「舌切りスズメ完結篇」

おじいいさんが拾ってきたスズメに選択のりを食われた怒りに任せてそのスズメの舌
をハサミで切除したその日から、スズメの舌を切除するという行為に異常とも言える
快感を覚えてしまったおばあさんは、今日も真夜中にハサミを持って竹林にでかけて
いった。

明け方、欲望を満足させたおばあさんが家に帰ってみると、おじいさんが何やら小さ
なつづらを持ちかえって寝ていた。

つづらの中には小判がざくざく入っていた。

「おお、ばあさんや、どこに行っておったんじゃ。わしはスズメのお宿まで行ってカ
クカクシカジカでつづらをもらってきたよ」

「まあそうですかおじいさん。よかったですね。私はもう寝ます」

そう言っておばあさんはあっさり寝てしまった。おばあさんは金品や名誉などには興
味が無く、興味があるのはスズメの舌をハサミでジャギッっと切除するあの瞬間と興
奮と快感だけだった。

翌日の夜、おばあさんはまたハサミを持って竹林へと出かけて行った。そうして朝日
が戻る頃になると満面の微笑を浮かべて帰宅し、寝てしまうのだった。

ただ、最近では村へ飛来するスズメの数が著しく減少していた。

おばあさんの密かな行動以外、これといって変わったことがないまま、数ヶ月が過ぎ
た頃である。村のあちこちで家畜が惨殺されるという事件が起きた。死んだ家畜はみ
な一同に舌を切除されていた。

「ばあさんや、最近は何かと物騒じゃのう。まあうちには家畜がおらんからのう。ば
あさんや、変質者には気をつけんとのう」

「はいはい、わかっていますよ。いざとなったら私の空手キックで変質者をノックア
ウトですよ」

「ばあさんにはかなわんのう」

「ほっほっほっほ」

「わっはっはっは」

毎晩を平和にそして朗らかに過ごすふたりだった。

そんなある日、また別の恐ろしい事件が起きた。今度は村の子供や若い女が次々と失
踪しているのだ。その事件は神隠しのウワサとなり、すぐさま村を駆け巡った。

「若い娘や子供を持った親は大変じゃのう。うちのように娘も子供もおらぬならのう
・・・」

「そうですねえ・・・・・・本当にねえ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

徐々に崩れつつある村の秩序を思ってか、ふたりともなんとなく無口なまま暮らして
いた。
そんなある日、より恐ろしい事件が起きた。今度は村の男たちが姿を消しているとい
うのだ。

「ばあさんや、わしゃもうたまらん。思いきってこの村を出て、よそで暮らしたいん
じゃがのう」

「・・・・・・・・・・・・」

悲しそうにうなだれたおばあさんを見ると、おじいさんはそれ以上何も言えなかっ
た。

暗く、そしてうつむきがちな毎日が続いた。

そんなある日、とうとう一連の失踪事件が本格化した。
毎日数人ずつ、村人が消えて行くのだった。

村人の中に不信感が広まった。長老たちは極秘の寄り合いを開いた。
そこにはおじいさんの姿もあった。

「皆の衆、聞いてくれ。ここは一里離れた離れ村じゃ。名なのに恐ろしい事件が連続
して起きとる・・。わしゃあ、犯人がこの村にいるとおもうんじゃがのう」

最長老の言葉を否定するものは無かった。長老たちは、極秘裏に事件捜査隊を結成す
るに至った。

そして事件捜査隊による第一階極秘捜査が行われた。寝静まった真夜中の村に足音を
忍ばせた調査隊が進む。不気味な月夜である。

ふくろうがホウと鳴き、流れる雲が月光をさえぎったそのとき、鋭いハサミが調査隊
を襲った。

ジャギッ!!ぎゃあ!!
ジャギッ!!ぐぎゃあぁ!!

闇の中で次々と老人が倒れる。そして目をカッと見開いて仁王立ちになったおばあさ
んが叫んだ。

「おじいさん!!もうやめてくださいな!!もうこんんひどい光景は見たくありませ
ん!!」

「何を言うか!!この快感この気持ち良さ!!わしゃまだまだ切って切って切り続け
るんじゃ!!」

返り血まみれになったおじいさんは、手に持ったハサミをジャキジャキ言わせながら
わめいた。

「もっともっと切るんじゃ!!他の村に引っ越して切りまくるんじゃー!!」

自分の趣味がきっかけとなって変わり果ててしまった夫の姿を見て、おばあさんは泣
き崩れた。

月光に照らされたおじいさんの目が、飽くなき欲望に鋭く光った。(終)


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