読書履歴2001年6月


新刊24冊+古本7冊(+再読2冊) = 合計31(+2)冊

24[6/30]円山夢久/リングテイル 4.魔道の血脈(電撃文庫)
時の円環に捕らわれて過去へ迷い込み, 元の時代へ戻ることをあきらめはじめた魔道師の少女マーニは, 未来の歌に歌われる「スールの日」に…. ハイファンタジー.
最後はなんか話を閉じるために史実に沿って並べましたみたいな印象がちょっと残った. やっぱりタイムトリップ物は最後に閉じた時におっ!って思えるようなのでないと少しさびしい. それと3巻の時に書いたが, 「現在」の設定が落ち着かないうちに飛んできてしまったので, 「昔」に対して今がどうだという印象がイマイチ持ちにくかったのもちょっと残念. 1巻を十分読み込んであればまた違うのかもしれないけど…. なんて書いてみたけど, 設定自体はよく出来ているし文章もそれなりにこなれていると思うので, 充分読めるものにはなっていると思う.
23[6/29]佐藤ケイ/天国に涙はいらない 2.畜生道五十三次(電撃文庫)
あえなく死んでしまった主人公は人間時の記憶を持ったまま北海道で狐に転生するが, 当然うまく生活していけない. 東京に人間に化ける方法を知っているという狐がいると聞き…. 天使と悪魔に今度は猫耳なコメディ第2段.
彼女と再会しようとも感動もたいしたことなし, ピンチに陥ってもたいして手に汗握らず, 人間に戻るったってこれまたギャグにしかならない. それもひとえに暴走する同級生にロリコン天使, 焦点のずれたままとんちんかんな掛け合いがひたすらストーリーをぶっ壊していくため. お陰で笑える笑える, でストーリーはどんなんだっけ? という感じ. 目指す方向性は違うが, ある意味僕の血を吸わないで的なノリな作品になりそうかも.
22[6/29]佐藤ケイ/天国に涙はいらない(電撃文庫)
霊視の家系の高校生の主人公は学校の「呪いの教室」の除霊を頼まれるが, 自分の力では足りないと気づいた彼は守護霊を召喚する. しかし呼び出した守護霊熾天使アブデルはロリコン, そして「呪い」の原因の悪魔はけなげな美少女だったのだ. 当然簡単に除霊して済むはずもなく…. 学園コメディ.
前2作同様第7回電撃ゲーム小説賞の受賞作だが, こちらは軽い文体. キャラのぶっ飛び具合, というか方向がある意味典型的ではあるが, ギャグ,ユーモアのはさみ方がうまく, それで話が止まらないのはいい. 熾天使というエライ立場の彼のダメダメ加減にしっかりオチがついていたり肩の力の抜ける作品になっている. 神や天使や悪魔に実名(?)を使う場合, ちゃんと設定を詰めると時代の移り変わり, 彼らの間の勢力争い(?)や彼らの命のやり取り(?)などに気にかかる事が出る場合が多々あるが, この話の場合そこまで話が行っていない. シリーズ化するならその辺注意して欲しいなと思う.
21[6/29]渡瀬草一郎/陰陽の京(電撃文庫)
平安時代, 陰陽道の家系ながら文章道に進む青年慶滋保胤. 安倍晴明の依頼で調べ始めた外法師との関係から怨念渦巻く事件に巻き込まれるが…. 陰陽もの.
陰陽といえば安倍晴明, 怨念, もののけ. すっかりブームになってしまったので目新しくも何ともない世界だが, その中でこの作品の描写は憎しみと愛と友情と信義とを背に淡い雰囲気を醸し出す. これに田島昭宇のイラストが一役買っている事は否定できないと思うけど, それは置いておいてもこちらは文章が自然で読みやすい. 各キャラがそれぞれの役割(?=愛情,友情,忠誠,親子,師弟,復讐,狂気…)を端的に表していて, 対立軸が明快なのが読み切りの中では読みやすさにつながっているのではないかと思う. そういう意味で事件そのものはどろどろしていても話全体としてはそれに染められない, 微妙な色合いが出せたのではないか.
20[6/28]三枝零一/ウィザーズ・ブレイン(電撃文庫)
滅亡の危機にある地球. 残された7つの閉鎖型都市で暮す弱き人々. その都市の存亡の鍵を握る少女をめぐり, 物理法則を操る「魔法士」たちが自分たちの信念を賭けて戦う未来アクション.
残酷な運命と過酷な行末がともに後にひけなくなった時, どこであきらめて現実と向き合うか, どこまで理想を貫くか. 物理法則すら凌駕しながら更に厳しい現実に向かう魔法士たちと運命を背負わされた人々の痛い思いが伝わってくる. 一歩間違えば人類の破滅につながる状況で敢えて理想を求めてハイリスクハイリターンに挑む彼らの戦いが, 10年前に似たような境遇に立たされた魔法士と今立ち向かう魔法士で対比されるのがよい感じ. 戦いのイメージがやや閉鎖都市巴里(川上稔,電撃文庫)に似ている(情報の記述)のと, 情景描写の文がそれぞれやや淡白な印象(文章の練り込みがやや不足なのかな?)で, 読む時にごつごつした印象を持ってしまいストーリーに浸るのにちょっぴり邪魔な気がしないでもないが, アイディア自体はまずまずまとめきれていてよいかと.
19[6/27]神坂一/トラブルシューターシェリフスターズMS mission02(角川スニーカー文庫)
トラブルシューターのMSコンビは内乱の惑星からある人物を脱出させる依頼を受けるが, 実はこの内乱の裏には…. アクションスペオペ書き下ろし編第2段.
前回とうって変わって今回は最初から最後までほとんど戦い続き. そういう面ではジェットコースター的で軽く一気に読めるのだが, その分おのおののキャラ描写はかなり薄くなったため, 結局読後の印象にはまた残りにくい感じがした. そんな訳で, 自分たちの存在意義を気にしつつ正面から取り組むのはとりあえず棚上げしているような, そんな印象が続くが, そのうち向かい合う事もあるのだろうか? それともそれはそれとして図太く生きていくのだろうか. ただ迷い出すとやたらと「…」が多くなって読みにくいのが難点. これが文章でだせるようになるとずっとよくなると思うのだけど.
18[6/26]田中芳樹&荻野目悠樹/野望円舞曲 3(デュアル文庫)
スペオペ第3段. 今回は国内で暴動発生. その裏で黒幕が, 工作員がうごめく.
スペオペとしてはこれだけ経済戦争について書かれているのはちょっと珍しいかも. 舞台の星が商業がベースで商家が力を持っている星だけに当然これなしでは語れないであろうが. もちろんそれだけでは終わらない. また主人公まわりが裕福な環境で育ったせいか現実認識が甘く, 回りには腹黒がいっぱいでなかなかはらはら. 相変わらず基本構造は銀英伝をモジった雰囲気はぬぐいきれないが, 元々あの雰囲気が好きで, でも銀英伝のみに固執するのでなければそれほど問題はないかなと.
17[6/25]田中芳樹&荻野目悠樹/野望円舞曲 2(デュアル文庫)
宇宙航行の要所であることを利用して栄える商業国家オルヴィエートを中心舞台に描かれる, 権力争いスペースオペラ第2段.
ある意味銀英伝のフェザーン的でもあるけれど, 勢力が細かい分腹の探り合いがあっちへ行ったりこっちへ行ったり. お陰でヒロインエレオノーラの身柄もあっちへ行ったりこっちへ行ったりと思っていたら, 最後に一発どかん. なかなかみなしたたかです. 例の艦隊戦ネタは銀英伝でも双星記でも似たようなのを使っているように, 一見派手な部分はどうしても何もない宇宙空間となるとネタが被りやすそうだから, 人間関係での裏の裏(の裏)を狙って楽しむのがメインとなりそうかな.
16[6/24]R.ファインマン/困ります、ファインマンさん(岩波現代文庫)
繰込み理論で有名な(教科書でも有名な)ファインマン先生のR.レイトン編集によるエピソード集.
特に後半のスペースシャトルチャレンジャー号の事故調査委員としての話が読み応えがある. 原因をなにかと隠す側との対決, という点もあろうが, やはりどこに着眼してどう解明していくかというのが大事ではないかと. そういう意味では前半の父親にまつわるエピソードでふれられていたものの本質に目をむけさせる父親の姿勢というのも素晴らしいのだろうと考えさせられた. 理系で勉強している人に限らず読んでおいて損はないんじゃないかと思う.
15[6/22]恩田陸/六番目の小夜子(新潮文庫)
地方の進学校を舞台にした「噂」にまつわる学生のドラマ.
まず噂の設定がとても巧みな印象. 現実にちょっとだけオカルティックな要素を注入してミステリアスな話にしていくのはこの作者のパターンみたいだが, オカルトが本題にならないでいやみにならず, (現実的な)登場人物や舞台の骨太の描写が読者の高校時代のノスタルジックな想い出とうまく調和してとてもいい印象を与える感じ. ミステリーとしては読み終わっても解決時のすがすがしさがあまり残らない結末のような気もするが, それを差し置いても十分楽しめた.
14[6/20]千葉暁/聖刻1092 黒の僧正編 6.宿縁の八聖者(ソノラマ文庫)
黒の僧正編完結. あとがきでも書かれていたが, 登場人物を絞ったことがストーリーの整理という点では効果を上げていたと思う. ガシュガル, オーザム, カッシート, ゾマと最初はどちらかというと悪役だったキャラが, 書き込まれていくうちに個性がはっきりしてきて同時にしっかりかみ合っていく辺りがなかなかいい感じだったと思う. 神に巨人に主人公の力がすっかりインフレしてしまってどうなることかと思っていたが, 八の聖刻とうまくバランスを取ってそれほど無理なくまとまったかなと思った. 長く続いているシリーズだがテンションや話の密度が落ちないのはさすが. 背景世界がしっかり構築されているからというのはあろうが.
13[6/20]千葉暁/聖刻1092 黒の僧正編 5.紅蓮の練法師(ソノラマ文庫)
巨大ロボット系異世界ファンタジーももう13年目だそうで. この巻ではクリシュナの過去, ジュレの出自, ガシュガルの意外(?)な過去と次々に明らかになる. いよいよ黒の僧正も復活でクライマックスまっしぐら. もはや一般人はカスというような状況になると, かえってむやみやたらとニンゲンキャラが増える事もなくて書きやすいとか? ここ暫くに比べると比較的読みやすく, なおかつ面白かったと思う.
12[6/19]一条理希/H.O.P.E. II(スーパーダッシュ文庫)
近未来スーパー少年医モノ(?)第2段. 主人公はすっかり人間らしくなってるしヒロインはすっかりしおらしくなってるしなんかびっくりだが, 今回に関しては登場し死んでいく彼&彼女のことを考えると(演出効果の面でも)こういう設定は必然だろうか. ウラ組織の扱いとか, なんか中途半端な警察とか, これならもっともっと密度をあげて痛さや緊迫感を畳み込んでいくような演出もできるだろうなぁなど思う事もあるけど, ティーンズを対象にという点では最後に問題の病気の真相ばらしにしても説明は難しくなく, かといって荒唐無稽でもなく, いいバランス感覚かな. 引き続き先が楽しみなシリーズになった.
11[6/18]鏡貴也/武官弁護士エル・ウィン(富士見ファンタジア文庫)
元気な恋する乙女(?)の一人称で生きのいい表現が魅力の, 魔法も神もエルフもドラゴンもいる異世界ファンタジー. 弁護士といいつつ裁いてしまう設定がどの程度魅力あるか, というのは置いておいて, イマイチクライマックスになるべき事件の描写が一人称で煽っている割には淡白で, 盛り上がりに欠ける印象が残ったのが残念. 更に何度でも書くけど安易に死者が復活してくるのはそれだけでげんなり. はじめから納得できるような復活するためのシステムが書かれている場合を除いてはそれを 落ちにしては醒めるだけなんだけど, 一般にはそうでないのかなぁ?
10[6/17]B.スターリング/タクラマカン(ハヤカワ文庫SF)
SFといっても近未来社会の描写というのがメインで人自体のしている事はあまりあっというような科学的ネタと連動してとか取りたてて人が魅力的とかいう訳でもない感じだったので, 最後の「タクラマカン」を除いてはやや読みづらかった. まあ私のSF(狭義)は宇宙で冒険!宇宙の驚異!だから単に肌にあわなかったという事かもしれないけど.
9[6/17]秋田禎信/魔術士オーフェンはぐれ旅 我が戦場に踊れ来訪者(富士見ファンタジア文庫)
第一部もとっくに終わり, メインであったネタあかしの旅のミステリアスさがなくなり, どんなもんかなぁとおもいつつ読みつづけているこの作品だが, 読ませる雰囲気の出し方は相変わらずよい様で, 結局ついつい引き込まれる. ただし落ちのつけ方がだんだんぱっとしなくなってきている感があるので, 今回も今後に続くということでその辺に期待と不安.
8[6/16]清水良英/激突カンフーファイター(富士見ファンタジア文庫)
現代を舞台にしたはちゃめちゃというかこてこてというか, な…アクションかこれ? すみません. どこがおもしろいのか分かりませんでした. ひっきりなしのギャグだかオチだかのテンポ感は悪くないからげんなりってほどでもないのだけど, 笑うに笑えない, シュールというほどでもない, はなからストーリーはどうってことないので, この作品の感性にあう人にしか読めない出来という気がする.
7[6/14]高千穂遥/ダーティペア 独裁者の遺産(ハヤカワ文庫JA)
ライトノヴェルズ的歳寄りにはすっかりおなじみペアによる爆走スペオペの番外編. 元のキャラの作り方がいいのか, 最近の作でもやはりFLASHよりは元祖の方がよい感じ. ユリ&ケイのデビュー(?)当初の話という事もあってか例によって大事を起こす割に話はかなりシンプルでもありさくさく読める. その分多少物足りなくはあるが.
6[6/12]太田忠司/新宿少年探偵団 摩天楼の悪夢(講談社文庫)
テンポや展開も安定していて今回も非常に読みやすい. 今回に関しては犯人側の心情を考えると結構痛いものがある. ジュブナイル的な要素も強い作品だけにあまりどろどろはさせないのかもしれないが, よくある「誤解オチ」をつけず, 書ききってくれた方がよかったかも, とは思った.
5[6/10]栗府二郎/創星の樹 2.リシュール・ザ・ブルーフィンガー(電撃文庫)
センテンス, トピックごとのつながり方がもう少し有機的に見えるようになるともっと楽しめる文章になると思うのだけど. それからもう少しずつそれぞれの話題を膨らませられるといいなぁという気も. 無理して膨らませて薄くなるならいらないけどね.
4[6/9]火浦功/未来放浪ガルディーン 3.大豪快。(角川スニーカー文庫)
本編は実に14年ぶり. 出てくる「例え」が一気に新しくなったのが笑える. しかしまた今後も出そうなキャラが追加. どの程度まで話が広がっていくのか分からない. この人の作品, オシャレなひねくれがひねくれすぎると鼻についてあまり面白くなくなる気がするので, たまにはちゃんとまとめて終わらせてください….
3[6/3]宮部みゆき/平成お徒歩日記(新潮文庫)
宮部さん初の非小説本. だんだん後半になってくると歩いて小説に使われる歴史に縁の地を, というのからそれていくような気がしなくもないのでちょっと惜しいなと.
2[6/3]小川一水/グレイチェンバー(JUMP jBOOKS)
続くのかなこれ? だいぶ中途半端. 主人公の女の子は優等の部類で仕切り屋だけどあまりいやみがない, わりとライトノヴェルズらしいキャラといえるかな. 内容的には用語の使い方や異界や異生物とのつなげ方はなかなか興味深く読めたが, 学生の方がもうちょっといろいろ個性が出るといいかなと. まだ落ち着いて状況を見極める, という段階ではない部分もあるが, 簡単な後ろ向きの解決法に気が回るならポシティブな前向きな解決を目指そうという意欲くらい見えて欲しいというのは普通の学生には理想すぎかな? しかしあのプラチナバトン欲しい…(爆).
1[6/3]乙一/失踪HOLIDAY(角川スニーカー文庫)
短編と中編の2本収録. しあわせは子猫のかたちは切ない系の話. ちょっと気持ちがすさんでいる時にいいかな. 失踪HOLIDAYはいろいろ伏線引いて引っ張っている割になんとなく話がひっくり返って終わってしまうので, 本線でももうひと押し欲しいという気分に. ただこのエピローグの書き方だと, そういう方向性と思った方がいいのかなとも思うが.