ミドガルズオルム

 悪意の神ロキの子で、深い海の底でその体で大地をぐるりと囲み自らの尾を咥え横たわっている巨大な蛇。その名の由来は大地の中心を示すミドガルズからきており、大地を取り囲む蛇を意味する。恐ろしいほどの毒を持ち、その息は神の命さえ奪うといわれる。それゆえ北欧の神々に恐れられ、共に生まれた怪狼フェンリルや死神ヘルと共に自由を奪われ封印されることになった。「北欧神話」によれば怪狼フェンリルはリングヴィという島にグレイプニルと呼ばれる存在しない鎖で縛り付けられ、死神ヘルは大地ミッドガルドよりも冷たく閉ざされたニブルヘイムよりもさらに果ての冥界ヘルヘイムすなわち死者の国へと追放され、そしてミドガルズオルムは冷たく暗い深い海へと投げ込まれた。しかし、ミドガルズオルムは深海でも成長を続けついには大地を取り囲むほどの巨体となる。そして、海の底でいつかやってくる神々への復讐の機会・世界の終末たるラグナロクを待っているのである。

 これに見られる大地を囲むという姿はいろいろな神話や伝承の同系に見られるように、それが世界の果てであり囲まれている大地が世界を示している。つまりミドガルズオルムが咥えている自らの尾を放したときは世界という概念の崩壊、すなわち混沌を意味し、その死は世界の終わりを示す。

 「北欧神話」によれば、ラグナロクの時に神族である雷神トールとの最後の戦いに挑み、トールを締め付け毒の息を吐きかけることにより結果的にはトールを倒すものの、自分もトールの雷槌ミョルニルで頭を叩き潰され息絶えることになる。しかし、ここで描かれているその消滅は新たな世界の訪れを意味するものであり、他の神話や伝承に見られる蛇、例えば後のウロボロスの蛇のように世界の破壊と再生・終わりの無い永遠という概念で捉えられる。「北欧神話」でもそれは描かれており、ラグナロクの後に生き残った善の神が新たな世界を構築することになっている。ミッドガルド蛇、イェルムンガンド(ヨルムンガンド)とも呼ばれる。

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