「情報操作・ドキュメント‘96の場合には」
中宮 崇
有名ドキュメンタリー番組『ドキュメント‘96』の、「ianfu・インドネシアの場合には」における情報操作!
先週に引き続き、『「朝生」への鎮魂歌』をやろうと思ったのだが、そればかりでは芸がないので、ここらで少し休憩して、別のテレビ番組における情報操作をご紹介しよう。
本誌でもしばしば取り上げる小林よしのりという漫画家がいるが、彼はマンガ「新ゴーマニズム宣言」(小学館)の第3巻において、従軍慰安婦問題を鋭く斬っている。
その中で、日本テレビ系列の「ドキュメント‘96」(今は’97になっているが)という、毎週社会問題を取り上げるドキュメント番組で行われた悪質な情報操作の実態を暴いていたので、それについて書く事にする。
問題となっているのは、96年9月29日放送分の、「ianfu・インドネシアの場合には」。
内容は、インドネシアにおける取材と証言とを通して、インドネシアにおける従軍慰安婦問題の実態を伝えようというもの。
現地取材がメインなのであるから当然、証言等は字幕スーパーとなるわけであるが、その翻訳がどうも意図的に、「日本人は慰安婦に信じられないようなひどい仕打ちをした」と解釈されるように捻じ曲げられているようなのだ。
「ドキュメント‘96(‘97)」といえば毎回、社会に埋もれがちの弱者の立場の声を伝えるような秀作を送り出している優秀番組と思っていたのであるが、これからはそのような認識は完全に捨てなければならないようだ。
さて、実際に番組内でつかれている嘘の数々を見て行こう。
まず、元従軍慰安婦とされる女性の証言。彼女は何者かに拉致されて慰安婦とされたらしく、字幕は
「買い物から帰る途中で無理矢理連れ去られました。日本
兵に車に乗せられたのです」
となっている。ところが実際には彼女はこんな事は言っていないというのだ。正確に翻訳すると、
「買い物から帰る途中で無理矢理連れ去られました。オラ
ンダの車、いや、日本の車に乗せられたのです」
となるという。番組の字幕に出ていたような「日本兵」などという言葉は、どこにも出てこない。番組が勝手に書き加えたのである。極めて悪質だ。
女性の証言を忠実に検証するなら、「買い物の途中で、何者かに拉致されて車に乗せられた」という事しか言えないはずなのに、番組は「日本兵が拉致したのだ」という勝手な解釈をした上で、そのような情報操作を全国番組で垂れ流したのだ。これはもう、モラルうんぬんの問題を越えて、放送法違反という、市民全体に対する犯罪行為である。早いところ警察に動いてもらわねばならない。
番組の情報操作行為はこれだけに止まらない。次に紹介するのは、現在タンジュブリオクという所に住んでおられる元慰安婦とされる女性の証言。番組の字幕は、
「戦争が終わると日本人は誰もいなくなっちゃったんです。私
たちは無一文で置き去りにされたんです。手元に残ったの
はお金じゃなくてキップ(軍票?)だけだった。キップという
ただの紙キレだけ」
となっているが、正確に翻訳すると、
「はい、いま私が一番つらい事はこうなんです。私は体を悪く
しているのでゆっくりしゃべります。(戦争が終わって)散り
散りになって帰るとき…あの朝鮮人は誰だったろう。全員
いなくなってしまったんです。一銭も手元に残されませんで
した。キップが残されただけでした。紙キレのお金、それを
キップと言っていました」
話の流れからして、「あの朝鮮人」というのは慰安所の経営者の事らしい。番組は経営者が朝鮮人だったということを隠し、わざとその部分を訳さなかったばかりか、勝手に「日本人」などという言葉を挿入して、あたかも日本人が慰安所を経営して、彼女たちを置き去りにしたというような大嘘を平気で流したのだ。いったいどういうつもりか?日本のテレビ局は、普段からこんなトンでもないことを平気でやっているのか?
三つ目に、スカブミ第4中学校で教師が、日本占領時代についての授業を行っている場面。先生の発言についての番組の字幕は、
「社会面での苦悩の一つに女性の問題があります。女性たち
は、「学校に行かせてやる」と誘われました。でも日本軍の性
欲を満たすために使われたのです。女性たちはその地位を
はずかしめられたのです」
となっている。ところがこれも、実際には先生は、「「学校に行かせてやる」と誘われました」などとは発言していないのだ。これも番組が勝手に付け加えたのである。これによって、慰安婦たちがあたかも、誰かに騙されて連れてこられたのだというような印象を与えるような「でっち上げ」発言になっている。
最後に、取材班が元従軍慰安婦の女性と一緒に、かつての慰安所の建物を訪れるシーン。通訳が元慰安婦の女性に「この建物は当時のままですか、それとも改装されていますか?」と聞いているのであるが、女性が、「もう、違う」と言っている部分を番組では全く訳していない。まあ、この点に関しては他の点と違って「嘘」というような性質のものではないのかもしれないが、番組の全体にわたって、慰安婦問題を扇動的に扱おうとする意図が隠されているのだという傍証となるかもしれない。
「ドキュメント‘97」は、市民団体や左翼団体にとってのバイブルとでもいうべき番組である。実際筆者も、この番組を今まで興味深く見るとともに、社会問題について考えるときの参考としていた。ところがそのような番組が、このようなとんでもない悪質な情報操作行為を行っていたのだという事が暴かれてしまった。もはや日本には、信用すべきテレビ番組など無くなってしまったのかもしれない。
なかみや たかし・本誌編集委員