「なんで僕らだけ怒られるんだよ〜」

                               中宮 崇

ついに全社総幼児化してしまった朝日新聞。「TBSも無線機を置いてきたじゃないか〜」と、全社をあげて駄々をこね、人質の生命を危険にさらした!


テレ朝の稚拙な言い訳


 ようやく解決を見たペルー大使公邸人質事件においては、昨年末の共同通信社に引き続き、1月7日にはテレビ朝日系広島ホームテレビの人見記者が、人質たちの命をも省みずに公邸内に「カミカゼ突入」するという変事が発生した。

 海外における同様の事件を振り返ればわかるように、日本のマスコミ人が引き起こしたような今回の愚行に類する蛮行は、かつてなかった。

 日本の駄々っ子の中には、彼らの行動を、湾岸戦争時に最後までイラク国内に残留し開戦の第一報を全世界に発信したCNNのピーター・アーネット記者の行動になぞらえる者もいる。しかし、真のジャーナリストたるアーネットの行動と、思い付きだけで動いた人見記者のようなおぼっちゃまとを同一視するのは、トラと猫を混同するがごとき愚行である。

 さて、人見記者の「カミカゼ取材」の是非はひとまず置いておき、彼らの倫理や責任感のなさについて考えてみよう。

 人見は突入時、無線機を内部に残してきた。そしてテレ朝はそのことを、全社をあげて隠していた。この問題が発覚したとき、テレ朝はこうのたまった。「置いてきたかと、聞かれなかったから」。

 なるほど、テレ朝は、エイズウィルスを撒き散らした厚生省と同類である事を自ら認めたのである。誰にも聞かれなければ、黙っていても罪にならないというのだから。

 無線機を置いてきたこと自体は、すぐさま批難されるべきものだとは限らないし、置いてきた事を隠していたことも、悪事であったと切り捨てられない場合もある。

 しかし、テレ朝の言い訳は何だ。「聞かれなかったから」とは。「だって誰も聞かなかったんだも〜ん。僕は悪くないやい」とかいうガキとどこが異なるのか。

 ジャーナリストは、取材元について秘匿しなければならないときがある。そうしなければ、例えば「プリペイドカード偽造組織の実態!」なんていう記事を書く事は不可能だ。だからテレ朝は、「無線機の存在を明らかにする事によって、MRTA側との信頼関係を崩すような事はできなかったのだ」とでも言い訳すればよかったのである。なのに「聞かれなかったから」などと来たものだ。彼らもはや、ジャーナリズム魂のかけらさえも存在しない、ただの駄々っ子なのである。


朝日兄貴の大人げ無さ


 テレ朝の兄貴分が朝日新聞である事を否定する人間は、相当なお調子者である。両者には密接なつながりがある。「ニュースステーション」の解説者の出身を考えてみただけでもわかるであろう。

 その頼れるアニキ、朝日新聞は、やはりというべきか、弟分テレビ朝日の擁護を始めた。それも極めて幼稚な形で。アニキさまは4月19日の夕刊に、


   「TBS 公邸内に無線機

      リマ事件昨年12月 カメラマンが残す」


なる記事を載せた。注目すべきは、TBSが事実を否定していたにもかかわらず「残す」と断定調で書いている点である。そしてより笑わせてくれる事には、わざわざこんな一文を付け加えているのである。


   「TBSは、今年一月に公邸に入ったテレビ朝日系列の記者
    が無線機を置いてきた事が明らかになった後、ニュースで
    テレビ朝日を批判していた」


なんともまあ、ガキッぽい言い訳がましいあてつけである。まだ事実がはっきりしていない事をあたかも事実であるかのように書きたてただけでは飽き足らず、朝日新聞はこう言いたいのである。「弟だけじゃあないやい、T君だってやってらー」。

 朝日新聞といえば本誌でも暴いているように「嘘つき朝日」と言ってしまえるほどの悪徳企業であるが、それでも戦前戦後一貫して何十年も日本人をだまくらかしてきた、筋金入りの嘘つきである。本来、こんな稚拙な、突っ込まれやすい記事を書くはずはないのである。しかしどうやら、さすがに身内に対する批難となると、「プロの嘘つき」として徹するだけの平常心を保つ事ができなかったのであろう。


テレ朝の殺人未遂


 さて本日(4/24)、実際にTBSが内部に無線機を置いてきていた事が明らかになった。TBSとともに報道を否定していた郵政省は、実際に何も知らなかったらしい。なぜならTBSは、郵政省ではなく外務省に無線機の扱いを一任していたからである。

 いさぎの悪いガキ、テレ朝と違い、TBSと外務省は虚偽の発言を行った事を素直に謝罪した。話を聞いてみれば、なるほど黙っていた事、嘘をついたことはやむを得ない事だったのだなと納得できる。いや、むしろ、「良くやった」と誉めてやりたい(筆者でも、たまにはマスコミを誉める)。

 MRTAという凶悪な犯罪者の戯言を垂れ流し、同時に自分たちのスクープのために無線機を置いてきたテレ朝と違い、TBSは人質の要請に応じる形で、しかもMRTAに「内緒」で無線機を置いてきたのである。いざと言うときのための備えとしての考えがあったのであろう。実際、2度にわたって無線機を使ったテレ朝と違い、TBSは一度も無線機を使用することなく外務省に預けてしまった。

 解放後の報道からもわかるように、武力突入が比較的犠牲者が出ずに終わった背景には、人質からの極秘の無線交信による手引きがあったことが重要な要因となったとの見方が一般的である。TBSが置いてきた無線機が、そのような目的のために使われた可能性は大きい。

 ところが身内を守る事だけに気を取られ、人質の事などこれっぽっちも考えてはいない朝日新聞は、せっかくTBSがMRTAに秘密にしていた無線機の存在を、「ほ〜ら、俺の弟だけではなかった!」と得意げにばらしてしまったのである。秘密で無線機などを持っていた人質が、MRTAのような凶悪な犯罪者集団にどのように扱われる事になるか、想像に難くない。つまり朝日新聞は、身内のテレビ朝日をかばうために人質の命を危険にさらしたのである。

 確かに朝日新聞には、人質に対する「殺意」は無かったかもしれない。「殺人未遂」は言い過ぎかもしれない。しかし、彼らの無知、無神経、破廉恥な功名心によって人質の命が危険にさらされたことによる道義的責任は、免除されるべきものではない。

 読者の皆さんは、「マスコミは公平中立である」などと思い込んではおられまいか。違う、違うのである。マスコミは公正でも中立でもない。時にはこのように、自分たちの利益のために市民の命さえ鼻くそほどにも思わない凶悪な行動に出るのである。我々はそのことを踏まえ、メディアの首に鎖をつけるほどの覚悟をもって、彼らに当たらなくてはならない。学校の道徳番組にも良くあった話ではないか、鼻つまみの乱暴者を、クラスのみんなが団結してやっつけるというのは。

                                 なかみや たかし・本誌編集委員


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