死の商人たち
中宮 崇
ダイアナ妃の死を売買する日本マスコミ!
6日、ダイアナ妃の葬儀が行われた。一説によると、全世界で25億人の人々が見守ったそうだ。また、沿道に集まった市民の数だけでも600万人にのぼったという。
世界中で、大体二人に一人がテレビを見る一大イベント。ハイエナどもが、放っておく訳がない。
日本では、NHK、フジテレビ、日本テレビが、葬儀の中継を行った。しかしNHKはまだしも、何故民放二局まで中継する必要があったのか?それも、まったく同じ映像を。
答えは簡単なことだ。商売のためである。連中は、ダイアナ妃の死を、またとない商機として捉えたのである。実際民放二局は、コマーシャルを堂々と流していた。
何も、コマーシャルを流すなとは言わないが、驚くべきことは、コマーシャルの売り込みをした節まである点である。本来放映されたはずの番組で流されるはずであったCMだけではなく、普段は見慣れぬCMまで流されていたのであるから。この、高視聴率間違い無しの「イベント」を、民放の連中は、荒稼ぎの好機としておおいに利用したのだ。
中でも許し難いのは、フジテレの報道特番である。これは、フジの「ザ・ヒューマン」という、題名だけでも市民を十分馬鹿にしたニュース番組の特別編として放映されたものである。
まず、スタッフがひどい。いつも登場している司会のアナも、夜中のワイドショー「ニュース・ジャパン」のアナである安藤優子も、ろくに原稿読みさえも満足にできず、衛星中継も満足にさばけない。中でもひどかったのは、現地からの「安藤さん」という呼びかけに対して、「聞こえてます」というふざけた反応。「どうぞ」とか、「お願いします」とか、プロなら他に言い方があろうに。「フジの看板アナ」であるはずの二人がこのありさまだとは、何とも情けない。
番組編成もひどい。視聴率至上主義をあからさまにしていた。なにしろ、葬儀の途中で番組を打ちきり、野球中継(巨人・中日戦)を放送するという、実にふざけたことを平気でやっていた。視聴率の低い他の番組は潰しても、ドル箱の巨人戦は潰さないというわけだ。
内容もひどい。葬儀で行われた、様々な人たちのスピーチは、見事にカットされていた。どんな裏があるのかは知らないが、素人アナのくせになぜか看板番組の司会の座を手に入れることのできた安藤の聞き苦しい解説や、コメンテーターの下らん説明をかぶせ、スピーチを聞き取れないようにしていたのだ。
このような冒涜を行った理由は明らかである。視聴者に、スピーチを聞かせたくなかったのだ。では何故、スピーチを聞かせたくなかったのか?それは、スピーチの中に、厳しいマスコミ批判が含まれるものがあったからだ。
例えば、ダイアナ妃の弟のスペンサー伯は、マスコミの責任を追求し、残された二人の王子をハイエナどもの魔の手から護るよう呼びかけるスピーチを行った。聴衆は、彼に拍手を贈った。当然である。
しかしフジは、この場面をばっさりと削除してしまった。映像だけ流し、音声は、スタジオのボケナスどもの、下らんおしゃべりでお茶を濁した。ところが、スピーチが終わったとたん音声を流した。まことに見事なものである。事前に相当計算していたようだ。
ここで珍事が発生した。小賢しい計算をしていたフジも、「聴衆からの拍手」という突発事態を事前に予測する事はできなかったのだ。確かに、人の心を持たない連中に、そのようなことを予測するのは不可能であろう。結果として、回復したばかりの音声には、割れんばかりの拍手が入ってしまうことになったのである。
当然のごとく二人のアナは、この拍手の意味について、何ら解説をしなかった。そして周到に用意していたらしい、卑劣なるコメントを入れた。
ダイアナ妃は、死をもってして王室の権威を破った。
マスコミ批判のスピーチの後に、しかもそれを視聴者の目から隠しておいて、何たる言い草!連中の悪逆な情報操作の実態を垣間見た。
マスコミ連中の非人間性は、これだけに止まらなかった。連中は市民が立ち並び嘆き悲しんでいる沿道で、でかい声でしゃべりたて、それどころか携帯電話のベルを切るという、最低限の礼節も守らなかった。
このような無礼な行為に対して、市民たちは当然、厳しい目を向け、中には「黙れ!」と口に出して注意した者もいた。
ところが反省無きマスコミは、これらのことについても、市民の過剰な反応として報じていた。それどころか、自分たちの行為であるところの「おしゃべり」「迷惑携帯電話」をまるで他人事のように報じた。以下のような具合である。
市民の中には、私語をしている人に、「静かにしろ!」と
怒鳴り付ける人もいました。また、携帯電話のベルが鳴った
方を睨み付ける人もいました。
葬儀に携帯電話を持ってきたり、しゃべくったりするような阿呆な奴が、マスコミ関係者以外にいるはずがないではないか。自分たちマスコミの破廉恥行為を、まるで市民の破廉恥行為であるかのように報じるマスコミ連中の面の皮の厚さは、我々の想像を絶する。
ワイドショーは、いやニュース・ステーションさえも、同時に亡くなったダイアナ妃の恋人のアルファイド氏の一家を、「死の商人」などと言い立てて中傷した。ところが「死の商人」は彼等マスコミ自身だったのである。
なかみや たかし・本誌編集委員