駆水頭部二型

九五式魚雷用

自沈装置用時限装置

 魚雷(魚型水雷)の弾頭には実戦等で使用される炸薬の搭載された実用頭部のほかに、演習や推進機調整を行う際等に用いられる演習用の頭部があります。
 この演習用の頭部にはいくつかの種類があり、魚雷の航走状態を記録する装置を積んだ雷道頭部、演習時の命中を想定し命中時に頭部が潰れることで衝撃を相殺し目標その他に被害を与えないようにした衝突頭部、回収を容易とするため航走後に航走深度から浮上させる装置を積んだ駆水頭部、航走中あるいは航走後にその位置を知らせる発煙あるいは発光等の装置を積んだ物等、用途に応じて頭部の換装が行われました。
 この「駆水頭部二型九五式魚雷頭部用自沈装置時計」はその名の通り、九五式魚雷の駆水頭部に使用される物です。
 九五式魚雷は有名な九三式魚雷と同様に純酸素を燃焼媒体として航走する魚雷で、九三式魚雷が口径61センチの発射管を使用するのに対し、口径53センチの発射管から射出できるように開発されたものです。
 弾頭炸薬量は四百キロ、速力49ノットで航走距離九千メートル、42ノットで一万五千メートルと高速力・長射程を誇り、口径53センチの発射管を持つ駆逐艦や潜水艦に搭載されていました。
 当時のアメリカ軍の最新艦載魚雷が炸薬量三百キロ、速力約30ノットで航走距離八千メートル程度だったことと比較しても、その性能がいかに優れていたものだったかがわかります。
 酸素魚雷は航走時に不要な空気を排出することなくその雷跡の発見が困難で、さらに搭載炸薬量も多くできる上に速力や航続力の増大も可能という夢のような魚雷で、当時各国でも研究が行われていました。
 しかし、相次ぐ燃焼時の暴発事故を克服する事が出来ず各国とも開発を断念、これを克服しさらに実用化することに成功したのは我が国だけでした。そのため九三式と共にこの魚雷の機密保持には開発中はもとより、完成・配備後も細心の注意が払われ、アメリカがその全貌をつかむのは終戦後となります。
 時限装置の設定手順は時計部分の発条を巻き、次に自沈までの時間を設定、その後開弁装置の発条を巻き、結合軸を回し圧弁梃を固定します。設定時間が経過すると開弁装置の圧弁梃により自沈装置が作動し魚雷は自沈に至ります。自沈までの時間は36時間まで設定できました。

格納時

自沈装置用時限装置本体
格納箱に格納状態。蓋の裏に設定手順と手入れに関しての注意が記載されている。左に格納されているのは、発条を巻くための工具。 左上部に圧弁梃とその結合軸、中央やや左下が時計発条巻口、その右が時間設定個所、さらに右が開弁装置の発条巻口。

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