消える香港、生き残る提灯持ち
中宮 崇
日本マスコミはなぜ、こんなに馬鹿で卑怯なの?
日本のマスコミが、中国にべったりなのは、なにも今に始ったことではない。特に朝日新聞などは、かつてはデマまで流して、中国共産党による大虐殺を隠したり、手放しの中共礼さんを繰り返してきた。
以前中国が、台湾近海にミサイルをぶち込んで脅しをかけたときも、朝日はわざわざ40年近く昔の資料を「発見された!」などと称して持ってきて、中国の悪逆非道な行為から国民の目を逸らさせようとした。その時の「発見された」資料を紹介した記事のタイトルは、
「米、58年に中国核攻撃検討」
などというセンセーショナルなもの。そもそも、そんな事言ったら中国だって、アメリカはもちろんのこと、日本やソ連でさえ、ひょっとしたら朝鮮半島だって核攻撃の目標にしていたであろうことは(朝日が資料を探そうとしないだけで)ほとんど疑い無いのであるし、有得ないような可能性についてもあらかじめ作戦を立てておくのは、軍事上の常識なのであるが、朝日は軍事の知識が無いのか、それとも、あってわざとやっているのか知らないが、いずれにせよマスコミとして失格であることには変わりない。
大体、実に都合良い時期に「発見された」ものであるが、朝日は、自分の仲間が批難の対象になっているときに、そこから目を逸らさせるような「新発見」や「スクープ」を流すことがよくある。
朝日のこのような読者を愚弄する行為は、実はいつものことであり、本誌でも以前取り上げたように、ペルー人質事件においてテレビ朝日系列の記者が「カミカゼ取材」したことへの批難の声が上がったときも、「実はTBSも、同じようなことをやっていたのだ!」などと暴露し、人質の生命に多大な危険を及ぼした(本誌創刊号記事「なんで僕らだけ怒られるんだよ〜」 参照)。
さて、今月1日に中国に返還された、旧イギリス領香港であるが、あの人権弾圧国家中国に取り込まれてしまうのであるから、香港人たちの不安は相当なものであろう。
何しろ、自国民に銃をぶっ放してなぎ倒すような国である。戦車で同胞をひき殺すような国である。未だに侵略戦争を行っているような国である。不安にならない方がおかしい。
現に中国は、返還後の香港では、反中国の言論を弾圧する可能性を公然と表明している。天安門事件などの虐殺事件などの時にも、弾圧から逃れてきた中国の人たちをかくまい、中国民主化のための言論活動の拠点となってきた香港は、もはや聖域ではありえない。返還に伴う身の危険を感じた香港に潜伏していた民主運動の活動家たちは、すでにその多くがアメリカなどへ逃れている。
ところが日本のマスコミ、特に朝日は、極力中国を良い子に見せようとしている。香港返還には何の不安も無いかのように書きたてている。
テレビにおいても、TBS「NEWS23」やテレ朝「ニュースステーション」などは、香港現地からの返還祝賀ムードを伝える生中継の中で、
香港の人たちは、返還を素直に喜んでおり、不安はほとん
ど感じていないようです。
などというレポートを堂々と垂れ流している。
返還を喜んでいる人たちがストリートに繰り出してきている姿だけを見たら、「返還を素直に喜んで」いるように見えるのは当たり前のことだ。返還に不安を覚える人たちは、ストリートに飛び出してきて踊ったりしないのだから。こういう風に、一部の場面だけを抜き出して、自分たちの都合の良いように解釈するのは、日本マスコミに広く見られる悪癖である。
中国は、香港返還にあたり、「一国二制度」という方針を打ち出し、しばらくの間は香港の現状を変えないことを宣言している。しかしこの約束は、既に空手形となりつつある。いくつかの約束が早くも破られているからだ。
この批難に対して中国は、「イギリスが勝手に香港を民主化してしまったのが、そもそもいけない。先に約束を破ったのはイギリスだ」などと主張している。日本国内にも、これに同調する提灯持ち達の意見が多数見られる。
しかし連中のような卑劣漢は、ペルー人質事件においてはペルーの即時民主化(彼等の主張は実はただの戯言で、ペルーは既に民主化されているのであるが)を主張していたくせに、香港については「民主化はいけない」などと言う。よっぽど中国に操られるのが好きなのであろう。ちなみに連中は、北朝鮮の民主化についてもまったく口をつぐみ、暗に北朝鮮を擁護している。
中国の提灯持ちに成り下がっているのは何も、新聞やテレビだけではない。天下の岩波書店も、中国擁護の急先鋒である。
たとえば、本来香港返還特集が誌面を賑わすはずである雑誌『世界』は、7月号も8月号も、返還について特集を組まないばかりか、ほとんど触れてさえもいない。さすがに朝日と違って、思慮の深い人間が集まっている岩波である。下手に「返還バンザイ」特集を組んだら、後で香港が弾圧と虐殺の嵐に見舞われたときに言い逃れが出来なくなることが、よく分かっているのであろう。「中国礼さん記事を書いて、後で責任を問われるよりは、香港返還なんて無視してしまった方が良い」と考えたのであろう。
しかし、さすがに天下の岩波である。ただ無視するのではなく、できるだけ中国を側面から援護射撃しようとしている。何しろ『世界』7月号においては、「加害の証言」などと題して慰安婦問題や三光作戦、731部隊といったようなことを、「なぜかこの時期に」、香港特集を差し置いてわざわざ書きたて、「日本は、中国にひどい仕打ちをしたのだ!」とわめいている。
また、ご苦労なことに、ペルーやインドネシアの人権状況をことさら悪く見せる記事まで載せ、中国の人権状況には頬被りして読者の注意を逸らし、更には「中国経済悲観論の限界」なる記事まで載せ、「香港は中国に返還されても大丈夫なのだ」と、(巧妙にも)暗に印象づける内容となっている。さすがにエリートさん達の情報操作作戦は、一味も二味も違う。
香港では、中国によって、民主化の芽が摘み取られようとしている。その反動はそれほど遠くない未来に、必ずや激しく吹き出すことになろう。
もっとも、香港がたとえ血の色に染まったとしても、かつて天安門が血に染まったときにもそうだったように、朝日や岩波を始めとする日本の卑劣極まりないメディアは、巧妙に立ち回って生き残ることになろう。そんな不正義を許さないためにも、我々市民は、連中の行為に常に注意を払っておくべきである。
なかみや たかし・本誌編集委員