『週金』を撃つ−5

鳥なき里の蝙蝠


                             中宮 崇


『週金』は言った。「鳥のいないところではコウモリが鳥みたいな顔をしている」と。そりゃあ、あんたら『週金』自身の事だよ!



 シリーズ第一回(本誌創刊準備号掲載)でやり玉に挙げた『週刊金曜日』のプロパガンダマンガ『蝙蝠を撃て!』の中に、こんなせりふがある。


   「鳥のいないところでは蝙蝠が鳥みたいな顔をしている、要す

    るに、優れた者がいないところでは下らない人間がえらそう

    に幅を利かせているってことね」(3/7号p64)


 「市民運動」、「人権運動」を騙る連中は、鋭い分析力を持つ者が多い。惜しむらくは、自分だけはその分析の対象から外してしまっているところである。

 ここで引用したせりふは主に、『週金』の天敵たる自由主義史観の人間たちに対する当てこすりとして用いられたものだが、自分たち自身の言葉を省みることのできないただのエリート主義者どものこのような思い上がりが『週金』に、今回のようないんちき記事の掲載を許してしまったのであろう。

 問題の記事は、『週金』1/24号の


  「空の安全を脅かす「規制緩和」」

     航空労組連絡会事務局長 津恵正三


 『週金』はどうやら、タクシー送迎の要求のようなワガママ放題のパイロットやスッチーの要求さえも「労働者の権利」とやらで護ってあげたいらしく、同号で特集記事を数本載せただけではあき足らず、4/4号でも再び同様の問題を扱った記事を載せている。労働組合のボスと、何かつながりでもあるのであろうか?

 まあそれは、個人の考え方の違いであろうから勝手にやっておればよいが、問題は、経済学の分野で既に答えが出ている問題について大嘘を書き立てていることと、「命の守護神」づらしつつ他人の命を食い物にしている点である。

 さて、ワガママ組合のボス、蝙蝠津恵のでたらめ主張が、冒頭にいきなりでかでかと書かれた「「市場原理」で安全は保証されない」というもの。

 その通り。最近は特に、とかく「市場原理絶対主義」がもてはやされる傾向があるが、市場原理では実現されないものはいくらでもあるし、そもそも市場原理がうまく機能するためにはいくつもの厳しい前提が必要である。

 が、この問題に限って言えば、津恵の主張は全くのでたらめである。

 航空業界における規制緩和は一般に、次のような効果が期待され、また、各国の実績がそれを保証しているている。


 1、料金の低下

 2、サービスの多様化

 3、企業の内部効率の向上

 4、需要増加に伴う、経済への波及効果


 反対に、デメリットとしては


 1、非効率企業の淘汰

 2、赤字路線切り捨て

 3、サービスの低下の可能性


純粋に規制を完全撤廃してしまえば、以上のような不具合が確かに起こりうる。

 極めて早い段階でこの業界の規制緩和を果たしたアメリカでは、赤字路線支援のための国家基金を創設するなどの措置により、少なくとも2の問題は大幅に解消されている。また、3については、同時に起こったサービスの多様化の副産物と考えることもできる。

 1については論外であろう。タクシー送迎・昼寝つきの航空会社を残そうとする方がどうかしている。

 ここまでは蝙蝠津恵もまあそこそこまともであるらしく、あまり表立って扱っていないし、反対もしていない。問題は、「コスト削減で安全性低下」というアンポンタンな嘘。

 津恵は記事中、96年に墜落事故を起こした米国バリュージェット航空の例(だけ)を取り上げて、アメリカにおける規制緩和があたかも「事故率の上昇をもたらした」かのように書いている。

 このように、一部だけピックアップしてでたらめな戯言をほざくのは、正義真理教徒の共通した病理である(津恵の場合、ただの利権おやじにすぎないが)が、数々の実証研究が示すように、アメリカ航空業界における事故率は規制緩和後、むしろ低下したのである。

 考えてみればこれは当然のことだ。墜落事故ばかり起こすような航空会社を誰が選択するというのか。一般の商品と違って、失敗即大惨事イコール大メディアバッシングキャンペーンのこの業界は、消費者主権が成立しやすい、つまり市場原理が消費者の得になりやすい分野といえる。

 津恵は当然この事を知っているのであろう。その証拠に、データを全く挙げず、言葉だけで丸め込もうとしている。嘘付きは嘘付きなりに作戦を考えているらしい。

 規制緩和によって自分たちのワガママ放題が通らなくなってしまう労働組合としては、嘘でもなんでもついて、そして乗客の命さえも犠牲にして自分たちの既得権益を死守したいのであろうが、まさに、「優れた者がいないところでは下らない人間が幅を利かせている」のである。

 さらに犯罪的なのは、このような自分たちの組合の利益しか考えていないような利己的な連中があたかも、乗客の安全性を一番に考えてるような顔をしているところである。私はたまたま経済学を勉強しているから今回のような大嘘を見分けることができたが、他のところではころっと騙されてしまうかもしれないのだ。


 「蝙蝠を撃て!」。本当に撃たねばならないのは、自分たちの気に入らない思想を持つ人間ではなく、このような他人の命を食い物にして自らのエゴを満たそうとする寄生虫どもであろう。

 そして『週金』は、かつてオウムに殺された坂本弁護士を冒涜したのと同じ愚をまたまた繰り返そうとしているのである。


                               なかみや たかし・本誌編集委員


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