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○アパート前

   車が止まり、若い白人女性・ケイト(21)

   が降り立つ。

 

○アパート・部屋内・浴室

   シャワーを浴びているもう一人の若い

   白人女性・ローラ(20)の足元が見える。

 

○アパート前

   ケイト、車のトランクを開け、大きな

   荷物を二つ取りだして苦しそうにトラ

   ンクを閉め、アパートに向かって歩き

   出す。

 

○アパート・部屋内・浴室

   ローラの手、コックを捻ってシャワー

   を止める。

 

○同・居間

   ケイト、鍵を開けて中に入ってきて、

   辺りを見回しながら、部屋の中央部ま

   で来る。

   ローラ、バスタオルで髪を拭きながら

   全裸で浴室から出てくる。

   全裸のローラに気づき、驚くケイト。

   ローラもケイトに気づき、驚く。

ケイト「あ、ごめんなさい」

   ローラ、彼女の背中を咄嗟に手で隠そ

   うとし、慌ててバスタオルを背中に羽

   織る。

ケイト「えーっと、はじめまして。私ケイト

 っていうの。今着いたばかりなんだけど」

   ケイト、握手を求め、ローラに手を伸

   ばす。

   ローラ、驚愕の表情でケイトを見つめ

   たまま握手に応じない。

ケイト「...あの、えっと」

   ローラ、浴室に駆け戻り、ドアを思い

   きり閉める。

   不思議そうに浴室のドアを見つめるケ

   イト。

 

○居間 (夜)

   ローラ、サラダとパスタをテーブルに

   のせる。

   他に皿が二つすでにのっている。

ローラ「さっきはごめんなさいね」

ケイト「あ、気にしてないから」

ローラ「すごくびっくりしちゃって。だって

 私、あなたは明日来ると思ってたから」

ケイト「私の方こそごめんね」

   ローラ、ワインのボトルを手に取り、

   自分のグラスに注ぐ。

ローラ「ワイン、飲む?」

ケイト「あ、お願いするわ」

   ローラ、ケイトのグラスに注ごうとし

   て、ケイトの袖にこぼしてしまう。

ローラ「あ!ご、ごめんなさい!」

ケイト「ああ、いいのよ」

ローラ「本当にごめんなさい...」

   ローラ、イスに座る。

   見詰め合う二人。

   ぎこちない沈黙が、辺りを支配する。

ケイト「...ね、さっきさ。何で背中を隠した

 の?」

ローラ「えっ?」

ケイト「さっきよ。背中を隠したじゃない、

 あなた。普通ああいう時って前を隠すでし

 ょ」

ローラ「...パニック状態だったからよ」

ケイト「私もよ。だってあなたの全てを見ち

 ゃったんだもん」

   ケイト、プッと笑い、そしてローラを

   見ながら食事に手をつけ始める。

   ローラ、ぎこちなくケイトに微笑みか

   ける。

   ケイト、視線を食事に移す。

   そしてナイフとフォークの音だけが、

   しばらく響く。

ローラ「あ、そうだ。来週パーティーがある

 の」

ケイト「このアパートで?」

ローラ「そう。歓迎会みたいなものよ」

ケイト「面白そうね。一緒に行こうよ」

ローラ「ええ」

   再び妙な沈黙が訪れる。

 

○居間 (朝)

   ケイトとローラ、楽しそうに談笑しな

   がら朝食を食べている。

ケイトの声「そう。何かヘンなのよね、あの

 コ」

○同

   ケイトとローラ、部屋を掃除している。

ケイトの声「...うん。背中をね、絶対見せな

 いのよ...いや、そうじゃなくて、背中の

 肌を」

 

○街路

   ケイトとローラ談笑しながら商店街を

   歩いている。

ケイトの声「...ま、うまくやってはいるけど

 ね」

 

○アパート・ケイト達の部屋・居間 (夜)

   ケイトとローラ、再び掃除をしている。

   ローラ、床に落ちた本を拾おうとして

   かがみ、背中を隠すように服の襟後方

   を引っ張り上げる。

   その様子をいぶかしげに見つめるケイ

   ト。

 

○居間

   ケイト、ソファに寝転がり、雑誌を読

   んでいる。

   ローラ、玄関から部屋内に入り、ケイ

   トのところまで来る。

ローラ「ケイト」

ケイト「ん?」

ローラ「例のパーティー、フォーマルパーテ

 ィーなんだって」

ケイト「あ、そう」

ローラ「私、フォーマルドレス持ってないわ」

ケイト「あ、私2着持ってるから貸してあげ

 る。ちょっと待ってて」

   ケイト、自分の部屋に行き、背中あき

   のドレスを持ってくる。

ケイト「着てみて」

   手に取ってみて、それが背中あきだと

   気づくローラ。

ローラ「これ...」

ケイト「ね、早く着てみてったら」

   ケイト、ローラを彼女の部屋まで押し

   ていく。

 

○ローラの部屋

   ローラ、ドレスを身につけ、鏡に映っ

   た自分の背中を、恍惚の表情で見つめ

   ている。

 

○同部屋前

   ケイト、部屋前に立ち、ノックする。

 

○ローラの部屋

   髪をたくし上げ、うなじを撫でるロー

   ラ。

 

○同部屋前

   ケイト、こらえきれずにドアを開ける。

 

○ローラの部屋

   ローラ、飛び上がって驚き、そばにあ

   った自分の服を肩からかけて背中を隠

   す。

ケイト「どう?」

   ローラ、問いに答えず、震えながらケ

   イトを睨んでいる。

ケイト「どうしたのよ?」

ローラ「出てって」

ケイト「ローラ?」

ローラ「出てけ!」

   ケイト、理解不能といった顔つきで部

   屋を出て行く。

   ローラ、その場にしゃがみこみ、両手

   で頭を抱え込む。

 

○公園

   ケイトと、その友達・ジェニー(21)、

   ベンチに座り話している。

ジェニー「背中を?」

ケイト「そうなの。きっと何か背中にあるの

 よ。結局ドレスも自分で買ってたし。ヘン

 なコ」

ジェニー「ヘンね、確かに。でも何でだろ?」

ケイト「わからないわ。それを知りたいのよ」

ジェニー「無理矢理脱がしちゃえば?」

   と言って笑う。

ケイト「バカなこと言わないでよ。でも、こ

 うなったら意地でも見てやる。そうだ、い

 い考えが浮かんできた」

 

○アパート・別の部屋 (夜)

   たくさんの若者が正装で部屋に集まり、

   談笑を交わしている。

   ローラ、ワイングラスを片手に一人の

   男と話している。

   ローラに気づかれないように忍び寄る

   ケイト。

   ローラ、ケイトにぶつかられ、ワイン

   を自分のドレスにこぼしてしまう。

ケイト「あ、ごめん!」

ローラ「ああ、いやだ、どうしよう」

ケイト「部屋に戻ろう。早く拭き取らないと」

   ケイトとローラ、部屋を出て行く。

 

○ケイト達の部屋 (夜)

   ケイトとローラ、部屋に入ってくる。

ケイト「ドレスを脱いできて。私はベンジン

 を取ってくるから」

   ローラ、うなづき、自分の部屋に行く。

   ケイト、ローラの部屋に忍び寄る。

   その顔に緊張感が走る。

 

○ローラの部屋 (夜)

   背中のジッパーを下ろすローラ。

 

○同部屋前 (夜)

   ドアノブに手をかけるケイト。

 

○ローラの部屋 (夜)

   ケイト、ドアを開けて入ってくる。

   ジッパーを完全に下ろしたローラ、背

   中を出したまま、振り向き泣きそうな

   顔になる。

   その場に凍り付く二人。

 

         暗転

 

   ローラの悲鳴。

 

○アパート・ケイト達の部屋・居間 (朝)

   ケイト、二つの大きな荷物を持って自

   分の部屋から出てきて、ローラの部屋

   を見つめる。

   全く物音がしない。

   ケイト、ため息をつき、そして部屋を

   出て行く。

   玄関のドアが閉まった後、タートルネ

   ックのセーターを着たローラが自分の

   部屋から出てくる。

   背中を隠すように壁を這いつつ玄関へ

   と進む。

   その表情は何かに怯えている。

   そして鍵をかける音。

 

○アパート前 (朝)

   ケイト、建物から離れ、車に乗りこむ。

 

○アパート・部屋内・居間 (朝)

   ローラ、壁を這いながら窓のカーテン

   へと向かい、カーテンを閉めようとし

   て、窓の外を見る。

 

○アパート前 (朝)

   車のエンジンがかかり、動き出す。

 

○部屋内・居間 (朝)

   窓から車が走り去るのが見える。

   ローラ、カーテンを閉める。

 

              完


>あとがき