3月15日(日曜日)

本日、オクサーナが初来日しまーす!

フライトはSU575便、成田の到着予定は11時40分。

やっと再会できる喜びからか、今朝の起床時刻は3時半・・・まるで、遠足に行く

小学生だねぇ・・・。

混雑を避けるため、午前5時に家を出発、東関東自動車道・酒々井PAで休憩をとる。

ここのパーキングエリアには出発・到着便のフライトインフォメーションモニターが

設置してあるので、SU575便の到着時刻を確認・・・うん?予定時刻は少し早まり

11時15分に変更になっているようだ。

現在、7時だから3時間程度は仮眠できそうである。

熟睡は出来ないが、うとうとしながら時刻は経過し、10時20分再度車を発進、一路

成田へ向かう。

第2ターミナルビルのパーキングに車を預け、到着ロビーへ。

(現在のところ、アエロフロート航空の発着は全て第2ターミナルです)

 

時刻は10時45分、予定まで後30分・・・、うん?到着予定時刻が再度変更になり

今度は11時25分・・・そして、また11時15分に・・・いい加減にしてくれぇ!

11時30分、ボードの案内が「通関中」に変わり、アエロフロートの乗務員らしき

人々(制服で判る)がぞろぞろ出てくる。

もうすぐだぁ、もうすぐオクサーナと会える!

そして待つこと15分、バゲッジを2つ持ったオクサーナが見えた!

「オクサーナ!」、「リュー!」

昨年の夏とは違い、今度はお互いを探し会うことも無く、すんなりとキスを交わす。

 

オクサーナの荷物を持ち、パーキングへ向かう。

「フライトはどうだった?」

「快適よ、隣の席は日本人女性だったわ、ルーブルの小銭を交換したりして、話が

はずんだのよ・・・」

 

パーキングの車に乗車し、

「8カ月ぶりだね・・・」

「ええ、8カ月よ・・・長かったわ」

再度キスを交わす・・・。

 

車を発進させるが、音声案内付きの自動発券機や駐車料金徴収システムを

目の当たりにして、高度に自動化された日本のシステム?に驚きの連続の彼女・・・。

「まるで、21世紀の世界に来ているようだわ!」と目を輝かせる。

かつての彼女の祖国、「ソ連」はアメリカと競合する程の科学、軍事力を誇っていた

はずなのに、一般庶民の実状はそれとは大きくかけ離れていたということが良く判る。

 

さぁ、パーキングビルを出て、車は一路、わが家へ向けて出発だぁ!

  

 

湾岸幕張PAにて 来日初ショット!

「この道路は自動車専用なの?」

「あぁ、有料道路だよ・・・」

「有料?・・・・ロシアでは考えられないわ・・・」

「車の保有率が上がれば、きっとロシアにもできるよ」

「そうね、政府はお金集めのことばかり考えているから・・・」確かに・・・。

 

東関道を進み、東京名物の渋滞に遭遇・・・。

「まるで、モスクワみたいだろう?」

「そうね、でも走っている車はみんな綺麗だわ!」

「日本人は車好きだから・・・」

「いいえ、空港にしろ、道路にしろ日本はゴミひとつ落ちてなくて・・・

とても、清潔な国ね。私気に入ったわ!」

本当はゴミで溢れているんだけど、今の彼女には理解できないだろうなぁ。

 

車は首都高に入り、11号台場線、レインボーブリッジへと進む。

「ここからが東京の中心部だよ」

「・・・・・本当に、21世紀だわ・・・・・道路が2重3重に交差して・・・綺麗な高層ビルが沢山あって・・ねぇ、東京の人口は何人なの?」

「だいたい、1千200万人かな?」

「モスクワ以上ね!、みんなこういう高層ビルに住んでいるの?」

「高層ビルは会社のビルだよ、東京の中心部にはほとんど人は住んでいないんだ」

「あなたの住んでいる場所にはビルはあるの?」

「せいぜい、10階建てのデパートやアパートが有るぐらいで、ほとんどは2階〜5階程度だよ」

「そう、じゃぁ森や公園はあるの?」

「あぁ、君が疲れていなければ明日にでも辺りを散歩しよう!」

「ええ!私は大丈夫よ」

 

 車を走らせること、2時間。

「あなたの言った通り、この辺には緑が多いわね」

「この辺りはベッドタウンと言っている地区だからね、でも僕の子供時代にはもっと森や林が

沢山あったんだ」

「ねぇ、あの花はサクラ?」

「あれは梅だよ、桜はもう少し後に咲き始めるんだ」

「・・・リュウ?、なぜサクラの時期に呼んでくれなかったの?・・・」

「ゲッ、Oh,アイム・ソーリ・・・(オクサーナの睨みに少々びびりまくる私・・・)」

「あなたが思いやりがある人かどうか良くわかったわ、ありがとう・・・・・フフッ、冗談よ!」

「帰国するまでには見られるから・・・大丈夫だよ(大丈夫かなぁ???やばいかも・・・)」

高速を降りて、住宅街を進み、ようやくわが家に到着。

玄関を開け、母親に紹介する。現在、父は入院中なので挨拶は後日ということに。

「ディス・イズ・マイ・マザー、ショーコ」

「こんにちは、ようこそ・・・」(結局、母は日本語で挨拶・・・まぁ、仕方ないね)

「プリヤートナ、オクサーナ!」(はじめまして、オクサーナです)

こんな調子でなんとか家族紹介は終わり、彼女を部屋に案内する。

「今夜の食事は、君の大好きな寿司にしよう」

「ハラショー(素敵!)、最初の夜から寿司なんて・・・ありがとう!」

「と言っても、今から買いに行くんだけどね、ひと休みしたら君も一緒に行くかい?」

「ええ、もちろん」

着替えを済ませ、近くのイトーヨーカドーへ向かう。

(これを読んでおられる方は「ちゃんとした江戸前寿司の出前でもとれば良いのに」と

お考えになられるかも知れませんが、彼女は決して「贅沢な生活」を求めて来ている

わけではないということもご理解していただけたらと思います。

勿論、現在のロシアの現状からすれば、日本の「普通」はそれだけで「贅沢」と言える

かも知れません。

私としましては、ごく普通の日本人の生活を見たり、食生活を体験してもらうことが重要

だと考えております)

 

さて、店内へと向かうのですが、ここでもロシアと日本の生活レベルの違いが出てきます。

売場の広さ、品数の多さ、どれひとつとってもロシアには無いものばかりです。

もちろん、アメリカ製TVドラマが氾濫しているので、オクサーナもTVでは見たことが

あるのでしょうが、実際に目の当たりにして「ハラショー!、言葉にならないわ・・・」と

女性らしく目を輝かせています。

 

食料品売場に行き、寿司コーナーで江戸前にぎりの詰め合わせを購入。

オクサーナは寿司の入った包みを大事そうに抱え、その顔は緩みっぱなしである。

彼女も長旅で疲れているだろうから、今晩は早めに食事を済ませ眠ることにしましょう。

寿司に満足したかって?・・・・・それはもう、「フクースナ!」 

  

3月16日(月曜日)

  

10時に起床、オクサーナのリクエスト「めっちゃ濃いコーヒー」を用意する。

彼女、これを飲まないと目が覚めないらしい、国では24時間連続勤務の看護婦をしている

ので長年の習慣なのであろう、でも、少々胃の具合が心配だぁ・・・。 

ロシアというと「紅茶」を連想してしまうが、オクサーナは紅茶よりコーヒー、ウオッカより

ワインが好きなのである。

 

今日の予定は自宅付近の散策と彼女を驚かせる買い物。

でも、まだ時差ボケで疲れているだろうから車でドライブすることにしましょう。

「グッド・モーニング、オクサーナ」めっちゃ濃いコーヒーを飲み干し、オクサーナは

笑いながら自分に呼びかける。

 

市内をあちこち周りながら、結婚後は犬を飼いたいという彼女の為に犬を散歩させられるような

場所を見せてあげる。そして更に車を走らせ、スキーショップへ。

「ここは、何のお店?」

「スキーショップだよ。オクサーナ、君はスキーは出来るかい?」

「いいえ、平地で歩くスキーならやったことがあるけど・・・」

「実は、君をスキーに連れていこうと思っているんだけど」

「えっ、私、山から滑るなんてやったことないわ・・・」

「大丈夫だよ、僕が教えるから」

「わかったわ、リュウ」

スキーの板は既に仮押さえしておいたので、今日はブーツ合わせの為の来店です。

シーズン終了間近であるが、店内にはまだ商品があふれている。レディス・ブーツのコーナーも同様だぁ、オクサーナもどこから手をつけたら良いのか判らないだろう。先ずは基準となるサイズのブーツを選び、彼女の足のサイズを調べるが、問題はブーツ内部よりふくろはぎ部分のようである。レディス・サイズの24.5cmではバックルが閉められない、結局25.5cmのメンズ・サイズに落ちついた。ブーツが決まり、ビンディングの取付を依頼する。

「ねぇ、この買い物ってとても高いんじゃないの?」

「日本のスキーシーズンはもうじき終わりでね、この時期は半値以下のディスカウントで

買えるんだよ、だから心配いらないよ」

「半値以下?じゃぁ、本当の値段っていくらなのかしら・・・資本主義って不思議だわ・・・

ねぇ、リュウ・・・私スキーに行けるような服は持ってきていないわよ・・・」

「大丈夫、心配いらないよ」

実は、スキーウェアも先週既に購入済みである、オクサーナを驚かせるためにぎりぎりまで

黙っておくつもり。勿論、ウェアも格安で購入。

(一応、参考までに板、ビンディング、ポール、ブーツ、ウェア、グローブ全部で3万5千円で

おつりがきました、全てブランド品ですが、まぁ、1、2年落ちモデルであれば妥当な金額でしょう)

 

次は「熱帯」への憧れの強い彼女のためにとある有名ショップへ。

「ここは何があるの?」

「まぁ、中へ入ればわかるよ・・・」

「ハラショー!・・・熱帯魚が沢山!、スゴイわぁ!」

「この地区で一番大きなお店なんだ、世界中の魚が集められていて、買うことが出来る」

「ねぇ、ネオンやグッピーはどこにいるの?」

で、ネオンテトラが大量に群泳している水槽の前へ・・・。

「なんて、綺麗なのかしら・・・・・オーチン・ハラショー!」

「じゃぁ、今度はグッピーを見に行こう」

「グッピーも素敵よね、でも、何で雄がスカート履いているのかしらね」

「動物の世界は雄が目立つように着飾っているのだから仕方ないよ・・・人間だけだね、例外は」

「・・・何か、悔しいわ」

「日本人の目からすれば君は十分に魅力的で素敵だよ」

「そうかしら・・・」

 

お昼は近くのファミレスへ。

「ねぇ、リュウ、何で日本人の女性は髪を染めているの?」

「それはね、君のような髪を手にいれれば自分も魅力的に映ると思っているんだよ」

「・・・、そういうものなのかしらね・・・日本に来てから私、道ですれ違う時とかにじろじろ見られているような気がしたのよ。最初は外国人が珍しいのかと思ったのだけれど、そういうことだったのね」

「うん、彼女たちがどんなにお金をかけても、絶対に君の魅力には勝てないからね、僕は幸せだよ」

「フフフッ、さぁ、それはどうかしらね?私、リュウが思っているようなおとなしい女じゃないかも知れないわよ」

  

そして、車で父が入院している病院へ。

日本の病院に大いに興味を抱いていた彼女は、

「日本のナースは皆、制服を着ているのね。私の病院では色が白ならば特に規則は無いのよ」

「へぇ、それは意外だぁ、君が送ってくれた白衣の写真しか見たことがなかったから、てっきり

あれが制服だと思ったよ」

「ねぇ、リュウ、私あの制服が欲しいわぁ!帽子も可愛いし!」

「えっ、でも・・・」

「高いの?」

「いや、そうじゃなくて・・・僕が買いたいと思っても、売ってくれるかどうか・・・」

「どうして?」

「・・・日本人って、制服好きなのかも知れない・・・でね、男性の中には制服姿の女性が好きな

人もいるわけで・・・」

「フフフッ、わかったわ!そういう趣味の人に思われたくないのね。でも、リュウ!

貴方はどうなの?」

「君の白衣姿はとても素敵だよ!」

「じゃぁ、写真を撮って送ってあげるわよ・・・どうする?」

「・・・・・何とかします」(って・・・何とかなるのか?オイ!)

  どなたか身内にナースをされている方はいませんか?

  

病室を訪れ、父に紹介をする。

オクサーナが是非覚えたいというので、昨晩、日本語の挨拶を教えておいた。

「オクサーナ・・デス・・・コンニチワ」

緊張していた父も穏やかな笑みを浮かべ、「こんにちは」と言葉を返す。

ナースステーションで車椅子を借りて、3人で散歩に出掛けることにする。

「日本の病院はとても近代的ねぇ、最新の医療器具がたくさんあって」

院内の廊下を抜け、外の緑道をゆっくりと車椅子を押しながら巡る。

日本の医療機関で彼女が働ければ言うことは無いのだが、それは100年たっても無理かもしれないなぁ。

  

3月17日(火曜日)

 

今日は彼女が切望していた、東京ディズニーランド(TDL)へ。

7時に起床、出発したのが8時半だから首都高は既に大渋滞中、TDLに到着したのが10時半。

何を隠そう、この私、TDL初体験!

オクサーナにも、「東京に住んでいて何で行ったことが無いの?信じられないわ」と呆れられた。

パスポートを購入して園内に入るが既にどのアトラクションも満員、長蛇の列だぁ。

どれも45分待ち以上、やれやれ。

何で、TDLに行ったことがないかって? 私、待つのが大嫌いなんですよ。

お金払って、何で待たされるの?その思いが先だって結局行かずに15年・・・。

が、このことで後々オクサーナと初喧嘩。

「とりあえず、このアトラクションに並ぼうか?」

「これは何なの?」

「ウェスタン鉄道だね、アメリカの開拓時代の風景を巡るらしい」

オクサーナは従姉妹から借りてきた8ミリビデオを回して、大はしゃぎである。

「それにしても、凄い人ね今日は日本の祝日なの?」

「多分、火曜日が会社の休日になっている家族が来ているんだろうね、例えばヘアーサロンとか」

「へぇ、そんな休日があるの?じゃぁ、水曜日は?」

「デパートメントストアなんかは水曜日が休みの場合が多いよ」

「じゃぁ、明日はデパートメントストア・ディね!」

 

次のジャングル・クルーズも1時間待ち。

妙に大げさな船長のトークに、言葉が判る私は少々疲れ気味。

隣のオクサーナはとにかく上機嫌だぁ。

お昼を食べる場所も長蛇の列で、オクサーナの希望で昼食後回しで次のアトラクションへ。

「ピーターパンの空の旅・・・」

「ここも凄い人の列ねぇ・・・」

「TDLを楽しむには3日ぐらい通いつめないと無理だねぇ・・・」

「この辺りにはホテルはあるの?」

「あるよ、旅行客は皆泊まり掛けで来るんだろうね」

「今度はホテルをとって来ましょうよ」

「勿論!」

この日、強風で風はかなり冷たく、待ち通しで疲れてきた私は「頭が痛くなってきたから、車へ

戻って革ジャンを取りに行きたい」とオクサーナに言ったが、彼女は「じゃぁ、私は他のアトラクションを見ているわ」と言う。

「君が心配だから、一緒に来るか、どこかで待っていて欲しい・・・」

「私なら大丈夫よ、一人でも回れるわ・・・」

 

結局、「看護婦」である彼女が私の頭に手を当てて、「熱があるわね」と言い、車まで同行。

 

風邪薬を飲んでから、「もう大丈夫だから、行こうか?」と言うと。

「いいえ、あなたは車の中で寝ていた方がいいわよ、私は一人で行くから・・・」

二人共、空腹と疲れで少々苛だっっていたのは事実。

「正直に言おう、僕は人混みや列に並ぶのが大嫌いなんだよ」

「日本人は列に並ぶのは好きなんじゃないの?何かあると直ぐに行列を作るってTVで

みたわよ」

「・・・でも、お金を払っているのに目的を達成出来ないのでは満足いかないよ」

「そうね、あれじゃ全てのアトラクションを見るのは不可能よね・・・」

 

お互いの不満を話し合い、なんとか仲直り。

 

「家族が大勢なら交代で列に並んでいられるよね、オクサーナ、君は子供は何人欲しい?」

「リュウ?あなたまさか私に10人とか産ませようとしているの?」

「とんでもない!僕の理想は女の子と男の子、2人で十分だよ」

「安心したわ、私、絶対に女の子が欲しいのよ・・・名前ももう決めてあるの」

「へぇ、どんな名前?」

「オリィサ、ウクライナの名前よ」

「僕は、男の子だったらアレックスかトキオにしようと思っている」

「アレックス?、日本人の名前じゃないわよ・・・」

「僕たちの子供は国際感覚を身につけて世界を相手に生きて欲しいから」

「同感よ。・・・アレックス・・・良い名前ね。で、トキオはポピュラーな名前なの?」

「トキオは東京をロシア語読みしたのさ、勿論日本人の名前としても通用するけどね」

 

午後からは、無理してアトラクションを回るようなことはせず、のんびりとブラブラ。

昼食にオクサーナは中華風鳥肉サラダ、フライ盛り合わせ、中華まん、ストロベリー

プディングをたいらげ、ご満悦です。

その後「シンデレラ城ミステリーツアー」と「スカイ・ウェイ」、「サーキット」を楽しんで

TDLを後にする。

 

帰り道、首都高からの夜景にオクサーナも満足、車内から母に電話をして今夜のメニューは?

「オクサーナ、君の好きな刺身だよ!」

「リュウ!全速力で帰りましょう!」

 

 

3月18日(水曜日)

  

オクサーナの希望で、今日は銀座と秋葉原見物です。

「都心へは車で行くより、電車で行ったほうが便利だから・・・」

「電車で何分ぐらいかかるの?」

「だいたい1時間だね」

「そんなに?車だと?」

「時間は大して変わらないけど、駐車場を探したり、駐車料金を考えると割高なんだよ」

「判ったわ、電車にしましょう」

ということで、徒歩で駅まで向かうが、途中、富士山が良く見える場所があり、

「オクサーナ!フジヤマが見えるよ!」

「本当、素敵な山ね・・・でも、なんで日本人ってフジヤマが好きなの?」

「何で?って言われても・・・・・まぁ、山の形が美しくて、日本一の高さだし・・・」

「貴方がフジヤマを見つけた時にとても嬉しそうに言うのが不思議だったのよ・・・」

「僕は逆に外国人観光客は必ずフジヤマを見たがるだろうと思っていたから・・・、こうして

君に見せることができて嬉しかったんだよ・・・」

「なるほどね、お互いにステレオタイプ化されているのね」

「君は花が好きだから、フジヤマより桜を楽しみにしていたんだよね、きっと」

「そうね、でも、フジヤマも素敵よ、ありがとう、リュウ」

駅に着き、券売機でキップを購入、自動改札にキップを投入して、

「リュウ、この紙がチケットなの?これ、記念にもらえるのかしら?」

「これは目的地の駅の機械で回収されてしまうからね、記念に欲しいのなら後で

別に購入しよう」

 

ホームに立ち、通過電車のスピードの速さに驚くオクサーナ。

「一体、何キロで走っているの?」

「だいたい、100キロぐらいじゃないかな?」

「100キロ!?・・・」

「新幹線ならば260キロぐらいは出しているだろう」

「・・・・・」

実際に電車に乗り込み、またしてもオクサーナの感想。

「車内はとても綺麗だけど、広告がたくさんあるのね」

「そうだね、ちょっとうるさいけどね」

「ねぇ、東京の電車って女性専用車両があるんでしょ?」

「えっ?何それ」(もう何年も電車通勤していないので、例えあっても知らないぞ!)

「ロシアのTVでやっていたのを見たのよ」

「いや、知らないなぁ・・・あっ、それってもしかしたら、痴漢対策の為の車両のことかな」

「わからないけど、なんでそんな車両があるの?」

「いや、東京の朝の電車のラッシュはもの凄くてね・・・」

「あっ、知っているわ、後ろから押す係の人がいるんでしょ!」

「うん、それでね、車内がものすごい混雑だろう、男性の中には女性の身体にタッチするような

人がいるんだよ」

「へぇ!それで、女性は何も言わないの?」

「そうなんだよ、声を出せない場合が多いらしいんだ」

「信じられないわ、私なら腕をつかんで、顔を殴っているわよ」

「だから、海外でニュースになるんだよ・・・きっと」

 

そんな会話をしながら電車を乗り換え、有楽町に到着。

喉が乾いたので、二人で駅前の喫茶店へ。

彼女の好みは紅茶よりコーヒーと前に書いたが、一番のお気に入りは「カプチーノ」。

「私、これと刺身があれば満足よ・・・」

「じゃぁ、僕は・・・」

「うーん、じゃぁ3番目にリュウね・・・」

「あっ、そう・・・」

ジョークを交わしながらコーヒーを堪能し、いざ銀座へ。

 

阪急と西武のデパートを見上げ、ビデオを回すオクサーナ。

数寄屋橋の交差点の交番を見付け、「日本のポリス・ステーションは何で皆小さいの?」と

尋ねてきた。

「これは、ポリス・ボックス、日本語ではコウバンと呼ばれているもので、町中の主要な

所で市民サービスをしている場所だよ、道案内とか遺失物の保管とかね」

「なるほどねぇ、じゃぁ、私が迷子になってもここにくれば大丈夫ね」

「あぁ、・・・そうだ、パスポートと僕が用意した迷子カード持っているよね」

「あるわよ、それに貴方が用意してくれた携帯電話も・・・貴方、何で携帯電話を2台も

持ってるの?」

「それは、君の為に用意したものだから、君が帰国して再来日するまでは使わないよ」

「でも、高いんでしょ?これって・・・ロシアではニュー・リッチと呼ばれている人しか

持っていないわよ」

「じきにわかるよ・・・」

 

銀座をブラブラして三越デパートへ向かう。

店内を見て回るうちに、

「ねぇ、このデパートメント・ストアは女性専門なの?さっきから見てるけど、1階から

この4階までずっと女性用品ばかりよ・・・」

「日本のデパートメント・ストアは圧倒的に女性向けの商品を扱っているからね、それに

女性の着るものは種類も多いし、ヨーロッパ・ブランドの服や化粧品、バッグなど専門店

のスペースだけでもかなりの大きさになるのさ」

「私、イタリアン・モードが好きよ!」

「日本でも人気があるよ・・・高いけどね・・・」

「安心して、見るだけだから」

 

お昼は文具のITO・YA側の回転寿司へ。

「ここは寿司を安く食べられるお店だよ」

「お昼から寿司なんて、リュウ大丈夫?」

「大丈夫だよ、さぁ、好きなものを選んで」

「私、どれが良いか判らないからリュウが選んでちょうだい」

「わかったよ、これはツナ、これはシュリンプ、君は貝は食べられる?」

「大好きよ!特にスカロップ(帆立貝)を生で食べるのはたまらないわ!」

「O.K.!すみません!帆立ダブルで!あと、えんがわとげそをたれ付きでね!」

「ねぇ、今の会話ってちゃんとした日本語なの?私には歌のようにしか聞こえないわ・・・」

板前さんの返事は私の耳にもそんな風に聞こえた・・・。

「今度はこれを試してごらん、でも、これはほとんどの外国人が食べられない!というものでね」

「これは何なの?魚の卵?」

「ナットウ!豆を発酵させた日本独特の食べ物だよ、なにしろ、日本人でさえ嫌いな人がいるぐらいだからね、駄目そうなら食べなくてもいいよ」

「醤油をつけてもいいのね?・・・・・・美味しいわよ!」

「本当かい?・・・・・オクサーナ、君は日本人になれるよ、参ったなぁ」

さて、腹ごしらえも終えて今度は秋葉原へ。

「ここは何百軒もの電気専門店が集まっている世界的に有名な場所だよ」

「凄いわねぇ、日本のテクノロジーが全て集まっているのね」

「ちょっと、大げさだけど、まぁ外国人観光客は必ず来る場所だね」

免税ショップがあるラオックス本店へ向かう。

「私、病院のドクターへのお土産に血圧測定器が欲しいんだけど・・・」

「わかった、それならば他のお店の方が安く手に入るから」

「そう、良かったわ。今の病院で使っているのは直ぐに壊れてしまって、日本の医療機器なら

信頼度がナンバーワンだから、ドクターも喜ぶわ!」

オクサーナは散々悩んだ挙げ句、ここでは看護婦長へのお土産の「電卓」と母へのお土産の

「目覚まし時計」を買った。

そして、他の格安店ではビデオを貸してくれた従姉妹へビデオ・テープと単3の充電池4本。

 

アキハバラ!に大満足のオクサーナ

「なんで、こんなに種類があるのかしら・・・悩んでしまって・・・選べないわよ」

「これが、資本主義なのさ・・・売れるものなら多くのメーカーが同じ様な製品を売り出して

くる・・・消費者はその中から自分の好みで買う・・・」

「素晴らしいけど、買う方も大変よね・・・」

(ソ連時代、国家の管理体制の中では工場の生産計画も徹底管理され、今月は赤い色のセーターだけを何万着生産するなんてことが行われていたわけで、次の月に店頭に並ぶのは赤一色!

また、国民車「ラーダ」の製造も同様で、今期は青、来期は白と言った具合で、車体の色を見れば年式が判ってしまうぐらいであったらしい・・・・・それに比べて、日本車の車種、グレード、色の多さと言ったら・・・悩まずに買えるというのも良いかな?なんて考えてしまう)

 

どの店頭にも携帯電話やPHSが並んでいる、中には「0円」という表示もあり、

「これって、電話機がタダということなの?」

「そうだよ、電話会社は機械をタダで配っても儲かるんだよ」

「・・・・・それも、資本主義経済というわけなのね・・・・・」

さて、時刻も4時だぁ、

「電車が混雑して痴漢が出たら困るからもう帰ろう」

「私、是非、痴漢を捕まえてみたいわ!」

  

  

3月19日(木曜日)

  

朝食に私の得意料理「オムライス」を用意してあげる。

「お早う、オクサーナ、僕が作った朝食だよ」

「本当に、リュウが作ったの?」

「これは、僕が一番得意な料理なんだ、この卵の中はケチャップ・ライス、チキンとオニオンが入っているからね」

「私の好きなもの、ちゃんと覚えていてくれたのね」

「オニオンは僕も好きだからね、そういえば、僕は小さい頃からケチャップがとても好きでね、母と買い物に行くと真っ先にケチャップのビンを抱きしめてねだったものだよ」

「私、想像できるわよ、ちっちゃなリュウがビンにキスしている姿が・・・」

「でね、ある時、例によってケチャップのビンを掴んでねばっていたら、そのビンを落として割っちゃったんだ、今でも覚えているぐらいだからね、大分ショックだったんだろう」

「じゃぁ、当分はケッチャプはお預けになったのね」

「そこまでは覚えてないけどね・・・」

今日は自宅近くの「国営 昭和記念公園」でのリラックス・ディ。

オクサーナの起床も10時でのんびりと出発。

ここに来るのも私は初めて。

「リュウ!私、あなたがとてもレイジーだということが良くわかったわ!」

「えっ?・・・」

「だって、こんなに素敵な公園があるのに来たことが無いなんて、私信じられないもの」

「・・・・・仕事で疲れて、休日は家で寝てたからねぇ・・・」

「そうね、でも、結婚したら休日はちゃんと過ごしましょうね」

「勿論!」

園内の緑の豊かさにオクサーナも大満足、彼女の住むペテルブルグはまだ冬、氷点下の毎日。

咲き誇る花々を見付けると、すぐにビデオを回す。

ペテルブルグに春が訪れるのは6月頃だろうか・・・、きっと彼女はこの花々の映像を見ながら

春がやってくるのをひたすら待つのだろう・・・私達にとっての本当の春を・・・。

 

昼食は4時過ぎ、「山田うどん」へ。

オクサーナの時差ボケのサイクルに合わせるとどうしても時間がずれてしまう。まぁ、これは

仕方ない。

オクサーナも私と同じ「天ぷらうどん・おにぎりセット」にする。

オクサーナの箸さばきも大分うまくなった。

「見ていて、ほら、どう?うまくいったでしょ・・・」

おにぎり(ライス・ボール)がとても気にいった様子で、つけ合わせの「たくあん」にも

「美味しい!」を連発する。

「このヌードルのスープもとても美味しいわ!・・・このままじゃ、私、あなたのように

太ってしまうわよ?どうする?」

「そしたら、二人でスポーツに励むしかないよ、週末は公園でジョギング、冬はスキーだね」

「あなた、ちゃんと実行できるの?・・・・」

「君がちゃんと朝起こしてくれればね・・・」

3月20日(金曜日)

 

今日は朝から食料品の買い出しです。

オクサーナがロシアの家庭料理「ボルシチ」をつくってくれるという。

「必要な野菜は?」

「タマネギ、トマト、ピーマン、赤カブ、じゃがいも、にんじん、キャベツ、ペッパーね、

あとは豚肉とスメタナ、香菜」

「スメタナは多分、手に入らないと思う・・・・サワークリームなら売っているよ」

「そう、じゃぁサワークリームで代用できるわ・・・・・リュウ、ちゃんとリストにしてね」

イトーヨーカドーに向かい、野菜売場でタマネギ、じゃがいもなどの素材は手に入れたが、

赤カブとペッパーは売っていない・・・、それじゃぁと、国立にある「紀ノ国屋」へ。

ここは輸入食料品なども結構揃っているので何とかなるかも。

「ペッパーは見つかったけど、赤カブは置いていないらしい・・・・・」

「そう、仕方ないわねぇ・・・・・じゃぁ、サワークリームはどこ?」

マヨネーズなどの乳製品売場に向かい、国産のサワークリームを見つけた。

「多分、これで良いと思うけど・・・・・」

「O.K.!家に戻ってしたくしましょう」

オクサーナに台所用品の場所を説明、フライパン、深鍋を取り出し、ガスコンロの使い方を

教える。

「リュウ!もしもあなたが良いハズバンドだと言うのなら、じゃがいもの皮むきをしてくれる?」

「おやすいご用で!」

と言ってはみたものの・・・・・料理好きな私の苦手はじゃがいもの皮むきなのだぁ・・・・・

ざっくりむくと身が無くなってしまうし、ちまちまむくと時間がかかるし・・・・オクサーナの

横で包丁片手にちまちま始めると・・・。

「ハズバンド・イズ・ハズバンド・・・・・あなたの手つきは危なくて見ていられないわよ

貸して・・・ほら、簡単でしょ?フフッ」

「でも、昨日の朝食のオムライスは美味しかったろう?」

「・・・本当に貴方が作ったかどうか、わからないわ・・・」

材料の下ごしらえを終え、母が病院から戻るの待って調理開始。

ボルシチをことこと煮込みながら、二人で映画のビデオを見て過ごす。

ビデオを見終わる頃には部屋中に美味しそうな香りが充満する。

「美味しそうね」母も台所にやってきた。

オクサーナがお皿に盛りつけ、母はご飯を茶碗によそう。

ほかほかの「ボルシチ」に小食の母もお代わりをするほどの美味しさだぁ。

「お母さんの美味しい手料理へのお礼ですって、ちゃんと通訳してね」

「ちゃんとしたさ、母も喜んでいるだろう?」

「今度は材料が揃うならペリメニも作ってみたいわ」

「そうだね、多分大丈夫だと思うよ、あっ、オクサーナ、君に試してもらいたい日本食がまだあったよ、そのビンに入っているもの・・・ウメボシって言うんだけどね、これも外国人は食べられない場合がほとんどなんだ」

「それは、無理でしょうよ、やめときなさい」母が心配そうにしている。

「私、何でも試してみるわよ、どれどれ・・・・・」

梅干しを丸ごと口の中に放りこんでモグモグしているオクサーナ。

「どう?・・・・・大丈夫かい?」

「・・・・・グッドよ!ロシアにもとても塩辛い漬け物があるのよ、私、これ何って言うんだったけ?ウメボシ!大好きよ」

「オクサーナ、君は絶対に日本人だよ!ナットウとウメボシが食べられるなんて信じられないよ」

母も目を丸くして驚いている。

が、実は私はそれほど驚いていない、と言うよりは、予想通りであった。

以前に読んだロシア人ジャーナリスト(女性)の随筆で、「日本人は私が納豆と梅干しを平気で食べてしまうと、とてもがっかりする」という一文を読んだことがあったのだ。

日本人は納豆と梅干しに目を白黒させる外国人の様子を楽しんでいるのではないか?そして、その楽しみを奪ってしまった自分は何て馬鹿正直だったのか・・・と、そのジャーナリストは日本人とのつきあい方についていろいろと考察していたのだった。

寒い冬を乗り切るために生み出された食品という点で、漬け物や発酵食品の多いロシアと日本は共通するものがあるように思える。全てのロシア人がそうとは限らないが、「納豆」と「梅干し」に舌鼓をうつロシア人は意外と多いかもしれない。 

3月21日(土曜日)

今日からスキーへ出発!

初日の今日は富士山を巡って、松本辺りで宿泊の予定です。

8時半、コンビニでおにぎりとコーヒーを買い込み、中央道へ。

オクサーナの好物は「梅干し!」のおにぎりと缶コーヒーです

  

既に渋滞は始まり、八王子から大月まで1時間半かかってしまった。

「日本の道路はどこも混んでいるのね」

「皆、週末をリゾートで過ごすためだからね、短い休みだけど」

「休みの長さだけで言えば、ロシアは最高よ!夏は1カ月休暇が取れるし・・・」

「年間の休暇日数はどれくらいなんだい?」

「2カ月とちょっとね、勿論、皆交代で休暇を取るのよ」

「じゃぁ、君がこうして日本に来ている間は誰かが代わりに仕事をしてくれているんだね」

「えぇ、帰ったら今度は私が交代で連続勤務に就くのよ・・・帰りたくないわ・・・」

ようやく渋滞もおさまり、中央道も河口湖方面はガラガラである。

ただ、お天気があまり良くない・・・富士山も雲の中である。

「天気が良ければ、今ちょうど目の前にフジヤマが見えるんだよ」

「リュウ、あなたどうしても私にフジヤマを見せたいのね・・・フフッ」

河口湖ICを下り、とりあえずトイレ休憩。

富士山が見えないなら、富士五湖周遊ドライブでもするしかないかぁ・・・。

西湖、精進湖、と巡り、本栖湖で休憩。

本栖湖をバックに写真を撮るが、やっぱり富士山が写っていなければ場所がどこか

わかりゃしない・・・。

「病院のナース・ステーションに飾る絵が欲しいんだけど・・・」

「じゃぁ、そこのお土産屋で見てみよう」

「フジヤマと桜・・・・・リュウ、これがいいわ!値段は高くない?」

「1600円、12ドルぐらいかな・・・・春らしいいい写真だね」

「私がちゃんと日本に行って来た証拠に飾っておくのよ、フフフ」

本栖湖沿いに更に進み、5千円札のモデルになった場所に到着。

「ほら、この日本のお札の絵の風景はここから撮られたんだよ」

「あら、本当だわ・・・フジヤマはこんな風に見えるのね」

天気のこととは言え、誠に残念である・・・。

 

車を走らせ、国道300号、52号へと進む。

「日本って、本当に山国なのね、でも、道路は皆舗装されているし、とても素晴らしい国だわ」

韮崎から国道20号線へ入り、車は更に松本方面へ、隣ではオクサーナがすやすやと

眠っている。

車が諏訪市内に入ったところで自宅の母から携帯に連絡が入る。

入院中の父親の具合次第では明日手術になるかも知れないという・・・。

オクサーナを起こし、要件を伝えると「すぐに、帰りましょう」という。

命に別状は無いし、手術があるとしても明日とのこと、オクサーナも眠っていた為に

昼食も取っていなかったから、とりあえずは食事をしてから高速に乗ることにする。

  

  

3月22日(日曜日)

 

一夜たって、病院へ行くと様態が落ちついたのでしばらく様子を見るとのことで安心した。

オクサーナもほっとしている様子。

青い目の嫁さんを連れてきて興奮してしまったのかなぁ?

一旦、家に戻り、近くのスカイラーク・ガーデンズで昼食。

今日は家でビデオを見たりして過ごすことにする。

夕方、母は「もう大丈夫だし、スキーを楽しんでいらっしゃい」と言うので、オクサーナと

相談して近場のスキー場へ向かうことにする。

中央高速を飛ばし、長坂ICで下り、すぐ側のラブ・ホテル「ビー・イン」にチェックイン。

なんで、こんな場所にあるのを知っているかって?

私、合宿で自動車免許を取ったのがここ長坂なもんで、この辺の道はよく知っているんです。

「これも、日本文化の一つとして紹介しておくよ」

「ねぇ、日本のホテルってフロントが無いの?部屋もボタンで選んでそのまま来てしまったし」

「このホテルはね、恋人同士で泊まったりする場所なんだよ・・・もちろん、夫婦でも泊まれる

んだけどね」

「へぇ、でもホテルの人と顔を合わさないなんてなんか不思議ね」

「場合によっては、夫婦以外のカップルで来ることもあるらしい・・・」

「そんなことが出来るの?じゃぁ、日本ではホテルに宿泊する時にはパスポートは要らないのね?」

「え?、ロシアではホテルに泊まる時にはパスポートが必要なのかい?」

「えぇ、だから夫婦とかじゃなければ泊まれないわ・・・、ますます日本って不思議よね」

(ここで言うパスポートとは国内用の身分証明書のこと、国外出国用はまた別に申請する)

 

オクサーナは部屋の中を探検し始めた。そしてことあるごとに歓声をあげる!

 

「ねぇ、リュウ、お風呂がすごいわぁ・・・とても大きくて」

「それは・・・恋人同士で入ることが出来るから・・・」

「リュウ、家のお風呂も大きくしましょう!」

「日本の家は狭いだろう、だから皆広いお風呂を楽しみにこういうホテルに来るんだよ」

「なるほどねぇ、これなら夫婦でもゆったり入れるものね」

「ここのトイレもお湯が出るのね・・・日本の生活は何もかも21世紀だわ・・・」

「ベッドはこれぐらいの大きさがないと駄目よね」(ハイ、ハイ)

「何で、ベッドの側にマイクが2本あるの?」(こんな所でカラオケする人もいるらしい・・・)

「うわぁ、リュウ!TVでポルノやっているわよ・・・・・でも、何でスクウェアで隠れて

いるの?」(日本政府に聞いてくれぇ!でも、この方が露骨じゃなくていいって?そうですか)

「あら、これは何?・・・わかった、コンドームね・・・リュウ、これお土産に貰えるの?」

枚挙にいとまがないほどの・・・オクサーナの反応にたじたじの私です。

「日本のラブ・ホテル・・・・・私にとってはディズニーランド並のアトラクションよ!

ありがとう!」

オクサーナはひたすらビデオを回しながらロシア語で解説をしている。

 

「これなら載せてもOKよ!」オクサーナ公認サービス・ショット!

帰国後、彼女はこの不思議なホテルの感想をビデオ上映会で延々と述べるのだろうなぁ。

外国人は日本のラブ・ホテルに狂喜乱舞するということを聞いたことがあるが、どうやら

間違いのない事実のようである。

なお、ラブホテルに関して詳しく調査をされているページがありますので、参考になさってください。

ラブホの歩き方  (日本国内のラブホテルに関する情報を網羅) 
http://plaza15.mbn.or.jp/~miss_maple/entrance.html

 

3月23日(月曜日)

 

ラブホを8時にチェックアウトし、近くのコンビニでオクサーナのお気に入りの

「おにぎり」(今回は鶏五目と鮭マヨネーズ)と缶コーヒーを買う。

あと、昼食券付きの1日リフト券を2人分購入。

車で走ること15分、目的地の「キッツメドウズ大泉・清里スキー場」に到着。

ここはスノボ禁止のファミリーゲレンデで知られる初心者に最適なゲレンデです。

ラブホで既にスキーウェアに着替えていたので、キャリアから板を下ろし、ブーツを

履いてさぁ、ゲレンデへ。

 

「リュウ、板のはき方を教えてちょうだい」

「いいかい、板をこうして雪面において、この部分にブーツを・・・・」

オクサーナに板をはかせて、先ずは滑り方のトレーニング。

最初はストックを頼りにゆっくりと進んでいたが、直にスーッと滑り出すようになり、

「見て見て!私滑っているわよ・・・すごい!」

平地でのトレーニングを終え、いよいよリフトで緩斜面のゲレンデへ向かうことにする。

「このリフトも快適だわ、まるでディズニーランドね・・・」

さて、無事に下り場に到着、止まり方は教えたが・・・やっぱりスピードが出ると危なっかしい。

おっかなびっくり滑っていくオクサーナを前方に回り込んで抱き止めた。

この緩斜面では板を八の字型にした曲がり方を教えてあげる。

オクサーナの前方を後ろ向きに滑りながら・・・・・と言うと、私はたいそうスキーがうまそう

だが、何しろ8年ぶりのスキーだぁ、時々自分でも危なくこけそうになる。

オクサーナは無邪気にきゃぁきゃぁとはしゃいでいる。来て良かった。

何で8年ぶりにスキーをする気になったのかと言えば、あの「長野五輪」K120ジャンプ団体での日本人選手の活躍、特に原田選手の男泣きにモロ影響されたとしか言えませんねぇ。

 

リフトに3回も乗る頃になると、オクサーナは運動神経の良さを発揮しだし、自由に曲がれるようになった。

時々、スピードが出すぎて人にぶつかりそうになるが、目を疑いたくなるようなターンで回避する・・・・・この分じゃあっと言う間に私のレベルを追い越されそうだ。

「そろそろ、お昼にしようか?ちょっと早いけど・・・」

「私、まだ滑りたいわ」

「でも、お昼時はレストランは満席になってしまうから・・・」

「そうね、これだけの人がいるんだものね、そうしましょう」

二人で麓のレストラン前まで一気に滑り降りる。

オクサーナはまだ滑り出して3時間で、スキーをマスターしてしまった。

 

レストラン前の置き場に板を立てかけ、中へ行こうとすると、

「リュウ!こんな所に板を置きっぱなしで大丈夫なの?」

「あぁ、みんなここに置いているだろう・・・」

「日本って、凄い国よね・・・ロシアでこんなことしたら、戻って来る頃には板は無いわよ」

「僕らの板は安物だからね、誰も盗んだりしないさ」

 

少々早めと思ったが、レストランの中は結構人が入っている。

オクサーナはハンバーグとライス、コーヒーを選ぶ。

「ここにはカプチーノは無いのね・・・日本人はカプチーノが嫌いなの?」

「まだ、一般的じゃないのさ、コーヒーと言ったらブレンドとアメリカンしか置いていない

場合が多いね」

「じゃぁ、銀座に行かなくては飲めないの?」

「安心して、僕らのリージョンにもちゃんとカプチーノを用意している店があるから」

「そう、良かったわ」

昼食をとり終わり、再びゲレンデへ。

オクサーナの滑りは更に磨きがかかり、私の心配をよそにどんどんとスピードアップする。そしてついに・・・私の前方30mぐらいのコーナーで曲がりきれずに・・・防護ネットに激突!

「オクサーナ、大丈夫かぁ!」

「大丈夫よ・・・あぁ、起きられないわぁ・・・ねぇ、リュウ、この板を外してちょうだい」

「まさか、足の骨を折ったんじゃないのかい?痛みは?」

「それは大丈夫、膝をぶつけただけよ・・・」

「さぁ、起こしてあげるから」

怪我の様子は左足膝部の捻挫・・・オクサーナを休憩室に残してとりあえず車に板を積む、そして彼女を肩で支えながら車に乗せる。

「リュウ、ごめんなさいね、せっかくのスキーが出来なくて」

「いや、そんなことより、本当に骨は大丈夫なんだね?」

「ええ、もちろん、私は看護婦よ、ちゃんと診断しているから」

「良かった。オクサーナ、これで判ったろう?スキーはうまくなった時が一番怪我しやすいんだよ」

「私、ちょっと調子に乗りすぎていたわね、リュウがあんなに心配してくれていたのに・・・」

スキー場を後にし、麓で薬局を見つけて湿布を購入。さて、どこで湿布を貼ろうか?スキーウェアも着たままだしねぇ。

「リュウ、ラブホテルは休憩も出来るんでしょう?そこに行きましょうよ」

「そうだね、それが手っ取り早いし、そうしよう」

高速に乗ってしまっていたので、甲府方面まで車を飛ばし、一宮御坂ICで下りる。

やはりIC下りてすぐに見えるホテル「エルミタージュ」へ。

「オクサーナ、このホテルは君の住む街にある美術館と同じ名前だよ」

「あら、本当だわ、中も素敵なのかしら?」

部屋を選び、室内へ入るとオクサーナは歓声をあげた。

「昨日のホテルより更に大きい部屋ねぇ、素敵!」

ウェアを着替えて、オクサーナをソファに座らせる。

「さぁ、それじゃぁ湿布を貼ろう」

「リュウ、あなたは私専用のドクターのようね、ありがとう」

「どういたしまして、足を痛めているんだから今日はシャワーは駄目だよ」

「あら、大丈夫よ!左足だけバスタブの外に出しておくから・・・」

オクサーナはバスルームに行くと大声で私を呼ぶ。

「リュウ!驚いたわこのお風呂、ジェットバスになっているのよ!まるで映画のようだわ」

オクサーナはロシア語の歌を歌いながらルンルン(←死語!)でジェットバスにつかっている。

 湯上がり、オクサーナはすっかりくつろいでいるようなので、本日はこのままこのホテルに泊まることにする。ラブホテルと言っても、この「エルミタージュ」は宿泊客の場合に限り外出自由である。レストランが経営母体なのでルーム・サービスの食事も美味しそうなのだが、オクサーナもなるべく節約するようにと言ってくれているし、コンビニあたりでお弁当でも買ってくることにしましょう。

お弁当とおにぎり、飲み物を近くのコンビニで購入し部屋に戻る。オクサーナは今日撮ったスキーのビデオをプレイバックして一人でニヤニヤ・・・。

「何がおかしいの?」

「私のおっかなびっくりの滑りを見ていたら、なんかおかしくて・・・」

「それは最初だけだよ、あと2、3回スキーに行けばもう中級者の仲間入りさ」

「リュウ、あなたのお陰で私、スキーの楽しさが良く判ったわ、本当にありがとう」

「いや、君に怪我をさせてしまって、僕の不注意だった、ごめん!」

「大丈夫よ、ありがとう心配してくれて」

それにしても、ひさびさのスポーツで私の身体もあちこち痛みが走る、オクサーナがマッサージをしてくれるというのでお言葉に甘えて・・・・・。

3月24日(火曜日)

 

マッサージが良く効いたせいか、昨晩は熟睡してしまったようだ。

時計を見ると9時半、チェックアウトは11時だからまだ余裕がある。オクサーナの足の湿布を交換してあげてから身支度を済ませて10時半にホテルを後にする。

「この辺りはね、ワインの生産で有名なところなんだよ」

「そうみたいね、葡萄棚があちこちにあるみたいだし、でも、私、今一番のお気に入りの飲み物があるのよ、リュウが昨日買ってきてくれたあの白いドリンク」

「あぁ、カルピス・ウォーターかい?そんなに気に入ったの?」

「えぇ、私、朝食にはおにぎりとカルピス・ウォーターがいいわ」

「OK!」

すっかり日本のコンビニが気に入ってしまったオクサーナ。例によって「おにぎり」を選び、私が冷蔵棚から持ってきた「カルピス・ウォーター」を手にしてニコニコ顔である。

車内で朝食をとりながら、さぁてと、どういうルートで帰宅しようか?

どうしても富士山にこだわってしまうのだが、今日も曇り気味で生憎の空模様だぁ。

最後の望みは、なるべく富士山が見えるルートを長く走ること、と言うわけで国道139号線(富士宮道路)から国道1号線に入り込むが相変わらずフジヤマは雲の中である。そのまま箱根方面へ向かい、芦ノ湖で休憩、西湘バイパスで太平洋とご対面!

「リュウ!これは太平洋?」

「そうだよ、見晴らしの良い道路だろう?」

「えぇ、素敵ね・・・そうだ、ビデオ撮らなきゃ!」

オクサーナは憧れの南の海(彼女にしてみればということです)に興奮気味。

「リュウ、ここでは泳げるの?」

「夏には人でいっぱいになるんだよ、サーフィンをする人もいるしね」

「来年の夏には一緒に来られるわよね」

「もちろんさ、でも、日本の陽射しは強いから気をつけなくちゃね」

そうなのだ、今、オクサーナの鼻の頭は「赤鼻のトナカイさん」状態なのである!たった3時間ちょっとスキーをしただけであったのだが・・・。

途中から国道129号線方面へ左折し、お昼は「吉野屋の牛丼」。

「日本には、沢山の種類のドンブリ・ライスがあるのね?」

「どれも安くて、一般大衆に人気のあるメニューなんだよ」

「私、ますます日本が好きになってきたわ・・・、リュウ、そのペッパー(七味唐辛子)を頂戴」

ロシア人は結構、濃い目の味付けがすきなようである、オクサーナは七味を振りかけて美味しそうに牛丼を味わっている。

渋滞にはまりながら、休憩もとっていたものだから結局帰宅は夜8時。

晩御飯は母が「刺身」を用意してくれていたので助かった。母も、とりあえずオクサーナには「刺身」を用意しておけば大丈夫ということは判ったようである。

3月25日(水曜日)

今日はアエロフロート航空に電話して、帰りの便のリコンファーム。

ところが、オクサーナがペテルブルグのアエロフロートで予約、発券された便の

成田出発予定時刻が変更になり、モスクワ(シェレメチェボ1:アヂン)から搭乗予定の

サンクト・ペテルブルグ(プルコボ1:アヂン)行きの国内線乗り継ぎが不可能である

旨を知らされる。

当初の予定では、2時間半あった乗り継ぎ時間が、2時間を切ってしまうという。

モスクワの空港では国際線(シェレメチェボ2:ドヴァ)から国内線

(シェレメチェボ1:アヂン)への乗り継ぎ所要時間は3時間と決められているので、

アエロフロート航空東京支店のスタッフとしても、何故このチケットがペテルブルグのアエロフロートで発券されたのか理解できないという。

シェレメチェボ空港には滑走路を挟んで丁度反対側に国内線ターミナルがある。

この間を白タクで飛ばせば20分ぐらいであろうか?料金も25ドル程度要求されるのが相場

らしいが、日本からのお土産をいっぱい持ったオクサーナにこの方法を選んでは欲しくない。

シェレメチェボでの乗り継ぎについては「地球の歩き方」にもいくつか紹介されているが、

それは「外国人」向けの配慮であると思われ、ロシア人の彼女がそのような恩恵?に預かれる

とはとても思えない。

アエロフロートのスタッフの話は更に続き、搭乗予定の国内線は最終便であり、変更する

としたら翌日の早い便になる上、別途モスクワでの宿泊費およびチケット変更手数料

1万5千円が発生するという・・・・何ぃ?ふざけるなぁ!!!。

 

これらの経緯をオクサーナに話すと、彼女のブルーグレイの瞳は見る見るグリーンに変わり、

「電話を貸して!」と言うと、早口のロシア語で喋り出す・・・・が、受話器を私に戻し、

「なんで、アエロフロートのスタッフがロシア語を話せないの?」と絶叫する。

これには私も驚いた。

「ロシア語を話せるスタッフは居ないのですか?」と聞いても、「ええ、こちらにはちょっと」という気弱な返事・・・・・。

オクサーナのあまりの剣幕にヤバイと思ったのだろうか?

 

「たとえ何であれ、チケットを発券したのはアエロフロート航空なのだから、そちらの理由で乗り継ぎ不可能であれば、モスクワのホテル代、チケットの変更手数料はそちらの負担ではないのか?」私もオクサーナをなだめつつ、執拗にスタッフに抗議する。

更に「ロシア人の通関手続きは簡素であり、所要時間は大してかからない筈であるから、本人はチケットはそのままで行きたいと言っている」と、こちらの要求を伝えた。

結局、アエロフロートのスタッフも、「うまく行けば乗れるかも知れない」という風に答え、手元のチケットは変更せず、そのままにするということになる。

帰国間際にとんでもないハプニング発生だぁ。 

「万が一、乗り継ぎが出来なかった時の事を考えなければ・・・・、モスクワからサンクト・ペテルブルグまでの夜行寝台の料金はいくらかかるんだい?」

「・・・・・、そうね30ドルぐらいかしら・・・」

「わかった、そのお金とタクシー代は僕が用意する」

「なんで?アエロフロートの責任じゃないの・・・」

「でも、モスクワのアエロフロートがその費用を負担すると思うかい?」

「・・・・・・・」

「勿論、シェレメチェボ空港のアエロフロートスタッフに搭乗出来ない料金を戻すように抗議しなくては・・・駄目で元々だからね」

「そうね、当然よね・・・・・あぁ、何てことなの・・・・・」

「もう、この話は忘れよう・・・君との時間はあと少ししかないのだから・・・」

「わかったわ」

気分転換に散歩にでかけることにした。

オクサーナは普段コンタクトやメガネをしているが、矯正が正しくなされているか

どうか良く判らないという。

私は18年以上コンピュータディスプレイとお付き合いしているにも関わらず

幸いにも視力はさほど落ちていない。(多分、両眼とも1.0程度)

つまり、メガネやコンタクトについてはまったく知識が無いのである。

将来のことも考え、地元の「メガネストア」に立ち寄ることにした。

オクサーナの視力をチェックしてもらい、彼女に合ったレンズを調べてもらった。

コンピュータによる視力チェック等、ここでもオクサーナは凄く驚いていた。

また、彼女自身自分の正確な視力を把握しておらず、左目が乱視であることもこの時

に判った。

一通りの検査を終えて、メガネのフレームデザインを選び始めたオクサーナ。

「どんなデザインが好きなの?」

「フレームが無くて、ゴールドのつるのなんてあるかしら」

ロシア人は「金」に目がない。

「これなんか、どう?」

「いいわね・・・・どう?似合っている?」

「素敵だよ、仕事が出来る!っていう感じだね」

「フフッ、そう?まるで学校の先生みたいね」

「こっちも試してみたら」

「いかが?」

「うーん、前の方が僕は好きだな」

「そう、でも、値段はどうなの?高くないの?」

オクサーナは失業中の私の経済状態をとても心配してくれているが、彼女の目の為には

是非とも、適正なレンズのメガネを買ってあげたい。

「大丈夫だよ、何も心配はいらないからね」

このページをご覧になっている方から井の頭公園の情報をいただいていたが、今日の陽気ならば桜もほころび始めたかもしれない、

井の頭恩賜公園に向かうことにしよう。

今の時期、花が無いロシアから来た彼女にとっては「公園」に行くことが一番のリラックス

になるようである。

「天丼、カツ丼大好き!」オクサーナの箸さばきもここまで来ました!

 

3月26日(木曜日)

 

今朝のニュースでは、早咲きの桜が都内でも見られるという。

昨日、気分転換のつもりで行った井の頭公園では残念ながらサクラは見られなかった。

オクサーナを起こして、「桜を探しに行こう!」。

自宅を出たが、さて、何処に行こうか・・・・・新宿御苑?北の丸公園?代々木公園?

渋滞のことが頭に浮かび、家の側で何とかならないかと考え・・・そうだ、一橋大学の

キャンパス内に早咲きの桜があった筈だ!

国立駅前の大学通りに車を違法駐車させていただき・・・キャンパス内へ

「この大学は何て言う名前?私立なの?それとも政府が建てたもの?」

「ヒトツバシ、国立大学だよ。日本に大学が出来たのは130年前の“革命”の後だからね、建物は皆ヨーロッパ風の建築を模倣したつくりになっている」

「ええ、レニングラード大学の建物に良く似ているわよ」 

東側のキャンパス内に入ると、奥のグランド付近に桜らしき木が!

「オクサーナ!あそこを見て、きっと、サクラだよ」

二人で駆け寄る!

「これが、サクラなのね・・・・・とても、小さくて綺麗な花だわ!葉が無いのにこんなに沢山の花が咲くなんて不思議よねぇ・・・リュウ、ありがとう!」

オクサーナに「サクラ」を見てもらうことが出来て、何とか重責を果たしたような安堵が・・・。

 何とか桜が見られました!

 

さてと、メガネの受取りにお店に向かうことにしましょう。ところが!店員曰く、

「誠にすみません、当方のミスでレンズとフレームの取付部分がグラグラしているようなので、再度レンズを取り寄せて作り直しますのでお待ちいただけないでしょうか?帰国は土曜日のご予定でしたよね、明日の昼過ぎまでお時間をいただけないでしょうか?」

グラグラするといっても、私もオクサーナもあまり気にならない程度のものである。

「仕方ないですね、では宜しくお願いいたします」まぁ、この場合は待つしかないでしょう。

オクサーナに事情を説明すると、「私はいっこうに構わないけれど、お金は誰が払うの?」と心配そうにしている。

「安心して、彼らは帰国してしまう君の為に、ベストな製品を作りたいのさ、日本の職人は自分の納得できる仕事をするのを誇りに思っているからね」

「日本人の親切って素晴らしいわね・・・国に帰ったら皆にこの話をするわ、私・・・」

どこにでもあるチェーン・ショップと思っていたが、職人さんの心意気に私もちょっと感動!

3月27日(金曜日)

 

今日はお茶の水にあるロシア正教の聖堂「ニコライ堂」と神保町のロシア書籍専門店

「ナウカ」へでかけることにする。

JR中央線に乗ってお茶の水に到着。

東京寄りの出口を出て、日立製作所本社の斜め向かい側に「ニコライ堂」はあります。

「これが、日本で一番大きいロシア正教の聖堂だよ」

「すばらしいわね、ここに来ればロシア人にも会えるわけね」

「安心したかい?」

「ええ、ビデオに撮って両親や病院の同僚に見せてあげましょう」

オクサーナはビデオを回してロシア語で解説をしている。

中を見学しようと思い、正門に向かうが、何と工事中につき見学はご遠慮くださいとのこと。

オクサーナに事情を説明するが、彼女もちょっとがっかりした様子で・・・・・。

気を取り直して、神保町に向かって歩き出す。

途中、スキーショップや楽器店が多いのに目を止め、

「この辺りはスポーツ用品店や楽器店、そしてこれから行くジンボウチョウは本の街なんだ」

「東京には専門のお店だけが集まった街が沢山あるの?」

「ああ、こないだ行った秋葉原は電気店だったろう、そのほかに衣服、食器なんかがあるよ」

「でも、郊外の町にも大きなデパートメントストアがあるわけよね、こんなにお店があって、

どのお店も沢山の商品を扱っていて、良く経営が成り立つわね」

「それは、僕も同じ意見だよ・・・中には倒産する店もあるだろうし」

楽器店のウィンドウを横目で見ながら、

「ヤマハ、カシオは知っているわよ、ロシアでも有名よ」

音楽好きのオクサーナにとっては馴染みのあるメーカー名だろう。

さて、神保町の交差点に着いたが、「ナウカ」の場所がわからない。

携帯電話でお店に電話し、交差点からの道案内をしてもらう。

とりあえずお店の場所もわかったので、ここらでカプチーノ・タイムにしよう。

お店までの道のりの途中で「ドトール・コーヒー」を発見。

ここではオクサーナの好きなカプチーノが格安で味わえる。

 

そこから程なくして書店「ナウカ」を発見。

ナウカの店内でオクサーナは一冊の本を手にして驚いた様子。

「この本、ロシアでは手に入らないのよ・・・既に絶版になってしまったのかも知れないわ」

同様の話を以前にも聞いたことがある、かつてソ連時代には話題になった小説であっても

計画経済の中で印刷・製本されていたわけで、3万部刷ったらそれで終わり、店頭に並んで

いる分が無くなれば2度と手に入らない状況だったらしいが、経済状態が安定していない現在

のロシアでもその状況に変化はあまり無いのかも知れない。

「日本語の教材はあるのかしら?」

店員の女性に尋ねるが、在庫しているのは1冊しか無いとのこと。

「ペテルブルグに戻って探してみるわ、それで無ければ、リュウ、この本を送ってちょうだい」

「ああ、いいよ」

  

 

ナウカの店長さん、ありがとう!

   

家に戻り、メガネの受取に例のお店へ。

「どうも、お待たせしてしまって済みませんでした、いかがですか?」

レンズの加工を失敗してしまったという店長らしき人は申し訳なさそうにしているが、

オクサーナは「日本のサービスってとても素晴らしいわね、それにひきかえアエロフロート

ときたら・・・」いたって上機嫌で鏡の前でお気に入りのメガネを試している。

オクサーナがメガネを受け取っている間に外しておいたコンタクトレンズの手入れまでしてくれて、私も日本式サービスの徹底ぶりに鼻高々である。

 

明朝、渋滞の中を成田に向かうのは気が重いので、オクサーナもすっかりお気に入りのラブホに泊まることにする。

が、夕方荷物をまとめてみるが、どう頑張ってみてもバッグ3つになってしまう。

「すぐに使わない物は置いていけばいいよ」

「でも、みんな使う物だし、あとのバッグ2つはお土産なのよ・・・」

「・・・・・」(困ったもんだ)

それじゃぁと言うことで、お土産入りバッグ2つをキャスター付キャリアにくくり付け、その状態でオクサーナに歩けるか試してもらう。

「ちょっと、重いけれど大丈夫よ」

「いや、モスクワで飛行機に乗り継げなかった場合には、その荷物3つを持ってタクシー、地下鉄、夜行を乗り換えなくてはならないんだよ・・・」

「リュウ、私はロシアの女よ!これぐらいの荷物、みんな持って行き来しているわ、心配はいらないわよ」

「でも・・・やっぱり心配だよ・・・足だってまだ痛むだろう、あぁ、君と一緒に行ければなぁ」

とにかく、荷物は3つ、これでもお土産の一部を後送することにしたのであるが・・・。

夕食はオクサーナの好きな豚肉を使った料理をと思い、母が「かつ丼」を作ってくれた。

「お母さんの手料理はやっぱり美味しいわ! カツドン!最高よ!」

腹ごしらえを終え、8時過ぎに自宅を後にする。

「トキオの最後の夜ね、夜景をビデオに撮らなくちゃ!」オクサーナは首都高からの夜景をビデオに収めている、車の流れもそれに合わせるかのように渋滞気味で丁度いい具合だ。

「オクサーナ、もうすぐ東京タワーが左側に見えるからね」

「今度は正面にレインボーブリッジだ!」

私の説明を聞きながら、ロシア語で解説をいれながら夜景の名所をビデオに収めていく。

車が東関東自動車道に入り、「Narita 30Km]なんて表示を見始めるとはオクサーナも私もちょっとだけ感傷的になってくる。

オクサーナがそれを断ち切ろうとするかのように、ソフィ・ロタルゥ(ロシアの人気歌手)のCDをかけてくちずさむ。テンポの良い曲なので、私もいつの間にかアクセルを踏み込み、140Kmぐらいで走っている。危ない、危ない。

成田インターで下り、空港と反対方向に進み、一番最初に目に入ったラブホに車をすべりこませる。

「リュウ、私ようやく普通のホテルとラブホテルの見分け方が判ったような気がするわ」

滞在中、オクサーナはドライブの度に、「あれはラブホテル?」とカラオケハウスやらパチンコ屋を指さして聞いてきたものだっけ・・・。

 

3月28日(土曜日)

眼が覚めると8時、シャワーを浴び身支度を済ませラブホをチェックアウトする。

車をパーキングに止め、朝食を摂りにターミナルビルへ。

アエロフロートのチェックインカウンターに荷物を預けることにする。

乗り継ぎ便の不手際の件はここにも伝わっているらしく、男性の係員が申し訳なさそうに挨拶をしてきた。
チェックインの様子を柵の外から伺っていると、オクサーナが紙片を手に私の所にやってきた。

「リュウ、どうしましょう、荷物が重いのでお金が必要らしいわ」

カウンターで渡された紙片には2万円の追加料金が記載されていた。よく見ると上段の料金欄には4万円となっているようである。そこに先程の男性係員がやってきて「当社の不手際のお詫びとしてオーバー分を半額にディスカウントいたしました」と言う。そうまで言われるとこちらとしても納得せざるをえない・・・。

ポケットには1万円程度しか入れて来なかったので、パーキングに戻り車の中からお金を取ってくることにする。

「オクサーナ、ちょっと待っててね」

「ごめんなさい、リュウのアドバイス通り荷物を減らすべきだったわね・・・」

「ノー・プロブレム、心配しないで」

冷静に判断すれば、10Kg以上の荷物を後送でEMS扱いで送ったら多分2万円では送ることはできない筈である、

ちょっとせこい考えだが、不幸中の幸いなのかも知れない。

車からお金を持ってきて、追加分の料金を支払い、何とかチェックインを終えた。

なんだかんだで時刻も11時だ、でも、この騒ぎのお陰でお互いに落ち込んだりせずに済んだのかも知れない。

食事を済ませ、再び出国ロビーに戻るとやっぱり感傷的になってしまう。

「リュウ、あなたが再び呼んでくれるのを、私待っているから」

「あぁ、僕も仕事を見つけ再就職をして1日も早く君にビザをおくれるように頑張るからね」

「待っているわ、その日を・・・」

「僕もだよ、I'll be waiting for you . . . . . これって、僕たちのテーマソングだね」

オクサーナのブルーグレイの瞳がキラキラ光る、彼女も同じものを私の瞳に見出しているだろう。

   

出国客でごった返しているフロアにいることさえ気にはならない、二人とも自然に抱きしめ合い、

あの夏のシェレメチエボ空港のように長い長いキスをかわした。

        

      



   

ロシアン・ディアマンテへの

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