

妙子はその夜夢を見ていた。もう何度も見た夢だ。
またいつもの声が聞こえてくる。
数人の男にかこまれ少年が泣いている。美しい少女の膝に顔を埋め泣きじゃくっている。
どこかで見た少年と少女。どこで見たのだろう。たとえ誰かと分かっても目が覚めたら
忘れてしまう。いつもそうなのだ。
妙子は朦朧とした意識の底で夢の展開を覚めた目で見ていた。
年老いた見たことのない高価そうな衣装をまとった男の声が聞こえる。
司祭「姫は幼少の頃一度行方をくらましたことがあるのじゃ。
太陽が7回沈む間、どこにも存在せず、忽然と消えたのじゃ。
戻って来た姫はまるで人格が変わったように、今までわがままばかり言って
わしらを困らせていたが、帰って来た姫はそれまでとの姫とは違い正義感が
人一倍強くなったのじゃ。ただ、行き過ぎの場合も多々あるが・・・」
最後の言葉を潜めて、王女を盗み見る。
王女は泣きじゃくるガッシュ、いや、こう君をあやしている。
司祭「消えている間、姫にどこに居たかと聞いても、記憶がないらしく、
答える事はできなかった」
カタリナ「ふーん、放浪癖のあるお姫さまか」
王女に含むことがあるのか、カタリナは刺のある口調で呟く。
ひとつ目「案外、今回のガッシュの身に起きたことと関係があるのかも」
そう言ってガッシュ、いや、こう君を見る。
屈強な身体に幼い精神。どうやって、あの屈強なガッシュがこんな
線の細い人間になれるものか、全員の理解を超えていた。
恐怖とわけのわからない状態に翻弄されてこう君は泣くしかなかった。
いつも自分が窮地に陥った時かならず助けに来てくれるいつもの
幼馴染の姿はない。
優しく接してくれるこのお姫様は確かに幼馴染に似ている。でも、優し
すぎるのだ。自分の知っている幼馴染はいつも自分を叱り飛ばしている
イメージしかなかった。
司祭「ガッシュ殿がこんな状態になれば、誰がこの宮殿を守るのじゃ」
カタリナ「ま、性格は別としてガッシュしか頼りになるものはいないのは確かね」
カタリナは苦々しく言った。前夜のガッシュの蛮行が記憶に蘇る。
「俺の女になれ〜〜〜〜」と迫って来たあの欲望に歪んだ顔を見ないで
すむのは歓迎出来るが、それとこれとは話が違う。
ちなみに、カタリナに迫ったガッシュのその後の顛末はかなり悲惨な目に
あったらしい。
一つ目「いや、ひとりいる」
カタリナ「誰よ、あなた?」
一つ目「いや、私にはそんな力がない」
カタリナ「じゃ、誰なの? 焦らさず教えてよ」
一つ目「ラ・ファイエル」
司祭「あ、あの伝説の龍戦士!」
その名前を聞いた一同、言い表せない複雑な面持ちになる。
そのあまりにものみんなの反応にカタリナはいぶかしむ。
カタリナ「え、誰? それ。そんなにスゴイ奴なの?」
一つ目「かなり昔の話だ。魔族が龍戦士の国を襲い、人質をさらっていって、
彼らの秘密を聞き出そうした時、ひとりの龍戦士が魔族の陣営の中へ
勇敢にも突入した。屈強な戦士で群がる魔族の軍団を赤子の首を
ひねるように、簡単にかたずけてしまった。
数百の数の魔族をたったひとりで滅ぼしたのが、その伝説の龍戦士だ」
カタリナ「す、スゴイ、たったひとりの魔族にも手をやいていると言うのに、
たったひとりで・・・でも、なんでみんなそんな憂鬱な顔をして
いるのよ?」
一つ目「その龍戦士はこの世にはいない。いや、厳密には精神がこの世界には
ないのだ」
カタリナ「どういう意味なの?」
一つ目「その戦いの中人質にさらわれた女性が戦いに巻き込まれ悲惨な死に方を
した」
カタリナ「?」
司祭「その女性は龍戦士の妻だったのじゃ」
カタリナ「!」
一つ目「愛する者を救えなかった自責の念にかられた龍戦士はそのまま、自分の
意識を封印し、二度とこの世とはかかわることはなかった」
司祭「龍戦士の身体は種族が亡んだ今となってもひとり、化石になって今なを
風化せず、愛する妻の墓を守るように立っているんじゃ」
カタリナ「な、なぜ、自分から意識を封印するの? 愛する妻の命を奪った魔族に
復讐すればいいじゅないの。そんな力があるのに」
一つ目「力があるから自ら封印したのだ。復讐の念にかられ、たとえ魔族を
皆殺しにしても、死んだ妻は戻って来ない。
どんな偉大な力があっても愛する者を救えなければ、その力は
無いに等しい・・・」
王女「よほどその奥さまを愛してらっしゃったのね」
いつの間にか話に王女が加わった。泣き疲れたのかこう君はベッドで
寝ている。
王女「わたくしにもそんな一途に愛してくれる人がいたら・・・」
王女は夢見る少女になっている。
カタリナ「あんたにはあの変態ガッシュがいるじゃないの」
王女「が、ガッシュとはそんな仲ではありせん。ご、誤解しています!」
カタリナ「そんなムキになって否定するのも怪しいぜ」
前夜のガッシュの顔がカタリナの記憶に蘇る。なぜか複雑な
感情になり妙に面白くない。ここはこの堅物の王女をからかかって
すっきりしよう。
王女とカタリナのいさかいに関与せず、司祭と一つ目の話が続く。
司祭「では、一つ目殿はその伝説の龍戦士を復活させようという訳で?」
一つ目「ガッシュがいない今となっては、龍戦士に頼るしか道はない」
カタリナ「で、その復活のアテはあるの?」
王女をからかうのに飽きたのかカタリナが話に加わる。
一つ目「ない」
一同ずっこける(^^;
カタリナ「もう、てっきりアテがあると思うじゃない!!」
一つ目「ただ・・・」
カタリナ「ただなんなのよう!」
カタリナは、もったいぶる一つ目の物言いにイライラしている。
一つ目「このガッシュ・・・いや、この少年が鍵になるかも知れない」
一同、ガッシュ・・・いや、こう君の方を見る。
ベッドに寝ているこう君は訳も分からず、安らかに寝入っている。
こう君「・・・葵さん(幼馴染の名前)」
ラ・ファイエル・・・ラ・ファイエル。
心の底に響くその名前。自分にとって大事な名前だと魂が告げる。
だが、妙子には夢が告げようとしていることは、彼女の理解を遥かに超えていた。
起きればすべてをまた忘れてしまう。いつものことなのだ。
やがて深い眠りに落ちて行く。
深遠の淵に懐かしい姿を追いながら・・・。