〇小田邸・玄関前 (翌夕)
   看板「故小田 香葬儀通夜会場」。
   たくさんの弔問客。
   友子、受け付けに立ち、うつむいてい
   る。
   上原、玄関から出てきて友子に話しか
   ける。
上原「話しがあんだけど。ちょっといいか?」
   うなずく友子。
友子「(隣の受け付け係に)すいません。ち
 ょっとお願いします」
   友子、受け付けから出ていく。

〇同・入口脇 (夕)
   友子と上原、人目を避けるように入
    口の脇に立つ。
友子「話しって?」
上原「(小声)俺さ、見ちゃったんだ」
友子「何を?」
上原「あの時、俺5時頃遊歩道にいたんだ。
 そしたら香が倒れてた辺りから由紀江ちゃ
 んが出てきて走ってっちまったんだ」
友子「由紀江が!?」
上原「遠かったから自信はねぇんだけど画材
 持ってたし」
   考え込む友子。
上原「でも、やっぱあれは由紀江ちゃんじゃ
 ねえかって思うんだ、俺」
友子「私、電話かけてくる」
   と、駆け出していく友子。
上原「え、おいっ」

〇近くの電話ボックス (夕)
   友子、深刻な表情で受話器に話してい
   る。
友子「そう。だから、もう私恐くて...」
   涙ぐむ友子。
志村の声「わかった。今から君んとこに行く
 よ」
友子「ごめんね」
志村「気にしないで。じゃ、あとで」
友子「はい」
   友子、電話を切り、ボックスを出る。
   吉田と細井、友子の前に現れる。
   吉田達に気付く友子。
友子「何か?」
吉田「実は現場から立ち去る女性を見かけた、
 という目撃情報が寄せられましてね。(紙
 を取り出し)ちょっとイラストにしてみた
 んですが、こんな格好だったそうです」
   イラストは髪の長い女で、由紀江が着
   ていたのと同じ服装に、画材道具が描
   かれている。
   唖然とイラストを見る友子。
吉田「あなたのルームメイト、えっと木村由
 紀江さんでしたか。その人じゃないかって
 話があるんですが」
友子「由紀江が...ま、まさか」
   笑いがひきつる友子。
吉田「そうですか。まぁ後でまたアパートの
 方に寄らせていただきます。由紀江さんに
 も会えるといいんですがね。それでは」
   吉田と細井、軽く会釈をし、去る。
   茫然と二人を見送る友子。

〇アパート・301号室 (夜)
   玄関の呼鈴が鳴る。
   白いシャツに紺のロングスカート姿の
   由紀江、ドアの前までくる。
由紀江「はい」
志村の声「志村といいますが」
   ハッとなる由紀江。
   ドアを開けると、外に志村が立ってい
   る。
志村「...やあ、由紀江さん。久し振り」
   不満気に志村を見る由紀江。
志村「友子さんはまだ帰ってない?」
   由紀江、無言でうなずく。
志村「じゃ、あがって待っててもいいかな?」
由紀江「どうぞ」
   志村、居間に上がり込む。由紀江、そ
   の後をついていく。
   居間中央に置かれたダイニングテーブ
   ルと椅子二つ。
   志村、椅子に座る。
志村「結構広いんだね」
由紀江「ええ...」
   気まずそうに部屋を見渡す志村。
   由紀江の部屋のドア、開いていて居間
   から友子の絵が見える。
   志村、絵に気付き立ち上がり、由紀江
   の部屋に入っていく。

〇同・由紀江の自室 (夜)
   志村、絵の前に立つ。由紀江、志村の絵
   背後に立つ。
由紀江「何見てるの?」
志村「これは...?」
由紀江「...お母さん」
志村「お母さんか...」
由紀江「友子さんにも似てるけど」
志村「俺は友子さんかと思った」
   うつむく由紀江。
   絵の横顔の鉛筆でつけられた傷に気付
   く志村。
志村「これはどうしたの?」
由紀江「ちょっと手がすべっちゃって」
志村「こんなところに?」
由紀江「...」
   真剣な表情になり、由紀江を見る志村。
志村「(一呼吸おいて)わざとやったんだね」
由紀江「...(目をそらし)あいつがやっ
 たんだ」
志村「あいつって?」
由紀江「...」
志村「...小田 香さんかい?」
   志村を睨む由紀江。

 

次回につづく


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