テレビいいたい放題

  NHK教育テレビ『恐竜家族』
  (毎週土曜午前11:20−11:45)


                            中宮 崇


 海外の番組を見ていると、「これは、絶対に日本では作られないな〜」と思わざるをえないような番組に、ちょくちょく出くわす。なにも「日本は、アメリカに比べて制作費が少ない」とか、ましてや「日本人放送関係者はアメリカ人同業者に比べて程度が低い」と言っているわけではない。単に、日本人とアメリカ人の性格の違いを言っているに過ぎない。

 例えば番組ではないが、一時欧米の真似をして登場した、いわゆる「比較広告」。他社の製品を貶めて自社の製品を良く見せるというCMのことであるが、結局日本では一過性のもので終わった。これなども、「日本人の感覚に合わなかった」としか言うことが出来ない例であろう。

 NHK教育と言う、私に言わせれば実に場違いな局で放送されている『恐竜家族』なる番組も、そういう類のものであるようだ。

 これはもともと、アメリカのジム・ヘンソン・プロダクションズというところが制作した物で、聞くところによると、現地では相当好評だったらしい。確かに内容は、アメリカ人好みではある。

 実は現在の放送は、再放送である。以前放送したものが、「それなりに」好評であったため、再度の放映と相成った。

 さて、番組の内容であるが、人形劇である。と言っても、NHKお得意の『人形劇三国志』とか、『プリンプリン物語』などのような、操り人形物ではない。人間が中に入った、でっかい恐竜(の人形)達が登場人物である。

 舞台は、まだ人間が原始人に過ぎなかったころの太古の昔(「恐竜の時代と原始人の時代は重なっていたっけ?」などという野暮な疑問は持たないように)。恐竜達は、言葉を持ち、道具を使い、20世紀の人間達顔負けの近代文明を築いている。そういう社会の、平凡な一家族を中心に物語は展開する。

 以下、主な登場人物(というか、「登場恐竜」)。


アール・シンクレア:
 シンクレア家の長、と言えば聞こえは良いが、子供達からはあまり尊敬されず、妻には頭が上がらず、会社には言いなりの、典型的な現代的父親(笑)。テレビを見ながらナッツをかじるのが唯一の趣味(これが原因で、戦争が発生したこともある)。思想的には保守的で、それが原因で息子のロビーと衝突することもしばしば。

フラン・シンクレア:
 気の弱いアールと、わがまま放題の子供達を取りまとめることに日々追われる、専業主婦。

ロビー・シンクレア:
 ハイ・スクールに通う長男。理想主義的で、恐竜社会のさまざまな矛盾に、真っ向から立ち向かうことも。しかし普段は、悪友のスパイクと一緒に、女の子を追い回す毎日。

シャーリーン・シンクレア:
 お洒落がほとんど唯一の関心事の、シンクレア家の長女。「私のシッポ、きれい?」と気にする日々(シッポは、人間社会における乳房に相当するらしい)。

ベイビー・シンクレア:
 父親のアールを、「ママじゃないやつ!」としか呼ばない(そしてぶん殴る)、わがまま、騒々しい、大食らい三拍子揃った、子供の悪いところだけを集めたようなガキ。

エセル:
 フランの母親。物知りではあるが、アールと孫をいびるのが趣味と言う、根性のひん曲がったババア。

ロイ:
 アールの親友で同僚の、気の優しいティラノザウルス。物分かりが良いが、ノーテンキで、いささか抜けている。

モニカ:
 シンクレア家のお隣りさん。番組中数少ない、「四つ足」の恐竜。バツイチのキャリアウーマンでフェミニスト。時々、フランやシャーリーンを焚き付ける。いつも首から上だけ窓から入ってくる。つまり、体が映ったことはない。

リッチフィールド:
 アールとロイの上司。恐竜社会における巨大企業ウィセーソー社の幹部。ずる賢くって下品、利益第一主義。良いところ無し。娘に言い寄る男を食べるのが生きがい。


 登場人物を見ただけでも分かるように、現代社会を皮肉ろうとする意図が見え見え。いささかどぎつすぎるほど。番組内容も、負けず劣らずどぎつい。実際NHKも、これを日本で放映してしまって良いものかどうか、相当悩んだらしい。NHKにも、何とも無謀な人がいるものだ。

 私が初めて、NHK教育でこの番組を見たときの衝撃は、「NHK教育でポルノ番組をやる」といったようなことでも無い限り、二度と味わえることはなかろう。それぐらいたまげた。

 例えば、番組中ではほとんど毎回、アール達がテレビを見ている場面が映されるのであるが、その内容がいつもすごい。

 まず、NHK教育でありがちな、「良い子の理科教室」的な番組の場合、先生と生徒(もちろん、全員恐竜)が登場するのであるが、先生が生徒に、「この薬とあの薬を混ぜてごらん」とか言いながら、物陰に隠れる。生徒は楽しげに薬品を混ぜ、お約束通り爆発。生徒の頭は粉微塵に吹き飛び、体だけよろよろとさまよい歩く。

 また、天気予報の場合、キャスターが、「大陸西部は、地殻変動による大噴火に見舞われる見込みです。御親戚、お知り合いがおられる方は、お早めにお別れの電話を…」。

 文字にすると何とも暗くなってしまうが、実際はこれを、全く無神経なほどにコミカルにやっている。私は、恐竜界のテレビ番組を見るのが毎週楽しみでならない。

 登場するテレビ番組だけではなく、番組全体がこの調子だ。ほとんど毎回、恐竜が死ぬ。そしてそれが「大したことネーや」という調子で笑い飛ばされる。日本人にうけないはずである。

 こういう番組を楽しむためには、かなりのユーモアのセンスと、相当な無神経さが必要であろう。もっとも、無神経さだけなら、最近は日本人もかなり持つようになってきているが。

 番組で扱われる内容は、戦争と平和のような大きな問題から、ドラッグ、家族、環境、友人関係、差別、動物愛護(この場合の「動物」とはほとんどの場合、原始人、つまり「人間」のこと)、過度の消費や商業主義の批判までと、実に多岐に渡る。こういった深刻な問題を、全く深刻さを感じさせることなくコミカルに笑い飛ばすようにして描き、それでいて問題の本質をえぐり、その深刻さを伝えると言う、何ともアクロバット的なことを、実に見事にやっている。

 で、内容について、もっと書こうと思ったのであるが、先ほどのテレビ番組の例でも分かるように、文にすると、ただ暗いだけになってしまう。それでは読者諸氏の意欲を殺ぐだけになりかねないので、書かない。是非とも一度、見て欲しいとだけ言っておこう。


 ちなみに私は、テレビ番組のシーン以外に、冷蔵庫を開けるシーンが好きだ。恐竜界も電化されていて、冷蔵庫もちゃんとある。彼等はスナックなども食べるが、何しろ肉食恐竜である。肉も食べる。で、冷蔵庫の中身は何かと言うと、(多分)小さなネズミのような哺乳類。それがうじゃうじゃ入っていて、扉を開けたとたんに、中からぎゃーぎゃーと(中には、「早く食べて!」などと言っているものもいる)わめき声が…。

 日本では、こういった番組が作られることは、決してないであろう。何しろ、電話一本で「ちびくろサンボ」が発禁になってしまうような、「エセ人権派天国」であることだし…。


                              なかみや たかし・本誌編集委員


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