読書履歴2001年9月


新刊16冊+古本3冊+再読2冊 = 合計19(+2)冊

16[9/30]宮部みゆき/心とろかすような マサの事件簿(創元推理文庫)
引退した警察犬マサが引き取られたのは探偵事務所. そこの社長の娘と一緒に仕事をする. 犬の目から見たミステリ短編集.
10年近く前の短編に単行本化したときの書き下ろしがついたものの文庫化ということで中身はやや古い. そのせいなのか, それとも犬のレベルで分かる話だからなのか, 割と事件そのものは難しくない. 宮部みゆきの場合事件の解決そのものよりもそれを取り巻く描写と事件解決後の話の落としかたに特色があるので, そういう意味では事件の難易度は話の面白さにはあまり関係ないかなとも思うが. ただ前作の長編に比べると犬が人間と話せない以外は他の動物と気軽に意志疎通したり人と同じように考えたり, やや擬人化が強すぎるきらいがあってちょっと鼻についた.
15[9/30]浅田次郎/見知らぬ妻へ(光文社文庫)
愛と孤独の短編集(?)
かつての愛情や友情から決別して孤独の道をすすむ人々の切なく痛い話とか, ものによってはほろ苦いものとか. 例によって(?)やーさん絡みとか会社社会からはみ出た人々の描写が丁寧. 中では落ちこぼれたチェリストの話スターダストレビューと偽装結婚相手に恋をした見知らぬ妻へがいい感じだったと思う.
14[9/28]村上春樹/スプートニクの恋人(講談社文庫)
作家を目指す彼女は彼を特別な友人としては見てくれるが恋愛としてみられない. そんな彼女が突然年上の女性に恋をした. やり手の女性だった. しかしその女性は…. 屈折して入り組んだ青春の恋愛模様.
村上春樹を読むのは久々だが, 今回もなんとなく醒めて観念的な男の主人公の妙に哲学的だけど同時に俗物的な比喩が不思議な雰囲気を醸し出す. この現実感の有りそうでなさそうな世界の描写と彼の描写がうまく物語世界を作り上げていく感じがよかった.
13[9/24]乃南アサ/冷たい誘惑(文春文庫)
ちょっとしたことから拳銃を手に入れてしまった普通の人々. そんな人々の銃に誘われる微妙な気持ちを描いた連作短編集.
出てくるのは特殊な人々ではない, でも銃を持ったことによってふと銃に力をもらう危うい感覚. そして銃を使うかどうかという微妙なバランスの上に描かれているが, 話の結末はどれも乃南さんらしくうまい余韻を残す. 悪くないと思う.
12[9/23]茅田砂胡/スカーレット・ウィザード 5(C novels fantasia)
子供を幹部に拉致された2人は最新設備を誇る機動要塞内への突入,奪還プランを練る. 親友の女優や軍人の手を総動員して行った大掛かりな作戦の行く末は…. 完結編.
うーん. こうきたか. 正直言うと今まで4冊に比べるとあまりスリルもわくわく度も高くなかった. 突然出てきた武器, 中途半端で終わってしまったチューニング, あっけなかった突入作戦, 実際の戦闘だけ派手に暴れればいいってもんではないけど, やっぱりもっと効果的に使えるネタだったかなあという気がしないでもないちょっと物足りない印象が残った. それはともかくウィノナといってすぐにぴんと来ない辺り, 話のはじめをすっかり忘れている. 伏線をせっかくひいてもらって話をきちんと閉じてもこれではもったいない. やっぱり最終巻の前には全部読み直した方がいいんだろうな.
11[9/19]森岡浩之/星界の戦旗 III.家族の食卓(ハヤカワ文庫JA)
帝国に併合された直後に人類統合体に持っていかれたハイド星系が軍事作戦で帝国に戻ってきたのに伴いジントは休暇を取ったラフィールとともに故郷の惑星マーティンへ向かう. しかしマーティンでは現在も帝国への帰属を拒んでいた.
ここまでジントとラフィールが話の中心になってしまった以上まだ2人をはずすのは難しいかな. アーヴと他人類との戦いをずっと描いていくには彼ら2人に縛られると難しい面も有りそうだが, うまく都合をつけて続けていってほしい.
10[9/16]新木伸/星くず英雄伝 9.鏡像宇宙の小姫(電撃文庫)
どこだか分からない惑星に不時着したジークたちヒーロー養成校の生徒約200人. 救助の見込みは少なくともしばらくはなく, 自給自足のジャングル生活をはじめたのだが…. 果たして無事に脱出できるのか?
水素原子4つでヘリウム1つですか. 陽子を中性子に変換してるのかな?
まあそれはおいておいて, 大気と重力中を飛ぶ宇宙船をまあよく表で手作業で作りますなぁ. その他の惑星に関するアイディアとかはそれなりではあるけど, ちっとも主人公は活躍しないしこの4部作のメインキャラらしい彼女もちょっと出てくるだけだし, ある意味無意味に話を延ばしすぎている印象があるんだけど, ちゃんと後半のクライマックスの伏線とかひいてあるのかな? もしないのだったらこんな話星くずでやってくれる必要ないです. 他にシリーズ上げるなり読み切り書くなりしてやってください, というのが本音. 問題は主人公の能力をお預けしちゃったことなんだけど, あっさり復活されても変だし, 復活するまでをだらだら続けられるのもうざいし, その辺なんとかやりくりしてくださいな. もちろん最終的に復活するならの話だけど.
9[9/15]水野良/新ロードス島戦記 2.新生の魔帝国(角川スニーカー文庫)
邪神戦争で敗れたマーモの軍勢の生き残りはベルド皇帝時代の再興を夢見て新帝国をたち上げる. 国内の整理が一段落ついた公王スパークは諸国歴訪に出るが, それにあわせて魔帝国側は襲撃をかける.
イラストが変わったが, 美樹本さんのイラスト, いい場合と悪い場合があって今回はあまり好きな感じではないな. 出淵さんが忙しいというのは仕方ないけれど残念. で, 内容はまず魔帝国側にかつてあった強さを極めたものだけが知る(らしい)自信の影にある寂寥感というか哀愁というかのまるっきりないキャラばかりでかなりこじんまり. また主人公がいかんせん政治的にエライ地位にいるため強者側がひたすら自分より弱い悪者(使う魔獣はもちろん強力だけれど)を抑えつつ平定していくという展開で, 敵味方のバランス感が悪くなってしまったような感じがする. 今回も前回の期待はずれな印象をぬぐえなかった.
8[9/12]三田誠/聖獣戦争 虎は歪める(角川スニーカー文庫)
千年に一度蘇るという聖獣の一柱「激怒の紅虎」を尋ねるよう助言されたウルズ一行は, 封じられている紅虎の亀裂を目指す. 一方片割れアズナートは中原最古の女王スーリアにその紅虎の捕獲を依頼される. それぞれが裏に事情を抱えながら虎の目覚めの日に紅虎の亀裂に集まって行くが.
前2作に比べるとキャラの動きがだいぶ自然になってきた. ただどうも説明によって事態が明らかになることが多く, キャラの動きにより話が進んでいくというのに比べるとちょっと物足りない.
7[9/11]碧川慧/ウルフゾーン(sony magazines novels)
月へ出張に出かける姉を宇宙港まで見送りに行った高校生マキは騒ぎに巻き込まれ, 逃亡者が残したメモリーチップを拾う. これを覗こうとした彼女と幼なじみのケンはある会社のウェブサイトにたどり着くが, 逆にこの会社から命をねらわれることになる. この組織を問題視する環境局に助けられながら月へと逃れた彼女たちは, 今度は組織の秘密を暴くべく工場へ乗り込むが….
雰囲気がかなり行き当たりばったり. 主人公の性格が考えずに突き進むタイプのせいもあるが, それを周りが止められずに振り回されながらも窮地を運で切り抜けてしまうからあまりスリリングにならない. 各エピソードがもう少し膨らめばいいような気もするがさっさと片がついて場面だけがころころ変わってしまう感じで, 全体として話をクライマックスへ持っていくという点でも物足りなかった. それに肝心の結末もその解決は彼らの行動と矛盾を感じるしどうかな.
6[9/10]櫻井牧/銀砂の月坤の群青 癒し神の章(A novels)
家を勘当されて東京でフリーライターとして働く克巳は美女と数人の男たちの夢を見る. それからまもなく夜中に突然呼び出された彼は, その夢で見た場面に遭遇するとともに父から「木気の長」であると告げられる. 彼らの一族は古来より五行を操って世界の歪みを修復し, 安定を保ってきたのだというが….
この作者初のシリーズもの. 現代を舞台にした割とオーソドックスな感じの五行モノか. 実は自覚していないすごい力を持っていて突然重大な責任を負わされるというのはありがちだが, 敬愛する兄が出来過ぎだった, 一応長の決定は完全に実力主義である, というあたりと彼の性格を上手く膨らませればもうちょっと自然な立ち上がりになったかなという気はした. 話はまだ立ち上がりでこの巻だけではそれほど大きな山場もないし, 主人公とヒロインを除くとまだキャラ造形も十分ではないのでなかなかこれは面白いといえる段階ではないが, とりあえずは続きを待ちたいと思う. 遅筆作家が不定期刊行で売り上げも苦戦気味らしいA NOVELSではじめた長編シリーズということで, 果たしてちゃんと完結するかという心配はあるのだが.
5[9/9]安井健太郎/ラグナロク EX.DEADMAN(角川スニーカー文庫)
かつてリロイの相棒だったジェイス, 彼に焦点を当て, 彼がグレていく過程(?)を描く.
能力の違いすぎる種族間の感覚の違いと埋められない溝. その辺はリロイの相棒らしくあまり素直ではないが, 行動で十分描かれていたと思う.
4[9/9]庄司卓/ファンタシースターオンライン 2.闇の因子(角川スニーカー文庫)
いきなりハンターギルドに現れた, 行方不明になっていた宇宙移民船パイオニア3からのメッセージにより, ギルドや軍部の上層は不可解な動きをする. その中でパイオニア3に導かれた鍵を握る人物とそれを追う関係者たち. 結末は?
世界を構築する用語があまりに普通なのはまあゲームだから仕方ない面もある. が, マッドサイエンティストものとしては割とてきとーであまり面白くない. 主役ペアが体力派と色男というのはややバランスとして頭を使わないのがさびしい. とはいえ結局本の薄さとゲームの背景の事件というせいもあってかあまり話は膨らまなかったが, その範囲の中ではまずまずきちんとまとまっていたと思う.
3[9/7]庄司卓/ファンタシースターオンライン 1.光の継承(角川スニーカー文庫)
人口増加に伴う植民惑星の開発, その移民団の目の前でのセントラルドームの爆発事件から5年, その事件で闇に葬られた真相を暴くため, 当時その事件に直面した人たちが動く.
ゲームのノベライズである. 世界の構築とキャラクターの特徴づけ, 話の発端の描写で終わってしまっているあたり, やっぱりそんなもんかと思えてしまうところは結構ある. ただもともと世界の特徴付けがメインのノベライズであるからあまりストーリー内での「動き」というのは期待しづらい面はある. 世界の構築がしっかりしていることと(これはゲームがいいのか)描写が丁寧であるため(これは作者の技量か), 読んでいて粗が目立つというタイプの悪さではない.
2[9/3]D.シモンズ/ハイペリオンの没落(下)(ハヤカワ文庫SF)
惑星ハイペリオン「時間の墓標」巡礼のメンバーはいよいよ開く時間の墓標とおのおのの問題と対決する. その一方連邦は「蛮族」アウスターの一斉侵攻に苦戦を余儀なくされる. 高度AI群「テクノコア」の予測を信じてアウスター戦に戦力を注ぎ込む連邦だったが.
物語の前半といえるハイペリオン(上下)はある意味ハイペリオンに巡礼が集まってきた個々の過去の理由の物語であって, それぞれが魅力的であったことは否定しないが現在としての動きが物足りない面があったのも事実. 今作はそれらで提示された謎に動的に臨み, あかされていく過程がスリリングに描かれていて非常に楽しめた. なお過去の名作のガジェットを集めて高度に消化,リミックスしたというのが一般的な書評のようだが, 他作を知らなくても十分楽しめる.
1[9/2]B.マーフィ/墜落事故調査官(二見文庫)
メキシコの山岳地帯に墜落,乗客乗員全員死亡の飛行機事故のNTSB調査団の団長の病気に伴い, なぜか新たに団長になってしまった最年少メンバーのロン. 型破りな捜査を進めていくうちに裏でうごめく大きな影が….
事故後の調査を舞台にしたという点ではエアフレイム(M.クライトン,ハヤカワ文庫NV)的であるが, こちらは事故調査の背景の中におく力点が少々違うので, そういう意味では別に楽しめる. どちらも機体の特性をよく生かした事故原因と捜査を行っていておもしろいが, キャラの造形の深さと描写の緻密さでちょっと及ばなかった印象はあった. また, 比較的早い段階で原因が推測される流れとなっていてしかも終わり方が必ずしも鮮やかでなく, ミステリーとしてはそのあたりが物足りないかと.