『週金』を撃つ!−9(その2)

操られる週金信者


                            中宮 崇


中国をかばい、イギリスを貶めるデタラメ記事!


 香港は、慢性的に移民問題に悩まされている。社会主義の失敗により貧困と貧富の差に悩まされている大陸中国に、ぽつんと浮かぶ「東洋の真珠」香港。高い賃金と豊かな暮らしを求めて、そこを目指す中国人の数は多い。

 どこの世界でも、移民は社会的・政治的摩擦を生み出す。元からの住民は、新たに流れ込んでくる移民を、「低賃金で満足し、自分たちの職を奪い、我々の文化になじもうとしない族」と見る傾向にある。最近もアメリカやドイツなどで、移民問題が大きくクローズアップされている。

 しかし香港の場合(他の国々でも多かれ少なかれそうなのではあるが)、慢性的な労働力不足を解消するためのアンプル剤として、移民を黙認してきたという歴史が有り、話は簡単ではない。

 例えば、本土との境界において見つかった不法侵入者は強制送還しても、町にたどり着いた者については黙認するという基本政策にも、香港政庁の立場の複雑さを見て取ることができる。

 ところが、そうした不法入国黙認政策を採っても、香港の労働力不足の深刻さはいっこうに解消されていない。近年の失業率は2%以下という極めて低い水準を推移し、賃金はうなぎ上りだ。その結果、本国であるイギリスよりも一人当たりGDP(国内総生産)が高いという、なんとも不可思議な状況が続いている。こうした逆転現象は必然的に、イギリス本国から植民地香港に「出稼ぎ」に来る若者が増えるという、奇妙な現象を生むことになっている。

 さて、前振りが長くなったが、今回は雑誌『週刊金曜日』の記事


   「香港“狂想曲”」
      金丸 知好


の第3回と第4回について見てみよう。

 前回も指摘したが、金丸のような「週金信者」の御都合主義と支離滅裂さには、目を覆わざるをえない。何しろ、第3回では「香港人は、中国からの移民を差別している」と言っているくせに、第4回では、「香港人は、中国からの移民を信頼している」などと平気で言っているのだ。

 検証能力や思考能力に欠ける週金信者が相手ならば、そういう詐欺行為も有効であろうが、一般の市民を騙す手法としては、相当幼稚であると言わざるをえない。


移民を差別する香港人


 金丸は第3回の「香港人と中国の心の「国境」」において、以下のようなことを主張している。


   香港人は、中国からの移民のことを「新移民」として差別意
   識を持っている。そういった意識は、現実の状況を無視し
   た、非常に偏ったものである。そういう差別される対象とし
   ての「新移民」は、実に悲惨な状況に置かれており、「一国
   二制度」が維持される限り、そういう悲劇はなくならない。


 つまり、「香港人は差別者だ!」と貶めた上で、「一国二制度なんて早く止めて、香港は完全に中国に吸収されるべきだ!」という印象を読者に与えようとする内容となっているのである。

 巧妙なことに、金丸自身はそういう主張を明白にはしていない。あくまで話の流れとして、そういう印象を与えようとして記事が作られているのである。

 金丸は、


   日本に入ってくる「新移民」の報道が、「不法入境」「強制
   送還」「貧民」という暗い側面ばかりが取り上げられている。


と批難する。確かに、「夜ごと華やかな社交界に出入りする実業家」のような「新移民」もいよう。しかし、そういった「新移民」は、政治的・社会的摩擦を生み出す可能性は極めて少ないのであるし、なにしろ絶対数でも圧倒的に少数派なのであるから、日本であまり取り上げられないのは当然のことだ。金丸は一体、何が気に入らないのであろうか?

 また、密入者の中に、不法入境業者(最近日本でも有名な「蛇頭(スネークヘッド)」)の甘言にのせられてやってくる子ども(「小人蛇」と呼ばれている)が多いことに触れ、更には差別などによる「香港の冷たさ」によって自殺に追い込まれた少年の例を挙げ、香港人の冷酷さを印象付けようとしている。

 そして、この回の最後では、こう言うのである。


   これは、かたや植民地、かたや社会主義国家に分断された
   という歴史の傷跡であり、その経済格差が生んだ「鬼子」
   だ。そして「一国二制度」が(この点で)堅守されるかぎり、
   「地図上からは消えてしまったはずの国境線」に翻弄される
   人々はなくならないのである。


 「社会主義」に対比するものとして「資本主義」ではなく「植民地」を持ってくるという時点で、金丸の中国べったり、社会主義擁護の態度は明白である。だいたい、「経済格差」の原因は、中国の社会主義の失敗が主原因であるはずであるし、である以上、「鬼子」を生み出した責任の大半は中国にあるはずではないか?それとも金丸は、香港が(イギリスに占領されずに)ずっと中国領のままで、他の地域と同じように貧しくて、人権状況も劣悪なままの方が良かったと言うのであろうか?

 また、できるだけ香港やイギリス、ついでに日本まで貶めて、「一国二制度は悲劇を生む!」とまで言い、中国による香港の完全吸収(つまりそれは、香港に貧困化と人権弾圧を呼び込むことを意味するのであるが)をできるだけ援護しようとしているのだ。

 さて、中国シンパの金丸は、香港人の差別意識について、以下のように書いている。


   (新移民に対して)「知識がない」「礼儀知らず」「不潔」
   「香港文化に適応できない」などのマイナスイメージを抱く
   人が51%にものぼったのだ。
   この差別感は人によってさまざまだ。


 そもそも、「マイナスイメージ=差別感」などと単純に決め付けてしまうところがいかにも幼稚である。そういえば週金信者の多くは、「自由主義史観=皇国史観」というマイナスイメージを持っているはずであるが、週金は、これが不当な「差別感」であるということを自ら認めたことになる。

 これだけでも、連中の支離滅裂さを証明するに十分なのであるが、さらに御笑いなのは、この回の後の第4回「香港ゆく人、くる人」においては何と、イギリスを貶めるために、「香港人は新移民に対して差別感を持っていない」という、全く正反対のことを恥ずかしげもなく言っているのである。


イギリスに責任転嫁


 第4回においては金丸は、本来中国が責任を持つべき問題についてイギリスに責任転嫁し、あまつさえそのために、今までとは全く正反対の主張をしておいて涼しい顔をしている。こんなとんでもない記事が、よく週金に掲載されたものである。そんなものを有り難がって読んでいる週金読者というのは、よっぽど低能揃いであるらしい。

 先にも触れたように、香港にはイギリス人を始めとして、インド、パキスタン、フィリピンなどから、多数の外国人労働者が流入している。そういった人たちが、返還後もこれまでと同じように働けるのかどうか、不安があるのは当然のことだし、現に金丸自身もそれについて書いている(この時点で既に、「作られた不安」などと言う彼の主張が大嘘だということが分かる)。

 ところが本来、外国人労働者が返還後の香港から追い出されるとすれば、その責任は中国にあるはずなのであるが、金丸は、イギリスに罪を擦り付けたいのか、フィリピン人アマ(家政婦)にこう言わせている。


   「クリス・パッテン(現在の、そして最後の香港総督)は私たち
   を見捨てたのよ!」


 また、彼等の保護をしようとしない(というか、保護の手段がない)イギリス人総督に対して、「無策の香港政庁」などとまで言う。金丸のような週金信者のこじつけにも、困ったものである。しかも読者の多くが、そういう悪質な行為を見抜けない程度の人間なのだから、最悪だ。

 さて金丸は、そのフィリピン人アマについて、以下のように書いている。


   しかし、大陸出身の「新移民アマ」なら(フィリピン人アマより
   も)もっと安く雇えるし、同じ中国人という安心感もある。


 おや〜?金丸によると香港人の少なくとも51%は、「新移民」に対して差別感を持っているのではなかったのか?前回は、香港人を貶めて中国を良く見せるために、「香港人は差別感を持っている」などと言っていたくせに、今回はイギリスに責任転嫁して中国を擁護するために、「香港人は、新移民に対して安心感を持っている」などと言う。

 それとも金丸は、「香港人は、英語を話せない新移民アマよりも、英語も話せて大学教育も受けているフィリピン人アマに、より強烈な差別感を抱いている」とでも言いたいのであろうか?金丸が御都合主義に侵されていないという、有りそうもない仮定をするならば、それ以外には考えられない。いずれにしても、できるだけ香港人を貶めようとしていることには変わりない。

 また、イギリスをできるだけ悪く見せるために、こんなことまで書いている。


   そしてこの4月1日、宗主国(イギリス)の権威がすでに失墜
   したことを象徴する出来事があった。香港政庁が、イギリス
   人の特権を廃止したのだ。イギリス人はこれまで香港に入境
   する際、ビザなしで1年間の居住が認められてた。しかし
   4月1日以降は、入境時に認められる期間を半年とされ、就
   労する場合は他の外国人と同様に就労ビザ取得を義務づ
   けられる。


 3ヶ月後の7月に返還されようとしているのであるから、滞在期間を短縮するのも、ビザ取得を義務づけるのも当然のことではないか?何しろ今までと違って、これからはイギリス人も、「外国人」になるのであるから。それを「宗主国の権威がすでに失墜」などと書いてしまえる神経が理解できない。金丸の偏向具合も相当なものである。


 『週刊金曜日』に4週にわたって連載された、この御都合主義と偏見、情報操作のオンパレード記事は、週金のような「市民運動系」嘘つきメディアの体質そのものを表しているという意味で、実に貴重な資料である。

 もっとも、こういった批判を突きつけられても、週金信者を始めとするような狂信者どものマインド・コントロールを解くのは難しいであろう。彼等に必要なのは、一人の批判者よりも、一人の精神科医であろう。


                              なかみや たかし・本誌編集委員


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