銀の指輪 -6/12-

 

 大学に入った4月から、彩は母の許可を貰い俺と同棲している。

 かつての無表情だった彩とは変わった。笑顔を見せることもしばしばだ。やっぱり好きな人が守ってくれると安心だからだろうか。

 俺は「連載は大学を卒業してから」と澤田編集長にお願いし、原稿落ち用の単発原稿を時々描き、同人活動を続けている。

 大学生になった彩は俺と同じ文学部。いくつか落した単位もあるので、一緒に講義を受けることもある。彩は俺とは違って生真面目

なのできっちりと出席している。彩と瑞樹のおかげで、ノートやレポートの情報には困らない。

 更に、料理も上手、掃除も洗濯もやってくれる。はじめのうちは交互分業していたのだが、いつの頃からか彩が全部やってくれてい

る。それだけやっても毎回新刊を出す彩の才能は素晴らしいものがある。しかも、かつてのすすけた感じが徐々になくなり、売れ行き

も上々である。4月は30部を超え、5月は50部と増え続けている。このままだといずれ澤田さんに目をつけられるのかもなぁ。。。

 そういう生活が2ヶ月経った。そろそろ彩の誕生日だ。ホワイトデーにクッキーの詰め合わせなんて安上がりのものを贈ってしまっ

たので、今回はちょっと奮発したい。

 とはいえ、、、何を贈ったものか。。。大好きだからと言って、もずくを贈るわけにもいかんだろう。

 仕方ない。瑞希に相談するか。。。

俺はピッチを取り出し瑞希に電話を掛ける。

「もしもし、瑞希?」

「あら、和樹。原稿はちゃんとできてるの」

「ばっちり。ところで、だな、彩に誕生日のプレゼントをしたいんだけど、何がいいかなぁ?」

「私にはくれないのに彩ちゃんにはあげるんだ、ふんだ」

「瑞希、むくれるなって」

「冗談よ。彩ちゃんって19歳になるのよね。」

「そうだけど」

「じゃぁやっぱり、これでしょ、銀の指輪」

「何で銀の指輪なんだ?金とかプラチナとかじゃだめなのか?」

「和樹は何も知らないのね。19歳の誕生日に銀の指輪を貰うと幸せになれるって言われてるのよ。」

「へぇ…。知らなかったなぁ。」

「常識よ常識。あの大志のバカでさえ知ってるのに。ちなみに金ははたち、プラチナは21ね」

「はいはい。どうせ俺は常識がありませんよだ。とはいえ、たすかったよ。持つべきものは異性の友達って奴だな。」

「いえいえ、どういたしまして。私の誕生日も忘れずにね」

「ああ、こみパのチケットぐらい贈ってやるよ」

「そんなのいつももらってるじゃない。もっといいものにしてよぉ」

「わかったわかった。ま、忘れずになんか贈ってやるよ。ともかくありがとな。」

「じゃよろしくねっと」

さてと、いざジュエリーショップへGo!

「こんちわー。銀の指輪って置いてます?」

「はい、銀はあまりないのですがこちらの方に」

「ふむふむ。じゃ、このデザインのやつを」

「サイズの方はいかがいたしましょう?」

 ん?サイズ?指輪にサイズなんてあったのか…。ま、考えてみりゃあたりまえだな。でも、彩の指のサイズなんて知らんぞ。。。

「す、すみません、サイズわかんないんでまた来ます」

 とはいうものの、彩に直接聞くのも何だしなぁ。。。

 どうしたものか…。彩を直接連れて来るとあいつは恐縮しちゃうだろうし、やっぱり直接渡したいし。何とかしてサイズを知る手は

ないだろうか。。。

 よし、瑞希を使って彩の指輪のサイズを調べさせよう。思い付いたが吉日だ、早速ピッチで瑞希のところへ電話しよう。

「もしもし、瑞希?」

「和樹?どうしたの?」

「お前指輪持ってる?」

「うん、いくつかあるけど。」

「サイズは何号?」

「10号だったかな」

「頼みがあるんだ、彩の指のサイズを調べてもらいたいんだ。」

「いいわよ。つまり、彩ちゃんに私の指輪をはめさせて号数をチェックすればいいのね。」

「そうそう。今日よかったら指輪をはめてうちに来てくれないかな?」

「しょうがないなぁ。わかったわ。で、何時ごろ行けばいいかしら?」

「5時ぐらいで大丈夫かな?」

「いいわよ。じゃそれぐらいに行くから。」

「宜しく頼むよ」

「はいはい」

ピッ

 さてとさっさとうちにかえって瑞希を待つか。

 そろそろ瑞希が来る頃だな。

 ピンポーン

「はーい。あ、瑞希さん」

「よ、瑞希。よく来たな。まぁあがってくれよ。」

「俺コーヒー淹れるから。」

「あ、私がやります…」

「たまには俺にもやらせてくれよ」

こくっ

「宜しく頼むぞ瑞希」

「分かってるわよ」

「彩ちゃん指輪のサイズ何号?」

「え、私指輪したことないから…。」

「じゃ、私のはめてみる?」

「綺麗な指輪ですね」

 瑞希は指輪をはずしながら言った。

「イミテーションよ。ほとんどおもちゃ。」

瑞希は、赤い石の付いた指輪をはずし、彩の指にはめた。

「ゆるくもなく、きつくもなく、丁度いいみたいね。にあってるわよ。どんどん和樹におねだりしちゃいなさいよ」

「そんなこと…できません…」

 なるほど10号と作戦成功。しかし、おねだりできないなんて、彩らしすぎる。

「どうぞ、粗茶ならぬ粗コーヒーですが御召し上がりくださいませ」

「お茶菓子はないのぉ」

 瑞希は何時もながらずーずーしい。

「あの…昨日焼いたクッキーがあります」

 初めてこみパの会場で食べた時から思っているが、彩のクッキーは最高だ。

 その後、他愛のない会話の後、三人で食事して瑞希は帰って行った。瑞希に感謝。瑞希の誕生日も今回の御礼で一寸奮発するか。で

も、彩ほどじゃないけど。

 次の日、大学の帰り。

「彩、先に帰っといてくれないか?ちょっと用事があるんだ」

「はい、和樹さん」

 彩は少し寂しそうな顔をした。

 俺は昨日のジュエリーショップへ行く。

「いらっしゃいませ、あ、昨日の…。サイズは分かりました?」

「はい。10号でお願いします」

「リングに何かメッセージをお入れてしましょうか?」

「う〜ん…」

「ありきたりですけどこれで」

"To AYA from KAZUKI"と紙に書いて渡した。

「いつ仕上がりますか?」

「6月12日の午前中には仕上がります。」

「じゃ、その日にとりに来ます。」

「ありがとうございました」

さて、6月12日大学の帰り。

「彩、先に帰っといてくれないか?ちょっと用事があるんだ」

「はい、和樹さん」

 彩はとりわけ寂しそうな顔をした。さすがに誕生日だからなぁ。彩には申し訳ないが、その分喜んでもらわないと。

 早速ジュエリーショップへ

「いらっしゃいませ」

「千堂ですが指輪を取りに来ました。」

「はい、こちらに仕上がってます。お確かめください。それと、包装はどういたしましょう?」

「プレゼント用にリボンをかけといてください、それと、ケースにこのカードを」

「わかりました」

「これでよろしいでしょうか」

「はい。どうもありがとう」

「ありがとうございました」

 次にケーキ屋へと。彩のお気に入りのケーキ屋でバースデーケーキを購入と。これでいいかな?

「ただいまぁ」

「お帰りなさい、和樹さん」

「これ、ケーキね」

「用事って、これだったんですか?」

「忘れるわけないじゃないか、大事な人の誕生日なんだから」

 彩は涙を浮かべながら微笑んだ。

「ありがとう…ございます…覚えててくださったんですね…」

「それから、、、」

「えっ」

「これ」

と、指輪の包みを渡す。

包みを開け、ケースを開き"彩の幸せは俺の幸せ"と書いたカードを見て、彩は大粒の涙を浮かべ、俺の胸にしがみついてきた。

「ありがとう…本当にありがとう…」

「お願いです…指輪を…私に指輪をはめてください」

と彩は左手を差し出した。そして、そっと彩の薬指に指輪をはめた。そして、自然に唇を合わせた。

「19歳の誕生日に銀の指輪を貰うと幸せになれるって…。私…本当に幸せです…」

長谷部彩19歳。銀の指輪は幸福の徴。

おわり

 

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