ヨーロッパ週末ぷち旅行記 : Part 43

死の山の緑のバルコニー(オーストリア)

2006年8月19日(日)

オーストリア地図
周辺地図

[ザルツカンマーグートの端っこ]
一応南をDachstein, 東をAlmtalで区切られるザルツカンマーグートの, その南東の端にあるのがTauplitzである. このTauplitzの村の北側にあるTauplitz Almは六つの美しい湖…というか池?を抱える高原台地で, 是非一度訪れてみたいと思っていた. またTotes Gebirgeを挟み, Tauplitzの反対側に当たるHinterstoderはAlmtalと並び, Totes Gebirge(死の山々)の北側岩壁が美しく見える地域で, こちらも一度訪れてみたいと思っていた. 今回の日帰りハイキングにあたり, いっそこの際両者をつなげてしまえ, ということで, Salzsteigjoch経由でHinterstoderへ降りることにした次第.

8月19日(土)

[Tauplitz : Shuttle Bus]
よく晴れたTauplitzの駅を降りると, とりあえず便所へ. それからさて出発. 駅から村までは少々距離があり, 20分ほど歩く. 地図を確認してさて, と歩き出すと, 後ろでなにやらこちらへ向かってギャーギャー騒いで(?)いるお姉さん2人組が. ちょっと距離があって何言っているのかよく分からなかったが, すぐにミニバンが追いついてきて, 運転手が村へ行くなら乗れと. アヤシイ車じゃないだろうなとよく見ると, フロントガラスに[Shuttle Bus]と書かれた紙があり, 子供が一人乗っていた. そんなのがあるのか. ふーん. なんかタダらしいのでありがたく乗せてもらう. ほんの数分で到着.
さて, 今日のTauplitz(タウプリッツ)は自転車レースの日ということで, 村をぐるっと回るようにコースが延々と切られていた. 地図をぱらっとみると, どうやらほんの数キロの周回コースで, 昨年のNaudersの長距離MTBコースのような本格的(?)なものではないらしい.まだレースは始まっていないようなので, 適当にコースロープを潜りつつ村を半周してリフト乗り場へ向かう. 朝日を浴びた緑の草原が, Grimmingをはじめとする周囲の岩山をバックにまぶしい. のどかな素敵な風景だ. 緩く登ってゆくとまもなくリフト乗り場に到着.
[Tauplitz → Tauplitzalm : リフトで20分空の旅]
ここからはリフトでTauplitzalmへ上がる. 4人掛けのリフトはまだ改装されてそれほど経っていないはずで, それなりに綺麗. 中間駅で乗り換えがあり, 前半は緩やかな草原の上をとろとろと, 後半は森林の中をぐいぐい上ってゆく. 冬のスキー運用が主力で, 夏はがらがら. 車でも上がれるしね…. 先に乗ったグループに足があまり達者でない人がいたらしく, 乗降時にいちいちリフトを一時停止. 中間駅で追い抜いたら, 私が乗って間もなく, ちょうど谷越えの一番地面から高度のあるところで一時停止してしまい, 数十秒宙ぶらりん. まあ別にたいしたことはないけど. そして森林を抜け, 目の前に再び草原が広がりだすと同時に頂上駅舎が見えてすぐに到着.
[Tauplitz Alm : 緑の野原の間をとことこと]
たどり着いたTauplitz Almは標高1600mの高原地帯. 標高2000m前後の多いSalzkammergutの山々が抱えるには分不相応な(?)緑溢れる高原である. このバックの山々をTotes Gebirge(トーテスゲビルゲ, 死の山群)と呼ぶため, 俗称「死の山脈の緑のバルコニー」というらしいが, どの程度一般的かは私は知らない. 容易に車で上がれるせいか, リフト頂上駅周辺に宿が数軒. ハイキングコースも多分に作業道路兼用で作業車が入れる. せっかく草原に来たのだからもう少し草原の道を歩きたいとも思うが, まあこれがこちらのパターンである. 既に遊んでいる&歩いている家族連れなどの姿があちこちに見える. 私も靴の紐を締めなおしていざ出発.
Tauplitz Almには小中六つの湖があり, リフト駅から見ると三つずつ東西にある. 全湖の周回ハイキングも考えたが, 今回はTraweng登山とHinterstoderへ降りることを考えると時間の余裕がないため, 西側はカットした. ただしそのうちの一つは歩き始めて直後の展望地点から見下ろすことが出来る. もう夏も終わりのチロルと比べると, この高度ならまだ花々も咲いており, 緑も勢いがある. カラフルな彩りは湖周りでもうってつけ. 今日はやや空が霞み気味ということもあってこれは嬉しい.
さて, 15分ほど東へ歩いていくと, 最初の湖, Tauplitzseeへ到着. ただしこれは湖といっても小さな水溜りみたいな小さいものである. 少しだけ窪んでいるためハイキング路から少し降りる. ほとりでは牛さんがぞろぞろのんびり草を食んでいる最中. 毎度お邪魔いたします, ちょっと通してください. あ, そこの方, わざわざ立ち上がらないように!(苦笑) …無事通過.
[Traweng往復 : 岩山の上から360度]
この湖の北側を回り, 再び南側からの作業道兼ハイキング路と当たる直前の山小屋, Marburger Hütteの脇がTrawengへの登山道…のハズなのだが, 標識がない…. 山小屋は冬期封鎖中? ちゃんとKompass Mapに書いてあるハイキング路が分からないなんて? と思いつつ注意して探すと, なんとか踏み跡が. これ, 小さな沢? みたいなところをちょっと歩くとようやく標識があり, そこからは登山道らしくなっていた. ほっ.
さて, 今日目指すTrawengはTauplitz Almの北側に伸びる山稜のピークの一つ. 一般登山道ではあるが, 結構急な坂道である. 最初はちょっと砂利っぽい道で, この下りは気を使うなあ, とのほほんと思いつつ登っていったが, 本当の正念場はその先だった. うわきつ! さすがに手を使わずに登るのは少々無謀ということで, 砂利や浮石で滑らないように注意しながら3点支持での上り. なんか後ろのいちゃいちゃおてて繋いでカップルなんて大丈夫かね?(苦笑) ともかく15分ほど急斜面を登るとようやく傾斜は緩くなり. 道は岩がごろごろした緩斜面へ向きをかえる. ここからは既に上の方に頂上の十字架が見えている. もう一息! 傾斜はきつくないが, 大きな岩の上を伝って歩くため, ちょっと歩く道を選ぶ. 最後に頂上直下のお花畑へたどり着くと, 後はぐるっと頂上を半周巻きながら登る. 40分で無事到着. 一応目安は1時間15分とか書いてあったかな. まあまずまずのペースか.

Traweng
Traweng(トラヴェング)の頂上からはTauplitzはもちろん, 西端のLawienensteinや, 向こうにはこの地方の盟主, Dachsteinの岩峰と氷河の姿もばっちり. 2000m直下まで登ってくると, 下からは圧倒的迫力のGrimmingの岩峰もなんか普通の岩山に(苦笑). 良く目を凝らすとその奥にSchladminger Tauernの2800m級の山々も雪を被りながら姿をのぞかせている. 東にはTauplitz有数の奇岩峰Sturzharnの岩塔から北のTotes Gebirge主稜線へと, その荒漠とした岩肌を連ねている. 森林限界すれすれのため, 斜面の緩いところには結構ハイマツなど針葉樹の木々が見えたりするが, それでもこれだけ岩峰がだらだらと続くと, 昔の人がTotes Gebirgeとなづけたくなるのも分かるかなあ. ただし惜しむらくは, 湖群がさっぱり見えないこと. せっかくの眺めなのだが, 画竜点睛を欠くというか. うーん. しばらく風景を堪能. 頂上に一人手ぶらの子供がいたのだが, 実は途中で抜かした3人組の息子さんだったらしい. やはりこういうところは親より元気だね(笑).
帰りは同じ道を引き返す. こういう砂利の急斜面は上りよりむしろ下りが怖い. いつにも増した超鈍足下降で, 慎重に降りていったのだが…結局一回やってしまった. つるっ! …軽く足ひねったな. まあとりあえず大丈夫そうだが. 息が抜けない. 結局下りの所要も40分. 上り下りペースが変わらないなんてやっぱり下り下手だなあ….

[Steirersee, Schwarzensee : 碧の湖, 黒い湖]
無事Marburger Hütteへたどり着くと, そのまさ更に東へ. 再び作業道から離れて, ハイキング路を少し歩くとすぐにSteirerseeを見下ろす展望台に到着. ここにはベンチなどもあり, ちょうど昼時ということもあってランチにしているグループが多数. 下に森に囲まれた碧のSteirerseeを見下ろす絶好のロケーションだものね. パンフレットにも使われるような, ちょっと神秘さの漂う落ち着いた雰囲気に見える湖である.
ここからは一気に斜面を下りて行き, 展望台と湖の真ん中辺りで再び作業道と合流して, 湖岸の二つのHütteへ. ここからは作業道は湖の北側斜面を湖岸へは降りずに巻いて走るが, せっかくのハイキングなので, 南岸の湖岸へと斜面を降りる. …なんか後半半分はハイキングろと沢が重なっているような…. なんか微妙に整備されてるんだかされてないんだか分からない道だよな(苦笑).
さて, 湖岸へたどり着くと, 上からは見えなかった手前側(西端)湖岸でわいわい遊ぶグループが数グループ. 実はこの湖は遊べたのか! 遊べたのはいいけれど, 小さい子供はともかく, FKKじゃあるまいし, あまり大人が全裸で泳がんで欲しい…. 水はそれほど冷たいということもなく, 透明度はまずまず. そしてSteierseeの南岸から見ると, バック(北側)にシンボルSturzharnと先ほどのTrawengが後ろにでんと控えていて頼もしい…のか?
この辺りから, 反対方向から歩いてくるひとが徐々に増えだす. どうも行きは作業道を歩き, SchwarzenseeかLeistalmまで行って戻る帰りは湖岸を歩く人が結構いるのかもね. 道は湖岸から斜面に2,3段にわたって段々に細い道が伸びているため, すれ違う人とは違う段差の道を使う. 挨拶すると返事が返ってくるのは半分強. いつも通り, たいていあまり登山をしない雰囲気の人ほど返ってこない. しかしそれにしてもこの辺, やっぱり話す言葉がなんか激しく訛っている….
15分ほどで南岸を通過し, 再び10分ほどゆるゆると森の中の斜面を登ってゆき, 作業道と合流した直後が最後の湖, Schwarzenseeの展望台. こちらは北側が岩壁, 他三方は草原の緩斜面で先のSteirerseeよりは開けているが, 一方で湖面の印象はこちらの方が黒々としている. 深さの関係と成分の関係だろうが. 斜面の草原では老人グループがぞろぞろ休憩をしていた. 何人か, 「若者は年長者に挨拶せい!」みたいな顔でこちらを見ていたのでにっこり挨拶したら, やけに力強い挨拶が返ってきた. しかし老人の会話はもはやそれ何語? みたいな訛り具合. 恐るべし, Steiermark州の田舎(苦笑).
ここも再び南岸少し上を西から東へ抜ける. ここからは少し低木と草地の緩い上りを歩き, Tauplitzの最東端, Leistalmへ到着する. ここまで来て折り返す人が結構多いのか, 山小屋のテラスや周囲の草原でのんびりする人が結構いた. 草原の向こうにはかろうじてDachsteinの頂上が望まれる. 奥まで来たなあという感じ(?) 私も山小屋で一杯飲物を頼む. なんか訪問者ノートに書けというので, ドイツ語と日本語を併記して一言. 「日本より愛をこめて」ここに書いた日本人なんてかつているのだろうか?(苦笑)
[Salzsteig : いざ, 下らん!]
ここからは後半戦に入る. 北側のHinterstoder方面へ降りるのだ. ここのルートはSalzsteig(ザルツシュタイク, 塩登り)といい, その名の通り, 関税だかなんだかの勢力争いの関係で正規のルートでHallstattやBad Ischlなどの塩が運べなかった時に, ここを越えて運んだとかなんとか. いやでもこの坂そんな荷物持ってほいっと上るようなルートじゃないよ?(苦笑) Leistalmから峠のSalzsteigjochまでは一人旅. さすがにここを下る人はほとんどいないらしい. 峠でちょうど登ってきた人らしいグループと続けて3組すれ違う. アクセスの関係で同じような時間になるのだろうな.
Salzsteigjoch(ザルツシュタイクヨッホ)から見下ろすと, 下方まっすぐ先に目的地, Hinterstoder-Dietlgutも見えている. おお近い近い…と思ってはいけないのは学習済み. でもやっぱり目的地が見えると元気が出るというか. ここで上りから下りへ切り替えということで, 少し休憩, 靴の紐を締めなおしてちょっとストレッチ. 体力はまだ大丈夫, うん.
さて, 下りはまず, 再びの砂利の急坂. しかし今回は軒並み捕まるところがなく, しかも滑ればそのまま隣の沢へ転落死! とにかくここは基本に忠実に, 浮石に注意しつつ, 重心が真下に来るようにそろそろと移動. かなり慎重に下ったが, それでもあっという間に下に見えていた目印の岩峰が近づいてくる. 励みになるなあ(苦笑).
砂利の斜面が終わり, 樹林帯に入り始めると, 今度は鎖場の急坂が連続. 鎖と周囲の岩などに捕まりながら更に一気に下ってゆく. うーん, 確かにここを登るのはしんどいだろうが, でも間違いなく登りの方が気を使わないし, 楽しそうだ. 逆コースにすべきだったかも…. 最後ガレ沢を慎重にトラバースすると間もなく急傾斜は終わり, ここでもう標高差的には2/3程度は降りてきたことになる….
ここからは少し緩くなった斜面をジグザグに. 標高が下がると気温が一気に上がってゆく. 昼過ぎにはうっすらかかっていた雲も降らない場合はたいてい午後には飛ぶため, 草原へ出ると日差しもきつい. 適当に水を補給しつつほいほいと降りるが, ここまでわずか1時間弱の下りで一気に膝はガクガク. いやあ応えるわ, こういう下りは. そしてついにやってしまった. コケで滑る石の上でツルリ! 少し膝の裏を伸ばした感じ. う〜ちょっと痛いな. まあほぼ普通に歩けるけど. 最後の下りを慎重に降り切って1時間半弱で無事谷底へ! ふー疲れた!
Poppenalm
しかし降り切ったPoppenalmから見上げる岩壁は素晴らしい! いまやすっかり晴れ渡った青空に日の光を浴びた岩壁は輝き, こうした岩峰に三方を囲まれたStoder谷の先端からの眺めはあまりに鮮やかだ. 途中一人だけ追い抜いたがほとんど今の景色は私一人のもの! この感動が田舎歩きの醍醐味である. さあ, あとは緩い下りをバス停までもう一歩き!
[Poppenalm → Dietlgut : それがきついのだ]
…とは言うものの, 下りきった後の平坦道. 特に林道歩きというのは激しく疲れる. 既にハイキングの目的は達成して, 帰るためだけに歩いているのだから, 一層疲れが増す. しかも今回は砂利道が多かったということで途中で小石が何度か入って足が結構痛んでいるし, もちろんTrawengでひねった足首とSalzsteigで伸ばした膝裏も気にかかる. あちこち気にしながらの緩い下りはへとへと. 途中でOberösterreichを代表する河川, Steyr(シュタイア)川の源流へのハイキングコースが分離していて, 片道ほんの5分ほど歩けばたどり着けたのだが, すっかり元気なし. マイカーで源流だけ見に来る家族連れなどはラフな格好で足取りも軽く歩いてくる中, 一人えっちらおっちら重い足を持ち上げる. きつい1時間ちょいであった….
[Dietlgut → Hinterstoder : 親切なお兄さん]
なんとか無事到着したDietlgutであったが, 肝心なバスの停留所が見つからない. ここからHinterstoder本村までのバスはプライベートバスで, 国鉄バスのようなちゃんとした看板はないかも…とは思ったが見つからないとは…. しばらく車道沿いに歩いたが, 地図を見る限り明らかに行きすぎ. う〜困った. 乗り遅れてここからHinterstoderまで歩くと更に6km近い. もう歩きたくない….
そんなところへ通りかかったのがオープンカーのお兄さん. 日焼けほやほやみたいな(笑)いかにもハイキング帰りで私の脇につけると, 山を降りてきたのか? どこまで行くのか? Hinterstoderの駅ならついでに連れてくよ! といって乗せてくれた彼は, 実は私と反対コース, Hinterstoder側から登ってTauplitzへ降り, 行きに使った車を回収に再びここまで来たのだとか. なにやら材料関係の技術職とかで仕事は街中らしく, 英語も堪能だが, 実家がHinterstoderでよくこういうことをしているらしい. 駅からここまでは姉が送ってくれたとか. 他所の人がよくこんなルート見つけたね, などといわれたが, 実際日本人で今までこのSalzsteigを歩いた人はいるのだろうか? 皆無ということはないと思うが….
ともかくすいすいあっという間にHinterstoder(ヒンターシュトーダー)の駅まで送っていただき, 大変助かりました. Hinterstoderの村でバス待ちの間に一杯やるプランだけは潰れたが(苦笑), まあそれは帰ってからでもいいことだし. なんにしてもローカル観光客がぱらぱらくるような田舎は概ねおおらか. それが場所によっては保守的政治嗜好に繋がる場合もあるけど, たいていはいい人である.

予想していたよりは少々きついコースであったが, 無事目的の風景を眺めて楽しむことが出来, 親切な人にも助けられて満足のハイキングとなった.


現地の行程

8/19
(Sat)
Tauplitz Bhf dep 09:00 Shuttle Bus --
Tauplitz Dorf arr 09:02
Tauplitz村通過
Tauplitz リフト乗り場 dep 09:10 Berglift
Tauplitz 1+2
9.0 Euro
Berg Station arr 09:30
dep 09:30 徒歩 --
Tauplitzsee via 09:45
Marburger Hütte via 09:50
Traweng頂上 arr 10:30
dep 11:00
Marburger Hütte via 11:40
Steirerseehütten via 11:50
Steirersee南西端 via 12:05
Steirersee南東端 via 12:20
Schwarzensee西 via 12:30
Schwarzensee東 via 12:45
Leistalm arr 13:00
dep 13:15
Salzsteigjoch via 13:45
Poppen Alm via 15:15
Steyr Ursprung Abzw. arr 15:50
dep 15:55
Wh. Baumschlagerfeith via 16:00
Hinterstoder Dietlgut登山口 arr 16:30
dep 16:40 (車)
Hinterstoder Bhf arr 16:55

参考


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