新免疫療法でガンを治す
はじめに
ガンで亡くなる人がふえつづけている
日本人の死因別統計(厚生省)をみますと、一九八一年以来、悪性新生物すなわちガンが首位となり、一年間に二七万人以上の患者さんが亡くなっています。国立がんセンターをはじめ、各県のがんセンターや大学病院でも、ガンの治療法の研究がなされていますが、増加の一途をたどっており、この傾向は先進国のいずれの国でも見受けられる現象となっています。
現代医学において三大ガン治療法といわれているのは、外科療法、抗ガン剤療法、放射線療法です。
これらの既存の治療法は、一定の治療成蹟は認められるものの、耐えがたい苦痛や苦情、食欲不振、うつ症状や睡眠不足などをともない、いわゆる生活の質(QOL)の低下をまねき、患者さんにとって受け入れにくいものとなっています。副作用の強さのわりには、予後があまりにもわるく、生存率も満足できる成漬を得るにはいたっていません。
このような状況で、免疫療法がガン治療の四番日の投手とみなされ、期待はされていたものの、かならずしも満足すべき治療成績があげられずにいました。
私は、一九七〇年に慶応義塾大学医学部を卒業して今日にいたるまで、免疫の研究をしながら、外科医としてガンと真正面から対峙してきました。国立がんセンターから慶応義塾大学の外科教授として赴任したばかりの阿部令彦先生の指導のもと、免疫の研究をはじめたのです。当時の免疫学は、細胞性免疫の存在がわずかにわかりはじめたばかりの、人間でいえば赤子のような状態で、すぐに臨床に役立つようなものではありませんでした。
この間、私は免疫学の研究をすすめながら、外科手術や抗ガン剤の開発も研究してきました。
手術で腫瘍を切除しても再発をくり返し、抗ガン剤で治療して一度は腫瘍が消えたとしてもすぐに再発をする。放射線療法も同様でした。しかも、このような治療法は多大な副作用をともないながら、かならずしも命を救うことにつながらず、人間としての存在感を犠牲にしながらの実状に心を痛めてもいました。
しかし、私も外科医でしたから、これらの治療法に必然的についてまわるものだからしかたがない、つまり一種の必要悪だと目をつむって治療をおこなってきました。
インターロイキン12の発見がガン治療をかえた
そんななかで、一九九〇年代に入り、免疫学が新しい歩みをはじめました。
その一つが「ガン抗原の発見」であり、もう一つは「インターロイキン12(IL12)の発見」です。このIL12の発見とその臨床応用は、ガン治療において、二〇世紀最大の発見あるいは発明といっても過言ではないと思います。
このIL12はマクロファージ(白血球のなかの大型細胞)から産出されるサイトカイン(微量ホルモン)で、ガン細胞を攻撃する免疫細胞のキラーT細胞やNK細胞・NET細胞を活性化するのみならず、インターフェロンγの産出も促進し、かつガン抗原の発現増強作用のはかに腫瘍による新生血管阻害の作用も加わり、ガン治療に有利な闘いの場を提供します。
アメリカではヒト遺伝子から、このIL12を誘導する遺伝子を発見し、遺伝子工学で大量につくることに成功しましたが、副作用が強く、現在この臨床試験は中断しています。
一方、私が発見したIL12誘導物質は、キノコ製品のみならず海藻や果物にも誘導する作用があり、広く自然界に存在することもわかってきました。東洋においては経験的に医食同源あるいは漢方と称して未病や病気に応用してきました。
近代医学にしても人類は、さまざまな疾患や疾病を克服する方法として、人間という生物が本来所有している生体防御のシステムを巧みに応用していることが多いのです。
たとえばジフテリア感染については、抗毒素を用いたり、菌にたいする抗体を投与したりします。最近話題になっている結核にしても、弱毒性菌を投与するBCGを予防的に投与して生体の防御システムを利用したりします。
私が開発した新免疫療法は、自分が本来もっている免疫能力を高めて、みずからの力でガンを四〇パーセント以上まで克服するものです。従来の外科切除、抗ガン剤や放射線療法などの侵襲的ガン治療とことなり、まったくといってよいほど副作用がなく、しかも食欲や睡眠がよくとれ、体重も増加して心身ともに快適となります。いわゆるQOLの向上を得ることができるため、ガン治療が容易となる画期的な治療法と考えられます。
新免疫療法は免疫をたかめてガンを撃つ
この新免疫療法は、キノコ製剤であるAHCC(Active Hexose Correlated Compound)やクレスチン(PSK)を経口投与し、IL12を誘導することがその基本となっています。
このAHCCは、感受性のことなる二種類の菌糸体成分でさまざまなキノコ製剤と比較すると、現時点ではもっとも高いIL12の数値を誘導するものです。またクレスチンも、カワラタケというキノコからつくられた免疫賦活剤で、AHCCとはことなる感受性をもち、ガンが進行した場合でも、IL12を誘導することが可能です。
新免疫療法は、これらAHCCとクレスチンを柱に、さらに新生血管がつくられるのを防ぐサメ軟骨(ベターシヤークMC)と、さまざまな免疫活性作用をもつ天然型の各種ビタミンを併用して確立されました。
新生血管とは、ガンが増殖するとき必要な栄養と酸素を補給するために、新たにガン組織につくられる血管のことです。腫瘍からつくられる新生血管は内膜のみで形成されており、中膜や外膜が欠漬しているため、胸水や腹水の原因となります。したがって、新生血管を阻害するのはきわめてたいせつです。
NKT細胞も活性化されている
今日ではさらに研究がすすみ、生体においてIL12をどうしたら効率よく産出できるように誘導できるのか、さらには従来の方法ではIL12が産出できなかった患者さんに、どのようにしたら産出することができるのかなど、さまざまなことがわかりつつあります。さらにAHCCをこえるIL12産生物質も最近では新たに見出されつつあります。また、最近第四の腫瘍攻撃細胞と考えられるNKT細胞もこの新免疫療法で活性化されていることが解明されつつあります。
したがって新免疫療法にはまだまだ未知の部分が多いと考えられ、今後さらに発展する可能性がふくまれています。
ガンや発病を克服するためには、外科手術、抗ガン剤あるいは放射線療法のように、毒をもって毒を制する方法ではなく、本来、生体に備わっている生体防御システムを活性化する方法、すなわちからだにやさしい治療法に切りかえる必要があります。
一九九三年から九九年八月現在まで、東京のオリエント三鷹クリニックおよび大阪の近畿大学腫瘍免疫等研究所で診療した患者さんは、ゆうに八〇〇〇人をこえています。この方々のデータについては、本文でくわしく解説しますが、臨床的(免疫学的)解析がすんでいる一三一七例では、四五・九パーセントの人の腫瘍が完全に消失、あるいは半分以下に縮小しているという結果がでています。この患者さんたちは三カ月以上新免疫療法が投与され、免疫学的検査が二回以上測定できた方々です。
これらの患者さんの大部分は、ガン治療の専門機関の施設や大学病院で既存の治療に抵抗性を示した、いわゆる末期ガンです。すなわち、もうガンの治療法がないと宣告され、ホスピスを紹介されるような進行・末期ガンの患者さんがほとんどです。
厚生省のGCP(医薬品の臨床試験の実施に関する基準)によると、抗ガン剤の効果判定基準は、腫瘍の消失および縮小が合わせて二〇パーセント以上を目安にしています。
新免疫療法も、この割合と同ていど以上に腫瘍増穂が抑制されており、しかもQOLがきわめて高く、通常の社会生活が可能な患者さんが少なくありません。また、延命が可能となった患者さんは全体の八割をこえていると思われます。
進行・末期ガンでも望みはある
新免疫療法は、一部は厚生省で認可されている薬剤を、多くは健康食品を使った治療法、いわゆる代替医療の範疇にはいるものです。しかし、八〇〇〇例におよぶ臨床治験からガン細胞の縮小・消滅が実証され、さらに先進的な免疫学的データを基礎にしている点で、はかの代替医療とは大きくことなっていると思います。
詳細は本文にゆずりますが、腫瘍マーカーをはじめ数々の血液検査、およびレントゲン検査、CT検査、エコー検査によって腫瘍の縮小や消滅が明らかになっているだけでなく、患者さん一人ひとりの免疫能力を調べることにより、その患者さんが、いまガンが治る方向に向かっているのか、つまりガンの増頼・免疫系が抑制の方向に向かっているのかを明確に知ることが可能になっています。
ガン治療の暗黒大陸に夜明けのひかり(トワイライト)が輝きはじめています。本書では、新免疫療法のしくみについてわかりやすく解説して理解していただくとともに、既存の治療法に有効性がないといわれている多くの患者さんに、まだまだ十分に期待に応えられる可能性の高い新免疫療法が残されていることを知っていただきたいのです。
この新免疫療法について本年度の日本癌治療学会で、浅学たる私に講演をおこなう大役を与えてくださいました岐阜大学医学部の佐治重豊教授に、この場をお借りし深謝する次第です。
この書が多くのガンに苦しむ患者さんへの、希望の灯になることを望んでやみません。また、今後ガン免疫を研究する若き俊英の方々の参考になることを願います。
近畿大学腫瘍免疫等研究所教授 八木田 旭邦
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