人 物  ジョスター・本田(28)日系英国人動物学者  ヨハネ・文左右衛門(27)英国の日本人牧師  原住民の少年  他 ○南アフリカ某国・ジャングル入口    T「十八世紀・アフリカ」    日射しの強い熱帯雨林のジャングル。    どこまでも緑が続いている。    いかにも冒険者といういでたちの日系    の男、ジョスター・本田(28)とミサ用    の黒衣をまとった日本人、ヨハネ・文    左右衛門(27)が辺りを見回しながら道    ならぬ道を歩いている。 本田「予想はしてたけど、暑いな」 文左右衛門「アフリカですからね。英国とは  違いますよ」    と言い、汗を拭う。    ため息をつく本田。    本田と文左右衛門、奥地へと向かっ    て歩いていく。    澄み渡った青空に太陽が照り輝いて    いる。   ○タイトル    「ファイナル・ジャーニー 〜神々    の軌跡」    クレジット・スタート。   ○奥地へと続く道    本田が蛮刀で草木をなぎ払って進み、    その後を文左右衛門が続く。   ○川辺    本田と文左右衛門、ジャングルの切れ    間のひらけた川辺で腰を下ろす。    川の水をすくい、顔を洗う本田。気    持ちよさそうである。   ○ひらけた林道 (夕)    本田と文左右衛門、何やら談笑しなが    ら歩いている。    その二人を、原住民の少年が木に隠れ    ながら追う。   ○崖前・林道(夕)    クレジット終了。    夕日が辺りを赤く染めている。    本田、前方の崖に気づき立ち止まる。    本田「おい」    文左右衛門「どうしました」    文左右衛門、本田の肩越しに前方を見    る。    さほど高くはない崖が見える。 文左右衛門「どうします?引き返しますか」 本田「いや、たいして高くないし。登れんじ  ゃない?」 文左右衛門「(嫌そうに)登るんですか」 本田「仕方ないじゃん。行こうよ」    と言って歩き出す。    肩をすくめ、本田の後に続く文左右衛    門。 ○崖(夕)    ゴツゴツとした岩肌を、本田と文左右    衛門が助け合いながら登っていく。   ○崖上(夕)    手が崖下から出、続いて本田が登って    くる。    本田、振り向いて下の文左右衛門に手    を貸し、引っ張り上げる。    本田に比べて、ゆっくりと辛そうに登    ってきた文左右衛門はその場にへたり    込む。    二人ともその場に座り、肩で息をして    いる。 本田「うー、きつかったぁ」 文左右衛門「すいません。私、慣れてないも  のですから」    辺りはすっかり暗くなっている。    本田、ポケットからライターを取り出    し、火をつけ、まわりの様子を伺う。    鬱蒼と茂る木々や熱帯植物の黒い影が    辺りを埋め尽くしている。 本田「今日はここで野宿した方がいいな。何  が出るかわかんないし」 文左右衛門「そうですね。火を起こしましょ  う」 本田「オッケー」    本田、ライターをつけたまま、木片を    探し始める。    空を見上げ、ため息をつく文左右衛門。      **************      夜。    完全な暗黒の中、崖上の一部のみに火    が淡く灯っている。    本田と文左右衛門、たき火を挟んで寝    そべっている。 文左右衛門「ジョスター」 本田「ん?」 文左右衛門「感じませんか?」 本田「何を?」 文左右衛門「一言で言うのは難しいですね。  何というか、自然に抱かれているような、  安らぎとでも言うんですかねぇ。そんな感  覚ですよ」 本田「...自然の安らぎか。うん。何か落  ち着くよね」 文左右衛門「あなたは動物学者でしたね」 本田「うん。僕はね、ヨハネ。ただ単に動物  の生態を調べる為だけにここに来た訳じゃ  ないんだ」 文左右衛門「どういう事です?」 本田「何故動物は自然の中で暮らすのか。何  故文明を持とうとしないのか。僕は決して  それは動物が知性がないからではないと思  うんだ」 文左右衛門「...」 本田「その理由を僕は知りたいんだよ。そし  て人間は学ぶべきなんだ。自然とは一体な  んなのか、をね」 文左右衛門「人間が忘れてしまった何か。私  も牧師になって七年になりますが、宗教の  原点もそこにあるのかも知れませんね」 本田「ヨハネ、君はどうしてここに来る気に  なったの?」 文左右衛門「私は隠れキリシタンとして国を  追われました。それ以来英国で布教活動に  専念してきましたがやはり布教だけでは人  を救えないんです。まぁ、私の力不足だと  言われればそれまでなんですがね」 ジョスター「人類を救う術を探してここに来  たってわけだ」    苦笑する文左右衛門。 文左右衛門「離れたかったんです。救いを求  めてくる人々からね」 本田「牧師さんもスランプになるんだ」    笑う本田と文左右衛門。    ガサッという音がし、二人とも飛び起    きる。 本田「な、何?」 文左右衛門「獣ですか!?」    目を凝らし、辺りの様子を伺う本田。    近くの草むらで再びガサッと音がす    る。 文左右衛門「何かいる!」 本田「シッ」    本田は口元に指をあて、立ち上がる。    姿勢を低く保ち、草むらへと近づいて    いく。    唾を飲み込む文左右衛門。    再度ガサッという音とともに蛇が飛    び出てくる。 本田「ひゃぁ!!」    後ろに飛び退き、尻餅をつきながら後    退する本田。 文左右衛門「どうしたんです!何なんです  か!」 本田「へ、蛇だよヘビ!僕ぁ蛇だめなんだぁ」    ズルズルと本田に忍び寄る蛇。    文左右衛門、素早くリュックに手をや    り、中からリボルバーを取り出し、本    田の前に飛び出す。 文左右衛門「私に任せて!」    本田、泣きそうになりながら文左右衛    門の後ろに隠れる。    蛇に銃口をポイントする文左右衛門。    鎌首をもたげる蛇。    銃口が一瞬光り、蛇が消し飛ぶ。 文左右衛門「神よ、無益な殺生を許したまえ」    銃を地面に置き、空に向かって手を合    わせる文左右衛門。 本田「やった?やった!?」 文左右衛門「終わりました」 本田「ふぅ、よかったぁ。苦手なんだよね、  蛇って」 文左右衛門「動物学者じゃないんですか?」 本田「苦手なもんくらいあるよぉ。そんな事  言うんなら自分だって牧師なのに殺しちゃ  ったじゃない」 文左右衛門「うっ、ま、まぁ人間っていうの  はそういう物ですからね」    と、苦笑いを浮かべ、ごまかす。 本田「まぁ、とにかく二時間交代で仮眠をと  ろう。二人とも寝ちゃうと物騒だし、明日  は明日でハードだしね」 文左右衛門「そうですね。あなたが先に寝て  ください」 本田「うん。悪いね。じゃ、お先に」    本田、バタンと寝転がり、帽子を顔に    かぶせる。    文左右衛門、ため息をつき、空を見上    げる。    漆黒の夜空に無数の星が瞬いている。 ○滝    本田、滝が雪崩堕ちる崖を必死に登っ    ている。    途中、足を踏み外し、足場だった岩が    落下していく。    その様を、恐怖に引きつりながら見、    再び上を目指して登り始める本田。    そのやや下方に文左右衛門が、やはり    岩肌に張り付いている。    本田、文左右衛門を見る。 本田「ヨハネ!下を見るんじゃない!上を向  いてひたすら登るんだ!」 文左右衛門「わ、私に構わず行ってくださ  い!」    死にそうな表情の文左右衛門。 本田「バカヤロー!貴様、それでも牧師か!  人がそんなに簡単に命をあきらめていいの  か!?」    無言で本田を見つめる文左右衛門。 本田「力をふりしぼって登るんだ!さぁ」    文左右衛門、登り始める。    本田、ため息をつき、再び登り始める。 ○洞窟内    本田と文左右衛門、向き合って座り、    くつろいでいる。 文左右衛門「ジョスター、さっきはありがと  う。あのままあきらめてたら、私はもう死  んでいたよ」 本田「これからはもっときつくなるからね。  あれしきの事で根をあげていてはダメだよ  ヨハネ」 文左右衛門「まったくだ」    微笑む二人。 文左右衛門「ここはどこらへんなんだろう?」 本田「まだ入口付近さ。その証拠に、僕らは  まだ動物にほとんど会っていない」 文左右衛門「そうか」    少し落胆する文左右衛門。 ○洞窟前    何かが洞窟に近づいていく。 ○洞窟内    本田、ごそごそとリュックから何かを    取り出す。 文左右衛門「どうしたんだい?」 本田「そろそろ腹へってきたろ?メシにしよ  うと思ってさ」    本田がビーフジャーキーを取り出した    その時、入口から木の槍が飛んできて、    ビーフジャーキーの袋に命中する。    本田と文左右衛門、恐れおののき、一    斉に飛び退く。 文左右衛門「何ですかぁ!」 本田「ひぃ〜」    小柄な人影が一人、洞窟に入ってくる。    恐怖に思わず抱き合う本田と文左右衛    門。    入ってきたのは色黒で上半身裸の、腰    みのをつけたいかにもって感じの原住    民の少年だった。 本田「い、命だけは」 文左右衛門「私、ただの牧師ですから」    べそをかきながら、口々に命乞いをす    る本田と文左右衛門。 少年「☆◎&$¢⇔∫‰!!」    少年、本田らの側に落ちているビーフ    ジャーキーを指さし、何か叫く。 本田「は?」    恐怖に震えながら、少年に真意を確か    める本田。 少年「》〃々〜▲£◎⊃!!」    再び叫び、ビーフジャーキーの方に駆    け寄る少年。    本田と文左右衛門、飛び上がって驚く。    少年、ビーフジャーキーを拾い上げ、    本田達に詰め寄る。 少年「♪¶∬◯⊥@♂♀◎!」 文左右衛門「何?それが欲しいのかい?」    少年、警戒したような表情でビーフジ    ャーキーを抱きしめる。    絶対返すもんか、といった態度である。 文左右衛門「わかったよ。ほら、持っていき  なさい」    ゼスチャーを交え、少年と交流する文    左右衛門。 本田「何言ってんだよ、俺達の少ない食料な  んだぞ!」    本田、文左右衛門の片を捕まえ、抗議    する。 文左右衛門「子供が腹をすかせているの放っ  ておけますか?」 本田「僕は子供よりも自分の腹の方が大切だ  よ!」    と言って少年からビーフジャーキーを    取り上げようとする。    少年は飛び退き、蛮刀を振り上げた。 ○川辺 (夕)    本田と文左右衛門、川辺に腰を下ろす。    疲れ切っている。    肩で息している本田。 本田「くいもん、全部とられちまった...」 文左右衛門「果物もですか...?」    本田、コクリと頷く。    文左右衛門、ため息をつき、うなだれ    る。    ハッとして顔を上げる本田。 本田「カップヌードルがあるはずだよ!君の  リュックの中に!」    文左右衛門もハッとし、リュックを下    ろして中をまさぐる。    リュックの中から、カップヌードルが    二個でてくる。 本田「ヨハネ!」 文左右衛門「ジョスター!」    抱き合う二人。 本田「さぁて!?」    カップヌードルを見つめ、再びハッと    する本田。 文左右衛門「どうしたんです?」 本田「お湯は?」 文左右衛門「えっ!?」    文左右衛門もカップヌードルを見つめ    直し、愕然とする。    その場に固まる二人。 本田「アフリカにはお湯がない...」    うなだれる文左右衛門。 文左右衛門「食えないな...」    再び疲れる二人。    本田、カップヌードルを地面にたたき    つける。 本田「ちくしょうめ!」    気まずいムードの二人。    川の上流の方からマウンテンデューの    300ml瓶が流れてきて、二人の目    の前の岩に引っかかって止まる。    呆然と、マウンテンデューの瓶を見る    二人。 本田(頭の中の声)「なんでアフリカにマウン  テンデューが?」 文左右衛門(頭の中の声)「しかも今は19世  紀だぞ。マウンテンデューがあるわけない  んだ」 本田(頭の中の声)「でも、ほしい...」 文左右衛門(頭の中の声)「うん、欲しい」 本田「ヨハネ!」 文左右衛門「ジョスター!」    抱き合い、笑う二人。    抱き合ったまま、いやらしい目で文左    右衛門を見る本田。 本田(頭の中の声)「二人で150mlずつ。  ...。一人なら300mlだ。こんなヤ  ツと分け合うより一人で飲んだ方がいいに  決まってる」    同じく、本田を見ていやらしく微笑む    文左右衛門。 文左右衛門(頭の中の声)「一人で飲むなど道  徳的に許されない事だ...。しかし私は  神父だ。私がいなくなればたくさんの迷え  る子羊達はどうなるというんだ?ここは私  が飲むのが正しい道。神の御意志でもある」    肩をたたきながら笑う二人。    一斉に手をマウンテンデューにのば    す。    マウンテンデューを掴み、困ったよう    に笑う二人。そして二人の間に突如殺    気がみなぎる。 本田「よこせぇ〜!!」    文左右衛門を首固めにする本田。    本田を殴り飛ばす文左右衛門。    文左右衛門をコブラツイストで攻める    本田。    本田を電気アンマーで苦しめる文左右    衛門。    本田と文左右衛門、距離をとって身構    える。    そして殴り合いの後、本田がマウンテ    ンデューを手にし、走り出す。 ○大森林 (夕)    本田、大森林の中を戦闘機が地面すれ    すれを飛ぶような猛スピードで駆け    る。    その後方から、敵機を追尾するF−1    4のように追う文左右衛門。    二人の距離が徐々に縮まってくる。    文左右衛門、後ろから本田の後頭部に    ラリアートを決める。    本田、マウンテンデューを放り出し、    倒れる。    文左右衛門、そのマウンテンデューを    キャッチし、そのまま走り続ける。    野を越え、山越え、谷越えて、マウン    テンデューを飲むことさえ忘れてひた    すら走り続ける文左右衛門。    その後方から復活した本田が追尾す    る。 ○湖 (夕)    本田と文左右衛門、もはや音速となっ    てソニックブームを巻き起こしながら    湖を駆け抜ける。 ○大森林 (夕)    本田、マウンテン・デューを片手に一    心不乱に走っている。    それを必死の形相で追う文左右衛門。    もはや音速を超えた二人は橋を渡り、    崖を飛び越え、ドッグファイトを繰り    広げる。    なかなか本田に追いつけず、業を煮や    した文左右衛門、思い切って本田にタ    ックルする。    本田、突き飛ばされ、思わずマウンテ    ン・デューを放す。    空を舞うマウンテン・デュー。    それを驚きの表情で見つめる本田と文    左右衛門。    マウンテン・デュー、ゆっくりと地面    へと落下していき、砕け散る。 本田「そ、そんな...」 文左右衛門「...」    本田と文左右衛門、呆然と割れたマウ    ンテン・デューの瓶を見つめる。 本田「何の為にあんな...」    本田、膝からくだける。    ハッとして顔を上げる文左右衛門。 文左右衛門「(独白)このままではいけない」 ○原住民の集落 (夜)    篝火が消され、静まり返っている集落。    草の茂みから顔を出す本田と文左右衛    門。    二人とも顔に迷彩塗装をしている。 本田「人の気配はないね」 文左右衛門「この時間です。寝ているでしょ  う」 本田「しかしさ。やっぱまずいんじゃないの?  泥棒は」 文左右衛門「確かに神の御意志に反する行動  かもしれません。しかし、我々の食料を奪  ったのは原住民達です。目には目をという  教えもあります」 本田「それってイスラム教じゃなかった?」 文左右衛門「(ごまかすように)さ、行きまし  ょう」    ソロリと茂みから出た二人、忍び足で    民家の倉へと忍び寄る。    とても神父とは思えない身のこなしで    倉側の物陰に身を隠す文左右衛門。    本田が後に続く。 本田「とても素人とは思えないね、ヨハネ」 文左右衛門「何を隠そう元SASですから」 本田「SAS?」 文左右衛門「英国陸軍特殊空挺部隊の事です  よ。」 本田「へぇ」 文左右衛門「誰もいないようです。やりまし  ょう!」 本田「え、ああ」    サッと倉に突入する文左右衛門。    一瞬遅れて後に続く本田。    **************    俄に騒がしくなる集落。    原住民の男達がおのおの槍を手に民家    から飛び出してくる。 ○集落付近の林道 (夜)    背に果物や野菜でいっぱいになったリ    ュックを背負い、脱兎のごとく走る本    田と文左右衛門。    その後方から原住民達の怒号が迫る。    本田と文左右衛門の真横から原住民の    戦士Aが槍を構え、飛びかかってくる。    文左右衛門、すかさず持っていたリボ    ルバーで原住民の槍を見事に射抜く。    反動で後ろに飛ばされる原住民の戦士    A。    気を取り直し、逃走を始める本田と文    左右衛門。 ○森林内・広場 (夜)    林道から走ってきた本田と文左右衛門    、広場の中央で跪き、肩で息をする。 本田「まいたな」 文左右衛門「ええ、たぶん」 本田「いや、しかしすごいな、ヨハネは。と  ても神父とは思えない」    無言でニヤリと笑う文左右衛門。 文左右衛門「とにかく、これで我々の食料は  確保できたわけです」 本田「ああ。奴らに捕まらなけりゃいいけど  ね」    突然ガサッと音がし、茂みから先程の    原住民の戦士Aが出てくる。    戦慄する本田と文左右衛門。    突然、戦士Aが出てきたのとは反対側    の茂みから矢が飛んできて、戦士Aの    胸に刺さる。    戦士Aの顔、苦悶に歪み、そのまま崩    れ落ちる。    本田と文左右衛門、その様を抱き合い    ながら見つめ、そして矢が飛んできた    方向を見る。    草をかき分け、戦士姿の原住民の女・    ネル(20?)が出てくる。    本田の表情、恐怖からいやらしい笑み    へと変わる。    ネル、本田達を睨み、弓を引く。 ネル「●○♂◯★〒∫∽刀I」    途端に怯え、文左右衛門に抱きつく本    田。 本田「何とかして、ヨハネぇ!」    文左右衛門、毅然とした態度で立ち上    がる。    本田、ずり落ちる。 ネル「刀セZゝ┘〇〒H!!」    文左右衛門、ネルが弓を放つよりも早    く彼女の弓矢を押さえる。    ネルの表情が恐怖に歪む。    本田、途端に勢いづく。 本田「この女ぁ、こっちが下手に出てりゃつ  けあがりやがってぇ」    いやらしい手つきでネルに飛びかかろ    うとする本田を、文左右衛門がいさめ    る。    ネル、慌てて逃げていく。 本田「ヨハネ!」 文左右衛門「およしなさい!彼女は我々を助  けてくれたんですよ」 本田「そ、そうだけどぉ、女っ気なかったし  さぁ。一回くらい」 文左右衛門「ジョスター!」    文左右衛門、本気で怒る。 ジョスター「わ、わかった、わかったよぉ。  ったく自分だけカッコつけて」 文左右衛門「冗談を言ってる場合ではありま  せんよ。追っ手が来るかも知れない」 本田「おお、そうだった。逃げよ逃げよ!」    本田、文左右衛門より早く草むらに飛    び込むように入っていく。    ため息をつき、本田の後を追う文左右    衛門。 ○川付近のジャングル (夜)    ライターの火を頼りにジャングルを進    む本田。 本田「もう疲れたな。ね、そろそろ休まない?  ヨハネ?」    返事がない。    不安そうに後ろを振り向く本田。    誰もいない。 本田「あれぇ、おいヨハネぇ、冗談はやめて  くれよ」    辺りは静まり返っている。 本田「何てこった」    そこに、奥の方からパシャパシャとい    う水の音が聞こえてくる。    本田、向き直り、草をかき分けて進む。    いきなり前方が開け、湖が広がる。    その真ん中に艶めかしい女の肢体が見    える。    ネルが全裸で水浴びをしている。    息を飲み、その様子を見つめる本田。    水に濡れたネルの体は、月明かりに照    らされ美しく輝いている。    本田、何かに憑かれたように湖へと入    っていく。    本田のたてた水音に驚くネル。    本田の登場に、思わず胸を隠す。 本田「ね、ねえ君」    本田、グングンとネルに近づく。    ネル、恐怖に顔を引きつらせながら逃    げ始める。 本田「あ、ねぇ待ってよ!」    追いかける本田。    湖をはい上がった所で本田がネルを組    み敷く。    恐怖に震えるネル。    ジッとネルの顔を見つめる本田。    ネル、泣き出す。    本田、ゆっくりとネルの体から離れる。 本田「いや、ごめん。そーゆーつもりじゃな  くってさ。謝ろうと−」    突然後頭部を鈍器で殴られ、悶絶する    本田。    呆然とその様子を見つめるネル。 ○地下牢 (朝)    目を覚ます本田。    薄暗い地下牢の天窓から、朝日が射し    込んでいる。    本田、目を見開き、起きあがる。    そこに文左右衛門の声。 文左右衛門「ジョースター」    驚き、声の方を見る本田。 本田「ヨハネ!」 文左右衛門「あなたも捕まってしまったので  すか」 本田「ほんじゃ、ヨハネもあの女につられて  かい?」 文左右衛門「何です?それは」 本田「あれ?違うの?」 文左右衛門「私は、歩いていて何者かの気配  を感じたので振り向いたのですが」 本田「そこで殴られた」 文左右衛門「うかつでした。で、あなたは?」 本田「いやぁ、僕は湖まで行った所で殴られ  てね」 文左右衛門「さてはあの女性が水浴びでもし  ていたんですね?」 本田「するどいね」 文左右衛門「ま、お互い情けないってことで  す」 本田「これからどうしよう?」 文左右衛門「ま、私にとってここを抜け出す  のはわけない事ですが、もうすこし様子を  見ていたい心境ですね」 本田「でも、どこなの?ここ」 文左右衛門「さぁ。我々が襲った村とは雰囲  気が違うように感じますけど」    地下牢前の廊下の方から物音が聞こえ    る。 文左右衛門「シッ」    口元に指をあて、廊下の方を注意深く    見つめる文左右衛門。    本田、静かに壁沿いに廊下の方に近づ    く。    廊下の奥からゆっくりと歩いてきたの    は老女・ティ(70?)だった。    息をのむ本田。 ティ「気がついたか」 文左右衛門「あなたは?」 ティ「まずそちらから名乗るのが礼儀という  ものだろう?」 文左右衛門「私はヨハネ・文左右衛門。悟り  を開くためにここへ来ました。こちらがー」 本田「僕はジョースター・本田。ジョースタ  ーって呼んで」 ティ「私はティと言う。この村のまとめ役の  ような者だ」 文左右衛門「どうして我々は捕らえられたの  ですか?」 ティ「おまえ達はワンの村から食料を盗んだ」 本田「じゃ、やっぱここはあの村だったのか」 ティ「違うな。ここはワンの村ではない」 文左右衛門「どういうことです?」 ティ「ここアーの村は女だけの村だ。ワンの  村は男達の村で、我々は敵対している」 本田「お、女だけ」 文左右衛門「しかし、どうしてあなたは我々  の言葉を?」 ティ「それはな、都合というものだよ」 文左右衛門「は?」 ティ「私が喋れなければ、おまえ達とのコミ  ュニケーションがとれないだろう」 本田「それって要するに...」 ティ「そういうことだ」 文左右衛門「何て短絡的な」 本田「ところでさ、あの娘はどうしたの?」 ティ「ネルの事か?」 本田「名前知らないんだけど、僕が殴られた  時湖にいた」 ティ「ネルだ。あれはもう仕事についている」 本田「仕事って畑かなにか?」 ティ「あれはこの村の戦士だ。今も他の者と  警備についている」 文左右衛門「何故あなた達は戦っているんで  すか?元々は同じ部族でしょう?」    言葉につまるティ。    二の句が継げず、ティの返事を待つ本    田と文左右衛門。 ティ「おまえ達には関係のない事だ」    憮然と言い放つティ。 本田「つれないなぁ」 ティ「とにかく、おとなしくしててもらおう。  戦争状態にあるとはいえ、ワンの連中との  無用な争いは避けねばならない」    と言い捨て、立ち去るティ。    本田と文左右衛門、呆然とティを見送    る。    ため息をつく本田。    そこに、ティの立ち去った方向とは反    対側の廊下奥からガサッという音がす    る。    再び緊張する本田と文左右衛門。    岩影から、前に本田達を脅した少年が    顔を出す。    驚く本田と文左右衛門。 本田「あ、おまえ!」    少年、怯える。 文左右衛門「ジョスター、おやめなさい」    文左右衛門、本田を遮り、牢屋の格子    に近づく。    おどおどと文左右衛門を見つめる少年。 文左右衛門「おいで」    と言いつつ手招きする。    少年、恐る恐る文左右衛門に近づいて    いく。    文左右衛門、ニコリと微笑み、懐から    レーズンを取り出す。 文左右衛門「さ、お食べなさい」    差し出されたレーズンを興味深げに見    つめ、それに手を伸ばす少年。    レーズンを摘んだ文左右衛門の指がゆ    っくりと少年の唇に伸び、その口にレ    ーズンをそっと入れる。    ゆっくりとレーズンをそしゃくする少年。 文左右衛門「あなたに神の祝福のあらん事を」    十字をきる文左右衛門。    少年、笑顔を浮かべ、文左右衛門を見    つめる。 少年「☆〒◎♀⊆∇」    乗り出す本田。 本田「何だって?」 文左右衛門「わかりませんが、好意を持ってく  れた事は確かです」    少年、おもむろにナイフを取り出し、格    子を切り始める。 本田「おっ、偉いぞ少年!」 文左右衛門「善行は自らを救うのです」 ○アーの村・裏手の茂み    洞穴の様な所から、本田、文左右衛門、    少年の三人が出てくる。 本田「なんとか抜け出せたね」 文左右衛門「この子のおかげです」 本田「サンキューな、ぼうず」    少年の頭をなでる本田。    本田を嬉しそうに見上げる少年。 少年「⊂∫ρG島」 本田「おお、そうか。なんかよくわからんけど、  いいヤツだなおまえ」    突然、三人の後方に人影が立つ。    思わず身構える本田と文左右衛門。    そこには弓矢を背負い、槍で武装した    ネルが立っている。    慌てて逃げようとする本田と文左右衛    門。    少年、嬉々としてネルに駆け寄る。    本田と文左右衛門、逃げるのをやめ、    ネルと少年を見る。    優しい表情で少年を抱きとめるネル。    呆然とその光景を見つめる本田と文左    右衛門。 本田「もしかして、親子?」 文左右衛門「しかし、ここでは男と女が対立し  ているはず」    ネル、本田と文左右衛門を見、近づい    てくる。 ネル「あなた達にはトトが世話になった」 本田「あら、英語が話せるんだ」    微笑むネル。 ネル「早くここから立ち去って」 文左右衛門「ありがとう」    文左右衛門、微笑み返し、立ち去ろう    とするが、本田が動かない。 本田「この前はすまなかったね。ただ...」    優しそうに目を細めるネル。 ネル「気にしてない。それより早く」    見つめ合う本田とネル。 文左右衛門の声「ジョスター!」    本田、名残惜しそうにネルから離れ、    文左右衛門の方に駆け出していく。    二人を少年とともにネルが見送る。    その目は遠く離れていく本田をいつま    でも見つめていた。 ○ジャングル・広場 (夜)    本田と文左右衛門、たき火を囲んで座    っている。 本田「彼女、大丈夫かなぁ...」 文左右衛門「さぁ。捕虜を逃がしたわけです  から、バレたらただじゃ済まないでしょう  ね」    俯き、黙り込む本田。    文左右衛門、ふいに顔を上げ、辺りを    見回す。 本田「どうしたの?」 文左右衛門「何か聞こえませんか?太鼓を打  つような」 本田「えっ?」    辺りの様子をうかがう本田。    太鼓の音が、かすかに聞こえてくる。    文左右衛門、慌ててたき火の火を消す。 本田「な、何?どうしたの?」 文左右衛門「相手に気づかれるとまずいでし  ょう。これはおそらく原住民達ですよ」 本田「そ、そうか」    本田と文左右衛門、暗闇の中を静かに    動き、音の方へと近づく。    茂みからそっと向こうをのぞき込む二    人。 文左右衛門「これは...!?」    茂みの向こうの広い道を、塗料を顔中    に塗りたくり、武器を手にした男達が    行進している。    時折気勢を上げる男達。 本田「何をしてんだろ?」 文左右衛門「もしかすると彼らはアーの村に  向かっているのでは」 本田「何だって!?つまり襲撃って事?」    無言で頷く文左右衛門。 本田「大変だ。助けに行かなきゃ!」 文左右衛門「無理ですよ!たった二人で何が  出来るっていうんです?」 本田「でも、このままじゃぁ...」 文左右衛門「とにかく、ここを離れましょう。  我々もここにいては危険ですから」    暗闇に消える文左右衛門。    その後を、釈然としない顔の本田が続    く。 ○アーの村 (朝)    辺り一帯焼け野原と化した村。    本田と文左右衛門、呆然とその真ん中    に立っている。 文左右衛門「全滅か...」 本田「ひどすぎるよ。こんな事って」    本田、何かに取り憑かれたように歩き    出す。    文左右衛門もその後を追い歩き出す。    辺りを見渡しながら歩く二人。    辺りには焼けただれた建物が散乱し、    燻っている。 文左右衛門「でも、死体が一つも内って事は  彼女らは無事なのかもしれない」 本田「ネル−!」    本田、叫びながら辺りをさまよい歩く。 文左右衛門「無駄ですよ。彼らに連れ去られ  たんだ」    と文左右衛門、本田の肩を掴む。 本田「ネル!いないのか!」    本田、文左右衛門を振り切り、尚もネ    ルを探し求める。    辺りには人影などなく、ただ静まり返    っている。    悲しい表情の本田。 文左右衛門「ジョスター、もう行きましょう」    鬼のような形相になり、振り向く本田。 本田「ヨハネ、助けに行こう!」 文左右衛門「何を言うんです。無茶ですよ」 本田「無茶だろうがなんだろうが行くんだ!  君は軍人だったんだろう!」 文左右衛門「だからこそ無理だと言ってるん  です!多勢に無勢ですよ」 本田「もういい!!」    本田、吐き捨てるように言い、走り出    す。 文左右衛門「ジョスター!」    困惑の表情で本田を呼ぶ文左右衛門。    本田の後ろ姿は森へと消えていく。 ○ワンの村     茂みから村の様子を伺う本田。    村自体は、特に混乱した様子もなく、    連れ去られた女達も悲痛な様子はな    く、黙々と畑仕事をやっている。    突然、驚愕する本田。    トトが、にこやかな表情で、一人の男    にわらを手渡している。 本田「(つぶやき)トト...」    トトの背後を、ネルが無愛想に男を睨    みながら畑へと歩いていく。    息をのむ本田。物音をたてないように    その場を後にする。 ○同・畑     畑の隅から田植えを始めるネル。    そこにネルを呼ぶ声。 本田の声「ネル!」    ネル、ハッとなり、脇の茂みの方を見    る。    その茂みから、本田が顔を出し、手招    きしている。    驚いた表情で茂みへと近づくネル。 ネル「どうして...?」 本田「君を助けに来たんだ」 ネル「無茶だ。ここは戦士の村。あなた一人  では返り討ちにあうだけだ」 本田「わかってるよ。でも君を見殺しになん  かできないよ」 ネル「...何故...?」 本田「それは...」    言葉に詰まる本田。 ネル「早くここから立ち去れ。命を無駄にし  てはいけない」    本田、ガバッと立ち上がり、ネルの両    肩をつかむ。 ネル「あ...」 本田「ダメだ!君もトトと一緒に来るんだ」    畑に来たトト、本田とネルを発見し、    二人の方へ駆け出す。 トト「じょーすたー」    嬉しそうな顔のトト。 本田「トト」    本田、トトを抱きしめる。    そこに、男の叫び声が割り込んでくる。 男の声「seiA"A!!」    驚愕の表情の本田とネル。    畑の向こうでは、槍を持った男達が本    田達の方を指さしている。 ネル「逃げて!」 本田「君も一緒だ!」    本田、トトを抱え、ネルの手を引いて    茂みの奥へと逃げ去る。 ○アーの村近く (夕)    薄暗くなってきた道を、文左右衛門が    一人歩いている。    その向かえから男達の話し声が近づい    てくる。    文左右衛門、咄嗟に脇の茂みに身を隠    す。    男達、槍を構えつつ口々に何かを叫び       ながらアーの村へと駆けていく。    注意深く様子を見守る文左右衛門。 文左右衛門「...まさかジョースター」 ○湖のほとり (夜)    本田とネル、湖のほとりで焚き火を囲    み座っている。    ネルの脇では、トトが安らかな寝息を    たてている。 ネル「ジョースター」 本田「ん?」 ネル「なんでこんな事を?殺されるかも知れ  ないのに」 本田「だって、ネルを助けたかったから」 ネル「わからない。私に命をかけるというの  か?」 本田「そうさ。だって俺、君の事がさ。えー  っと」 ネル「何?」 本田「何て言ったらいいのかな。初めて会っ  た時から、運命って言うのかな。そういう  のを感じてさ」 ネル「私を好きなのか?」 本田「ああ。単刀直入に言えば」 ネル「それだけでこんな危険な事ができるも  のなのか?」 本田「愛があれば何だって出来るさ!なんて  ね」    軽く笑う本田。 ネル「私には夫がいるが、そんな愛情なんて  感じた事がない」 本田「えっ!そうか結婚してたんだよね?そ  うだ」    途端に落ち込む本田。 ネル「私はむしろあの男が嫌いだ。傲慢で粗  暴で、何かにつけて暴力をふるう。あの村  の男達はみなそうだ。私達が奴らから離れ  てアーの村を作ったのも奴らの僕の様に生  きるのが耐えられなかったからだ」 本田「...そうか。ウーマンリブってやつ  だね。こんな所にまでひろまってるのか」 ネル「だから本当はあなたに感謝してる。で  も、もし奴らに捕まったらあなたはただで  は済まない」 本田「かまうもんか。俺は命をかけてんだか  ら」    本田とネルの目と目が合う。    本田の手がネルの手に重なる。    ネル、重なり合った自分達の手を静か    に見下ろす。 ネル「あっ」    ネル、手を引き上げる。    残念そうな本田。 本田「そうしたの?」 ネル「汚い、私の手」 本田「おいおい」    再び見つめ合い、笑う本田とネル。 ネル「水浴びがしたい」 本田「するかい?」 ネル「しよう」 本田「するの?一緒に?」    ネル、何も答えず、微笑んで立ち上が    る。    本田、ムードに酔った様子でネルを目    で追う。    ネル、歩きながら服を脱ぎ捨て、湖へ    と入っていく。    本田、シャツのボタンをはずしながら    立ち上がる。 ○湖の中 (夜)    ネル、湖の中程まで来て振り向く。    本田、いつの間にかその背後に立って    いる。    ネル、本田の懐にゆっくりと近づく。    本田、ネルの両手をとり、自分の懐に    引き寄せる。    そのまま抱き合う二人。    その頭上には満月が輝いている。 ○湖畔 (朝)    何かにつつかれ、目を覚ます上半身裸    の本田。    その鼻面に、槍の先端が当たり、驚い    て飛び起きようとする。 原住民の男「@T℃й◯♀!」    地面に這いつくばる本田。    その周りを、原住民の男数人が囲み、    その脇には怯えた表情のネルとトトが    いる。 本田「ネル!」 ネル「だめ!動くな」 原住民の男「@T℃й◯♀!」    再び地面の上に這いつくばらされる。    周りの原住民の男達が口々に何かを叫    び、本田に槍を突きつけている男が頷    き、槍を大きく振りかぶる。    本田の顔が恐怖に歪む。 ネル「T*nxjx#k♂♂!」    ネル、立ち上がってその男の腕にすが    りつく。 ネル「▽SЖρ...」    何かを懇願するネル。    原住民の男、ネルに何やら叫び、周り    の男達に同意を求める。    周りの男達、頷く。 原住民の男「χ┰O◆☆▲氏I」 ネル「...」    苦しそうにネルが頷く。    原住民の男、本田から槍をそらし、ネ    ルの腕を掴んで連行し始める。    他の男達もトトを連れ、それに続く。 本田「ネル!」    振り返るネル。 ネル「ジョースター、ありがとう。あなたを忘  れない...」    一筋の涙を残し、連行されていくネル。    成すすべもなく、ただ彼らを見送る本    田。 本田「ネル...」 ○ワンの村・中央広場    広場にたくさんの原住民が集まってい    る。    広場の中央には篝火が焚かれ、ネルが    木にはりつけられている。    その周りで、男達が何やら呪文のよう    な言葉を唱えながら、踊っている。    広場から少し離れた茂みに身を隠し、    その光景を見守る本田。 本田「ネル...」    ワンの村の長老とおぼしき老人が、槍    を手に一歩前に出て来る。 長老「хR↓‡`&2」    長老の言葉に、男達がワォーと叫ぶ。    その周囲では、他の女達やティが悲し    そうに様子を見守っている。    離れた茂みの中で苦悩する本田。    震える手でナイフを握りしめ、意を決し    たように茂みを出ていく。    長老が槍を構え、ネルを貫こうとした正    にその時、耐えきれなくなったトトが長    老に飛びかかる。    思わず尻餅をつく長老。    周りの男達が一斉にトトに飛びかかり、    取り押さえる。 ネル「トト!」 トト「ママ!」    本田、他の男達に気づかれないように    静かに原住民の輪の中に入っていく。    男の一人が長老を助け起こす。    長老、苦虫を噛みつぶしたような表情    を浮かべ、再び槍を構える。    男達に取り押さえられ、もがきながら叫    ぶトト。    悲しそうにトトを見、そして長老を見下    ろすネル。    槍を握る長老の手に力がこもる。 文左右衛門「おやめなさい!」    突然、村民達の背後から文左右衛門の    怒号が飛ぶ。    それまでネルと長老に釘付けだった村    民の目が、文左右衛門に向く。 文左右衛門「殺生は神の教えに背く行為です」 長老「ヨハネどの、村には村の掟があります  で」 文左右衛門「いいえ。あなたは私に約束したは  ずだ。基本的な教えには従うと」 長老「...」    辺りが静まりかえる。    息を飲み、事態を伺うネル。    本田、意を決してネルの前に出、ネル    を縛っていた縄をほどく。 長老「おまえは何やつ!?」 文左右衛門「私の連れです」 長老「わかった。今回はあなたの言うことを聞  こう。だがな、我々は今までずっと村の掟を  守ってきた。女どもは確かに反乱を起こした  が、集団が生きていくには掟が必要だ。あな  た達が神の教えを信じているようにな」 本田「だからって、彼女らの権利を束縛してい  いって事にはならないだろう!?」    粋がる本田をネルが制す。 ネル「もういい、ジョースター。私達は彼らに  負けたんだ。だから彼らの掟に従うのは当  たり前。村から逃げ出した者は処刑されるの  が決まりなの。だから...」 長老「処刑は取りやめじゃ。しばらくおまえに  は房に入ってもらう。トトはその間我々が面  倒を見る。それで良いな?」 ネル「長老...」 長老「ヨハネどの、これでよろしいな?」 文左右衛門「いいでしょう」 長老「傷ついた村人を救ってくれたヨハネどの  の頼みを聞かぬわけにはいかんが、しかし  これ以上掟をないがしろにするわけにもい  かん。これからのことはこの村の人間で決め  させてもらう。あなた達には即刻出ていって  もらいたい」 文左右衛門「私は構いませんが」    と言いながら、本田の方を見るヨハネ。    ネルの顔を間近で見つめる本田。    ネル、悲しそうに本田を身、頷く。 本田「彼女を助けるんだな?」 長老「彼女の処分は先程言ったとおりだ。処刑  はせん」 本田「わかった。君の命が助かるなら...」    悲しい表情で本田ネルを見る本田。    その唇にネルはそっと口づけをする。 ネル「わすれない」    本田、ギュッとネルを抱きしめ、暫し抱    き合った後、立ち上がって文左右衛門    の隣まで歩いていく。 文左右衛門「大丈夫か?ジョースター」 本田「さ、行こう。俺達にはここに来た目的が  あったはずだ」 文左右衛門「そうか...」    村の外に向かって歩き出す本田と文左    右衛門。    ネル、縄を解かれ、長老の後ろで去っ    ていく本田達を見つめる。    本田は振り返らなかった。 ○川の畔 (夕)    川辺に並んで座る本田と文左右衛門。    かなり疲れた様子である。 文左右衛門「おなか、すきましたねぇ」 本田「ああ...でももう何も食うものは持ってな  いし...」 文左右衛門「ジョースター」 本田「ん?」 文左右衛門「これを食べなさい」    本田にヤシの実を差し出す文左右衛    門。 本田「え、でもこれは君の...」 文左右衛門「私は神につかえる身。それにSAS  時代にサバイバル訓練を受けてますからこ  の程度の空腹感はなんて事ありません。い  ろいろあって、あなたの体は衰弱しているは  ずだ。さぁ」 本田「ヨハネ...」    本田の目に涙がうかんでくる。 本田「ありがとう....」    泣きながらヤシの実にかぶりつく本田。 ○湖畔    畔で水をかけ合いじゃれる本田と文左    右衛門。    そして離れた二人は見つめ合う。 本田「ヨハネー!」 文左右衛門「ジョースター!」    二人は駆け寄り、そして抱き合う。    その二人の頭上では、太陽が燦々と照    り輝いていた...。 ○原生林    T「数ヶ月後」    自然の中を闊歩する動物達。    髭面に、汚くなった恰好の本田、生き生    きとした表情でそれを追う。 文左右衛門(N=ナレーション)「ネル達と別れ  たジョスターは、本来の目的を思い出したか  のようにここに住む動物達の生態調査に乗  り出した。ネルを忘れる為であることは明か  だった」    四つん這いになりながら、狼達の群に    接近する本田。    狼達、本田の接近に気づくが、不思議    と警戒せず、本田の鼻面を匂う。 文左右衛門(N)「興味深い事に、人間達に警戒  心を抱くはずの動物達が、ジョースターに限  っては全く警戒をしない。これはこのジャン  グルが彼を受け入れたという事なのだろう  か」    分厚い本を開く文左右衛門。 文左右衛門(N)「我々の生活は全てが順調だっ  た。ただ一つ、聖書を忘れてきた事を除け  ば」    文左右衛門が読んでいる本は漢和辞典    である。 文左右衛門(N)「仕方なく、こうして日本語の勉  強をしているのだが、これはこれで結構楽し  い。ただ−」    槍を削る本田。 文左右衛門(N)「最近気になるのは、彼が野生  かし始めた事だ」    本田、奇声を発しながら野を駆けめぐ    る。    夜。豚の丸焼きをほおばる本田。 文左右衛門(N)「すっかり私の話にも耳を貸さ  なくなってしまった」 ○湖畔    文左右衛門、ひとり湖畔に佇んでいる。    その後方でガサッと音がする。    振り向く文左右衛門。    ほぼ原住民化した本田が出てくる。 文左右衛門「あ、ああジョースターか」    本田、ニコリと笑い、水に向かって歩い    ていく。 文左右衛門「何をするんですか?」 本田「魚、取る」    言葉がぎこちない本田。    フッと寂しい表情になる文左右衛門。 文左右衛門(N)「我々の旅にも終わりの時が近  づいていた」 ○洞窟 (夜)    本田と文左右衛門、焚き火を挟んで座    っている。    ひたすら槍を削っている本田。 文左右衛門「ねえ、ジョースター」    文左右衛門を見る本田。 文左右衛門「そろそろ我々も帰らなければなら  ないよ」 本田「なぜ?」 文左右衛門「私は英国国教会に帰り、ここの民  に布教した事を報告しなければならない。あ  なただって学者としてしなければならない事  があるでしょう?」 本田「学者として...」    考え込む本田。 文左右衛門「ジョースター...」    本田、突然スクッと立ち上がり、表に出    ていってしまう。    呆然とするしかない文左右衛門。 ○崖 (夜)    雨の中、以前来た事のある崖の下から    上を見上げる本田。 本田「俺は、何故ここに来たんだ...」    つぶやく本田、ハッとなる。    崖の上に一匹の狼が現れる。    何かに憑かれたようにその狼を見つめ    る本田。    狼もまた、本田をじっと見下ろしている。    雨の音が彼らを包んでいる。 ○洞窟内 (朝)    何者かに肩を揺すられ、目を覚ます文    左衛門。    文左衛門の顔を覗き込んでいる本田。 文左衛門「ジョースター…」 本田「ヨハネ。もう帰ろう」 文左衛門「え!?」 本田「帰ろう」    文左衛門、驚き起き上がる。 文左衛門「どうして…?」 本田「彼らに教えられた。俺には人間として の使命がある。だから彼らと一緒に生きて いく事はできないんだ」 文左衛門「ジョースター…いいんだね?」 本田「エゲレスが俺たちを待っている」    微笑む本田。    そして文左衛門も。    本田と文左衛門、大きく頷き合う。 F.O. ○南アフリカ・ソマリア港    T「20年後」    タラップから地面に降り立つ本田。    白い探検服に、白髪まじりの髭をたく    わえ、すっかり渋くなっている。    後ろから駆けってきた白人の付き人に    大きな旅行鞄を預けた本田は、何かを    見つけ、嬉しそうに駆け出す。 本田「ヨハネ!」    本田が駆けていった先には、白い司教    服に身を包んだ文左衛門が笑顔で立っ    ている。    肉がつき、風格がでている。 本田「いよぉ、すっかり風格が出ちゃって」 文左衛門「ジョースターもたくましくなりま  したね。学者というよりは探検者みたいで  すね」 本田「インディ・ジョーンズみたいだろ?」 文左衛門「何ですか、それ?」 本田「…何でもない。それより、あっちの方  へは行ってみた?」 文左衛門「いや、ここへ来てもうすぐ二年に  なるけど、なかなか時間がなくてね。せっ  かく来たんだ、二人でまた行ってみるか  い?」 本田「おう!それが楽しみで来たんだ」    微笑み合う二人。 ○ジャングル・崖上     木々はすっかり少なくなり、開けた感    じの、本田と文左衛門がジャングルで    の最初の夜を過ごした崖上。    その崖に、本田と文左衛門が立つ。 文左衛門「ここいら辺にも人の手が入りまし  てね。話には聞いていましたが、あの当時  の面影はありませんね」 本田「ああ…物事はうつろいゆくものさ」    悲しげに辺りを見る本田と文左衛門。 ○集落(旧ワンの村)    拓けた道を、人力車に乗った本田と文    左衛門が村に向かって入ってくる。    集落では白人達の監督の元、たくさん    の原住民達が新たな建物の建設に勤し    んでいる。 本田「これは…?」 文左衛門「今、ここは大英帝国の支配下にあ  ります。彼ら原住民はいわば奴隷として扱  われています」 本田「そうか…」 文左衛門「あなたにはショックでしょうね」 本田「…しかたないさ。それより、さ。あの  時会ったじゃないか、何人か原住民に」 文左衛門「ああ、たしか…ネルといいました  ね、彼女は」 本田「そう、それとトト」 文左衛門「たぶんここにいるんじゃないです  かね。移住してなければ」    と言い、近くで働いている原住民の男    に近づいていく。 文左衛門「ちょっと尋ねたいんだけど、ここ  にネルっていう女性はいるかね?年は、そ  うもう40歳くらいかな」 原住民「死んだよ」    無愛想に答える原住民。 文左衛門「何だって!?」 原住民「あなた達が来た時にね。彼女達は戦   士だったから真っ先に殺されたよ」    唖然として本田を見る文左衛門。 本田「…トトは?彼女には子供がいただろ  う?」 原住民「彼は拷問に耐えられなかった」 文左衛門「何という…」    息を呑む文左衛門。    本田は悲しい表情を浮かべつつ、原住    民に近づく。 本田「君の名は?」 原住民「イーバ」 本田「イーバ、ネルとトトには俺達ずいぶん  と世話になったんだ。墓を教えてくれるか  い?」 原住民「…ひょっとしてあんた達、昔ここに  来た人達か?」 文左衛門「そう。私はたしかあの時ここで少  し布教していたかな」 原住民「…あなた達がいてくれたら。彼らの  墓はここから少し東へ行ったところにある  湖のほとりです」 本田「湖!?」 原住民「ネルは生前、よくあそこで佇んでい  たから」    呆然とする本田。 ○湖畔 (夕)    夕焼けのきれいな湖畔。    ここだけは当時と変わらず、雄大な自    然が広がっている。    本田と文左衛門、悲しげな表情のまま    湖畔に佇んでいる。 文左衛門「我々は何て罪深い人間なんだ…」 本田「…あの時、連れてくるべきだったんだ  ろうか、俺達?」 文左衛門「…」 本田「でも、例えネル達を救えたとしても、  犠牲者がいなくなるわけじゃない。仕方な   いか。俺達だって汚い人間の一人だもん」  文左衛門「私達に出来ることをやらなければ。  もう二度と犠牲者を出さないために」 本田「そうだね…」    突然、彼らの背後から悲鳴が聞こえて    くる。    驚いて振り向く本田と文左衛門。    原住民の若い女が必死の形相で逃げて    きて、途中で背後から追ってきた白人    の若い男達に追いつかれ、押し倒され    る。    彼らの元に駆け寄る本田と文左衛門。 文左衛門「おまえ達、何をしているんだ!」 若い男1「何だよぉ、うっせえな。黙ってろ  よおやじは!」 若い男2「そうだよ、黙って見てろって。興  奮ものだぜ」 本田「おまえら、まだ子供だな?こんなこと  していいと思ってるのか!?」 若い男3「子供は何しても許されるんだよ!  法律が守ってくれるんだ。こーゆー事は今  のうちにやっとかないと」    恐怖に顔が歪んでいる原住民の少女。    どことなくネルに似ている。 本田「きさまら!」    本田、少女に馬乗りになっている若い    男1を殴り飛ばす。 若い男2「何すんだ、おっさん!死にてぇ  か!」    若い男達は一斉に蛮刀を振りかざす。    本田、怒りの形相で銃を取り出す。    とたんに若い男達はおびえだし、逃げ    出す。 本田「フン、ガキが。大丈夫かい?」    と少女に声をかける本田。 少女「…」    まだ恐怖のさめやらぬ少女。 本田「名前は?」 少女「テア」 本田「テアか。君は…いや、何でもない。危  ないから村まで送ってあげよう」 テア「ありがとう」 文左衛門「これからは一人でこの辺りをうろ  つくのは危険です。気をつけなさい」 テア「はい」    本田と文左衛門は、テアを伴って歩き    出す。 ○集落への道(夜)    暗い夜道を、本田と文左衛門はテアを    守るようにして歩く。 文左衛門「ジョースター」 本田「ん?」 文左衛門「彼女、どこか似ていますね」 本田「ああ」    突然、脇の茂みから先ほどの男達が出    てきて本田に突進する。 本田「ぐっ、おまえら…」    そして一斉に逃げる男達。    本田、その場に崩れ落ちる。    テア、悲鳴を上げ、村に逃げ帰ってい    く。 文左衛門「ジョースター!」    文左衛門、本田を助け起こそうとする。    その本田の腹いたるところから血が滴    り落ちている。 文左衛門「何てことだ」 本田「こんなことで…」 文左衛門「神よ!」 本田「ヨハネ、彼女を…」 文左衛門「わかったからしゃべらないで」 本田「それから、あいつらを」 文左衛門「わかった。まだ少年だがしかるべ  き処置を…」 本田「俺達がここを守らなきゃ…」    息絶える本田。    集落から騒ぎを聞き駆けつける村人と    警備の白人達。 文左衛門「ジョースター?ジョースタ  ー!!」    夜空に文左衛門の叫び声が木霊する。 ○港    帆船が港から離れ出す。 文左衛門(N)「私はあれから二年この土地に  いた。結局あの少年達は行政官の息子達で  処罰されず、あのテアという少女は彼らに  弄ばれ、妊娠した挙句に殺された。私は無  論何も出来なかった」    デッキで離れ行く大陸を見つめる文左    衛門。 文左衛門「そう。私は彼ほどここを愛してい  なかったのだろう。だから私は彼がしたよ  うに命をはってここを守る事は出来なかっ  た」    付き人が文左衛門の肩をたたく。 付き人「ヨハネ様、お風邪を召しますよ」 文左衛門「ありがとう…、ねぇ君」 付き人「はい?」 文左衛門「我々がしていることは正しいのだ  ろうか?」 付き人「…」 文左衛門「疑問を感じるなら、君だけはあそ  この白人のようにはならないようにな」 付き人「わかりました」 文左衛門「君、名前は?」 付き人「トーマス、トーマス・ジェファーソ ンであります」 文左衛門「トーマスか…偉くなれよ」    トーマスに微笑み、文左衛門は船内に    入っていく。    付き人は、ただ呆然と彼を見送る。    帆船は風に揺られながら、大海原をゆ    っくりと進んでいく… fin