花集院MAID隊

第3話 〜何なんだ?女の子ってわからない〜

 

作:サイバスター



翌朝、誠は麻利亜に肩を揺らされ、目を覚まそうとしていた。
「起きてください。桂木君。朝ですよ。」
「う〜ん。麻利亜〜〜〜。」
「きゃっ!」
寝ている誠はどうやら麻利亜の夢を見ているようだ。寝言と共に、麻利亜の腕を引き寄せた。バランスを崩した麻利亜は誠の腕にそのまま抱きしめられてしまった。寝言とは言え、自分の名前が呼ばれたことに麻利亜はちょっぴり幸せモードだ。更に誠に抱かれてどぎまぎモードだ。
「ちょっと、桂木君?」
<このままお目覚めのキス・・・なんて・・・ううん、だめだめ。起こさなきゃ。>
またまた妄想との戦いに勝利、麻利亜が体勢を直そうとした時、麻利亜の肩の髪の毛が誠の鼻をくすぐり、
「ふぁっくしょん!」
とくしゃみをして目を覚ます。
「ん?あれ?柔らかい。」
ここで初めて誠は状況を把握する。
「わ!ま!麻利亜!そっか、俺、引っ越したんだよな。」
「そうよ。桂木君は私たちのご主人様になったの。」
「で、麻利亜が俺を起こしにきたって訳だな。」
「そうよ。」
「で、大胆にも麻利亜は俺にお目覚めのキスを?」
「そうよ。って、調子に乗らないの。放して。」
「でも、ちょっとはそう思ったんだろ?」
「ばか。」
「してくれなきゃ、放さない。」
駄々をこねる誠に意を決した麻利亜は、
「しょうがないなあ。ちょっとだけだぞ。」
誠にキスをする。唇から互いの暖かさが交換される。誠にとっても、麻利亜にとっても永遠の時間のように思えた。それを現実に引き戻したのは朝の身支度をさせるべく、誠の部屋を訪れた花組だった。
「あ〜!隊長!ずるい!」
真っ先に声を上げたのはミミだった。
「隊長、抜け駆けはいけません!それになんですか!その格好!」
ヒトミがそれに続く。麻利亜はヒトミに言われるまで気が付かなかったが、倒れこんでしまった拍子にスカートがめくれ上がり、白いショーツが窓からの日差しを浴びていたのだ。
「さすが隊長。お見事。」
フミの一言はずしりと来た。が、誠はすかさずフォロ−を入れる。
「俺が誘ったんだ。やっぱり最初は隊長さんにご挨拶しなきゃ、だめでしょ?これからは皆にもチャンスがあるかもしれないよ。隊長を見習ってお役目、がんばるとね。」
「ようし、がんばるぞ!あたしも先輩にお目覚めのキス、するぞ!」
底抜けに明るいミミは気持ちの切り替えも早い。誠の言葉に従順だ。つられてヒトミもフミもそんな気持ちにさせてしまう。
「ようし!明日はあたしがするぞ!そうと決まれば隊長、どいてください。先輩のお着替えです。」
「あ、そうね。私は朝食の準備に行きます。宜しくね。」
「はい、隊長。さ、先輩、着替えですよ。」
服と髪の乱れを整え、麻利亜はいそいそと厨房に急ぐ。<ヤダ。まだドキドキしてる。でも、よかった。私のファースト=キスが桂木君、一番好きな人。ちょっぴり大胆だったかな?うふ。>
唇にそっと触れてみると、誠の感触が甦る。とても上機嫌な麻利亜だった。
朝食を摂っていると、正面の壁がスライドして開き、大きなテレビモニタが現れる。4分割された画面の一つにはニュース番組、一つは花集グループの昨日までの業績や情報、一つは本日の総帥スケジュール一覧、最後の一つにはライバル社、土御門グループの情報が表示されている。更にテーブルの上を見ると、首都圏を始めとする全国紙の新聞が整然と並んでいる。テレビも、新聞も今日のトップに花集グループの総帥交代の話題が取り上げられているようだ。自分のスケジュールを見る。すると、放課後に記者会見対応となっていた。
「記者会見?なにそれ?」
何が何だかわからない誠がそう言うと、モニタ画面が切り替わり、香苗が登場する。
「花集グループ新総帥就任会見です。」
「あ、そうか、すっかり忘れてた。」
「昨日も会ったと思いますけど、風組がお迎えに上がりますので、安心してお勤めくださいませ。」
「わかりました。」
誠は花組に食事の補助を受けながら、モニタに見入っている。
「あ、そうだ、麻利亜。」
「何?桂木君。」
「一緒に学校、行こうぜ。」
「え?でも・・・・」
思い出したように誠は麻利亜を登校に誘う。麻利亜がもじもじしていると、同じ聖上学園に通うMAID隊たちからブーイングだ。
「えー、私たちもー。隊長だけなんてずるいですぅ!ミミも一緒!」
「そっか、じゃ、みんなで行こうか。」
「やったあ!」
「でも、大勢いるだろ?どうしよう?」
みんなと一緒に行くことにした誠が困っていると、モニタが切り替わる。
「心配しないでも大丈夫だよ。まこちゃん。風組に任せて!大型バスの2台ぐらいで平気だね。」
「おお!そうだそうだ。裕香姉ちゃん、ミレイ姉ちゃん、宜しく頼むよ。」
「オッケー。梨絵ちゃん、桐ちゃん、バスのスタンバイね。」
「了解。登校シュミレーションパターンβ3、ツールナンバーB081セレクト、ツールゲートオープン、ツールナンバーB081リフトアップ!所定位置へ固定。交通管制システムオールグリーン、登校時にシステム掌握開始に設定。柳さん、いつでも行けます!」
梨絵がミレイの要請でキーボードを操作すると、玄関先の地面が入れ替わり、リムジンから大型バスに車両が転換していた。その光景は逐一誠の部屋のモニタに映されていた。
「ほ〜、これまた凄い。何だか秘密基地みたい。」
「私が設計しました。この“ご主人様出発システム”。」
桐子は得意げに胸をはり、メガネの縁を上げる。
「ふふふ。私の夢は“フルオートメーションの秘密基地を作ること”です。まさにこのお屋敷は私の実力を試すラボラトリー。誠様、今度ゆっくりとご案内いたしますわ。」
「はは、そりゃ楽しみだ。あ、そろそろ学校に行かなきゃ。ご馳走様。」
誠は食事を終えると、麻利亜と花組の案内で洗面所へ。花組歯磨き専用班が誠の歯磨きを担当する。何から何まで誠は彼女たちに任しておけばすることがないのだ。
登校の支度を終えた誠たちは、玄関先に停めてあるバスに乗り込む。
「まこちゃん、乗って!」
ミレイの声に、誠はミレイのバスに乗り込む。麻利亜を始めMAID隊たちは誠により近い所にいようと、我先にバスに乗り込む。たちどころにして大勢の女子に囲まれ、誠はドキドキだ。誠の正面にはしっかり麻利亜が向かい合って立っている。
バスは発車する。路面の凹凸に合わせてバスは揺れ、麻利亜の体が誠に摺り寄せられる。
「いやあ、こんなにいっぱいいたなんてなあ、知らなかったよ。麻利亜、きつくないか?」
「私は平気よ。だって、こんなに近くに桂木君がいるんだもの。」
「麻利亜・・・って、え?」
「桂木君、手、冷たいぞ。麻利亜が温めてあげる。えいっ。」
麻利亜はそう言うと、誠の手を取り、自分のスカートのポケットの中に入れた。ポケットの中は二重になっていて、体に近い方にはスリットがついている。誠の手はそのスリットから奥に入っていた。そして誠の手に触れたのは、麻利亜の下着に包まれたヒップであった。
「桂木君だから、いいのよ。他の人にはこんなこと、許さないんだからね。」
「それって、俺が“ご主人様”だから?」
「もう、意地悪。好きな人だから許してるに決まってるじゃない。」
「じゃ、お言葉に甘えて。」
麻利亜は今朝のキスからすっかり恋人モードに突入、<学校じゃお役目なんて関係ないもの。これぐらい平気よ。でも、桂木君と他の女の子が仲良くしているのはいや。いつでも桂木君を近くに感じていたい。>そう思った麻利亜だった。誠にとってもそれは嬉しいことだ。MAID隊を離れ、普通の女の子、本当の麻利亜がそこにいて素直に誠にぶつかってくる。そんな麻利亜が誠は好きだ。でも、一回のキスがこれほど麻利亜を大胆に変貌させるとは思っても見ないことだった。
さらには学校の制服を着たヒトミやフミ、ミミたちMAID隊たちは明らかに屋敷での態度とは異なり、急によそよそしくなる。<う〜ん、わからないや。>そう思う誠だった。
その頃、白屋敷の厨房にいたホウメイ、紀華の両名は、その日の昼に起こるであろう騒動を予想し、少し遅い朝食を楽しんでいた。
「いったい若は誰の弁当を食べるのかねえ?」
「私は誰のでもいいわ。たくさん食べ過ぎて腹痛を起こし、私のもとに現れる。それが一番ね。」
「おやおや、もの好きだね。一つ聞いていいかい?先生。」
「なにかしら?」
「どうして先生は若の女医になろうと思ったんだい?」
「そうね、昔のことだから忘れちゃった。」
「先生も若のこと、好きなんだね?」
「私の知りたいのは彼の精神構造よ。勘違いしないで。」
「ははは。でも、それが“好き”って事なんだろ?」
「そうかもね。あ〜〜〜、早くおなか壊してくれないかなあ。」
スクランブルエッグをつつきながら紀華はぼやいていた。
やがてその日の昼休みが近づこうとしていた。11時55分。誠を始め、学園恒例チャイムダッシュ(学食でいいメニュー、いいテーブルを獲得するための競争)に賭け、生徒たちは殺気立ってくる。だが、一部の女子生徒、麻利亜を始め、MAID隊隊員、そして他の何人かの女子生徒は違う意味で殺気立っていた。ターゲットは桂木誠、ただ一人。彼にお手製の弁当を食べてもらう。あわよくば二人きりで。というのが彼女達の目標だ。4次元眼の担当の先生はこの5分間は誰も神経が自分に向けられていないのを良く知っていて、本来の授業を早めに切り上げ、雑談に回している賢い先生もいるほどだ。
そしてその時間はやってきた。“キンコンカンコ〜〜ン”とチャイムの音とほぼ同時に学食へ向かう誠たちだったが、今日はいささか勝手が違うようだ。校内放送で誠は香苗に呼び出しをされたのだ。
「2年B組の桂木誠君、至急進路指導室にくるように。繰り返します。2年B組の桂木誠君、至急進路指導室にくるように。」
<あれ?俺、なんかやったかな?>疑問に感じながら誠は仕方なく進路指導室へと足を向ける。そして進路指導室の前に立つ誠。ドアにはめ込んである磨りガラスを通して誠の姿が見える。中にいる人たちは域を潜め、胸をドキドキさせてその姿を確認する。とんとんと誠はノックすると、
「失礼しますっ!」
とドアを開ける。中にいたのは麻利亜を始めとするMAID隊のメンバーだった。
「お待ち申し上げておりました。桂木君。そしてお邪魔一人さん。」
「な!何だ!?皆どうしたんだ?それにこれは?」
テーブルの上にはおせち料理もびっくりの3段重ねのお重が鎮座していた。
「みんな。」
照れ臭そうに誠を席に促す麻利亜。誠が席に着くと、尽志3姉妹が手際よくお重をテーブルに並べる。色とりどりのおかずが食欲を刺激する。
「みんなで一緒に食べよう!ここじゃお役目なんか関係ないよ、会社のこともなしなし!いただきまーす!」
そして誠は箸を持つと、勢い良くMAID隊の弁当に箸を進める。
「うまい!ジャガイモが良く煮えているよ!これは誰の担当かな?」
「あ、それは私が。」
「へ〜。名栗ちゃんかあ。」
「火力と煮沸時間、出汁の配分量さえ管理をすればこの程度、た易いこと。」
メガネの縁をきゅっと上げ、頬を染める名栗。
「ははは、名栗ちゃんらしいや。」
「ねえねえ、ミミの作った卵焼きも食べて!」
「これ?うん、甘くておいしい。」
「やったあ!お砂糖一杯入れちゃったらどうしようかって心配しちゃった!」
お重はハート型に彫られていて、蓋を含めて尖り部分を中心に集めるように並べると四葉のクローバーになる。蓋にはMAID隊のメッセージがペイントされていた。
「見事だね。みんなの気持ち、おいしいな。器も立派な食材だ。」
嬉しそうに弁当を突く誠とMAID隊達。
その日の放課後、誠は新総帥の初仕事として、記者会見に臨んだ。
本社屋は都心にあり、天を貫くような高層ビルが立ち並ぶ中の通称“ツインタワー”がそれだ。誠は思わずビルを見上げ、目を丸くしていた。
「すげー。」
「さ、参りますよ。誠様。」
花組の用意したスーツに身を包んだ誠は、社屋の玄関の敷居をまたいだ。
社員たちが誠に挨拶をする。全て自分より年上だ。規律の正しい教育がなされているようで、誠はすっかり雰囲気に飲まれそうだ。社長の草壁祥子は誠に台本を渡す。
「落ち着いてください。誠様。これが今日の台本です、良く目を通しておいてください。」
「あ、どうもありがとうございます。不慣れですみません。」
控え室に入った誠は手渡された台本に目を通す。しかし、そこには誠自身の考えがどこにもなく、ほんの数分で用意された台本をテーブルの上に置いてしまった。
「いかがしました?誠様。」
「いやあ、これはこれで立派なコメントだけど、僕の言葉じゃないですね。社としての言いたい事はわかりました。僕なりの言葉でお話いたしますが、いいですか?」
「は、はあ。社の趣旨が入っていましたら。」
草壁の一言に安心した誠はにっこりすると、会見場に向かう。
「うっしゃ!いくぜ!」
やがて会見が始まった。マスコミの取材陣が大勢陣取り、誠の全ての言動を見逃さない体制だ。
「やっぱり凄いですね、草壁さん。」
「驚きましたか?」
「正直、そうですね。」
「さあ、始まりますよ。」
誠の左手にマイクを持ち、会見の司会を務めるのは、フリーキャスターの塩野倫代だ。
「わ!塩野倫代だ!あのー、塩野さん!サインもらえますか?」
誠は実は倫代のファンで、ニュースを読む時の真剣な眼差しが好きなのだ。思わず誠はミーハーな所を出し懐からメモ帳とペンを取り出すと、倫代に駆け寄る。倫代は呆気に取られて差し出さされたメモ帳にサインをする。会場は一瞬にして笑いに包まれ、和やかな雰囲気を作り出した。
「いやあ、ラッキーラッキー。あ、自分は今度花集グループを任されることになりました花集院誠です。先代の意志を継承しつつも、楽しく、ハッピーな会社にしたいと思っています。」
「楽しく、ハッピー?とは?」
記者からの質問が来た。
「がんばればがんばっただけ、幸せが来る。社会に貢献すればするほど、みんながハッピーになる。社員も、社会も。当然、会社の中でも楽しくハッピー。社員一人一人が考えて、如何にしたら楽しく仕事が出来る環境になるのか、如何にしたらハッピーになれるのか、というのが今後の経営理念にしたいと思っています。楽しく、ハッピー。です。」
誠はカメラに向かってVサインを出す。
<あやつめ、やりおる。>テレビを見ていた健雄はにんまりしていた。倫代からサインをもらう行動から場の雰囲気を一瞬にして自分のペースにもっていったその手法に。
<合格だな。誠。>1時間に渡って行われた記者会見は滞りなく終わり、健雄は大満足だった。
「いやあ、楽しかった。塩野さん、ありがとう。」
「は?」
「塩野さんがいなかったら、これほど楽しく出来ませんでした。」
「とんでもありません。」
「これからもお勤めがんばってください。」
倫代はドキリとしていた。ご主人様にも知られてはならない闇組の存在に気づかれているかのような口ぶりに。こういった場所にもお忍びでご主人様に仕える隠れた存在である闇組を見抜いた誠の眼力に。
「じゃ、また。」
誠は後で屋敷の地下最下層に行こうと思った。
やがて会長室に通された誠は、膨大な量の書類に目を通し、いくつかの稟議書にサインをする。会社での仕事はこれらの書類の決済業務が主だったものの様で、誠はそれが気に入らなかった。中の書類のうち、数件を保留し、担当者の説明を受けようと思った。
「さてと、草壁さん、今日はこれで帰りますが、後日この保留分プロジェクトの担当者から説明を受けたいと思います。よろしいですか?」
「は、構いませんが。」
「では手配の方、宜しくお願いします。」
誠は草壁に伝えると、会社を後にする。
「あ、総帥。表玄関からでは報道陣がうるさいので、地下駐車場にお車を用意しております。どうぞそちらへ。」
「あ、どうも。じゃ、こっちのエレベータだね。
部屋を出た誠は地下駐車場直通のエレベータに乗り込む。駐車場のエレベータ前には既に風組の美由が待機している。

「あ、美由姉ちゃん。帰ろうか。」
「お待ちしておりました。ご主人様。」
誠は後ろの席に乗り込む。麻利亜が既に席についている。走り出した車の中で、誠は思い切り伸びをする。
「ふぁ〜、緊張したあ。」
凄いわ、桂木君。ぜんぜんそんな風には見えなかったけれど。」
「え?見てたの?」
「はい。このテレビで。」
麻利亜と美由は備え付けのテレビを指差す。二人とも誠の勇姿を絶賛だ。身近な人に誉められると少し照れ臭い。
「まこちゃんて意外と度胸あるのね。びっくりしちゃった。」
「そう?あ、そうそう、見て見て。塩野倫代のサイン。」
ニコニコして倫代のサインを見せる誠にちょっぴりご機嫌斜めの麻利亜と美由。
「ふ〜ん。ああいう人がタイプなんだ。」
「いや、だから、違うって。」
「何が違うの?」
「麻利亜には麻利亜の、美由姉ちゃんには美由姉ちゃんのいいところがある。俺は人それぞれに魅力があるって。」
「あたしにはあたしの魅力・・・かぁ。」
「美由姉ちゃんは今、ハンドルを握ってるときはとても輝いてる。ってことさ。」
「ま、まこちゃんにそういわれると悪い気はしないわね。」
いつしか誠は心地よい車の揺れに転寝をしていた。麻利亜の肩にもたれて。


(作者より) 次回はニューキャラクター登場です。誠とどんな触れ合いを見せるのか?
次回を待て。