エンターテインメント・レビュー

第二十二弾

映画

グリーンデスティニー

アン・リー監督作品

この映画は香港お得意の武侠映画ではあるが、いわゆる「香港映画」ではない。
この理由には、もちろんこの映画が中国&アメリカの合作であるからでもあるが、そのスタイルがそれまでの香港武侠映画と大きく異なるのだ。
90年代初期から中盤にかけての武侠映画は、どちらかというとアクション中心で、人間ドラマは添えつけ程度の描かれかただった。その方が見る方もめくるめくアクションでスッキリするし、ハリウッド映画に代表されるジェットコースタームービーに近かった。
このスタイルを大きく変えたのが知る人ゾ知るウォン・カーワイ(「楽園の瑕」)だが、この「グリーンデスティニー」はその線を受け継いでいる。

ただ、この文学的美学的スタイルは元々中国大陸の監督達が得意としたものだ。
この映画の荒野で愛し合う若い二人のシーンを見て、私は陳 凱歌監督の「人生は琴の弦のように」を想起した。
大陸の監督達と、香港のニュージェネレーションと言われるウォン・カーワイや本作の監督アン・リーには計算されたビジュアルイメージと、そして美しくも悲しい絶望感をテーマに据えた映画づくりで共通している。
これは香港の若い監督達が、大陸から多大なる影響を受けているということに他ならない。

映画のストーリーラインもまた、興味深い。
今までの武侠映画に出てくるような完璧な師弟関係は描かれていない。チョウ・ユンファ演じる剣客リー・ムーバイは引退を考え、高級官僚のはねっかえり娘であるイェンに才能を見出し、弟子にしようと試みるが、イェンは拒絶する。それどころかこの娘は暴力に目覚め、政略結婚させられた家を一日で逃げ出し、荒くれ男達をバッタバッタとなぎ倒しながら剣客としての旅に出る。それをいさめるミシェール・ヨー演じるムーバイの友人にして恋人のユー・シューリンとの激しい戦い。
この映画は今までの男くさい武侠映画とは一線を画し、暴力に憧れ、生きる女性を描いている。
それらの人物達のドラマとアクションを美しい映像で見せるアン・リーの手腕には感嘆した。

が、不満はあった。
まず、最初にも書いたがこの映画が普通の武侠映画でなかったことだ。
結果的にはすばらしい映画だったが、正直自分は見る前は「痛快で派手なアクション」を期待していたので、アクションがあまり前面に出ないつくりには違和感を覚えた。
あともう一つは、そのアクションに関してだが、ワイヤーで飛び過ぎだと思った。しかも非常にゆったりと飛んでいる。この手のアクション映画ではめまぐるしく飛びまくるゆえにその迫力で圧倒され、その不自然さに気づかないのだが、この映画のようにフワフワと飛ばれてしまうと、正直間が抜けているように見える。
この映画のアクション監督は「マトリックス」のユエン・ウーピンだが、確かに飛距離は凄まじいが、他の映画とくらべてスピード感が格段になかったように思える。
恐らくファンタジックに見せたいというアン・リーのねらいだったのだろうが、ちょっとそのねらいにワイヤーアクションが答えていたようには見えなかった。

ただ一つ一つの武術アクションといい、人間ドラマといいこの映画が一級品であることは間違いない。

今までのカンフー映画に興味のなかった人、香港より中国映画が好きだった人、人間離れしたアクションが見たい人には是非オススメの一本だ。