○エレベーター内 (夜)
   タケルとヨーコ、ボビーら三人の黒人
   に囲まれるようにして乗っている。
   隣のボビーを恐る恐る見上げるタケル。
   ボビー、タケルの視線に気づき、タケ
   ルを見下ろす。
   タケル、視線をそらし、ヨーコを見る。
   タケルと同様、恐怖に顔が引きつって
   いるヨーコ。
   再びボビーを見上げるタケル。
   ボビーはすでにタケルを見下ろしてい
   る。
ボビー「何見てんだよ、小僧」
   と、一際低い声でボビーが凄む。
タケル「何でもありません」
   引きつった笑いを浮かべたまま、ヨー
   コを見るタケル。
   ヨーコもタケルを見て引きつった笑い
   を浮かべる。
   ボビーら三人がタケルとヨーコを怪訝
   な表情で見下ろしている。

○七階・廊下・エレベーターホール (夜)
   エレベーターのドアが開き、タケルと
   ヨーコが逃げるように出てきて廊下に
   足早に去っていく。
   ボビーら、呆然とタケルとヨーコを見
   つめている。
サム「何だ?あいつら」
ボビー「知るか」
   再び彼らを載せたままドアが閉まる。

○同・廊下 (夜)
   タケル、ヨーコの手を引きながらロブ
   の部屋へと急ぐ。
   ヨーコ、タケルに引っ張られつつ後ろ
   を振り返る。
ヨーコ「(日)こわ〜。やっぱ本物だね、あの
 迫力」
   タケル、ヨーコを無視し、一路パーテ
   ィー会場に向かってひたすら歩く。

○同・ロブの部屋・居間 (夜)
   十畳ほどの居間にテーブルが並べられ、
   その上には数々のジャンクフードが並
   んでいる。
   多数の若い客達がやたら機嫌よく話し
   たり、笑ったりしている。
   部屋全体に煙が充満している。
   ドアが開き、タケルとヨーコが入って
   くる。
   あまりの煙にヨーコが思わずむせる。
ヨーコ「(日)すごい煙...」
   辺りを見回すタケル。
   男女を問わず、異様に細い煙草をすっ
   ている。
タケル「(日) マリファナパーティーだ」
   と、唖然とした顔でつぶやく。

   **************

   居間の片隅で、ジェフとチャン、ジョ
   ー、リーが客の様子を伺っている。
チャン「(中)盛況だな」
ジョー「(中)鴨がネギ背負って歩いてるって
 のはこういう事だな」
   ジェフ、無言のまま客を見据えている。

   **************
ジャンキー女「Happy smoke!」
   見知らぬジャンキー女がタケルに近寄
   ってきて、マリファナを手渡す。
タケル「ノーサンキュー」
   困ったような笑顔でマリファナを返そ
   うとするタケル。
ジャンキー女「プレゼントよ」
   ジャンキー女はマリファナを受け取ら
   ず、行ってしまう。
   マリファナを片手に呆然と佇むタケル。
ヨーコ「(日)ちょっと試してみようかなぁ」
   タケルの側で、テーブルの上に並べら
   れたサンプルを物欲しそうに眺めるヨ
   ーコ。
   タケルは内心怖じ気づき、ヨーコを無
   視し、急いで出口へと向かう。
クリスティンの声「タケル!」
   驚いて振り向くタケル。
   タケルの後方に、露出度の高いドレス
   を着たクリスティンが立っている。
クリスティン「やっぱり来てくれたのね」
タケル「あぁ、もちろんだよ。楽しみにして
 たんだから」
   作り笑いを浮かべるタケル。
   タケルのぎこちなさにハッとして、ま
   わりを見るクリスティン。
クリスティン「ごめんね、驚いたでしょ。私
 もこういうパーティーだとは思わなかった
 のよ」
タケル「じゃ、君も知らなかったんだ?」
クリスティン「うん。何も聞いてなかったか
 ら。本当にごめんなさいね」
タケル「いいんだ。いや、俺はクリスティン
 もこういうのやるのかと思ってさ」
クリスティン「どう思う?」
   妖しく微笑むクリスティン。
タケル「え?」
   どぎまぎするタケル。
クリスティン「みんなに紹介するわ。さ、行
 きましょ」
タケル「え、あぁ」
   タケル、クリスティンに手を取られ、
   奥の部屋へと連れられていく。
   その様子を目で追うジェフ。

○同・寝室 (夜)
   ロブと、仲間の男二人がベッドの上、
   更に男三人が床に座り、それぞれマリ
   ファナを吸っている。
   そこら中にビールの空き瓶やらジャン
   クフードの袋やらが散乱している薄暗
   い部屋である。
   タケルとクリスティン、半開きのドア
   を開け、中に入ってくる。
ロブ「おぅ、主役のお出ましだ」
   ロブ、ラリッている為、やたら陽気で、
   声が裏返っている。
   他のメンバーが一斉にタケルとクリス
   ティンを見、奇声とともに拍手する。
   顔をしかめるクリスティン。
クリスティン「ロブ。あらためて紹介するわ。
 彼がタケルよ。日本から」
ロブ「知ってるよ。第一俺らはさっき会った
 じゃないか。なぁ」
   タケルにふるロブ。
タケル「あ、あぁ」
クリスティン「いつ?」
タケル「朝だよ」
ロブ「おまえに論文をチェックして欲しかっ
 たらしいんだがおまえがいなかったんで、
 俺が代わりにやってやったんだ。そりゃそ
 うと、論文の方はどうだ?少しはマシにな
 ったのか?」
タケル「まぁね」
   ちょっとムッとなるタケル。
   それに気づくクリスティン。
   ロブ、となりの仲間に何やら話しかけ
   ている。
クリスティン「ロブ、何か失礼な事言ったん
 じゃないでしょうね?」
   ロブと隣の男、笑い出す。
クリスティン「ロブ!」
ロブ「だってよ、ひどいんだぜ、こいつの論
 文。間違いだらけでさ。なんだったけな。
 そうだよ、『私の要求(My claim) 』って
 ところが『私の貝殻(My clam)』になっ
 てんだぜ」
   タケルとクリスティンを除く部屋の全
   員が爆笑する。
   タケル、必死にこらえている。
クリスティン「しょうがないでしょ!英語が
 母国語じゃないのよ。あなただったらどう
 なのよ。フランス語で完璧な論文が書けん
 の!?」
   怒り心頭に達しているクリスティン。
   それまで笑っていたロブ、真顔になる。
ロブ「ここはアメリカ合衆国だ。俺がなんで
 フランス語で論文書かなきゃなんないんだ
 よ!大体英語もろくすっぽ出来ないで来る
 のがおかしいんだ!」
   場に気まずい雰囲気と緊張感が漂う。
   それまでだまってうつむいていたタケ
   ルが突然口を開く。
タケル「あの、その論文なんだけど、まだ出
 来てないんだ。パーティーの間くらいいい
 だろうと思ってたんだけど、やっぱ戻って
 やらなきゃ」
クリスティン「タケル」
ロブ「おお、とっとと帰れよ!」
   クリスティン、キッとロブを睨み付け
   る。
タケル「じゃ」
   タケル、ぎこちない笑顔で手を振り、
   部屋を出ていく。
   クリスティン、かける言葉もなく、後
   を追おうとして立ち止まり、再びロブ
   を睨む。
ロブ「何だよ?気にしてないさ。笑ってたじ
 ゃないか。なぁ?」
   と、他のメンバーに同意を求めるが、
   適当にごまかされる。
   困った様子でタケルの去った方を見や
   るクリスティン。

次回につづく


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