「ニュー海援隊」とはなにか?


                             中宮 崇


開国と統合の波は、「海」からやってくるのです


 坂本竜馬が設立した武装貿易会社「海援隊」は、黒船による貿易によって、300諸侯を利を持ってまとめ上げようというものでした。

 世界統一政府である「地球連邦」を設立するための組織、「ニュー海援隊」(仮称)にとっての「黒船」はいったいなんでしょうか?

 それは、「スペース・コロニー」です!

 スペース・コロニー、平たく言ってしまえば、何万人、何百万人もの人々が住む、巨大な宇宙ステーションです。まあ、ご存知の方の方が多いかもしれませんね。

 このスペース・コロニーと言う言葉が、日本ほど一般的に知られている国があるでしょうか?恐らくないでしょう。この言葉が広く知られるようになったのは、かの「機動戦士ガンダム」という有名SFアニメの影響だと思います。

 もっとも、私がその言葉を知ったのはガンダムからではなくて(本放送は見ていませんでした)、あれは確か、小学校2年のころ、そう、1980年あたりのことであったと思います。時期的にはガンダムの本放送と大体かさなっていますね。

 そのころ東京の「船の科学館」で、「宇宙博」という大博覧会が催されておりました。昔から宇宙大好き少年だった私は、ハンスト、家出と、ありとあらゆる手段で親を脅迫して、ついに北海道から一人で旅立つ事を許可してもらったのです。今考えれば、相当な無茶をしたものです。でも、そのくらいやんちゃなことをしてでも見たかった。

 ところが、私の心を捉えたのはアポロ宇宙船の実物大模型でも、月の石でもなくて、売店で売られていた絵葉書に描かれていたスペース・コロニーの絵だったのです。その一つが、「入国管理局」のコーナーの一番始めにある絵です。考えても見てください。宇宙に住めるのですよ!しかも、パンツ一丁で卵ご飯と納豆と味噌汁を食べるという、今の生活と全く変わらない格好で(全然フツーではないか(笑))。

 本当はもう一つ、シリンダー型コロニーの絵も欲しかったのですが、どうしても見つからないので、やむを得ずあきらめました。

 さてさて、前振りはこれくらいにしましょう。この「宇宙都市」とでも言うべきスペース・コロニーですが、その経済的価値がいかほどになるかお考えいただきたい。

 世間では、宇宙の商業的利用と言えば、やれ「新素材開発」だの「新薬の生産」だのと言っていますが、そんなのは付録にすぎないと思います。もっと重要なのは、「宇宙に人が住んでいる」という、それ自体なのです。それ自体が、経済的に見て莫大な価値を持っているのです。

 考えても見てください。例えば企業が、宇宙で新素材でも開発するために小型の、そう、10人ほどが居住する宇宙ステーションを持つとしましょう。その維持のために、一人当たりどれほどのお金が必要になると思いますか?彼らの食料、水、空気、生活必需品、それらを全て、地球からロケットで一々打ち上げて届けてあげなければならないのですよ。それだけでどれほどの出費となるか。しかも、研究員をいつまでもステーションに置いておくわけにも行きません。休暇のために地球に戻してやらなければいけません。そうしないと、研究員の精神に大きな負担をかけてしまうのはもちろんの事、無重力の影響で骨のカルシウムが失われ、健康に重大な悪影響が出てしまいます。

 もしここに、地球上と変わらぬ生活が出来るスペース・コロニーがあったらどうでしょう?物資をわざわざ地球から打ち上げなくても、コロニーから安く買って安く持ってこられるわけですし、研究員の休暇旅行も、ずっと安くあげられる。そもそも、スペース・コロニーがあれば、企業が独自の宇宙ステーションを保有する意味自体が失われます。

 もちろんそれ以外にも、月を始めとする太陽系内の天体に安く行けるようになるといった、言ってみればシンガポールのような中継港としての利益も発生するわけですね。これも無視できません。

 宇宙旅行で一番困難でかつ金がかかるのは、地球からの打ち上げだといいます。そのもっとも厄介なプロセスを、スペース・コロニーの存在は省いてしまうのです。

 もっとも、コロニーが作られるような時代には、現在よりもずっと安くて安全な打ち上げ技術が確立されているでしょうし、またそうでないとそもそもコロニー自体を建設できないわけですが、いくら安くなったといっても、やっぱりコロニーから直接出発するよりは経済的に不利なわけで、地球に対するこの経済的優位は、それこそ「転送装置」か「どこでもドア」でも開発されない限り崩れないでしょう。

 さて、そのスペース・コロニーをどうやって造るかですが、簡単に言ってしまうと、「民間コロニー」を造ってしまおうという事なのです。

 つまり、民間から広く資金を集め、いかなる国家からも独立した、純粋に「世界市民」によって作り上げられた新国家を建国してしまうのです。

 200年ほど昔、ヨーロッパを出発した清教徒達は、新大陸にこれまでとは全く性質の異なる新国家「アメリカ」を建国しました(正確に言うと、その「芽」を造ったといった方が良いでしょうが)。それと同じ事が、現代の科学力をもってすれば決して夢ではないと思います。もちろん、数々の新技術を開発してゆかねばならないでしょうが、純粋な民間基金を元に開発されるそれらの技術は、既存の地上国家に対して多大なる影響力を行使する武器ともなる切り札ともなるでしょう。

 今や市民は、金と時間さえあれば、「約束の地」を手に入れる事が出来るのです。問題は、どうやってその金を集めるかですね(笑)。坂本竜馬さんも、金の工面には相当困っていたようですが。

 さて次回は、スペース・コロニーについてもう少し詳しく見てゆくことにしましょう。


                              なかみや たかし・本誌編集委員


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