激白!偏向授業!(その1)


                         中宮 崇


「自虐史観」教師による、「偏向授業」の無自覚な告白


 「自由主義史観派」は、「小中高の歴史授業では、日本を貶めるような、いわゆる「自虐的」な偏向教育が行われている」と言う。

 これに対して「自虐史観派」は当然、「そんなことがあるものか!」と言い返す。

 先週あたりはどうやら、「自虐史観派」の書籍の出版ラッシュであったらしく(香港返還のこの時期に集中しているところに、作為を感じるが)、新しいものを数冊見つけて仕入れてきた。「自虐史観」の連中の犯罪的行為を暴くために、彼等に印税を上納せざるを得ないのは、非常にしゃくであるが、相手の本も読まずにいい加減な嘘ばかり言って批判したつもりになっている「自虐史観派」と、同じ穴のむじなにはなりたくはないので、やむを得まい。

 ところで、それらの本の中で、他とは比べ物にならないぐらいの衝撃を受けた「自虐史観」本がある。


   「教室で語りあった戦争責任
      平和の主体が育つ近現代史の授業」
          久保田 貢  かもがわ出版


がそれである。

 題名からもある程度想像できるように、名古屋のある中学校における歴史授業の実例を通して、「生徒に平和思想を植え付ける」ためにはどうしたら良いかということを論じている。

 しかし、教師である筆者は「俺の平和教育は、こんなに成功したぞ!」と誇って書いているつもりらしいのであるが、その内容たるや、偏向教育、いや「マインド・コントロール」の実践授業を誇らしげに自慢している、実に恐ろしいものとなっている。なにしろ、自らの「偏向授業」を「激白」しておいていて、そのことに全く気付いていないのだ。

 著者が自分の行った「平和教育」なるものが、オウムのマインド・コントロールと全く同じものだということを自覚できずに、「生徒をマインド・コントロールしたぞ!スゴイだろう!偉いだろう!」と言わんばかりに、恐らくそんな批判がくることを想像だにできずに、こんな本にして出版してしまえる、そこまで自らの行為の恐ろしさに無自覚でいられるということ自体、寒気がする。


出発点における、生徒蔑視


 著者の久保田が行った授業は、テーマごとに生徒に「基礎資料」を与え、「それを元に」独自に調査報告させ、その内容に「指導」を行った上で、「教師である久保田自身が司会となって」討論を行わせる、というもの。

 賢明なる読者諸氏は、この時点ですでに、「一見生徒の自主性に任せているように見える」授業の、久保田による「見えない捻じ曲げ、干渉」を読み取ることができよう。

 具体的な内容は、また後で検討するとして、一見「生徒の自主性を尊重」しているように見える久保田が、実は、生徒に自主性なんてあるはずが無い、と馬鹿にして見ているということが分かる。

 例えば、


   教師が日本軍の残虐な行為を伝えなければ、生徒達はそ
   れを知ることができず、


 冗談ではない。私は小学校の時点で既に、学校の図書室の書籍で、「バターン死の行進」などというものまで知っていた。「生徒は、教師が教えることしか学ばない」という、この傲慢で、生徒を軽蔑した考え、これが久保田の本心なのであろう。

 更には、こんなことまで言っている。これは意訳すると、「生徒は、科学的思考なんて出来ない」と言っているのである。


   その(日本の戦争は侵略ではないという考えのこと)影響を
   受けている生徒に対し、科学的に立証されているとはい
   え、「侵略戦争論」をそのままぶつけたところで、空回りをし
   たり、反発を受けてしまうことになる。


 そもそも、日清戦争に始る日本の戦争が、侵略の連続であったということが「科学的に立証されている」なんて、全くの初耳である。久保田は、嘘がばれるのがコワイのか、その根拠となる「科学的」論文の一つも、参考文献として示してくれてはいない。

 本当に「侵略戦争論」が「科学的に立証」されているのであれば、まるで連立方程式を解くがごとく、整然と論理的に生徒を納得させることが出来なければ、おかしかろう。ところが久保田は、「それは出来ない」と言っているのだ。しかも、その「できない」原因を、「影響を受けている」生徒のせいにしている。これだけでも十分、久保田による生徒蔑視は明らかであろう。

 そして、「科学的」などという言葉にこだわりつつ、実は自身が科学的思考法なんてできない愚か者であるところの久保田は、さきほどの引用文のすぐ後で、自身が持ち出した「科学的」なるものを早くもかなぐり捨てて、狂信的な教条主義に走っている。


   保守化の波を自らの授業でこそくいとめたい


 ???そもそも「保守化」はいけないことなのであろうか?保守化の波をくい止めるということは、久保田は「革新」、つまり社民党や共産党のような考え方こそ「生徒に教えるべきすばらしいもの」と思っているということになる。久保田の偏向姿勢のベールの一枚目が、まずは引っぱがされた。


自分に反対する者は全て「反動」


 久保田の差別思想の対象とされるのは、何も生徒だけとは限らない。親だろうが同僚教師であろうが、反対する者は久保田にとっては全て「愚かなる者達」なのだ。


   軍需産業の社長を親にもつ生徒から親ともども反発された
   こともあった。




 「軍需産業」とはどこの会社のことだ?今の日本に、そんな「軍需産業」と言ってしまえるほど自衛隊への依存が大きい企業が、一体いくつあるのだ?

 だいたい、自分に反対された理由を「軍需産業の家族だからだ」とでも言いたげなこの思想は、「自衛隊員や警官は人間ではない!」として人権弾圧運動を展開した、共産党や旧社会党などのかつての「革新」勢力の流れをそのまま受け継いでいるといえる。

 この発言と、次の


   職員室で年配教師から「日本軍の組織的な行為とはいえな
   いのではないか」と「指導」されたりもした。


という文をまとめて、


   「反動攻撃に負けてはいけない」と自らを叱責していた。


などと「自慢」する。自らに反対する者たちは、久保田にとっては「反動」勢力なのだ。それに、先輩の教師の行為を「指導」などと意味ありげに書いているが、前に書いたように、久保田だって生徒を「指導」しているではないか。

 注目すべき点は、両方のケースとも久保田自身がどのように反論・説得を試みたのかが、全く書かれていないという点だ。自らの信念を「科学的」とまで称しておいて、相手を論理的に説得しようともしなかったのであろうか?


マインド・コントロール事始め


 先に述べたように、久保田の歴史教育は、大まかに分けると以下のようなステップにわけられる。


   1−久保田による、生徒への「基礎資料」の提示

   2−生徒自身による、図書館等での調査

   3−調査を元に、報告書を作成(久保田の「指導」が入る場
     合がある)

   4−久保田が選んだ報告を、学級通信へ、討論の前に発表

   5−報告の発表と、討論


 ざっと、こんなところであろう。

 実はこれらのステップの後に、さらに駄目押しの「焼き付け作戦」が控えているのであるが、それは後で書く事にしよう。

 久保田による、恐るべきマインド・コントロール作戦は、第一段階から既に始っている。彼は、


   歴史家の諸説を(生徒に)要約的に紹介


などとさらっと言っているが、やっている事は実は、朝日新聞の記事の紹介に過ぎない。

 実際、久保田が掲載している資料を見ると、以下のようなものになる。


   朝日1989年1月10日
   「戦争責任を否定」首相の謹話に反発 韓国紙

   朝日1994年6月13日
   「戦争責任」でデモ 常任理入り反対も訴え
     ワシントンで中国系米国人ら

   朝日1989年1月8日
   戦争や支配問う 韓国

   朝日(日にち不明)
   「大戦の傷、清算を」 在韓被爆者協が声明

   毎日1989年1月7日
   「戦争責任ない」と認識
     首相謹話で政府公式見解
       国際的論議は必至


 驚くべき偏向具合である。新聞記事は、朝日と毎日のものしか載せていないのだ。これが、久保田の言うところの「歴史家の諸説を要約的に紹介」の実態なのだ。

 この傾向は別に、基礎資料だけに言える事ではない。授業の過程で彼が用いる新聞は、朝日、毎日、中日だけと言って良い。

 久保田のマインド・コントロールは、新聞だけにとどまらない。彼は、生徒が報告をまとめるに際して、こんなことを言っている。


   ブックレットや新書など、何でもよいから専門書を二冊以上
   読む事という指定もした


 後で久保田自身が例示しているのであるが、この「ブックレット」というのは「岩波ブックレット」、つまり、「新聞の朝日、出版の岩波」と言われる、「あの」岩波書店の書籍である。当然、「新書」というのも「岩波新書」を示しているのであろう。

 奇妙な事に、生徒の報告の中に出てくる新聞も、朝日、毎日、中日がほとんど全てだ。産経も読売も、ましてや日経なんて出てこない。久保田は生徒に対して、家で新聞を読むように指導しているという。読むべき新聞の種類まで指定しているのかもしれない。

 そこまでいかなくても、久保田が実質的に、生徒の家では朝日、毎日、中日しかとれないような環境を作っている証拠が、本には堂々と書かれており、それを隠そうともしていない。それについては、また次回。


                              なかみや たかし・本誌編集委員


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