良いテロ、悪いテロ
中宮 崇
「朝日を狙うテロは悪いテロ、我々市民を狙うのは良いテロ」だとでも言うのか!
さて、今日5月3日は、警察庁指定116号事件発生から満十年なのだそうだ。
これだけで何のことかわかった方は、相当の言志人である。
警察庁指定116号事件、それは、「赤報隊」を名乗る謎の個人もしくは団体によって行われた、一連の朝日新聞襲撃事件の事である。中でも、最初の事件である朝日新聞阪神支局襲撃事件では、散弾銃により2名の記者が殺傷されている。
その後も87年9月には名古屋の朝日新聞社社員寮銃撃事件、88年3月の静岡支局爆破未遂事件等、マスコミでは朝日新聞だけが連続して狙われた。
予想通り、今朝の朝日新聞朝刊は、この事件についての総力特集を組んでいた。なんと2面もぶち抜いて徹底的に「反赤報隊」を宣伝していた。
「市民を狙え、朝日は狙うな」
テロは絶対に許さない、その意味で朝日新聞の行動は正しい。テロリストに屈するべきではないし、テロリストの言い分などを聞く必要はない。まことにもっともな事である。朝日も結構まともな事を言う事もあるようだ。
が、やっぱり朝日はまともではない。なぜか?最近ようやく解決したペルー大使公邸人質事件の時に朝日が言っていた事と比べてみるとよい。あの時朝日は、今回と全く反対の事を言っていたのではなかったか?
朝日を中心とする嘘つきどもが繰り返していた言葉「平和的解決を」、これは、大使公邸を占拠したMRTAと称する誘拐業者の要求を受け入れてしまえ、つまり、仲間を刑務所からだしてやって要求通り金を渡した挙げ句、キューバにでも逃がしてあげなさいと言う事である。これが「テロに屈する」ことでなくて何であろう?テロリストの言い分を聞くことでなくてなんであろうか?
つまり朝日は、自分がテロの対象となることは絶対許せない正義に反する行為であるが、大使公邸にいた民間人がテロの対象にされることは構わないとでも考えているのだろう。なんとも御都合主義的な考えである。同じテロに対して、ここまで180度違う考え方ができるとは、ある意味感心してしまう。
だいたい朝日は、ペルー事件に際してはこう言っていたはずだ。「日本が狙われたのはそれなりの理由があるはずだ。それを改善するべきだ」と。朝日を始めとする嘘つきどもは、ごていねいにも、犯行グループであるMRTA自身さえ全然言っていないような「日本を狙った理由」をでっち上げてくれた。いわく、「日本の援助はペルーの貧困層を苦しめている」、「貧しい国の真ん中で、盛大なパーティーなど開くからだ」、「天皇誕生日を祝うパーティーなど開いたからだ」等々。よくもまあここまで妄想を膨らませられるものだと感心してしまうが、以前創刊号の記事で論破したように、これらの理由はいずれも全くのでたらめだ。
まあ、それはよい。彼ら卑怯者どもはいつもやっている事だ。だが、絶対に許せない事が一つある。「MRTAが日本を狙ったのは、それなりの理由がある(実際にはそんなものはないのだが)からだ。そして日本は、それを改善するべきだ」と言うならば、「赤報隊が朝日新聞を狙ったのは、それなりの理由があるからだ。朝日はそれを改善するべきだ」とは言えないのか?言えるはずである。だが少なくとも、朝日自身は言っていない。都合の悪い事は隠しておくという方針なのであろう。
数ある新聞社のうちで、なぜ朝日新聞「だけ」が何度も狙われたのか?なぜ読売や毎日は襲われなかったのか?これは重要な問いであるはずだ。だが朝日は、そのもっとも肝心な点から目をそらしている。
彼らが答えないのなら私が言ってやろう。「朝日は嘘つき」であるからだ。彼らは戦前は、「目指せ大東亜共栄圏」に類する軍国プロパガンダの旗手となり日本を破滅に導いた。そして戦後は、「北朝鮮は理想国家」等、数々の嘘を流し続け、今も流している。そういう「市民に対する犯罪者」であるからこそ彼らは狙われたのだ。そして朝日は、事件の後も自らの姿勢を改めてはいない。
もちろん、相手が「嘘つきである」からと言ってテロを働いてよいとは言えない。テロは絶対許されるべきではない。しかし朝日は、ペルーにいる日本人はテロリストに襲われるのが当たり前であると考えている。
利用できるものは、死者でも利用する
さて、本日の朝刊に載せられた特集記事を分析してみよう。この記事は、実は襲われた2名の記者を痛む記事ではない。それどころか、言論に対するテロを糾弾するものでもないかもしれない。ではいったい何が目的でこんな記事を載せたのか?それは、例の従軍慰安婦問題」において朝日にたてつく「強制連行無かった派」や「従軍慰安婦を教科書に載せるな派」をまるで「テロリスト」であるかのように宣伝するためである。
その証拠に、「歴史教科書の問題について脅迫文がきている」といったような記述が、2個所3個所どころではなくあちこちに散在している。要するに朝日は、犠牲となった自分の社の記者まで利用して、「従軍慰安婦問題」に関して市民をうまく騙して味方にしようとしているのだ。なんとも見上げた商売魂だ。さすが「嘘つき朝日」、やる事のスケールが違う。
本当に従軍慰安婦問題を真剣に扱いたいのなら、正々堂々と誌面で論争すればよいのだが、この問題に関して今まで散々嘘を書きたててきた朝日の事、まともに論争などしたら負ける事が分かっているから、今までそんな事は試みた事さえない。自由な言論による論争を完全に封殺し、そのうえでこのような詐欺めいた手法で自分たちのでたらめな主張を押し通そうとしているのである。
朝日新聞をテロの対象としたのはなにも赤報隊だけではない。これまでも様々な団体が朝日を狙ってきた。その中でももっとも激烈かつ印象に残った事件は、「野村秋介自殺事件」である。これは、「朝まで生テレビ」にも何度か出演した事のある右翼の大物野村秋介が朝日に乗り込み、彼らの嘘つき体質をさとそうと試みた後、それが果たせないとみるや記者たちの目の前で自殺を遂げた事件だ。野村は、記者を一人も傷つけなかった。その代わり自らの命を絶つことによって彼らの良心に訴えかけようとした。しかしその「誠意」は結局彼らのような卑劣漢どもには伝わらなかった。朝日は未だこの事件をタブーとし、闇に葬ろうとしている。
他の報道機関と比べて突出して狙われる朝日新聞、目の前で自殺者までだされた朝日新聞、そこまでして狙われる理由が彼らにはあるのだ。そして彼らは、その「狙われる体質」を改める気は毛頭無いようだ。そこまでして我々市民を傷つけようとする理由はどこにあるのであろうか?恐らく彼ら自身にもわかっていないに違いない。ただこれだけは言える。「市民を狙ったテロはかまわない」と考えている朝日は反市民カルトであり、我々市民の敵であると。
なかみや たかし・本誌編集委員