嘘つき『朝日』の大冒険−5

――― 共産主義、反体制バンザイ! ―――


                            中宮 崇


朝日よ、いい加減に共産主義・反体制オタクを辞めたら?


 最近、ザイールというアフリカの国家が地上から消えた。PKO派遣に関連して市民団体や人権派がかつてあれほどぎゃーぎゃーと騒いでいた(そして今や、ほとんど関心を失った)、ルワンダという小国の隣に位置していた、各種の地下資源に恵まれた国であった。

 ザイールは最近、国名を「コンゴ」と変更した。これは、ザイールの以前の古い名前である。

 「コンゴ」になる前のザイールは、モブツ大統領という、朝日新聞の言うところの「独裁者」の支配下にあった。それを先月、「コンゴ・ザイール解放民主勢力連合(ADFL)」が首都入りし、モブツ大統領は国外に逃亡した。

 ザイール情勢は、ペルー人質事件のころからちょろちょろと国際面に姿を現すようになっていた。今になって突然、首都が陥落したわけではない。それまでに、周辺都市から少しづつ、首都を包囲しつつあったのだ。

 コンゴは、かの有名な探検家リビングストーン氏の功績によって、長年ベルギーの植民地として支配されていた。それが「コンゴ共和国」として独立を果たしたのは、1960年になってからである。その後1971年に、「ザイール」と改称している。

 ところが独立とほとんど同時に、鉱物資源に恵まれたカタンガ州がコンゴからの分離独立を宣言、一時内戦状態に陥っていた。背後に、かつての権益に執着していた旧宗主国のベルギーと、今でもアフリカにかなりの影響力を持っているフランスの策謀があったともいわれている。

 さて、朝日から「独裁者」とのありがたいレッテルを頂戴したモブツ大統領であるが、彼は1965年にクーデターによって、大統領の椅子を手に入れた。それから今年に至るまで、30年以上もの間政権の座にすわり続け、莫大な個人資産を築きあげたといわれている。まあ、「独裁者」との呼称も、あながちはずれてはいないであろう。

 さて、朝日を始めとするメディアの問題は、モブツ大統領の悪のみをこれでもかと暴き立てる一方、ADFLについての情報はほとんど流してこなかった点にある。5月17日朝日朝刊は、


   「モブツ独裁政権、崩壊」


などと、ことさら「独裁」を強調する一方、ADFL側の悪行については口を閉ざしている。実は先年のルワンダPKO派遣は、ADFLの一勢力であるツチ族、とフツ族との凄惨な虐殺合戦が原因であったのであるが、人権派や市民団体、そして朝日新聞を始めとするマスコミは、それらの事を一切伝えようとしない。都合の悪い事は忘却してしまう主義なのであろう。

 これでは読者は、「悪逆な独裁政権を、正義の反政府勢力が打倒した」と取りかねない。しかも朝日は、


   カビラ議長(ADLFの指導者)は元マルクス主義者で


などと言わなくても良い事をわざわざ付け加えて、「資本主義陣営に支援された独裁政権vs正義の共産主義勢力」とでもいう構図を作り上げようとしているようにも見える。何しろ、


   米国は「反共のとりで」として(モブツ政権に)援助をつぎこ
   み、フランス、ベルギーなどとともに独裁体制を支えた。


とか


   西側に支えられ、三十年以上にわたり国の富を私物化して
   きた独裁政権


などということをしきりに宣伝している。盲目的に共産主義を信奉していた、今は朝日新聞社でサラリーマン生活をむさぼっているかつての学生運動、安保闘争世代オヤジは、今でも共産主義への幻想を捨て切れないらしい。

 また、軍隊の進軍に付き物の略奪、虐殺などの行為を無視し、


   ADFLの首都侵攻は秩序だっている


などとなんとも平和ぼけ新聞らしい戯言を書き立てる一方、大統領陣営の部隊が行ったと「見られる」殺人については、未確認情報にもかかわらずわざわざ載せている。そして、


   冷戦の終わりが、独裁体制の崩壊をようやくもたらした、と
   もいえる


などという、なんとも幼稚で楽天的な見解を恥ずかしげも無く載せている。後で書くように、朝日のこのような単純な見方は全くの間違いである。

 時間が経つにつれ、「解放者」ADFLという、朝日やエセ人権派が作り上げた虚像は崩れつつある。様々な虐殺行為、略奪を始めとするADFLの横暴は、もはや共産主義礼さん新聞朝日でさえも認めざるを得なくなってきている。

 朝日の「共産主義礼さん、資本主義中傷」作戦は、5月28日に完全に崩壊した。「西側資本主義国に支援されていた独裁者モブツ」を追い払った「解放者ADFL議長カビラ氏」が、行政、立法、軍の全権の独占を宣言したのだ。これが「独裁」でなくて、なんであろう。朝日がしきりに攻撃する、ペルーのフジモリ氏以上の「独裁者」ではないか。共産主義の信奉者なら、独裁をしてもよいというのであろうか?つまり、「独裁者モブツ」を追い出したのはただの「独裁者カビラ」だったのである。朝日を始めとする軽薄かつ低能な連中の、初期における楽天的かつ無責任な幻想は、完全に打ち砕かれた。

 さて、作戦に失敗した朝日は、手のひらを返して急に、ADFLを見捨てる方針に出た。6月1日朝刊のコラムでは、


   日本のコンゴ承認は尚早


と、今までの自分たちの犯罪的行為を何ら省みることなく、見事なまでにコンゴを切り捨てた。彼らのような人間の頭には、「羞恥心」という言葉は存在しないに違いない。

 比較的タイムリーに自分たちの立場をころころと変える事のできる朝日新聞のような連中と違って、記事の流通まで長い時間のかかる雑誌のようなメディアにおいては、残念ながら(?)そのような「華麗なる変身」は不可能である。

 「新聞の朝日、出版の岩波」と並び称されるデマゴーグ連合の片割れ、岩波書店の看板雑誌「世界」は7月号において、1ヶ月ほど前の朝日新聞がやっていたようなプロパガンダ作戦を今になってやっている。急激な状況変化についてゆけなかったのであろう。哀れである。記事の内容について簡単に見てみよう。まあ、ほとんど朝日の記事の後追いに過ぎない内容であるから、詳しく考察する必要もあるまい。記事の題は、


   ザイール、モブツ体制崩壊の構図

              武内進一


というもの。例のごとく、「西側資本主義国と独裁者の結託」について一方的に書き立てた挙げ句、最後にADFLについてこう書いている。


   カビラにとって本当の戦いはこれから始まるといえる。構
   造的に求心力を欠くこの国を、民主的な手段を用いていか
   に統治していくのか、当面は試行錯誤が続くであろう。


 行政、立法、軍を独占的に支配しておいて「民主的」もなにもないのであるが、この引用からもわかるように、著者の武内氏は、カビラがモブツに取って代わっただけの「独裁者」に過ぎなかったのだという事を予想する事が出来なかった。これは、「西側資本主義国と独裁政権vs東側共産主義と反政府勢力」という、朝日や岩波が未だ夢見る幻想からぬけきる事が出来なかったためである。「独裁者に反対する者は解放者(民主主義者、共産主義者)である」という、なんとも単純な思考方法から彼らが抜け出る事ができる日が来るのは、一体いつの事になるであろうか?


                              なかみや たかし・本誌編集委員


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