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むせ返るような絵の具のにおいで目が覚めた。水彩絵の具の独特のにおい。

博物館か美術館かのような広く綺麗な建物の廊下に僕はいた。広い、というか長い天窓から差し込む光。白い壁に柔らかく反射する。辺りを見回すと大理石の床の上に戸板並に大きなパレット(というかまさに「戸板」だった)が散乱し、様々な色に混ぜられた絵の具で彩られていた。チューブも散乱している。そして目の前には色あせた絵が1枚置かれている。
手には絵筆を持っていた。

「さぁ。早く元の絵に戻して下さい。」横にいた男はそう言わんばかりの視線を僕に投げかける。しかし僕には何もわからない。
ここはどこなのか。何故こんなところで絵筆を握っているのか。僕は一体何者だったのか。

何も思い出せない。

しかも、この画用紙の絵に上書きで着色しろ、と?
僕はもう一度目の前に置かれたその絵を見てみた。水を含んだ跡が如実にあらわれた、うねった画用紙。それに描かれた絵は既に色あせている。恐竜の肋骨のような、反り返った白の部分は、白絵の具がひび割れ、紙から剥がれ落ちんばかりに反り返っている。

これをどうやって直せ、と?

横にいる男は僕の絵筆とそれを握っている手を見つめている。

上から塗れ、って事か?

よくわからないまま、背景と同じ色合いの赤紫の絵の具を床のパレットから見つけだす。水で薄め、たっぷりと筆に含ませる。

えぇい!ままよ。

半ばヤケになって塗る。すると色あせた色彩が甦ったかのように戻っていく。
どうやら、全く同じ色で上書きすると絵が元通りになるらしい。そのまま作業を続けた。白い部分は白絵の具をちょっとだけ含んだ水で塗るとひび割れがくっつき、(恐らくは)元の状態に戻っていく。気がつくと作業に夢中になっていた。

・・・・・・。
できた。よくわからないが、もう手を加える必要はなさそうだ。絵がそう言っている気がする。その時、少女の姿が脳裏に浮かんだ。まだ小学生くらいの、陽に透けるような茶色い髪の毛の少女。この絵の持ち主。とっさにそう思った。
僕はその絵を持ってその場を飛び出した。

飛びだしたは良いものの、その少女の家など知る由もない。その前にその少女に何故会いに行かなければならないのか。確証はない。しかし確信はある。自分では何もわからないが、その少女に絵を渡さなければいけない。そんな義務感が体を動かす。
絵に操られているのかもしれない。絵が自分の主人を知っていて導いているのかもしれない。

程なく、道の向こうから女の子がやって来るのが見えた。近づくにつれ、それが例の少女である事がわかった。少女も僕に気がついたらしい。しかし2人とも走ったり焦ったりすることもなく、ゆっくりと近づいていった。

僕は無言でその絵を差し出した。少女は絵を暫く見つめ、僕の方を向いて満足げに頷いた。その時、僕は全てを思い出した。

そうだ。僕は絵の修復屋だったんだ。こうやって「上書き」して絵を直すのが僕の仕事。修復が終わるとその絵の中に吸い込まれる。そしてその吸い込まれた新たな世界で再び絵を修復する。
絵の中にある絵を修復する修復屋。
この世界も確か誰かの絵だった筈だ。修復をしたので僕は吸い込まれた。で、この世界でまた絵を修復した。この絵がそうだ。だからこの絵の中に吸い込まれる。
ずっとそうだったんだ。そしてこれからもずっと。

思い出すと同時に眩暈が襲ってきた。絵の中に引き込まれていく。再び目覚めた時にはこの記憶を覚えている事はないだろう。そして次の世界で再び疑問を抱いたまま絵の修復を続けるのだろう・・・。永遠に。
次に目を覚ました時には・・・・・・。

その時にはここにいました(笑)。
珍しくバイオレンスじゃない夢です。上手く説明できてるかな?

多分、次元を旅しているような感じなんだろうなぁ。「(修復した)絵」がその入り口。入るばっかりの一方通行。しかも使えるのは私だけ。
あちこち旅をするような夢はあまり見ないし、追いかけられない夢、というのも珍しい。いつになく落ち着いた夢でした。

絵をイマイチちゃんと覚えてなかったのが残念。背景が薄い赤紫〜紫系のグラデーションで手前にマンモスの牙みたいな形の白い物体があったのは覚えているけど、多分恐竜の絵、なんかじゃなく単なる(?)抽象画だったと思う。

夢ではいきなり依頼されているような始まり方をしているから、どの世界(次元)にいても私が「修復屋」であることは知られているみたい。
とはいえ1世界1枚しか修復できないね、これじゃあ(苦笑)。

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