涙と罵声と

                             中宮 崇

日本には真の人権派はいないのか!


 「ペルーには政治家も宗教家もいた。日本にはいなかった」

 4月28日のテレビ朝日「朝まで生テレビ」における、舛添要一の言葉である。実にいろいろと考えさせられる言葉である。

 「日本に政治家はいない」、これはかなり以前から言われていた事である。「政治屋」はいくらでもいるが。日本に政治家が生まれずに政治屋ばかり発生する原因については色々あろうが、ここでは舛添氏の言葉の後半の方について考えてみたい。

 「日本には宗教家がいない」、オウム事件のときにも一部で言われた言葉である。しかしあの時と今回の場合とは、同じ「宗教家がいない」という言葉にも少々違いがあるようだ。

 オウム事件のときは、「宗教について語れる者がいない」と言う意味での「宗教家がいない」であったと思う。しかし今回は、「他人の事を真剣に考えられる者がいない」という意味での「宗教家がいない」であろう。 その意味では、むしろ「人権派がいない」と言い換えた方が適切であるように思える。


真の人権派、シプリアーニ


 ペルー事件においてペルー政府と犯行グループMRTAとの間の仲介役となり平和的解決策を模索していたのが、ペルー・カトリック教会のシプリアーニ大司教である。

 127日間にわたり「人命尊重」の信念に基づき心労をものともせず精力的に働いてきたシプリアーニは、武力解決後の記者会見において涙を流した。その涙は、犠牲となった人質や突入隊員のためだけではなく、全滅させられた犯人たちのためにも流されたものであった。

 正直言って、私はシプリアーニの思想的立場や手法には賛成できなかった。しかし、彼の涙は、そのような考え方の違いを飛び越え、感動と敬意の念とを感じさせるのに十分なものであった。

 真の人権派、彼らは、あらゆる思想や立場の違いを超えて他人を感動させる「魔力」を持つ。ガンディー然り、キング然り。果たして日本に、そのような「真の人権派」がいるであろうか?


ジャパニーズ人権派の非人間性


 日本ほど「人権派」を称する人間たちがあふれている国はないのではないか?そしてそのほとんどが実は「エセ人権派」にすぎないなどという国も、日本以外にはないのではないか。

 真の人権派シプリアーニが涙を流していたとき、日本の「人権派」がやっていた事は何か?

 彼らはもちろん、犯人のために涙を流すような「人権思想」は持っていなかった。それどころか、犠牲となった人質にさえも涙の一滴も流さなかった。ましてや殉職した2名の突入隊員に対しては、ただの「虐殺者」にすぎないとさえ考えている者もいる。

 そして涙を持たない彼らは、犠牲者のために涙を流す事のできない自らの非人間性を覆い隠すかのように、ペルー政府や日本政府を「独裁者」、「虐殺者」と、ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかけた。

 犯人のためにさえ涙を流したシプリアーニと、人質のためにさえ涙を流せずに他人を口汚なく罵る事ばかり考える日本の「人権派」、あまりにも対照的である。確かに舛添の言うように、日本には真の人権派はいないのだ。


日本の恥部を隠すメディア


 日本の「エセ人権派」が今関心を持っている事は何か?事件中あれほど言い立てていた、ペルーの人権状態ではない。「虐殺者」フジモリを糾弾する事である。

 そもそも今回の事件の責任はそのようなエセ人権派に帰せられるべきものなのだが、彼らは自らの愚かな行為を反省するどころか、全力を尽くして日本人を救ってくれたフジモリ大統領に罵声を浴びせ掛ける事にのみ専念している。

 ペルーについての本一冊さえ読む時間を惜しんで、東京のペルー大使館に押しかけ、「抗議文」なる下品なアジ文を手渡して悦に入っている。これが「日本の恥部」でなくて何であろうか。

 彼ら「エセ人権派」の片棒を担いできた朝日新聞を始めとするメディアは、これらの日本の恥部を市民に広く伝えようとはしない。さすがに、知られたらまずい事になると分かっているのであろう。常識的な人間が、彼らの暴挙を知って憤りを感じずにいられるはずがないのだ。嘘つきで卑怯者のメディアも、狡猾さとずる賢さだけは人並み以上に備えているようだ。


 今回の事件は、日本には真の政治家も真の人権派も存在しないという事を我々市民に明らかにした。これは極めて悲しむべき事態ではなかろうか。なぜこんなことになってしまったのか?その理由を見つけ出すのは困難かもしれない。

 しかし、「こんなこと」にしてしまった連中が誰なのかはわかっている。彼らの手口と実態を知り、その力をそぐ、そのことによって彼らが今後我々市民を傷つける事ができないようにする、その少しずつの積み重ねこそが、日本に真の人権派を生み出す道であると信ずるものである。


                                なかみや たかし・本誌編集委員


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