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 これも、アキバ系ネットドラマの企画として出したんだけど、やはり未だになしのつぶてということで、ボツプロットとして、この度ここに掲載することにした。

 アキバといえば、「メイド」という単純な発想で考えたプロットで、「世にも不思議な物語」系のはなし。

 実はメイド喫茶なるものには一度も行ったことないんだけどね…。

 

 

「メイドのみやげ」

出張メイドサービスをしている飯野明美(19)は、とあるベンチャー企業に呼ばれる。
メイドサービスの内容は、ようは家政婦のメイドバージョンだったが、企業に呼ばれるときは大抵キャンギャルが多い。
そのつもりでその会社に出向いた明美は、小さな雑居ビルの一室に、社長ひとりしかいないという状況に恐怖感を覚えた。マネージャーの石原武雄(35)が一緒でなければ、逃げ帰っていたところだ。
その社長の話はこうだった。
「こちらが指定する場所にいってクライアントに数分間一緒にいていただければいいんです。もちろん妙な業務はありませんし、そのようなクライアントもおりませんのでご安心ください」
社長は淡々と語った。
もちろんその程度のことなら問題ない。
まあ、メイドと数分一緒に二人で過ごしたい、という男もいるだろう。
明美は軽い気持ちで引き受けた。
翌日、早速携帯に電話があり、夜20:00に神田川陸橋上でクライアントと待ち合わせとのこと。
明美は慌ててメイド服に着替えて現場に向かった。
橋の上では、いかにもネクラそうな若い男が立っていた。
「お待たせいたしました、ご主人様」
すっかり営業モードの明美。
男は、自分は神田栄一(27)といい、某証券会社のエリートサラリーマンだという。
だが、かわりばえのない仕事、妻の暴言、赤ん坊の鳴き声、同僚の噂などに疲れたのだと言う。
「それは、さぞかしお疲れでしょう。私めでよろしければご相談にのりますが」
尚も営業モードの明美に、栄一は言う。
「今から死ぬから、見届けてほしい」
「え?」
そういうと、栄一は陸橋の欄干を飛び降りてしまった。
呆然とする明美は、恐怖心にかられ、逃げ去る。

自宅に帰り着いた明美は武雄に電話し、この仕事はできないと言うが、それは困ると切り返され、「これが出来なければ離職も考えてもらう」というつれない返事。
明美は、意を決し、例の会社に向かう。

夜22:00過ぎだというのに、社長はいた。
明美は、一体この仕事はなんなのか、と訪ねる。
「自殺を見届ける仕事ですよ」
社長は笑みを浮かべつつ言う。
誰にも愛情を持てない男がメイドに自分の死を見届けてほしいというニーズが高まっているという。
そして社長は、「もう逃げることはできませんよ」と明美に告げる。

帰り道、仕事でもないのに3件もの自殺に遭遇する。
翌日また携帯が鳴り、出てみると武雄で今すぐメイド姿で永代橋に来てほしいという。
覚悟を決め、行ってみると武雄は自殺するという。メイド姿の明美に見届けてほしいというのだ。
そういうなり、飛び降りる武雄。明美は、「お疲れさまでした」と言うと、その場を後にした。

それ以来、「メイドに自殺を見届けてほしい」案件は次々と明美に飛び込み、その度に出張する明美。もうすでに人の死を見届けることに何の抵抗感も感じなくなっていた。


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