脱ゴー宣裁判に行ってきた!(1)


                            中宮 崇


日本一濃い控え室


 2月27日にいよいよ始った「脱ゴー宣裁判」。その背景などについては別の機会に書くとして、ここでは裁判そのものを傍聴して感じたことなどを書いてゆこうと思います。

 外出嫌いの上にチョー貧乏の私に、わざわざ名古屋から東京まで足を運ばせるほど、「こいつはきっと、何か起るぜぃ!」という天からのお言葉が頭の中で毎日鳴り響き、いても立ってもいられなくなる。それが今回の裁判の傍聴を決意した原因であります。

 裁判の傍聴なんて、生まれてはじめて。わくわくどきどきしつつ、ついに霞ヶ関の東京地方裁判所の門前にまで来てしまいました。

 地裁と言っても、同じ建物の中に、日本の法の番人の頂点、最高裁まであるわけで、そう思うと、特段奇をてらった建物ではありませんが、何だかお辞儀の一つでもしたくなるような気持ちになってしまいます。

 しかし、「こんなに多くの人が出入りしているところに立ちつくして頭なんぞ下げていたら、たちまち警備陣にマークされてしまうな〜」とか思いながら正面玄関からホールに入ると、そんな私の内心の思いにも行為にも関係なく、警備陣はしっかり私をマークしていたのでした(笑)。

 そりゃあ、スキンヘッドで黒のジャンパー着た口髭男が入ってきたら、別に裁判所の職員でなくても警戒するわな〜。

 昨日国会やら首相官邸なんかの周辺をうろうろ見学していた時にも、行く先々でおまわりさんの緊張感を高めていたことを思い出し、一人悦に入っておったのでありました。

 しかし、裁判所っていう所は、いつもあんなに物々しいのですかね〜。入ってすぐのところには、空港にあるようなゲート式の金属探知器と手荷物検査機が据えられていて、20人ほどの警官だか警備員だかが一々チェックしておりました。

 私は小学生の時に上京した帰り、叔父に買ってもらった鉄道模型の金属製のレールのポイント部分のところが手荷物検査に引っかかってしまって、大騒ぎになったことがあります。何しろ形が、拳銃に非常に似ているのですよね…。それも二つ…。

 そんなトラウマ(笑)のせいか、何だか私だけ異常に厳重に身体検査されたような気がしたのですが、まあ気のせいでありましょう。

 さてさて、ボディーチェックもパスし、何とか潜入に成功しましたが、傍聴券はどこで配っているのであろうか。受け付けの横に設置されたボードには、銃器不法所持かなんかの裁判と、麻原尊師の裁判の傍聴券しか配っておらんようだが…。来る人来る人、受け付けに、「麻原裁判の傍聴券無い?」と尋ねている。う〜む、尊師の人気は大変なものである。さて、小林よしのりvs上杉聡の人気やいかに。

 どうやら、この二つの裁判以外は、傍聴券はいらないらしい。う〜ん、裁判所も事前に、「この裁判は人気がある、これは人気無い」なんて判断をしているのか〜。

 サヨクさんによる傍聴券独占、などという心配は杞憂に終わりそうであるが、まだまだ油断は出来ない。しかし、裁判所を取り囲む「人間の鎖」なんてこともやっていなかったようだし、ひょっとしてサヨクさん、来ていないのではないか?ちょっと心配…、いやいや安心、やっぱし心配。

 脱ゴー宣裁判の行われるのは、地裁の622号法廷。部屋番号からお分かりのように、6階なのであります。いくつかある立派なエレベータの一つで6階に上ったのですが、法廷がうじゃうじゃ…。考えてみれば、622号法廷があるってことは、少なくともこの階だけでも22個の法廷があるわけで、いくら日本がアメリカほどの訴訟社会では無いと言っても、ちと多すぎないか?とか感じました。

 お目当ての622号法廷をフロアーの角に見つけ、しばしたたずむ。「う〜ん、開廷は11時30分、あと1時間あるな…」。スキンヘッドの怪しい男が、法廷のドアの前で一時間も立ちつくしていたら、何が起るか分からん(笑)。

 しかしそこは、腐っても裁判所(意味不明)。ちゃ〜んと、「控え室」なるものが用意されてあるのであります。官僚にも、時間ぴったりに来ない間抜けな民をお救いになるだけの思慮が、少なくともこの裁判所が建てられた当時はあったのね。

 ところが時間を潰す安住の地をみつけてほっとしたのもつかの間、入り口には数人の若い男たちが…。そう、「市民集会」潜入マニアの私がいつも会場で見つける、独特の雰囲気を持つ人たち…。「サ、サヨク!いた〜!やっぱしいたぞ〜!外で君たちの姿を見かけなかった時、チョーがっかりしたんだよ〜。そかそか、やっぱし来てくれていたか!」。…妙に安堵してしまったのでありました。

 ドアを開けると、そこはまるで駅の控え室のごとき安っぽいつくり。両壁に横長椅子が据え付けられており、先客さんが8割がたの席を占有。やっぱり若いのが多い。角にかたまっていた女の子達が、私のてかてか頭を見て一瞬身をこわばらせる。

 よ〜しよしよし、お兄さんは全然恐くないよ〜。右翼でも暴力団でもオウムでもないから安心しな〜。…とは言ってあげない。サヨクさんには女子供でも、威圧感を与えておくべし(笑)!

 人の出入りを見たかったのと、部屋全体の様子を確認したかった為、入り口付近の端の方の席に座り、おもむろに『へんなインターネット』(宝島社)を取り出して読みはじめる。

 しばらく読書に没頭していると、ジーンズ姿の、ヒッチハイク旅行好き青年風の男が近づいて来て一言。「中宮さんですか?」。あわてて、広末涼子のアイコラ写真のページを隠す。

 すわ、サヨクの襲撃か!?まさか、ビールビンは持ってね〜だろうな!?と、すばやく相手の手元に目を走らせるが、それより早く「ど〜も。I.K(仮名)です。スキンヘッドだっていうから、もしやと思って。今日はわざわざ名古屋からですか?」。

 I.K…。I.K。…I.K!?AML(私と敵対している、某市民団体系メーリングリスト)で私を除名しようとしたやつじゃんか!おひおひ、いきなりスゴイのに会っちまったな。一体なんて挨拶すりゃ〜良いんだ。

 とりあえず、「あ、その節はど〜も」なんていう間抜けな返答をしてお茶を濁す。あまりのことに一瞬動転し、座ったままで失敬。

 しかしこのI.K氏、あの死刑反対運動で有名なアムネスティの人であり、市民団体系プロバイダであるJCAのお偉いさん。うむ〜、この裁判へのサヨクさんたちの力の入れ様は、相当なものであるようだ。

 I.K氏は相当お忙しいようで、幸いビールビンも罵倒の言葉も飛んで来ることはなく、「それではまた後で・・」とお立ち去りになる。あのまま話を続けられたら、少女のそれのように繊細な私の心が崩壊してしまうところであった(笑)。一時体勢建て直し。

 ところが気がつくと、目の前の席になんだか見たことのある男が…。まさか、いや、本当に彼か?う〜ん。悩む少女。そこに聞こえてくる、彼の話し声。やっぱり彼だ!

 そう、彼は松沢呉一。今回の裁判のもとになった『脱ゴーマニズム宣言』とならぶ、小林よしのり批判本のもう一方の巨頭、『教科書が教えない小林よしのり』を、あの宅八郎とともに作りあげた松沢呉一。小林に再三ぼろくそに描かれている男である。う〜ん、濃い。濃いぞ〜!

 今やこの控え室は、反小林よしのり連合会議室とでも言うべき様相を呈している。後は朝日新聞が来ていれば完璧であるのだが。『週刊金曜日』には、「ジャーナリスト」I.K氏が記事を書いてくれるだろうから、そっちのほうは心配なし(何がヤ)。

 しかし、どうも「小林派」が一人もおらんような気がするのだが。小耳に挟んだところによると、よしりん企画の名シェフにしてアシスタント、そしていまや「ショチョー」なる肩書きで呼ばれることの方が多くなっているトッキー氏が来るというので捜してみたが、かげも形もない。どうなっとるんじゃ?

 被告である『脱ゴーマニズム宣言』の著者である上杉聡氏の大々的な呼びかけと根回しのおかげで、サヨクさんが大勢(40人ほどか)来ているのは分かるが、よしりんファンが一人もいないというのは何とも心細い。まあ、小林自身が、あまりファンを動員するようなことをするのは避けていたような節があるので仕方が無いのかもしれないが、私が潜入していなかったらそれこそサヨクさんのやりたい放題になってしまっていたではないか!

 それにしても、原告のよしりん企画側の人間を見かけないのは解せん。まさか、オウム裁判の青山弁護士のように、敵前逃亡を図るようなことはあるまいし、まさか、まさか!途中で襲撃されたとか!?

 不毛な妄想に浸っていると、「やーやー、ど〜もど〜も」と、妙なオッサンがスタスタ目の前を通り過ぎる。あ〜、さっとし〜。ついに今回の裁判の一方の主人公、上杉聡氏のご入来〜。


                つづく…


                               なかみや たかし・本紙編集委員


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