海外移住情報 旅コラム


メキシコシティのナイフ強盗







メキシコシティは大都会。シティの中心地には高層ビルが建ち並び、車の洪水状態だ。
排気ガスも凄まじく、シティに住む人は空気のきれいな郊外に住みたがる。そんな都会風情を楽しみなが
ら、のんびりと日本人に有名な安宿"ペンション・アミーゴ"をめざしていた。

時刻は朝の10時。別のゲストハウスに宿泊していたため、散歩がてらに見学に行くところだった。
シティの中心を歩いていると、何回か警察官のパスポートチェックを受ける。なにかイチャモンをつけられ
て賄賂でも払わされるのかと思ったものの、考え過ぎのようだった。そして、大通りから脇道にさしかかっ
たとき、後ろから一人の若者がついてくるのに気がついた。

「ペンション・アミーゴに行くのか? ここから5分ぐらいで行けるぞ。俺は近くのホテルで働いているんだ。
ボクシングをやっていて、チャンピオンになったこともあるぜ」
若者は、いつの間にか近づき、並んで歩きながら一方的に喋っている。どこから見てもホテルの従業員の
ような風貌には思えない。

ボクシングの真似をして威嚇してくるので、「俺は空手をやっている」と言い返し、空手の真似をすると、少し
おとなしくなった。そして、ペンション・アミーゴに続く細い道に入った時、若者が豹変した。
前にまわり込み、行く手をさえぎると、「金を出せ」と叫び、ポケットから小さなナイフを取り出した。
「やっぱり」と思いながら、「小銭しか持っていない」と言いながら、ジーンズのポケットから小銭入れを取り
出すと、「嘘つけ、そっちのバッグに金が入っているだろう。バッグをこっちによこせ」と叫ぶ。

実際、バッグの中には、旅行費用の多くが入っていた。これはヤバイ…と思い、とっさにジーンズの前ポケ
ットに入っていた紙幣と小銭を男の目の前に投げ捨てた。全部で50ドル程度はあったろうか、男の足元に
散らばったお金に目が移った隙に、走ってその場を離れた。
振り返ると、男は追ってこない。散らばったお金を拾い集めている。

たまたま通りかかったタクシーを止めた。
「きっとそれは、日本人を待ち伏せしていたんだよ。警察に行くか? 一緒についていってあげるよ」
タクシー運転手の申し出を断り、宿泊していたゲストハウスに戻った。
ゲストハウスのママさんにコトの次第を話すと、横で聞いていた大学生の娘が申し訳なさそうに下を向いた。
「メキシコにもいい人もいるし、悪い人もいるわ。ペンション・アミーゴの辺りは治安があまりよくない地域だ
から・・・でも、本当にごめんなさい。このことでメキシコを嫌いにならないでね」

数時間後、今度はお金を持たずに強盗現場に戻ってみた。周辺を探してみたものの、あの若者の強盗は
見当たらない。そこには、子供たちが笑顔で遊んでいる日常的な光景があるだけだった。