オーストラリア大陸の先住民であるアボリジニは、約4万年前、当時陸続きであったイ
   ンドネシア諸島を経て、アジアから渡来したといわれる。その後、1770年にキャプテン・
   クックがシドニー湾に上陸し、イギリスの植民地として宣言するまでの間、アボリジニ民
   族は小集団で広大なオーストラリア大陸を移動し狩猟、採集を糧とする石器時代さながら
   の生活を営んでいた。こうしたアボリジニ民族にとって、エミューは貴重な獲物であった。

        天は二物を与えずというが、エミューは、お世辞にも可愛いとはいえない。むしろ、ど
   こから見てもみすぼらしく、コアラやカンガルーに較べて動物園でも全く影の薄い存在で
   ある。しかし、醜い容姿の下には素晴らしい宝物が隠されている。1羽のエミュー成鳥か
   らは約10kgの良質な食肉が採れるが、その肉の周囲にはほぼ同重量の皮下脂肪が取り囲
   んでいる。皮下脂肪は、ナイフ1本で簡単に肉から分離する事が出来る。
    野生エミューのオスは、雛がかえるまで、56日のも間、飲まず食わずで卵の上に座り続
   ける。その間、自分自身の皮下脂肪のみを消費して生命を維持するのである。

        エミューの皮下脂肪から抽出されるエミューオイルは、オーストラリア原住民アボリジ
   ニによって、関節炎、筋肉痛、火傷、皮膚炎なのど治療薬として何世紀にも渡り使用され
   てきた。
    健康なエミューの皮下脂肪は、非常にきれいな黄色で、良質な天然ハチミツの色に近い。
   自然界に存在する天然物質で、人間にとって最も栄養があり、有効な物質は、ハチミツ色
   をしているとの学説もあるほどだが、文字も持たないアボリジニ民族が、4万年にも渡り、
   この学説を実証していたとは驚きである。

    現代科学の研究により、天然エミュー・オイルは、良質のリノール酸と、オレイン酸を
   豊富に含んでいることが発見された。
    リノール酸は人間の皮膚細胞の老化現象を防止し、若さを維持するといわれている。
    また、オレイン酸は肌によく合い、潤いと張りを与え、皮膚組織の局部的な炎症を防止
   する効果もあるという。
    これらの優れた特徴を持つエミュー・オイルは、近年ではスキンケア基礎化粧品の成分
   として使用されている他、筋肉痛や間接痛の治療剤にも使用されている。

    アボリジニ4万年の歴史の後、現代版エミュー・オイル産業は1990年、パースで産声を
   上げた。まだ、5年しか経過してない超新産業だ。
    薬剤師ジョン・ファウンド氏は、この分野発足以前からエミュー・オイルを研究してい
   る第1人者である。油脂精製工場で、食用油の品質に精製されたエミュー・オイルはすべ
   て彼の研究所に持ち込まれ、ガスクロマトグラフィーによって全数検査される。化粧品及
   び、医薬品成分の基準に達しないエミュー・オイルは不適格品として、あらかじめ撥ねら
   れる。
    また、彼の研究所には製造設備があり、医薬品製造工場としてオーストラリア政府より
   認定を受けている。鎮痛薬を始めとして、現在市販のほとんどのエミュー・オイル医薬品
   は、彼の工場で生産されたものだ。

    近年では、自然派製品に対する関心の高まりとともに、エミュー・オイルに対する関心
   が高まってきており、日本国内でも徐々にその名前が知られるようになってきた。日本の
   有名な健康雑誌も、エミュー・オイルを大きく紹介している。

    エミュー・オイル製品は、オーストラリア国内での消費はもとより、コスメティックの
   国フランスを含め、すでに海外数ヶ国へも輸出が開始されている。エミュー産業はアボリ
   ジニ4万年の知恵に感謝を込めつつ、オーストラリアが、さらなる将来の発展を期待する、
   重点開発産業のひとつでもある。