―――…本土への道は閉ざされた。 何が起こったのかは判らない。 ただ、退路は断たれ、今の自分達は、 面白いくらいわかり易い背水の陣だ、という事だけは理解できた。   「チッ……」   瓦礫の様な広島の街並みは、底知れない不気味さを感じさせる。 なんとなく、藩にいるアイツの顔を思い出そうとした。 それなのに。 なぜか、どうやっても上手くアイツの顔を思い浮かべる事が出来なかった。 怖いだけじゃあ、ない。 煌光のセンサーにどんなに意識を傾けても、 どくん、どくんと鳴る自分の心臓の音が五月蠅すぎて、 まるで索敵には集中できなかった。   「WD部隊、総員配置につけ」   厳粛な指揮官の声が響き渡る。 どうやら、遂に敵を見つけたらしい。   「了解」 「アイサー」 「はーい!」 「WD部隊準備完了 いつでもいけます」   努めて冷静な返事の中に混じり、可愛らしい少年の声と、凛とした女性の声が響き渡る。 FEGの古河さんと、広瀬摂政だ。 いつも通りの態度、口調。 けれど自分には。 否、自分達には、彼女達もまた自分達とまるで同じ事を考えているのだと、 信じられないほど容易く理解できた。     「主な戦場は市街地だ。遮蔽物が多い環境こそ小回りの利くWDが最も効果を発揮する」                 ―――判っている。その為のWDであり、自分達だ。   「各員I=D部隊などとの連携を取りつつ全ての敵を撃滅せよ」                 ―――説明は良い。だから早く……早く!   どくどくと脈打つ心臓が苦しくて、目にする敵は恐ろしくて。 でもそんな事よりも、すぐにでも一歩を踏み出したかった。 あの空を。     あの山を。       あの人々を。         あの笑顔を。                    ――… 二度と見られないなんて、死んでも御免だから!!     ヘルメットを被る。 誰も、何も言わない。 そんな必要が無かったから。 あまりにも、あまりにもお互いが、彼が、彼女が考えている事が解り過ぎたから。 戦友と瞳を交わす代わりに、銃を構えた。              「では…… ――これより、状況を開始する」     少し震えた声で指揮官が指令を下す。 瞬間。自分達は駆け出した。 敵を倒して。道を見つけて。あの"場所 ――藩国"へ帰るために。   言葉は無い。 だから、銃声こそが鬨の声にして咆哮だった。 彷徨える魂よ。 今、その雄叫びを銃火に宿し、我が敵を穿ち給え――!           ガガ          ガ!               「Go!!」                               ガ!                           ガガガ