「人質10人プリーズ!」
中宮 崇
人質の顔と名前をいっしょに公表したメディアは、テロリストにとってのファーストフード店だ!
嘘つきメディアの言い逃れ
日本のマスコミ各社はかなり早い時点において、拘束状態にあった人質の皆さんの名前と顔写真を公表した。ごていねいに役職まで併記していたノータリ・ンメディアも少なくなかった。
犯行グループによる人質たちへの仕打ちの程度が、その役職や国籍等に依存するのは当然である。日本企業の重役やペルー政府の要人が最後まで解放を許されなかった事が、それを如実に示している。国家警察の要職に就いている事がばれたとたん、「おまえを最初に殺してやる」と脅された人質もいた。
事件当初、人質たちのかなりの数が自らの身分を証明する名刺や書類などをトイレに流すなどして、身分を隠そうと試みた。中には、普段からニセの名刺を持ち歩いている用心深い方もいた。
そのような人質たちの、命を懸けた必死の行為を、商売至上主義の日本のマスコミ各社は一瞬にしてぶち壊した。連日、人質の個人情報を垂れ流して犯罪者に協力したのだ。人質の身元確認の手段に悩んでいた犯行グループMRTAは、さぞ喜んだであろう。マスコミは、犯人たちの手助けをしたのだ。
筆者はこの件に関し以前、マスコミ各社に電話で抗議を申し入れた。「即刻、人質の情報を公開するのは止めるように」と。しかし、各社の反応は冷ややかであった。朝日と毎日には、反対に声を荒らげて居直られた。「何がいけないのだ!」と。
各社の言い分はこうだ。「犯行グループのMRTAは、事件の前からパーティーの招待客の名簿を入手しているので、今我々が人質のデータを公表したところで何ら問題はない」。
このような言い訳がなんら説得力を持たない事は、現在は完全に明らかになっているし、私が抗議を申し入れた当時でさえもわずかな脳みそさえあれば誰でもわかる事であった。
確かに犯人たちは、人質の一部についてはその身分や顔を事前に知っていた。しかし、顔の知られていない人質も数多く存在した事も明らかとなっている。
実際、当初囚われていたフジモリ大統領の母親は、MRTAの必死の確認作業にもかかわらず最後まで身分を隠す事に成功し、多すぎる人質の数にねを上げた犯人たちによって、「この解放はクリスマスプレゼントである」などという負け惜しみとプロパガンダの言葉とともに解放されている。もしマスコミが、もっと早い時点で人質全員の情報を暴露していたら、彼女は確実に最後まで解放されなかっただろうし、事件の結末ももっと悲惨なものとなっていた事は疑いない。
テロ後援会:ジャパニーズ・メディア
日本のメディアは人質の個人情報を暴露する事によって、今後も人質たちの命を継続的に危険にさらす事になった。どういう事かというと、南米諸国においては誘拐業がビジネスとしてさかんであり、彼ら潜在的犯人たちの「仕事熱」を刺激する結果になったという事だ。何しろ、顔写真から役職まですべてそろった「人質カタログ」を、わざわざマスコミが用意してあげたのだから。
顔を公表されてしまった人質たちは今後、日々余分な心労を積み重ねてゆかねばならなくなった。見えない「誘拐犯」に、絶えず脅えてくらしてゆかねばならないのだから。馬鹿メディアたちに、そのことに対する責任の念はあるのか?確実にない。それどころか「何が悪いのだ!」と居直っている始末。彼らには、他人のことを思いやるような気持ちは微塵もない。「報道の自由」をむやみに振りかざし、ひたすら自分たちの利益のみを考えて我々市民を傷つけるために日夜励んでいる。
そして自分たちの犯罪的行為を反省しようともしないメディア人達は、今後新たな事件が発生したら、こう企業を責めるであろう。「警備が不十分だから狙われたのだ!」、「現地に利益を還元しないから恨みを買ったのだ!」と。馬鹿の行動は簡単に予想できる。
昨年大使公邸に「カミカゼ取材」を試みた共同通信社は、顔写真を始めとする人質の個人情報を、わざわざ現地のメディアにもったいぶって提供した。おかげで日本国内だけではなく、現地でも人質たちの身分が公のものとして暴露されてしまった。共同通信は、いったい何を考えているのか?わざわざ情報をくれてやった真意は何か?カミカゼ取材の件といい、「事件をもっとオモシロクして長引かせ、売り上げを伸ばそう」という下劣な意図が背後にあったのだと疑われても文句は言えまい。少なくとも、彼らの行動が深い思慮に基づいたものなどではなく、その場の思い付きによる無思慮な行き当たりばったりの行動の積み重ねにすぎないということだけは明らかとなった。
「人質たちの名前を公表しても何ら危険はない」という嘘を垂れ流すメディア。その同じメディアが今度は、「人質たちの名前を公表したら、ペルー政府に(人質の)命が狙われる」などととんちんかんな事を言い出した。それについては別記事「嘘つき『朝日』の大冒険」で後日書くとしよう。
彼らは今回の事件で自らが犯した犯罪的行為を覆い隠すために、今後も我々市民に嘘を垂れ流し続けるであろう。あれほどメディアが問題にしていた「ペルーの深刻な人権状況」をほとんどどこの社も扱っていない事だけ見ても、彼らの、この事件を早いところ忘却のかなたに送り出してしまいたいという卑劣な意図が見え見えである。
ペルーの人権状況が深刻な状況にあるという事は紛れもない事実である。本当にペルー人のためを思っているのなら、事件が一応の解決を見た今、ペルー特集でも組んで我々市民にペルーの本当の姿を知らせようとするのが当然であろう。しかし彼らはそんな事はしようとはしない。なぜか?簡単である。彼らはペルー人のためなどではなくペルーのテロリストのために「報道の自由」を悪用してきたからだ。そのことを我々は、彼らの術策にはまることなくいつまでも心に留めておかねばならない。
なかみや たかし・本誌編集委員