環境保護派のテロリズム
中宮 崇
環境保護派が住環境を破壊する!
「日本の国土は荒らされようとしている。市民の生活は破壊されようとしている」。
これは、いわゆる「環境保護派」が、我々市民に警告を与えるために良く言う類の言葉である。
しかし、国土を荒らそうとしているのも、市民生活を破壊しようとしているのも、実は環境保護派自身なのである。
よく、「平和主義者が戦争を起こす」と言われる。彼らの近視眼的、利己主義的な行動が平和をかき乱すのだと言うわけだ。
実際、第二次世界大戦は、平和主義者たちの甘さと無思慮とが、ヒットラーを付け上がらせたことによって発生したとのだとの認識は、極めて広い範囲で支持されている。
同様のことを「環境保護団体」についても言える。「環境保護団体が環境を破壊する」。少なくとも、「環境保護団体は生活環境を破壊する」と言うことはできる。
今、環境保護団体にとって一番トレンディー(彼らの軽薄な行動を現すには、この言葉が一番であろう)な話題は、諫早(いさはや)湾干拓事業である。有明海の湾の一つを外海から仕切って干拓し、農地を造成しようと言うこの事業は、その特徴的な工法から「ギロチン」などというあまり有り難くないあだ名を与えられている。
確かにこの事業は、批判すべき点が多い。一旦開始された事業をストップできるシステムになっていないという、日本の公共事業の構造的問題、最初は農地造成が目的の事業だったのに、農地が余っている現実に直面したとたん、後からとってつけたように「治水事業」という目的を加えた官僚の場当たり主義、土建屋に利益を垂れ流すような、官民の癒着体質等、挙げればきりがない。この限りにおいて、「事業は一旦見直すべきだ」という主張は十分説得力を持っている。
しかし、環境保護派が言うような理由、「諫早湾のムツゴロウを救え!」などという理由によって事業を見直すべきなのであろうか?
環境保護団体や市民団体、進歩的文化人や朝日的メディアの共同戦線は、いつものことではあるが、我々市民に対する嘘の垂れ流しと情報操作行為とを、今回の問題についても積極的に行っている。
それでももし、
ムツゴロウは諫早湾にしか住んでいない。これを干拓してし
まったら、日本からムツゴロウはいなくなってしまう。
などという事実があるのなら、かれらの主張もいくらかの説得力を持つであろう。しかし、そのよな事実は全く存在しない。
彼らは情報の隠蔽や操作によって、あたかもムツゴロウは諫早にしかいないようなイメージを積極的に作り上げているが、諫早湾は広大な有明海のほんの一部にすぎない。そこに住むムツゴロウは、有明全体のわずか数パーセントに過ぎないのである。
つまり彼らは、ほんの数パーセントのムツゴロウを護るために、「これ以上の農地はいらない」というのはもちろんのこと、「人間が水害で死んでしまっても良いのだ」と考えていることになる。彼らがそうまでして悪質な情報操作をする理由は、一体何なのであろうか?
「わずか数パーセントだからといって、ムツゴロウを殺してもよいという理由にはならない!」と強弁する族も居るかもしれない。いや、確実に居る。
しかし、一見もっともに見えるこの主張も、せめて菜食主義者の口から出た言葉でない限り、耳を傾けてあげるわけにはいかない。
毎日大量の家畜を殺して肉食を楽しんでいる人間が、生活排水を垂れ流して魚介類を殺しているような人間が、農薬で虫鳥類を殺した結果安く出回っている農産物を食べているような人間が、歩くときに蟻などの虫を踏みつぶしているということに無頓着な人間が、よくもまあ、恥ずかしげも無くそんなせりふを吐けるものである。
連中のような人間に共通する特徴として一般的に、羞恥心と知性の欠如があげられるから、どうしようもないことなのかも知れないが。
そもそも日本の国土は、そのかなりの部分が干拓や埋め立てによって造成されたものである。東京なんて、人間が手を加えるまでは昔はほとんどが海の底であった。
である以上、環境保護団体はまず最低限、東京を利用するようないかなる行為も行ってはいけないと言うことになる。東京に行くことはもちろんのこと、そこで集会を開いてもいけないし、東京のテレビ局の取材も受けては行けない。東京の地下をケーブルが通っているとすれば、長距離電話も使ってはいけない。いや、東京に住んでいる人たちに自分たちの主張を訴えかけることもいけない。なぜなら、彼らの論理からすれば、東京には本来、人が住んでいてはいけないからだ。
自分たちが今現在享受している、埋め立てによる利便性には目をつぶり、諫早については「ムツゴロウを護るために干拓を中止せよ!」と言うのでは、あまりに品性が無さ過ぎる。
「日本の国土は荒らされようとしている。市民の生活は破壊されようとしている」。環境保護派がよく口にするこの警告は、実は彼ら自身に向けられるべきものなのである。
彼らがその自らの主張を本当に真摯に実行しようとしているのなら、そのうち東京を全てほじくりかえして昔のように海に戻してしまおうと考えていなければいけない。また、日本の食卓から肉を始めとする動物性の食料を消し去ろうとしていなければいけないことにもなる。これだけでも十分、「国土を荒らし、生活を破壊する」行為ではないか?
現在彼らによって行われている情報操作行為だけでも、「テロ」と呼ぶのに十分ではあるが、彼らの、まるでオウム真理教信者のような単純な脳の構造を見せられると、そのうち、東京で核でも爆発させて大穴を明けて無理矢理海に戻そうとしたり、日本中に狂牛病でも撒き散らして家畜を皆殺しにし、肉食を不可能にしたりと言う、馬鹿げた行為をしはじめる危険性が無いとは言えなくなってくる。
彼らの、一見ご立派にみえる主張のほとんどが、単なる戯言であるばかりでなく、強烈な害毒を垂れ流す危険なものであると言うことは、今後更に明らかにしてゆくが、彼らの主張の馬鹿らしさと危険性は、既に十分明らかにされてしまったかもしれない。
なかみや たかし・本誌編集委員