あの約束の地だった。高い崖から見下ろす、ずっと下の下のほう、滝壺深く、冷たい淵のその奥、その底にジョウイの身体が眠っている。 ジョウイの血で贖われた僕たちの約束。僕の腕の中で息絶え、償いの言葉を述べ、そして願った君。僕が歩きだせるように。全てを精算できるように。 その願いを叶え、僕の右手に“始まりの紋章”は宿った。 僕の望んだ、紋章の奇蹟。 僕と君の願った、哀しい、やさしい奇蹟。 ずっと一緒にいたかった。 ずっと傍にいたかった。 指をつないで。あの星の向こうまで。 最初から全てかなわない筈の願いだった。 知っていたのに、願ってしまった。 願いはほんの少しだけ、叶えられた―――。 峠の山間から、彼方の峰が覗く。雲を纏わせ、陽に輝く。 ジョウイの声。ジョウイの髪。ジョウイの想い。 こんなにもしっかりと憶えている。忘れるなんて出来ない。 掌に残る儚いぬくもり。 「ジョウイ」 ジョウイ。 もういない。 彼の形見となった、僕とジョウイの想いをひとつにした紋章だけが、永遠に僕の傍にいる。 それはジョウイの、誓いの証。 「さよなら」 僕は呟いた。言葉は風に浚われ、届く相手も知らず彼方に溶けた。 「今度こそ―――さよなら、ジョウイ」 ただ一筋の涙が、僕の頬を滑り落ちた。
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21stOctober.2000