灼熱の太陽がじりじりと身を焦がす。
 乾燥地帯に足を踏み入れた龍戦士、ラ・ファイエルを、その太陽は容赦なく照り続けていた。
 熱と砂塵避けに大きなフードを被っているが、その大きな体を隠すほど十分なものではない。
 朦朧とする意識に遠い記憶が蘇ってくる。
 当てのない流浪の旅を続けてどのくらい経ったのだろう。遠い昔のような気もするし、つい最近のことのようにも思える。ただ独り誰とも関わらず、旅を続けていることに、最近やっと慣れて来たのだろう。思い出す記憶も遠い過去として、何の感慨もラ・ファイエルにもたらさなかった。
 時折、襲ってくる刺客を相手にすることで、孤独の憂さを晴らすようになった。
 それだけ、この流浪の旅は、ラ・ファイエルを精神的に荒廃させていた。

「いつまで追いてくるつもりだ」
 ラ・ファイエルは足を止め、振り向きもせず、後方で身を隠しながらラ・ファイエルとの距離を一定のまま保って後をついてくる者に声をかけた。
「まだ、私の首が欲しいのか」
「邪魔しないで」
 その者は大きな声で怒鳴りかえして来た。
「私の行くところにあなたがいるのよ!」
 説明にならない返事だ。ラ・ファイエルは呆れたように首を振り、何ごともなかったようにまた歩き出した。
 後方の追跡者は、同じくラ・ファイエルとの距離を一定に保ったまま、後を追いてくる。
 こんなやりとりが数日続いている。一定の距離を保っているだけで、決して自分から言葉をかわそうとしない。
 何の目的があるのか知らないが、ラ・ファイエルにとってもうどうでもいいことだった。
 天上の太陽は、そんな二人に容赦なく灼熱の熱波を浴びせかける。

 いつまで続くかと思われる砂漠の峰を超え、頂きに登り切った時、展望が開けた。
 今までの砂と塵で荒廃した大地とはうって変わって、樹木が生い茂り、清々しい清流の水しぶきの音が、喧噪となってあたり一体に轟いていた。
「水だわ! やっとこれで砂と埃で汚れた体を洗えるわ!」
 いつのまにかラ・ファイエルの横に追跡者が来ていた。
「ねえ、早く行きましょ」
 今までの用心深さが嘘のように、彼女はラ・ファイエルの腕を取り、急かすように頂きを下りようとする。
 一瞬、ラ・ファイエルは戸惑いを覚えた。先ほどまで仇だと言っていたにも関わらず、今はまるで手のひらを返したかのように妙に馴れ馴れしい。まるでこの砂漠の天候さながら気まぐれだ。
「女、私はおまえの仇じゃなかったのか」
 過酷な道程で消耗し切っていた少女にとって、眼前の光景は今までの経緯を忘れさせるほどの力を持っていた。
 ラ・ファイエルの言葉に我にかえり、みるみる表情が変わって行く。
「なぜ、私の後を追いて来る」
「別に後をついて来た訳じゃないわ。私の進むところにあなたがいるだけよ」
「なら、私の先を進むがよい」
「言われなくたってそうするわよ!」
 少女はむきになり、足早に川岸へと駆け降りて行った。
 それを見届けラ・ファイエルは先程来た方向へ踵を返して歩き出した。

 川岸についたマナは、急いで咽の乾きをいやそうとして川面に手を差し出した。
 今までの疲れと乾きが癒されて行く。
 ひと息ついたマナは、ふっと後ろを振り返る。
 ラファイルの姿は見当たらない。
 いい知れぬ不安がマナを襲った。
 もうどこかへ行ったのかしら。
  咽も乾いていただろうに。
 自分がいたため、あの龍戦士はこの場をさったのだろうか。
 ふとマナは、あんなに冷たくあたったことを後悔した。
 両親の仇が彼だとは思えない。だが、同じ龍種族なのだ。計り知れない力を持つ者は、その力を過信する余り、他者に対して冷酷になりやすい。
 彼だって、もとをただせば戦士。力の世界で生きている人種なのだ。
 だが、マナはそんな戦士と一緒にいた数日間、言い知れぬ安心感に包まれていた事実を認識した。  だから、去って行ったことに一抹の不安と寂しさを感じていたのだ。
 また、一人で旅を続けるしかない。何が起きるかわからないけど。それが私の運命なら。
 ともすれば萎えて行く精神を奮い立たせ、マナは旅の続きを始めようとその場を後にしようとした。 「ほう、どこかで見た女だとおもったが、あの時のガキか」
 どこからともなく声がした。
 マナは慌てて、声のする方へと向いた。
 かなり大きな木の枝に、腰を据えて腕を組んで見下ろしている者が見えた。
 魔族!
 マナの緊張感が一気に高ぶる。