第12回 「”押井 守”論」

 

押井作品との付き合いは、もう20年になる。

TV「うる星やつら」が初めての出会いだった。
「うる星」の中で、「面白いな」と思うエピソードの絵コンテ&演出は必ず押井氏がやっていた。彼がチーフディレクターだったというのは後から知ったことだ。
TV「うる星やつら」は、押井氏自身の作品への興味が薄れるとともに暴走が失速し、彼が監督を降板するとともに原作の焼き直しシリーズになりさがってしまうのだが。
彼がTVシリーズの監督をやっている間、映画の方も2本作られ、両方とも押井氏によるものだった。
1本目の「オンリー・ユー」は、当初押井氏ではなかったらしいのだが、すったもんだの挙句、テレビで慣れ親しんでいる彼に監督の話が回ってきた。押井氏にしてみれば、望まぬ映画監督デビューだったという。出来上がった作品も「うる星」ファンには「最高傑作」といわれているが、押井氏にはだいぶ不満があったらしく、その不満がモロに作品の形をとってしまったのが2本目の「ビューティフル・ドリーマー」だったわけだ。この作品は賛否が大きく分かれたものの、アニメも映画であるという認識を一般にひろめた名作だった。もう話はいい加減なものだったわけだが、演出的にはシネマツルギーを追求した、押井氏ならではの世界になっていた。

さて、その後押井氏は独立し、フリーの演出家として様々な作品を世に送り出すことになるが、世にはなかなか認められなかった。その難解さ、不可思議さ、理屈っぽさが、観る人を倦厭させる主な理由だが、自分的にはあの独特な世界観がたまらなかった。
貧乏くささ。立ち食いやコンビニが世界観を席巻し、主人公達はそのなかで虚構と現実に翻弄される。
実際今見ているシーンが現実といして描かれているのか、それとも夢なのか、押井氏の映画はあいまいである。

とにかく、その世界観はユーモラスだった。
その独特のユーモアが自分は好きだったのだ。

押井氏の不遇の時代をふきとばした超ヒット作「機動警察パトレイバー」シリーズでも、そのユーモア溢れる世界観が、別設定に近いキャラを翻弄し、再びいい意味での暴走をはじめる。
「パトレイバー」は観ていて痛快だった。彼と伊藤和典氏のコンビの最高傑作だったと言ってもいい。

だが、「パトレイバー2」を終えた押井 守は自分の世界観をある意味壊してしまったように思える。

その後の作品には、それまでひきずっていたユーモア感あふれる貧乏ネタはなりをひそめ、ただただ難解なストーリーと最高水準のアニメーション技術だけが残された。

その結果として生まれたのが、皮肉にも押井氏の名を世界に知らしめることになる「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」や実写映画「AVALON」だった。

これらの映画、技術はひたすらすごいのだが、肝心の中身がついていけない。
「AVALON」は、それでもまだゲームを題材にしていたから、違った意味で評価できる作品なのだが、「攻殻機動隊」の方はというと、ただただ暗い映画だな、という感じしか受けなかった。

20年間押井氏の作品を見続けてきて、とにかく思うことは「難解さ」とか「理屈っぽさ」は要素のひとつであって、自分にはどうでもいいことで、おもわずニヤリとできるユーモアがこめられているかどうか、が快感を得られるか否かのポイントだと思う。
最近、そのユーモアの部分が欠けてきたように思えてならない。

CGなんか使わなくてもいいから、ベタなアニメでいいから、あの貧乏くさくユーモア溢れる人間くさい押井作品が見たいと思う今日この頃である。

Top