ごあいさつ

 伝道の書第3章に「すべての営みには時がある」という非常に美しい一節があります。
 小林聖心の馳年史を繰りながら、私たちの心にいろいろなく時)の思い出が浮かんでくることと思います。50周年という時は、私たちが一度立ちどまって過去をムり返ってみる時、いまから結んでいく道を見定めるために今日までの歩みをふり返る時、ではないでょうか。
 生徒として、あるいはここで働いた者としてふり返ってみたとき、小林の丘で過ぎていったさまざまなく時)が、私たちの心にそれぞれの感懐をかもしだすことと思います。ある時の思い出は私たちの心を優しくなどませるでしょうし、またある時の思い出は心に苦いものをめざませるかもしれません。過ぎ去ったく時)を思うとき、私は過去のすべてを、ある種の優しい思いをもって佗んとうにありがたく受け入れ、肯定したいと思います。すべての人間の営みのひとつとして、学校の歴史のなかにも間違い、失敗がはいりこんでいたことでしょう。でも、そのすべて――泣く時、笑う時、受ける時、すてる時――を通して、ここで働かれたいろいろの人たち、生徒たちを通して、私たちは知らず知らずのうちに、どれほど豊かに神を受けたことでしょうか。
 私たちの過去の遺産を、今日の自分のうちに生き、そして成長していく生命として、優しく、謙虚に、しっかりと受け、肯定すること、このなかに、私は明日への希望のひとつの基礎があると思います。昨日のうちに神の御足跡を見る目だけが、まだ知らない明日を導き給う神の御手を私たちに感じさせるからです。
 そして、こういった心こそ、小林の歴史を通してマザー・マイヤーをはじめ、いろいろな万々が私たちのうちに育つように祈り、働き、そのために一生を捧げられたものではなかったでしょうか。

    昭和48年10月

             聖心会東洋管区長
             学校法人聖心女子学院理事長 伊庭 澄子
                   (*昭和48年 当時の抜粋です。)