3歩進んで10歩さがる〜
中宮 崇
じ〜んみんを、ワン・ツー・パンチ!
北朝鮮は、米が足りなくて困っている。金王朝の無為・無策・無謀な食料政策の当然の帰結である。集中豪雨は単に口実にすぎない。なぜなら、北朝鮮における米不足は何も、今に始まった事ではないからだ。それは建国以来、ずっと続いている事なのである。
そんな国をいつまでも甘やかしておくことは、北朝鮮人民にボディーブローを叩き込むというのと同じ事だ。まあ、「進歩的文化人」にとっては、2000万人民よりも、金正日一人のほうが、よっぽど大切なのであろうが。
金正日の偉大なる(とされている)父親金日成は、亡くなる年の1994年の正月に、人民に向けてこう言った。
我が国における社会主義の目標は、全ての人民に米のご
飯と肉のスープを保証する事である。
この発言の裏を返せば、北朝鮮は建国以来、米とスープさえも人民はろくに口に出来ない状態にあるという事である。独裁者による国民向けのプロパガンダ演説からさえ、少し頭を働かせばその窮状と欺まん性を看過できるのであるが、どうも日本の「進歩的文化人」と称する連中は、その程度の推理力さえ働かせる事の出来ない貧弱な脳みそしか保有していないらしい。それとも、分かっていてわざと、日本人を騙そうとしているのであろうか?状況証拠は色々あるが、それについてはまた別の機会に見てゆく事にしよう。
さて、北朝鮮べったりの「進歩的文化人」の一人として、小田実氏について見てみよう。もじゃもじゃ頭でしかめっ面のこのおじさんの姿は、「朝まで生テレビ」でしばしば見かける。
他人の発言を聞こうともしない傲慢なこのおじさんはかつて、「べ平連」という、ベトナム反戦運動のリーダーとして活躍した。そのころから共産主義への盲信ははなはだしかったのであるが、彼は以前、実に面白い発言を行っている。
小田のような共産主義大好きおじさんとしては、当然「共産主義ショーウィンドウ」たる北朝鮮を一度は訪れてみたいところであろう。「進歩的文化人」とやらは、明治維新直後の「岩倉使節団」を嘲笑する傾向があるようであるが、どうも彼らのような連中の共通した病癖らしいのだが、「身の回りには鏡の類を置いておかない」という、まことに困った点がある。
さてその小田氏、1977年に北朝鮮訪問の体験をもとに
「私と北朝鮮」
小田実 筑摩書房
なる本を出版している。内容は、北朝鮮と金親子に徹底的にゴマをするものであり、今から見てみると実に楽しい資料である。
まあ、「進歩的文化人」などという連中の20年ほど昔の発言をコレクションすれば、彼らが知識人としてはもちろんの事人間としても失格であるという事がよく分かってくるのであるが、幸いな事に日本のメディア(特に朝日)は、自分たちも彼らと同罪なものだからそんなことを大々的に発表しようとはしない。日本という国は実に、嘘つきにとって住みやすい恵まれた国である。
小田はこの本の中で、こんな事を言っている。
第三世界にとって、かつては日本が進歩のモデルだった。
しかし、今、そのモデルは、たとえばアフリカの多くの国にとっ
て、北朝鮮にとって代わられようとしている。
なるほど、小田のこの予言は確かにあたっている。日本を目標とはせずに北朝鮮などをお手本にしたからこそ、アフリカ諸国は北朝鮮と同様に、食糧援助を受けなければならないほど貧困に喘いでいるのであろう。しかし、物質的には豊かな日本よりも、食うにこと欠く北朝鮮のような国を目指すというのも、何と言うか、実に奇特な国がアフリカには多いようである。
小田によると、アフリカの国々の一つソマリアは、実に忠実に北朝鮮を目標にしていたそうである。なるほど、ソマリアが、国連軍の介入が行われるほど最悪の窮貧国になってしまったのもうなずける。
また、こうも書いている。
日本はいまだにあまたのアメリカ合州国という外国の軍隊の
基地を体内に持つが北朝鮮にはそういうことはない
小田よ、嘘を言ってはいけない。この日本国のどこに、「アメリカ合*州*国」なる国の基地があるというのか?アメリカ合*衆*国の基地なら、最近も沖縄などで問題になっているが。そもそも、外国軍の基地の有無で国のランクを決めてしまえるなどという考えが一体どこから出てくるのか全く理解不能である。だいたい、彼の称賛する共産主義国家、例えばポーランド、旧東ドイツ、ブルガリア、ルーマニア…、そのほとんどがソ連軍の基地を持っているはずであるが。
さて、これらの小田の発言は、「偉大なる首領さま」金日成のお言葉を受けてのものである。知識人のくせに政治家の言う事を批判的視点も持つことなく丸呑みしてしまうというのが笑止であるが、その敬愛する金さん(遠山の金さんではない)は、「北朝鮮をお手本にしているソマリアとマダガスカルこそ、アフリカでもっとも有望な国である」と言ったのだそうだ。そのお言葉にしっぽを振って飛びついた結果が、先の小田の妄言となったのである。
そう言えば金さんは生前、「社会主義は米である」と常々言っていた。なるほどこれは、社会主義をたらふく食わせておけば(つまり人民をプロパガンダ漬けにしておけば)、食品としてのお米を食わす必要はなくなるという意味だったのであろう。いや、それとも、人民に食わす米が無いものだから、「社会主義をお米の代わりに食べなさい」と負け惜しみを言っていたのであろうか?どちらにせよ、小田を始めとする「進歩的文化人」の犯罪性は何ら変わりはないが。
なかみや たかし・本誌編集委員