一つしない美紀と、その側でうずくまり震えている大沢の姿があった。
 かける言葉もなく、その場に立ちつくす日米衛。
 「畜生!あの野郎、美紀をゴミのように捨てやがった。日本人はゴミじゃないんだ!」
 泣き叫ぶ大沢。
 「これから奴らの所に行く。お主は警察に連絡しるのだ」刀をしまいながら日米衛が言う。「俺も行く!」息巻く大沢を、今度は強い調子で日米衛が押しとどめる。
 「馬鹿者!お主にはこの事件を世に語り継ぐ使命があるではないか!」
 「でも、俺は...」言葉にならない大沢に、更に日米衛が続ける。「よいか。ここがどこであろうと、日本人にしか出来ない事があるはずだ。お主にはそれをやってもらいたい。よいな?」
 日米衛を見上げる大沢。「頼んだぞ」と言い残し、日米衛は闇に消える。

 ME本社アジア貿易課オフィス。ローレンス用のPower Macから、日本の与党や国務次官に向けての多額の送金を記録した帳簿を、社内LANを通じて開いているローラ。そこに、ローレンスが帰ってくる。ローラはローレンスに詰め寄り、社のやり方を痛烈に批判する。「マスコミに公表する」と言い捨て、オフィスを出ていこうとしたローラに銃を向ける。「おまえも同じ穴の狢だよ。いや、この国の市民全員がな。あの猿どもの上にあぐらをかいて生きているんだ、私達は」
 「これからは違うわ!」激しく反論するローラ。だが、ローレンスの答えは「これから、なんておまえにはない」。突然、ローレンスのデスクの内線が鳴る。正面玄関の警備員からの侵入者の報告だったが、途中で悲鳴とともに切れてしまう。慌てたローレンスはスペシャル・セキュリティールームを呼び出し、完全武装の特殊部隊に日米衛の迎撃を命じる。その隙に逃げるローラ。ローレンスは慌ててローラの後を追う。だが、ローラはオフィスから出た所でローレンスの警備に来た特殊部隊に捕まってしまう。それらと合流したローレンスは、非常階段を屋上へと上がっていく。その途中で下の階層から断続的に悲鳴が聞こえてくる。屋上手前に到着するが、防火シャッターが下りていて、屋上には出られない。しかたなくローレンスらは、最上階のパーティールームに逃げ込む。そして部屋中央の階段を登り、テラスで近づく悲鳴を恐怖に震えながら待つ。
 最上階の非常扉が開き、少しして下で待ち伏せしていた特殊部隊員らの悲鳴が聞こえ、ややあって階段を上ってくる足音が近づいてくる。銃を構える残りの特殊部隊。
 階段を、髪の毛を振り乱した男の影が上ってくる。一斉に射撃を開始する部隊。悲鳴を上げるローラ。だが、銃弾はことごとく日米衛の刀に跳ね返される。部隊は更にナイフで一斉に斬りかかるが、日米衛の一閃にみごとに斬り捨てられる。
 震え出すローレンス。「助けてくれ!みんな社の命令でやったことだ!殺すなら社長にしてくれ!社長室はこの真下だ」そのローレンスの鼻先に刀の先をつける日米衛。泣き出すローレンス。そして、そのローレンスを日米衛が一閃する。悲鳴を上げ、倒れるローレンス。そして日米衛が言う。「峰打ちでござる」
 ローラが日米衛に駆け寄る。そのローラに日米衛は言う。「こやつらには生きて罪を償ってもらう。そして日本のバカどもにも非を認めさせねばならん。ローラ殿、マスコミへの発表をお願いつかまつる」
 日本の刀を納め、日米衛は去っていく。パトカーのサイレンの音が近づいてくる。

 後日。
 ME経営陣は特別背任と贈収賄の罪で一斉逮捕され、国務次官は辞任。日本でも数名の国防族議員が辞職勧告を受け、総理は一連のレイプ事件に対する一部の官僚及び閣僚の対応を謝罪し、自らも退陣へと追い込まれた。

 昼のニューヨーク、ワシントン・パーク。
 何とかショックから立ち直った大沢は日米衛に誓った。
 「日本人にしか出来ない事をやる。俺は日本人監督として、いつかハリウッドでアメリカ人には作れない映画を作ってみせる。その時は是非、あんたにも見てもらいたいな」
 笑顔で見つめ合う日米衛と大沢。硬い握手を交わし、二人は別れる。
 
 その数ヶ月後。ダウンタウンで日米衛は刺殺される。犯人は麻薬中毒の日本人留学生だった...。

END

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