「妙子、何してるの?」
妙子は、友人の麻由美の言葉に我に返った。
「あ、麻由美」
どこか夢から覚めたように、妙子の顔は焦点が定まらない表情をしていた。
「なんか、おかしいわよ」
友人が心配して、妙子の側に来る。
「え、どうしたの?」
今まで自分が何をしていたのかもはっきり思い出せない。何かを見ているうちに意識が遠のいたような気がした。
「何見てたのよ」
友人は妙子の視線の先を追った。
隣の校舎の屋上に誰かいる。
妙子らと学年がそうたいして変わらない少年が、ひとり屋上に佇んでいた。
「あれ? 彼って2組の真神君よね。2組の友達から聞いたんだけど、彼って誰とも話さないんだって。学校もほとんどこないし。自閉症じゃないかってもっぱらの噂よ」
同学年の少年たちと違って、確かに彼はどこか他の者と違う雰囲気を発散しているように妙子には見えた。
「で、何故彼を見ていたの?」
友人の麻由美が目を細めて妙子の脇腹をこずく。
「ひょっとして、興味あんの彼?」
「ち、違うわよ。そんなんじゃないわよ」
妙子は顔を赤らめ、友人の冷やかしに動揺している。
「ふーん、あんた、変わってるわね」
麻由美は変に納得した。
「あ、もうこんな時間だ。ねえ、早く帰ろうよ」
麻由美は妙子の制服の袖を掴み、早く帰ろうと急かす。
「う、うん」
何故か、妙子はこの場を離れたくない、そんな思いになかなか動こうとはしない。
それでもやっと教室を出ようとした時、足を止め、もう一度隣の校舎の屋上を見る。
少年は相変わらずそこにいた。
背後から夕陽がのぞき、少年を朱色に染めている。
妙子はため息をつき、そっと静かに教室のドアを閉め、家路へと急いだ。
枝編 「沈黙の戦士」- 完 -
